子どもたちが大きくなっても変わらない、村井家の忙しい日の「救済ごはん」
翻訳家・エッセイストとして大活躍中の村井理子さん。滋賀県は琵琶湖のほとりでの生活や、19歳になる双子の息子さんとの毎日、日々のごはん、そして愛犬との生活などなどが垣間見られるSNSも大人気です。そんな村井さんに、「村井家の救済ごはん」についてエッセイを書いていただきました。読むとなんだか心が軽くなる、そして何より「私」を大切にしようと思える、そんなエッセイです。
わが家の双子の息子たちはすでに19歳となり、夕食の時間までに家に戻らなかったり、朝ごはんを用意しても「いらん」の一言で家を出て行ったり、キッチンを使って大胆な料理をしては、油をまき散らして去って行ったり…。すっかり大きくなったので、子育てにまつわる、それも料理に関する悩みなんて何かあったかしら…と、しばらく考えてみたら、あるわあるわ、びっくりするほどあるではないですか。
よくよく考えてみれば、私の子育ては、子どもが食べる、いや食べない(ので腹が立つ)という、毎日の悩みでいっぱいでした。当時は本当に悩んでいたものです。
「子どもが食べない。」こう悩む母親に、「一日ぐらい食べなくても死にはしない」とか、「本当にお腹が空いたら食べるから、それまであげなければいい」とか、まるで他人事のように言う人、そして言ったことがある人は、少しでいいので反省してほしいと思います。
だって、それは母親も重々わかっているんです。一日ぐらい食べなくたって、そりゃ死にはしません。私なんて、三日食べなくたって体重はたいして変わりません。
でも、子どもの食べる時間が遅れることで、母親(あるいは養育者)自身の時間が目減りします。つまり大切な睡眠時間が減るのです。なけなしの自由が奪われるのです。ここが、問題なのです。
子育てをする大人は、出来る限り、決まった時間にちゃんと子どもには食べてほしい、心をこめて作った食事をむんずと手で掴んで床に放り投げたりしてほしくはない、と、心の底から思ってみたりするわけです。
しかし、19年間、親業をしてきてわかったことがあります。
子どもは大人が思うようには動きませんね。むしろ、逆に動きますね。もうこればかりは、どうしようもありません。
手を替え品を替え、カレー、ハンバーグ、オムライス、おにぎり…嫌になるほど作りました。でもね、食べないときは、絶対に食べない。腹が立つほど食べない。床を両足で力一杯踏みならして、「どうしろっていうんだ!」と、腹の底から怒鳴りたいくらいに、食べないんだ!!
だったらどうするか。私は考えに考えて、鉄板メニューを一つ作ればいいと思いつきました。わが家の双子は、ミンチ肉と卵とごはんが大好きです。野菜は大嫌いで、まったく食べません。しかしある日、私の料理上手だった実母が週末によく作っていた懐かしいメニューを思い出しました。冷蔵庫にある野菜を使い切るための、ミンチ肉を使ったレシピです。

家族の好物のオムレツ
母は、冷蔵庫に残っている野菜(にんじん、玉ねぎ、いんげん、ピーマンなど、野菜ならなんでもいいです)を集めて、細かい千切りにし、フライパンでじっくりと炒めていました。そこにミンチ肉を入れて、更に炒めます。余分な油はキッチンペーパーで拭き取っていました。そして最後に、砂糖とみりんと醤油で甘辛く味をつけるのです。
さらに別のフライパンに油をたっぷり引いて、カンカンに熱すると、そこに溶き卵を勢いよく入れます。これでふわふわの卵焼きが出来上がります。母はそれをさっと皿に乗せておきます。
最後に炊きたてのごはんをカレー皿に盛り付け、その横に野菜と一緒に炒めたミンチ肉をたっぷりのせます。そして、ふわふわ卵をごはんの上にお布団のようにのせるのです。ふわふわ卵には、くるっとケチャップをひとまわし。時々、笑顔のマークなども描いてくれたような気もします。
この残り物を上手に使ったメニューが、やけにおいしかったんです。母は味にアクセントをつけるために、少量のカレー粉をミンチ肉に入れたこともありました。タコの形に切ったソーセージがついた日もありました。野菜をすべて使い切るだけではなく、安いミンチ肉を使うことで節約し、そして卵で栄養バランスをしっかりとることができるメニューを考案したというわけです。そしてこのメニューに「そぼろごはん」という名前をつけていました。天才かもしれない。
さて、私もこの「そぼろごはん」を双子の息子たちに出してみました。初めて出したのは、彼らが3歳の頃だったかと思います。二人は大喜びで食べて、「もっと作って!」、「おかわり!」と言うようになりました。
そして大変愉快なことに、19歳になった今も、このメニューを好んで食べています。今はカレー粉の量も、ミンチ肉の量も多くなりましたが、基本の作り方は一緒です。このメニューのいいところは、刻んだ野菜とミンチ肉を炒めたものを冷凍保存しておけること。冷凍保存しておけば、卵とごはんさえあればいつでも作ることができるし、子どもが自分で作ることもできるのです。お弁当として持っていくときもあります。
もちろん、子どもによっては好き嫌いがありますし、アレルギーもあると思うので、わが家と同じようにはいかないかもしれません。でも、「鉄板メニュー」が一つあれば、それが大いに助けになるのではないでしょうか。そしてそういうメニューは、シンプルであることが多い。身近な食材にこそ、大きなヒントがあるかもしれません。
それから、大切なことが一つあります。
子育てを今がんばっている人は、子どもに隠れてこっそりおいしいものを食べましょう。子どもたちに分けなくても大丈夫です。バレやしない。彼らには長い未来が待っていますから、いつか美食にありつくことでしょう。
それよりも子育てに奮闘している私たちが、時間を見つけてはインターネットショッピングでおいしいものを購入し、一人で映画などを観ながら食べる時間を、多少無理してでも作るべきです。なぜなら、子育てに奮闘する私たちの時間も、子育てにかける時間と同じだけ、貴重でかけがえのないものだからです。子どもの命と同じぐらい、私たち子育てをする人の命も大切なのです。だから自分を削るのはいけません。削るのは、知らないうちに増えているサブスクくらいでいいはずです。
私はよく、カニやいくらを注文します。一人で食べるカニもいくらも最高においしいですよ。