寝る子(食材)は育つ。一晩漬け込み料理のススメ。

コラム・アラカルト

2021.05.12

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眠ることは明日の自分へプレゼントを贈ること

私は1日8〜12時間ほど眠る。けれど以前の私は、ロングスリーパーであることに引け目を感じていた。短時間睡眠でどれだけ多く、生産的な活動をするかが重要視される現代社会で生きていると、ロングスリーパーは自慢できることではないと思っていたからだ。

そんなあるとき、バイト先の先輩に自分が寝過ぎてしまうことを伝えると「いっぱい寝た分、いっぱい幸せな気持ちになれるなら良くない?」という予想外の答えが返ってきた。睡眠は他人に遠慮することなく享受できる幸せだ、ということを先輩は教えてくれたのだ。

既に30代に突入した筆者は、もうこれ以上肉体的に育つことはないかもしれないが、子どもの頃から変わらずたっぷりとよく眠ると、体と心が軽くなって幸せな気持ちになる。

そんな人間の睡眠と同じように、食材も寝かせることで心地よくおいしい料理へと変化してくれるように思う。食材は短時間で下味をつけて調理するよりも、ゆっくりと一晩ほど調味料や調味液と共に寝かせる方が、味がしっかり染み込むし、軟らかくなるし、うま味も増す。

さらに、一度寝かせてしまえば、特別な調理をせずともおいしい料理へと生まれ変わる。一晩、眠りの世界を旅することで元気を取り戻す人間のように、食材も料理へと変貌するための英気を養っているのかもしれない。私たちはナイトトリッパーだ。

このことを知ってからというもの、前夜に食材を漬け込み、私は布団で、食材は冷蔵庫で一晩眠ってもらうことで、心の負荷が少ない状態で料理に取り組めるようになった気がする。

かつて会社員として働いていた頃、料理はマルチタスクの塊だと思っていた。献立を考え、冷蔵庫にある食材を確認し、足りないものがあれば買い物に行く。食材をそれぞれ適切に下拵えし、調理して器に盛って食べ、食後は洗い物や片付けをするなどたくさんのステップがある。毎日の通勤や仕事の後には、とてもこなせるはずがなかった。

けれどあるとき、この料理のステップは一度にすべてをこなす必要はなく、分解したっていいと気づく。例えば余力のある時に食材を買い込んで仕込みをしておき、あとは調理をするだけの状態にしておくだけで、料理に対するハードルも下がる。

休日の夜に食材を漬け込んで寝かせておけば、翌日はその食材をフライパンで焼くだけでいいのだ(もちろん片付けは発生するが、翌朝に回したっていい)。余力のある時に、余力がないかもしれない明日の自分に贈るプレゼントとして、食材を「寝かせる」。

そんな「疲れている日もがんばらずにおいしい手料理を作って食べる工夫」を知ってから、前よりもポジティブな気持ちで楽しく料理に向き合えるようになった。余力がないときは別にがんばらなくてもいいのだ。

インド映画の熱狂に想いを馳せる、明日のためのタンドリーチキン

そういえば先週末も、仕事で疲れることがあった。気を揉んでしまう事案だったが、正直誰も悪くない。だからこそ、その気持ちの矛先に困ってしまう。

やるせない気持ちを抱えたり、何もかもにうんざりしてしまったとき、私はインド映画を観る。要所要所に歌と踊りを取り入れながら、スペクタクルなストーリーを描くことの多いインド映画は、ダイナミックな展開で高揚感を覚えるし、クスクスと笑えるような要素も多く、たちまち元気になれるからだ。

そしてインド映画の魅力を語る上で欠かせないのが、数々のインド料理だ。屋台飯からお弁当、祝いの場の料理まで、どれも匂い立つほどおいしそうに見える。視聴し終えた頃には、スパイスが利いたインド料理が食べたくてたまらなくなっているほど。

作るのが難しいイメージのあるインド料理だけれど、タンドリーチキンであれば自宅で簡単に作れると、最近知り合いから教わった。調味液に漬けて一晩寝かせ、あとは焼くだけと手軽である。

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作り方は、まず鶏モモ肉を1枚(200gほど)用意する。自分でブツ切りにしてもいいし、包丁もまな板も使いたくなければ、一口大にカットしてあるものを買ってきてもいい。

鶏モモ肉をビニール袋に入れ、ケチャップ大さじ1、カレー粉小さじ1、ヨーグルト大さじ1/2、コンソメの粒状タイプを小さじ1/4、オリーブオイルを小さじ1/2、お好みで塩・こしょう少々を加え、よく揉み込む。お好みでスパイスを加えてもいいと思う。この状態で一晩、冷蔵庫で寝かせる。

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翌日食べたくなったら、寝かせておいた食材を焼くだけで完成。本来タンドリーチキンはその名の通り、タンドール窯で焼いて仕上げるが、まあここは日本だし、うちにはタンドール窯はもちろんないのでフライパンで焼く。サラダ油を適量入れて熱し、鶏肉の両面を弱めの中火で7〜8分ほど、こんがり焼いたら出来上がりだ。

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じっくり味を染み込ませて焼き上げたタンドリーチキンは、美しいキツネ色の焦げ目と、かぐわしいスパイスの香りが鼻をくすぐる。口に含むと香ばしい皮目と、しっとりとやわらかくジューシーな身のコントラストがなんともたまらない。

「お店に並んでいてもおかしくないクオリティの料理を自作してしまうなんて、我ながらすごいな」と自惚れながら、次々とタンドリーチキンを口に運ぶ。生野菜を添えて一緒に食べてみたけれど、口をさっぱりさせてくれるような野菜の酢漬けなどを添えるのも良さそうだと思った。それにしても、明るい時間から缶ビールを開けたくなるおいしさだ。

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ごはんにのせてゆで卵とマヨネーズをトッピングした丼にしたり、カレーや他の料理に添えたりしても満足度が高まる。おかずとして優秀だから、お弁当に入れたら喜ばれること必至だし、おにぎりの具に使ってもいい。お酒のつまみにするのも、もちろんおすすめだ。

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明日の自分へエールを贈る一晩漬け込み料理

一晩漬け込んでおいたチキンと対峙する私は、タイムカプセルを開ける時のようにちょっぴりワクワクした気持ちでいる。おそらくこの料理は、漬け込み時間が短くても作ることができるとは思うけれど、一晩寝かせた方が味が染みておいしいし、慈しみも湧く。

昨日の私が漬け込んだチキンを、今日の私がタスキを繋ぐように焼き上げ、ゆっくりと味わって食べる。昨日の私よグッジョブ、ありがとう。そして今日チキンを焼き上げた私も偉いよな、と思う。料理って自愛だ。きっとまた私は、明日の私へちょっとしたプレゼントを贈り、昨日の私に感謝するのだろう。

中森りほ

女性向けWebメディアやグルメ系Webメディアの編集・ライターを経てフリーライターに。フードアナリストの資格を持ち、現在マガジンハウス『Hanako.tokyo』や徳間書店『食楽web』、ぐるなび『dressing』、飲食店.COM『Foodist Media』などで飲食店取材記事や、飲食店オーナーインタビュー、食のエッセイを執筆中。

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