育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道
最終話:「人が一緒に暮らすということ」

2019/06/06 UPDATE

「……陽性だー!!」

別々に暮らしていた私たち若夫婦(と息子)と義父母が、一緒に暮らすことを決め、中古の戸建てを探して購入し、5人家族として一緒に暮らし始めて、しばらくの時間が過ぎました。
同居を決意してからというもの、驚くほどたくさんの問題が発生し、その都度頭を悩ませたりストレスに押しつぶされそうになったりもしましたが、何とかかんとか切り抜けたり、ごまかしたり、やり過ごしたりしながらやってきました。
家族のメンバーそれぞれが、なんとかお互いのペースを掴みつつある、そんなある日のこと。唐突にやってきたコウノトリが、再び我が家の生活を一変させました。

妊娠検査薬にくっきりと浮かび上がった陽性の印を見た私は、自宅トイレの中でしばし茫然としていました。
半ば諦めかけていた二人目の子供を授かったことがすぐには信じられなかったのと、あとは旦那に急いで伝えなくては…とか、どのタイミングで義父母にこのことを伝えるのがいいのか…とか、仕事はどうしよう(当時介護職のパートをしていた)、病院にはいつ行けるだろうか…
そんなたくさんのことが頭の中をぐるぐると駆け巡ります。待ちに待った二人目の赤ちゃん。混乱しながらも口元はゆるみ、勝手に笑い声が漏れ出します。これからが大変だけど、周りに迷惑をかけてしまうかもしれないけれど、それでもやっぱり圧倒的に嬉しい!
そんな気持ちでいそいそと旦那にメールを送ったことを覚えています。
万が一のこともあるし、安定期を迎えるまでは、義父母にも伏せておいた方がいいだろうか…とも思いましたが、やはり毎日一緒に生活する家族に、そうそう隠し通すこともできません。結局、義父母と息子にもすぐに妊娠を報告し、我が家はにわかに祝賀ムードに満ち溢れました。

しかし、二人目の妊娠経過は、予想していたよりもはるかに大変でした。
つわりこそさほど酷くはなかったものの、妊娠中期に切迫流産で絶対安静の指示を受け、二週間の入院。
退院後も無理をしないよう心掛けていましたが、息子は3歳のわんぱく盛り。
さらに妊娠後期、今度は切迫早産のため、1か月の入院。そしてようやく正産期(赤ちゃんがお腹の外に出ても大丈夫な時期)を迎えて退院したものの、その後すぐに妊娠高血圧症を発症して緊急入院、そのまま計画分娩。
1人目の妊娠時はさほど深刻なトラブルがなかったため、すっかり油断していましたが、予想をはるかに上回るドタバタの妊娠期間でした。そして図らずもこの多難な妊娠生活で私は、早めに二世帯同居を決意していて本当に良かった!!と実感することになったのです。
ある日突然母親が入院することになり、まだ幼い息子の不安はいかばかりだったでしょう。義父母が同居してお世話をしてくれていることで、私が入院しても、息子の生活環境の変化を最小限にとどめることができました。
激務で多忙だった旦那にとっても、妊婦である私にとっても、(多少の不安はありつつも)安心して息子をお願いできる環境であったことが、大いにストレスの軽減に役立ちました。
そして本当にありがたかったのが、義父母が少しも恩着せがましくなく、「こういうときのために一緒に住むことにしたんだから、任せて!」と言ってくれたことです。
もちろん、妊娠中もさまざまな同居に伴うストレスはありました。ちょっとそれはひどいんじゃないの、という無神経な言葉を投げかけられたことも、義父母と世代が違うことによる出産の常識の違いに戸惑ったこともたくさんありました。
でも、それらのデメリットをすべて数え上げたとしても、安心して息子をお願いできる環境、そして下の子が産まれることで不安定になりがちな息子を大いにかわいがってもらえる環境は、本当に得難い、ありがたいものでした。

そうして、桜も緑の葉が混じり、初夏を思わせる日差しが窓から差し込む日、我が家は6人家族となりました。妊娠期間の困難さが嘘のような安産で産まれてきたのは、元気いっぱいの女の子でした。

あの日から早いものでもう10年。「こういうときのために一緒に住むことにしたんだから」という義父母の言葉は、いつも私や旦那の心の中にあります。
育児中は助けてもらうことの方が多かったけれど、そう遠くない将来、義父母の心身が衰えて生活に困難が出てきたら、今度は私たちが同じ言葉を伝える番である、と思っています。

こんな風に書くとまるで美談のようですが、私たち家族の日常は、決していつも仲睦まじいわけではありません。立場も年齢も性格も違う人間が、一つ屋根の下に6人も暮らしていれば、それはもう毎日のように小さなトラブルの連続です。子供たちも成長し、口答えもすれば兄妹げんかは日常茶飯事。大人同士もお互いの言葉尻をとらえて苛立ったり、世代や生活習慣の違いに戸惑ったり、ちょっとした諍いをほかの家族が宥めたり、お互いのパートナーに愚痴ったり…そんなことの繰り返しです。
夫婦二人と子供だけの核家族ならば、あるいは老夫婦二人だけの暮らしならば発生しないだろう悩みが毎日山積みです。

それでも、私は二世帯同居を始めたことを心の底から後悔したことは一度もありません。
幼い頃から他人とかかわりあうのが苦手な性格で、放っておけばずっと一人で家に閉じこもりがちな私は、同居生活を経験することで、避けられない人間関係について、そして自分自身がどんな家庭を作りたいのかについて、本当にたくさんのことを実地で学ばせてもらいました。
自分を押し殺して我慢するだけでは何も解決しないこと。かといって自分の理想通りの生活がほかの家族にとっても心地よいわけではないこと。妥協すべきところと絶対に譲ってはいけないところ。数え上げればきりがありません。
何でも自分で好きに決められる1人暮らしの生活を辞め、同棲をし、結婚を決め、子供をもつ覚悟を決め…考えてみればずいぶんと自分をとりまく環境は変わりました。それでも他人と一緒に暮らす道を一歩踏み出したからには、少しずつトライ&エラーを繰り返して、何とか家族みんなが、なるべく心地よく暮らせる家庭にしたい。
いずれ子供たちが独立し、いつか義父母を見送る日が来、そして私たち夫婦も、どちらかがこの世から去る時が来るまで。

家庭は、暮らしの単位です。どんな家庭も、いつでも山ほどの問題を抱えつつ、形を変えながら続いていくものだと思います。
もし私が将来ふたたび一人で暮らす時が来たら、今のドタバタした、慌ただしい、ストレスフルで賑やかな毎日を、きっと甘やかに、そしてほろ苦く思い出すことでしょう。

長らくお付き合いいただいたこの二世帯同居生活コラムも、今回で最終話を迎えることとなりました。
初めての連載で右も左もわからなかった私を優しくご指導いただいた、アイスムの編集担当のお二方には本当にお世話になりました。
挿絵を担当してくださったちずるさんは、いつも本当にかわいらしく、時にするどい風刺に満ちたすばらしいイラストを添えてくださいました。
そしてこの連載を最後までお読みいただいた読者の皆様、本当にありがとうございます。
また機会があればどこかで、娘が生まれてからの二世帯乳児育児のドタバタな様子なども綴ることができればいいなと思います。

本当にありがとうございました。

甘木サカヱ

つかさちずる

イラスト・つかさちずる

娘との日々をブログ「むすメモ!」に綴ったりLINEスタンプを作ったりしている絵描き。
回転寿司とゲームをこよなく愛するアラサー。
毎週金曜日にブログに四コマを掲載してます~遊びにきてね!
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