【第二十一話】昔の写真

2017/11/06 UPDATE

「ねぇ、懐かしい写真を見つけたよ」

妻はそう言うと2枚の写真をアルバムから取り出して見せてくれた。
運動会で撮った写真を現像して、アルバムをつくろうとした時に、昔撮った写真がデータに残っているのを見つけたのだそうだ。
そこには、羽織袴に身を包み、千歳飴を持った不機嫌そうな5歳の長男が写っていた。
七五三のお祝いの時に、家族で撮った写真だった。

先日撮ったばかりの次男の七五三の写真と見比べて、2人で吹き出してしまった。
表情や姿勢、照れ方やオフショットの表情までそっくりなのだ。

「さすがお兄ちゃん。弟とそっくりな顔をしているね」
「うん。顔の輪郭は弟の方が少しだけまるいけど、本当に似ているよね」

昔の写真を見ていると、時間があっという間に過ぎていく。
一枚一枚の写真に込められたたくさんの思い出の時間が、頭の中を埋め尽くすように再生されるからだろうか。

一眼レフやスマートフォンを持っていなかった10年前、誰かに見てもらえるような場所もなかったのに、僕はただ純粋に「この笑顔を残したい」と夢中でシャッターを切っていた。
時間を忘れてアルバムをめくる。ページをめくるたびに思い出があふれ出す。

2人で同棲を始めた日。
3人で眠そうな顔で歯磨きをしながら鏡越しにシャッターを切った日。
双子が生まれ、はじめて5人並んで写真を撮った日。
6人目の家族を5人で囲んだ日。

スマートフォンを持つようになってから、ファインダーをのぞきこんでシャッターを切る機会が減ってしまった。
子どもたちもそれぞれの時間を持つようになってきているし、特に部活に一生懸命な長男と撮る写真の枚数は時間の経過とともに減ってきている。

「お兄ちゃん、中学生になってからますますパパに似てきたね」
少し寂しい気持ちを胸に覚えながら、アルバムを眺めていると妻が言った。

「ほんとう?制服がブレザーだから、スーツを着た僕の姿と被るんじゃない?」
「そうそう。ネクタイを締めてる時とか、髪をなおす仕草がそっくりなんだよ」
「なるほど・・・いわれてみれば。さすが、ママはよく見ているね」
「我が家の男の子はみんなパパにそっくりよ」
「一緒にいる時間が長くなってきたからなのかもしれないね」

人をかたち作るのは、顔や体つきだけではないのだ。
うれしい時、悲しい時の表情、歯磨きの仕方、ネクタイの絞め方のようなひとつひとつの生活の仕草が、長い長い時間をかけて、その人のかたちをつくっていく。
だから、長い時間を一緒に過ごす家族は、みなそれぞれに違う人なのに、少しずつ似てゆくのだろうと感じた。

「そういえばこの写真みた?」
「どれどれ。わー懐かしいなぁ」

妻が手にしていたのは七五三の参拝に明治神宮まで行った日の写真だった。
この日、早朝から着物の着付けとスタジオでの撮影をした後、歩き慣れない着物姿でご近所と親戚への挨拶まわりをしていたので、長男は少し不機嫌になっていた。

そんな時、着物姿の長男をみつけ、「Wow! SAMURAI~!!!」と駆け寄ってきた観光中の外国人のお姉さんたちと一緒に写真を撮ったのだ。

それまでの不機嫌そうな顔から一転、見たこと無いような輝く笑顔になった長男と「せっかくだから僕も写真に入ろうかな」と便乗した僕。
金髪美女に囲まれた親子は、そっくりな表情でピースをカメラに向けていた。

投稿者名

shin5

都内で働く会社員。Twitterに投稿した日常ツイートが話題となり、22万を超えるフォロワーから注目され、2015年に漫画化した。「結婚しても恋してる」「いま隣にいる君へ。ずっと一緒にいてくれませんか。」は異例の15万部を突破し、仕事を続けながらWebメディアへの連載、執筆活動もスタート
Twitter:https://twitter.com/shin5mt