〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第3回 秋の夜長に平和に想いを馳せたいとき~ 先攻:加藤よしき「義兄弟 SECRET REUNION(’10年)」~昨日の敵は今日の友。北緯38度線を超えていく水炊きの美味さ~

2017/11/15 UPDATE

1 平和への想いを込めて

加藤よしきです。平和のために会社を辞めました。

さてさて、今回の記事ですが、テーマは「秋の夜長に平和に想いを馳せたいとき」。
前回の永遠の愛に続き、これまた大ネタが飛んできました。
普段この世は争いばかりみたいな映画ばかり見ていますが、時にはこういう事について考えるのは大事なことです。

祖父母は戦争直撃世代ですが、私自身はハイパーヨーヨー直撃世代。そんな私ですが、あえて1本、実際に私自身がそういう気持ちになった映画を挙げるならば……今回取り上げるのは、前回に引き続き韓国映画から『義兄弟 SECRET REUNION(’10年)』です。

義兄弟 ~SECRET REUNION~(原題:의형제)2010/韓国/116分
監督・脚本:チャン・フン
■発売元:アミューズソフト
■販売元:アミューズソフト
■税込価格:4935円
■コピーライト(C) 2010 SHOWBOX / MEDIAPLEX ALL RIGHTS RESERVED.
視聴可能サイト:レンタル屋へGO!

はじめに書いておきますが、これはレビューではなく、プレゼンテーションです。
端的に言います。

見てくれ。

特にそこの、男が二人出てきてワチャワチャするのが好きな人。とりわけ間抜けだけどワルになりきれないオッサンと、正しく生きようともがく影のある青年の組み合わせが好きな人。絶対に楽しめます。私には何の権威もないけれど、保証します。

失礼、取り乱しました。続けましょう。

監督は光州事件(詳しくはググってください)を題材にした新作『タクシー運転手(17年)』が大ヒット中のチャン・フン。

過去にも『映画は映画だ(08年)』『高地戦(11年)』など、数多くの傑作を放っている凄腕の監督です。

俳優陣は韓国を代表する名優ソン・ガンホ。そしてモデルから俳優へ転向し、今やスターの仲間入りを果たしたカン・ドンウォンのW主演。まさに鉄壁の布陣なのです。
さてさて、例によって映画の見どころを3箇所上げさせていただきます。

しかし今回はその前に一つ、重要な説明を挟まねばなりません。

タイトルにある「義兄弟」。これは盃を交わしてどうこう的な、ヤクザの兄弟分のような深刻なニュアンスでは決してないのです。
韓国には「親しい年上の男」をごく普通に「お兄さん(ヒョン)」と呼ぶ文化が存在しているのをご存知でしょうか。

たとえば韓国のアイドルでは、年下メンバーが年上に「ヒョン」付けで会話をしたりすることがあります。
本作における兄弟という言葉もまさにそういう意味であり、『義兄弟 SECRET REUNION』というタイトルは、「親しい年齢差のある男2人/秘密の再会」と捉えるのが正しいと考えます。

このように説明をすると俄かに副題からサザンオールスターズのような雰囲気がにじみでてきますが、本作は2人の男が愛ではなく、二つの国家、すなわち大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の狭間で溺れ、もがきながら懸命に生きていくストーリーなのです。それでは、粗筋からご説明いたしましょう。

2 あなたの心を爆破四散!『義兄弟』3つの秘孔!

A、行き場を失くした2人の男

(C) 2010 SHOWBOX / MEDIAPLEX ALL RIGHTS RESERVED.(C) 2010 SHOWBOX / MEDIAPLEX ALL RIGHTS RESERVED.

北から「影」と呼ばれる暗殺者が韓国へと潜入した。


南の諜報員ハンギュ(ソン・ガンホ)は某筋から情報を掴み、「影」の逮捕に奔走する。一方、既に南に潜入していた北の工作員ジウォン(カン・ドンウォン)は「影」と合流、脱北者の暗殺へと向かう。

しかし、暗殺を嗅ぎ付け、駆けつけたハンギュたちとの白昼の銃撃戦に突入する。


この銃撃戦の結果、「影」は姿を消し、後日ジウォンは情報を流した容疑をかけられ、北から見捨てられることになる。一方のハンギュも作戦失敗の責任を問われ、諜報局を解雇されてしまう。


事件から6年後。ハンギュは家族と別れ、私立探偵として糊口をしのいでいた。

そんなある日。とある事件を調査するハンギュは、偶然にも潜伏中のジウォンと再会する。


お互いの正体に気がつきながら、2人はそれぞれの持つ情報を探るため、あえて気がつかないフリをして接近することに。


ハンギュはジウォンを探偵の助手として誘い、さらに自身の家で暮らすことを提案する。

こうして正体を隠した二人の同棲生活が始まるのだが……というお話。


ポイントは、2人の主人公がお互いに祖国から見捨てられている部分です。


その国固有の民族・政治問題をテーマとした作品は、他国に住む人にはいまいちピンとこない所があるものです。


しかし、本作は朝鮮半島の南北問題を取り扱った作品でありながら、同時に組織から”見捨てられ”、家族と離ればなれになり、居場所を失った者たちの物語でもある、という点で半島の情勢に精通していなくても、彼らが直面する孤独を身近に感じることが出来るというのが大きな魅力です。


B、北の工作員と南の諜報員、大騒ぎの同棲生活

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さて、次に注目したい点は、上記のように一見するとシリアスなストーリーに見えながら、本作が基本的にコメディ映画である、という点です。


映画の大部分は、探偵として働く2人が人探しをしているような「日常」の描写に割かれています。

オープニングシーンこそヴァイオレンスではあるものの、中盤からクライマックスにかけては、銃撃戦のような派手なアクションはなく、(せいぜいチンピラとの殴り合い程度)田舎を車でガタゴトと走り、農家の人から謝礼として野菜やニワトリをもらったりするような、ホノボノとしたシーンが続きます。


しかし、この点こそが本作の肝であり、主題なのです。

お互いに、相手を「敵」として認識しながらも、一緒に生活して相手を知る中で、2人は徐々に心を開き合っていきます。「あいつ寝たかな?」とチラチラと相手の様子を伺ったりと、命がけの深刻な状況であるからこそ、なんでもない日常的な行動が笑いを誘うのです。


演出・脚本の良さに加えて、役者の力量がこのシリアスな関係の中の日常風景という微妙な空気感を通した作品の魅力を最大化しています。


ソン・ガンホのオッサン演技は絶好調で、一人で「襲われたときの反撃」をイメトレするシーンなど、さすがの一言に尽きます。


カン・ドンウォンも浮世離れした美貌を存分に活かし、クールで不穏な雰囲気を残しつつ、ボケ続けるオッサンにツッコミをいれる女房役として絶妙な存在感を発揮しています。

オッサンは彼の美貌を引き立て、彼はオッサンのユーモアを引き立てる。まさにオッサンの横に置きたい男No.1だ。


C、あの日、2人で食べた水炊きの味

そんな2人の日常において、重要な要素となるのが「食」です。
妻に逃げられてからというもの、雑な食生活を送っているハンギュに自炊の達人のジウォンが近所からいただいたニワトリをさばき美味い水炊きを作るシーンがあります。
この水炊きが本作のキー・アイテムとなるのです。
2人がお互いの家族のことを語り合うとき、そして一つの秘密をジウォンが知るとき、いずれも水炊きが登場しています。
ハンギュとジウォンのコミュニケーションは水炊きを介して行われるのですが、それは何故か?敵対する2人が何故に水炊きを囲うときだけは分かり合えるのか?理由はシンプルで「ジウォンが作る水炊きが美味いから」です。美味いものは立場が違えど美味いと思うもの。極々普通のことです。

3 結末は理想論でも、その過程は……。

(C) 2010 SHOWBOX / MEDIAPLEX ALL RIGHTS RESERVED.(C) 2010 SHOWBOX / MEDIAPLEX ALL RIGHTS RESERVED.

共同生活を通じて、敵対する2人の男が心を通わせていく。そんなの都合が良すぎる……と思うかもしれません。ですが、人間と人間のコミュニケーションは、なにが糸口になるかは分からないのです。


インターネットによって簡単に世界中の人々と通じ合える現代を生きる我々はその事実を身近で目撃しているはずではありませんか?


ピコ太郎とジャスティン・ビーバーが繋がったエピソードは記憶に新しい話です。

言うなればボキャブラ天国という日本の文化が、世界のスーパースターと繋がったわけでして。こんなことが起きるなんて、ボキャブラが放送されていた当時はだれも想像しなかったでしょう。


あちらこちらで断絶の危機が叫ばれ続ける世界ですが、一方でそういう小さな奇跡も確かに起こっているのです。


本作の結末は理想論なのかもしれません。けれど、その結末に至るまでに描かれること、立場が違う者でも、同じ水炊きを美味いと感じるのは、極めてリアルな……いや、リアルという言葉すら大仰に感じるほど、ごくごく普通のことであり、強力な説得力があるように思うのです。


「立場は違えど、同じ人間である。違いもあれば、共通点もある」


チャン監督は南北の断絶を背景に、希望を描きたかったと語っています。彼が込めた「希望」とは、日常の中にはきっと、わかりあえる場所がある、ということを伝えたかったのではないかと思います。


最後に付け加えると、ソン・ガンホが尻を晒すわりに、カン・ドンウォンが一切脱がないあたり、監督は分かっているなと思いました。そういうバランス感覚は大事にしていきたいです。あと2人が部屋着で雑魚寝するシーンも見逃せません。


男2人のワチャワチャ日常モノのツボも万国共通なのでしょう。国や文化は違っても、このジャンルのツボは被る部分もあるのです。


この映画は作中の水炊きよろしく、それを教えてくれるわけでして……つまり、この映画自体が世界平和の鍵なのかもしれません。だから世界平和に協力すると思って、見てください。お願いします。

投稿者名

加藤よしき

兼業ライター。昼は会社で鬱々と過ごし、夜はお家で運動会。映画秘宝、リアルサウンドなどで通り魔的に映画関係の記事を書いています。
twitter:@DAITOTETSUGEN
blog:http://blog.livedoor.jp/heretostay/