〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第4回 オレ・わたし的アカデミー賞2017~ 先攻:加藤よしき「イップ・マン 継承(’15年)」~強く儚い夫婦愛。あなたはこんな哀しく木人を叩けますか~

2017/12/13 UPDATE

1.独断と偏見で振り返る2017年の映画事情

こんにちは。会社を辞めてフラフラしている加藤よしきです。


風もめっきり冷たくなり、一年が終わる気配をヒシヒシと感じています。そんな季節に示し合わせたかのように、今回は「オレ・わたし的アカデミー賞2017」というお題を頂戴しました。

そんなわけで今年の映画を振り返りつつ、一番好みだった映画を語っていきたいと思います。


思えば2017年も色々な傑作・快作がありました。今年はアジア勢が大躍進です。

  • 平和な田舎が國村準のせいでエラいことになる『コクソン/哭声』(16年)
  • 映画史上に残るドグサレ外道映画『アシュラ』(16年)

など、韓国は相変わらず活きがよかったです。
香港からもムエタイと中国拳法が奇跡の融合を果たした傑作『ドラゴン×マッハ!』(15年)が入ってきましたし、ここ日本でも『HiGH & LOW 2/END OF SKY』(17年)という見所しかない映画も生まれました。


神に感謝するしかありません。


映画の都ハリウッドは、まさにアメコミ映画全盛期。

  • 『ドクター・ストレンジ』(16年)
  • 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(17年)
  • 『LOGAN/ローガン』(17年)
  • 『ワンダーウーマン』(17年)
  • 『スパイダーマン ホームカミング』(17年)
  • 『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17年)

……どれも楽しめました。これからもアメコミ映画は盛り上がっていくことでしょう。


細かいところでいうと、サル映画も当たり年でした。

  • 『キング・コング 髑髏島の巨神』(17年)
  • 『猿の惑星・聖戦記』(17年)

は、どちらも猿が異様にカッコよく、今すぐ人間を辞めて猿になりたくなる傑作でした。


『エイリアン』『ブレードランナー』『トリプルX』『アウトレイジ』の続編もあり、「スクリーンでまたアイツに会えた!」という感動も多かった印象です。

あと『パトリオット・デイ』(16年)や『ハクソーリッジ』(16年)などの実録系も良かったですね。


これを書いている時点で、まだ『ジャスティス・リーグ』や『スターウォーズ』などの話題作が控えており、2017年は充実の年だと言えるでしょう。


そんな中で私が一番好きだった映画は……香港映画『イップ・マン 継承』(15年)です。


2.『イップ・マン 継承』その美しき3つのポイント

イップ・マン 継承(原題:葉問3)2015/香港・中国/105分

監督:ウィルソン・イップ 脚本: エドモンド・ウォン

■配給元: GAGA+

© 2015 Pegasus Motion Pictures (Hong Kong) Ltd. All Rights Reserved.

視聴可能サイト:U-NEXT

https://video.unext.jp/title/SID0029999?cid=D31313&rid=SID0029999&adid=SEP&alp=1&alpad=1&
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A)宇宙最強!ドニー・イェンという男。


ドニー・イェン、通称ドニーさん。今日はこの名前だけでも覚えてください。この人こそ、現時点で最も成功しているアクション・スターであり、同時に最も凄いアクションを作り出す、まさに現代アクション映画界の中心人物です。


皆さんは昨年公開されたスターウォーズ外伝『ローグ・ワン』(16年)で、帝国軍の兵士を棒でボコボコにしていた人を覚えていますか?

あの人がドニーさんです。63年生まれの御年54歳(しかし見た目は40代前半)。子供のころから叩き込まれた中国拳法を武器に、俳優兼アクション監督としてキャリアを重ね、ゼロ年代に大ブレイク。


地元・中国では「宇宙最強」という直球すぎるアダ名で親しまれており、その人気はジャッキー・チェンに勝るとも劣りません。そんな世界的アクション・スターであるドニーさんの代表作が、今回ご紹介する『イップ・マン』シリーズです。


B)「シリーズを3から薦めるってどうなの?」「いや、大丈夫なんです!」


イップ・マン、こう書くとウルトラマンやアイアンマン的な感じがしますが、この人は実在した拳法家なのです(漢字で書くと「葉問」)。

彼は詠春拳という拳法を学び、それを自分なりに改造、遂に葉問派と呼ばれる一つの流派を作り上げた人物です(弟子の中にブルース・リーがいたことも有名)。


本作はそんなイップ・マンの伝記映画であり、シリーズ3作目に当たります。伝記なのに3というのも、3から薦めるのもどうなんだと思われるかもしれません。

ご心配なく、端的に言うと本作は、事実をベースにしたフィクションです。日本で言うと『水戸黄門』や『暴れん坊将軍』みたいなものでしょうか。


『イップ・マン 序章』(08年)、『イップ・マン 葉問』(10年)、そして本作『イップ・マン 継承』(15年)の間には繋がりもありますが、毎回異なる敵がイップ・マンと戦う一話完結方式を取っています。

なので、どこから見ても問題ありません(とはいえ順番に見ると面白さ倍増です)。


今回、イップ師匠の前に立ち塞がるのは不動産屋とその刺客であるムエタイ戦士、そして同流派の達人です。刺客と達人はともかく、不動産屋がどうして出てくるのかと思った方も多いと思います。


しかし、この役を演じるのはなんと、ボクシング史上最強と目される男、マイク・タイソン(どんな不動産だ)なんです。

このタイソンとの異種格闘技戦はもちろん、クライマックスの同流派対決も大迫力。現時点で世界最高レベルの格闘シーンです。


アクションだけでも見る価値があると断言できますが、本作を2017年のベストに推すのは、それだけではありません。一番の理由は戦う“まで”のプロセスにあるのです。


C)強く儚い夫婦愛。あなたはこんな哀しく木人を叩けますか?


本作には不動産を巡る騒動以外に、もう一つのストーリーが存在します。

イップ・マンと、その妻ウィンシンの別れです。どんな騒ぎに巻き込まれてもイップ・マンの傍を離れず、最強の武術家の妻として共に歩んできたウィンシン。


彼女こそイップ・マンの最愛の人であり、最大の理解者でした。そんなウィンシンが死の病に倒れてしまうのです。


どんな達人でも、病に打ち勝つことはできません。手の施しようのない現実を前にしたとき、イップ・マンは武術家ではなく、夫であることを選択します。そして……このときイップ・マンとウィンシンがとった行動が、驚くほどロマンチックなのです。


貴方の中のカンフ-映画のイメージを覆すに違いありません。


別離までの少しの時間を、平凡な夫婦として生きる二人。やがて妻は“イップ・マンの妻”として、夫に武術家として生きるように言います。


妻は最愛の人が何者で、彼のするべきことを誰よりも知っているのです。だから夫が武術家に戻ると告げたとき、妻は満足そうに微笑み、こう言うのです。「それでこそ私のイップ・マン」と。


そしてイップ・マンは武術家として木人(木で出来た人の像。中国拳法の鍛錬器具)を叩き始めます。“夫”ではなく、“妻の愛したイップ・マン”として。


しかし……。


妻のために最強の武術家イップ・マンでなければならない、これからも木人を叩き続けなければならない……そう分かっていても、心と体が許してくれないのです。


イップ・マンは木人を叩きながら、哀しみに震えていました。いつものように華麗に動くことはできません。それでも妻に応えるべく、イップ・マンとして木人を叩き続けるのです。


悲劇に怯える弱さと、それを乗り越えようとする強さ。相反する二つのものを同時に背負う。そんな繊細な感情を完璧に描いた名シーンでしょう。この一連の流れは完璧でした。

私が数ある名作の中から本作を今年のベストに選んだのは、まさにこのシーンが決め手でした。


3.独断と偏見で述べる2018年への展望

そんなわけで、現時点での2017年ベストは『イップ・マン 継承』です。

それでは、ここからは2018年の注目作を書いておきたいと思います。まず『イップ・マン』の4と、外伝が1本できるそうで、そこが期待大ですね(自伝映画の外伝って何だとか、深く考えてはいけません)。

アメコミ映画ですと予告の段階で超カッコイイ『ブラック・パンサー』が注目です。あとは半魚人と人間の交流を描いたギレルモ・デル・トロ監督の新作『シェイプ・オブ・ウォーター』も気になりますし、海外で物凄いスベり方をして会社の社長のクビが飛んだ『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』も応援していきたいと思っています。

なんだかんだ言って、2018年も面白い年になりそうです。ほどほどに頑張っていきたいと思います。

投稿者名

加藤よしき

兼業ライター。昼は会社で鬱々と過ごし、夜はお家で運動会。映画秘宝、リアルサウンドなどで通り魔的に映画関係の記事を書いています。
twitter:@DAITOTETSUGEN
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