〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第5回 新成人になったとき~ 先攻:加藤よしき「クローズZERO(’07年)」~加齢だけで大人になんてなれやしない~

2018/01/17 UPDATE

ぜんぶ壊してZEROになりたい漢たちへ…

こんにちは。生まれてこのかた学校関連の同窓会に呼ばれたことのない加藤よしきです。人情紙風船という感じですが、呼ばれたら呼ばれたで困るので、これがベターなのかなとも思います。それはさておき今月も映画の話をしていきたいと思います。

今回のテーマは「新成人になったとき」これはもう1つしかありませんね。

今回取り上げる映画は、我が国が世界に誇る名画『クローズZERO(07年)』及び続編の『ZERO2(08年)』。大人になるために必要な要素がすべて詰まっている映画です。

映画『クローズZERO』
DVD&Blu-ray好評発売中
発売元:TBS   販売元:ハピネット
©2007 髙橋ヒロシ/「クローズZERO」製作委員会
監督:三池崇史  脚本:武藤将吾


同作は高橋ヒロシ先生の大ヒット漫画を原作に、オリジナルキャラを主人公にして、しかも原作にないオリジナル・ストーリーを映像化した作品です。こう事実だけ抜き出すとダメな実写化のテンプレみたいな雰囲気ですが、結果はご存知の通り、いまでもヤンキー映画の傑作として愛されています。


数年前にも、テレビで北九州の成人式が取り上げられた際に、主演の小栗旬と同じ髪形をした新成人が「小栗旬最高!」と猛り狂っていました。と言うか2017年現在でも、側頭部を刈りこむ「あの髪形」をしている人、たまに見かけませんか?

本作はそんな感じで現代日本にも大きな影響を与えている1本であり、今さらこの名作についてあれこれ語るのも無粋かもしれません(と言うか俺は何回この映画について書くんだ)。しかし、どんな名作でも語られなければ、忘れられてしまうのが世の常です。この名作を後々の世に残すためにも、今回は全部壊してゼロになる覚悟で語っていきたいと思います。

青春ケンカ祭りの立役者たち

A)小栗旬に山田孝之!今なお輝く俳優たちの熱演!


この映画を語る上で俳優たちの熱演は欠かせません。筆頭は主演の小栗旬。「これ、小栗旬以外がやったら大事故やぞ」と言わざるを得ない特殊な髪形で、クールなのにどこかアツい不良少年を演じています。その愛すべきキャラクターは言うに及ばず、カッコイイの擬人化と言った風情のヴィジュアルも文句なし。短ランで決めたタイトな学ラン姿は、ただでさえ長い手足を更に長くしています。とても自分と同じ人間だとは思えません。


そんな小栗に対するは、今や怪優の座に収まった山田孝之。本作では「百獣の王」というアダ名を持つパワー系番長を演じます。これが一世一代のハマリ役。


デビュー当時、青春・恋愛ドラマを中心に、カワイくてどこか頼りないキャラの仕事を多くこなしていたあの山田さんが、「真夏の天使」とか歌っていた山田さんが、バックドロップなどのプロレス技を得意とする番長役……


初見時のインパクトは鮮烈でした(本作が山田さんのキャリアにとって一つのターニングポイントになった感はあります)。


他にも桐谷健太、高岡蒼佑、高橋努、遠藤要、続編では綾野剛に三浦春馬などなど……実力派・個性派が脇を固めています。


彼らは一様に「俺こそが真の主役だ!」と言わんばかりの好演を見せており、まさにゲッターロボよろしく若い命が真っ赤に燃えているようです。


そんな火花散る演技合戦は「ごちゃごちゃ言わんと、誰が一番強いか決めたらええんや」という映画のメインプロットとも見事にシンクロ。本作にある種のドキュメンタリー的なリアリティをもたらしています。本作には当時の、まだブレイク前夜の彼らにしか出しえないガムシャラな演技への「熱」が込められていると言っても過言ではないでしょう。


B)「カッコイイとは、こういうことさ」決してブレない三池崇史の美学


ギラつく若手俳優たちを束ねたのは、日本映画業界の面白超人・三池崇史。

この人はとにかく監督作の数が多く、止まったら死ぬマグロみたいな人物です。


90年代からハイペースで映画を撮り続けており、今も1年に2~3本の監督作品が公開されています。今年も『無限の住人』(17)『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない第一章』(17)の2本を手掛け、すでに2018年の作品情報も出ています。


ではアクション系の器用な職人監督なのかと言うと、そういうわけでもありません。石橋凌の足が大変なことになるサイコ・ホラー『オーディション』(99)や、哀川翔と竹内力が戦ったせいで凄いことが起きる謎の映画『DEAD OR ALIVE 犯罪者』(99)、唐突にDA PUMPが踊り狂う『アンドロメディア』(98)など、カルト作品を多数手がけている鬼才でもあります。


さらにさらに、こういったエクストリームな作品を手掛ける一方で、非常にウェットな人情劇や、古典的な浪花節を得意とする一面もあり……とにかく、ワケの分からない人という説明を放棄した説明が一番適切な監督なのです。


そんな三池さんが、自身の持つ全スキルを炸裂させたのが本作の魅力といっていいでしょう。


アクション職人としての手腕はド迫力のケンカ・シーンへ。雨の中の大乱闘、2では学校全体を戦場とする大スケールのアクションを見事に描いています。そしてカルト監督としての発想は……山田さんが始める唐突な人間ボーリングに集約されているでしょう。


ウェットな部分は全編にちりばめられており、小栗旬の所へ仲間が集い、一度バラバラになって、再び結集する一連の流れはまさに男気・浪花節のつるべ打ち。

あと90年代アニメの如く「ギュオーン」「シャキーン」と効果音が入るオープニングなど、音楽の使い方も抜群。『アンドロメディア』でのDA PUMP起用も無駄ではなかったのだなと考えさせられます。私の中では監督・三池崇史の最高傑作です。


C)大人になるってことは……やべきょうすけが教えてくれること


本作にはもう一つ、欠かせない要素があります。やべきょうすけの存在です。彼が演じるのは舞台となる鈴蘭高校のOBで、今は暴力団に所属する拳(ケン)さん。


ひょんなことから小栗旬演じる滝谷源治と出会い、源治の相談役を務めるうちに、いつの間にか奇妙な友情で結ばれる……というキャラクターです。この拳さんこそ、本作の裏の主人公です。


拳さんは鈴蘭を中退したチンピラです。卒業できなかった男であり、大人になれなかった男なんですね。だからヤクザ社会でもハンパ者として扱われ、後輩からもナメられてしまうわけです。


このまま一生ハンパ者なのか……?そんな思いを胸に日々を生きていた拳さんが、今を全力で生きる若者たちとの出会いによって、自分なりの「卒業」へ向けて走り出すのです。


あなたは何の後悔もなく「大人」になったでしょうか?

なかなかそう言い切れる人はいないと思います。もし貴方の中に少年・少女の頃の、“十代の衝動”(主題歌を歌うTHE STREET BEATSの名曲)が後悔として残っているなら、きっと拳さんに己を重ねてしまうでしょう。


そして拳さんよろしく、真っすぐに生きる男たちの姿に涙を流すほど心を動かされるはずです。

オレは変わりたい、変わり続けたい……!

この映画は、少年が大人になっていくまでのお話です。もちろん大人になるのは簡単なことではありません。各々が各々の問題にぶつかり、それを乗り越えて成長していきます。


ある者は鈴蘭のテッペンを、ある者は手術を、またある者はヤクザのケジメをつけることを求められます。その壁を乗り越えたとき、初めて彼らは一つ大人に近づくのです。大人になることは、年齢を重ねることと同義ではないのです。


成人式を迎えただけで大人にはなれません。年齢を重ねることはただの加齢です。大人になると分かるのですが、大人になんてなれないんです。


鹿児島の悪童・中島美嘉もそう歌っていたじゃないですか。大人を定義するのは年齢ではなく、本人の気持ちの在り方です。


そして生きていれば、自分の在り方を見つめなおして、こんな人間になるはずではなかったと、後悔することもあるでしょう。


そんなときはまたやりなおせばよいのです。あのとき憧れた自分を目指すのに、手遅れなんてない。


この映画はあなたの背中をそう力強く押してくれることでしょう。



イラスト:越智 猛/イラストレーター

投稿者名

加藤よしき

兼業ライター。昼は会社で鬱々と過ごし、夜はお家で運動会。映画秘宝、リアルサウンドなどで通り魔的に映画関係の記事を書いています。
twitter:@DAITOTETSUGEN
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