【第二十五話】洗濯ものをかさねてみれば

2018/01/05 UPDATE

クリスマスが過ぎて年末の忙しさも一息ついた冬の日の夜。
子どもたちが寝静まった時間にソファーでのんびりと洗濯物をたたんでいると、いつものようにもこもこでふかふかのルームウエアをきた妻がビールを持ってきてくれた。
お風呂あがりの彼女の頬はまだほんのり赤かった。

「わ、ありがとう」
「そろそろビールでも飲みたいころかなぁって思って」
「ビールもありがとう、なんだけど、洗濯物のことも」
「ん?洗濯物?」
「6人分のこんなにたくさんの量だから、いつも干すのもたたむのも大変だよなぁって思って」
「まぁね。もう慣れっこだよ。毎日だもん」

そういうとソファーの隣に腰をかけて僕のたたんだ服やタオルをぽんぽんと優しくなでた。
家族が増えれば幸せも増える。けれども、その分の家事は大変だ。洗濯も炊事もどんどん大がかりになっていく。
彼女はいったいいつ自分の好きなことをしているのだろう?
妻は炭酸水を飲み、僕はビールを飲みながらもくもくと手を動かす。

「今日は僕が全部たたむから、のんびりしててね」
「気が利くねぇ~」
そういって彼女は頬に軽くキスをしてくれた。
最近変えたシャンプーのいい香りがした。

親に甘えてばかりだった僕が、家事の手伝いを好きになったのはいつからだろう。
大きくなるにつれて、不思議と家事をすることに違和感がなくなり、いつからか自分から率先して家事を手伝うようになっていた。

高校生の頃、自分の気に入ったシャツにアイロンをかけるとき、母がパート先で着ていたエプロンと三角巾にも一緒にアイロンをかけるのが習慣だった。
普段親孝行なんかしない僕にとって、その時だけは「わざわざありがとう。嬉しいよ」と、お母さんに声をかけてもらえることが、少し気恥ずかしくもうれしかった。

夜お腹がすいたときに、姉とこっそり余った材料で野菜たっぷりのラーメンを作ったこともあった。
僕が台所で野菜を切っていると、姉が台所に顔を出し「私もお腹すいたから食べてあげるよ」と参加してきたのだ。
普段あまり顔をあわせることのない姉と久しぶりに二人きりで会話をすることができる、不思議な時間だったことを覚えている。

誰かのために何かを作ることは、その人のことを思い、その人と共に過ごす時間を重ねることなのだ。
大切な人のことを思い過ごす時間は、一人であってもきっと、誰かと共に過ごす時間なのだと思う。
家族と一緒にいることが気恥ずかしかった高校生の頃の僕にとって、家族のためにする家事の時間は、不器用な僕が家族と一緒に過ごそうと無意識に作り出したあたたかい時間だったのかもしれない。

「このパーカー、久しぶりに見た気がする」
「お兄ちゃんが小さい頃に着てたよ。2人が生まれる前かな?下の子に着せてみようと思って。」
「やっぱりそっか。荒川で写真をたくさん撮ったよね。懐かしな」
「懐かしいね。背がどんどん伸びるから、1年しか着れていない服だったりするのにね」
「それでも覚えているもんだね」

子どもが4人になって増えた洗濯物をたたむ。
その服を着て出かけた思い出を一つ一つ思い出しながら。
アルバムに古い写真を飾るように、洗濯物に刻まれた思い出を心の中に飾っていく。
妻も同じことを考えているのだろうか?
彼女の顔を覗き込もうとしたとき、僕の肩にゆっくりと寄りかかってきた。

「ありがとう」
「うん。これでおしまい。洗濯物、たたみ終わったよ」
「うん。洗濯物もそうだけど、一緒にいてくれてありがとう」
「えっ」
「毎日洗濯とか大変だけど、幸せだと思うことが増えたよ」
「うん。そうだね」
「そうだねって笑ってるけど、君は幸せなの?」
「これは自信を持っていうけど、僕のほうが幸せだと思うよ!」

アイロンとビールを片付けて、ソファに戻ると、妻が気持ちよさそうにうたたねをしていた。
身体が冷えないように毛布をかけ、たたみ終わった洗濯物を子ども部屋に運ぶ。

余った炭酸水を飲んで眠気を覚ましたら、一気に片づけてしまおう。
洗い物がおわったら、彼女をベッドに運んで隣で眠ろう。
いつも、一緒にいてくれてありがとう。

投稿者名

shin5

都内で働く会社員。Twitterに投稿した日常ツイートが話題となり、22万を超えるフォロワーから注目され、2015年に漫画化した。「結婚しても恋してる」「いま隣にいる君へ。ずっと一緒にいてくれませんか。」は異例の15万部を突破し、仕事を続けながらWebメディアへの連載、執筆活動もスタート
Twitter:https://twitter.com/shin5mt