3通目:「何か間違えたとしても、世界は滅んだりしませんから」大山 純さん(ストレイテナー ギタリスト) ~拝啓、ハタチのわたしへ~

2018/01/23 UPDATE

今年結成20周年を迎え、幅広い世代から熱い支持を集めるロックバンド、ストレイテナー。
ART-SCHOOLを経て現在ストレイテナーのギタリストとして活躍する大山純さんが、アイスムにご登場くださいました!
ロックスターを目指して努力を重ね、才能も運も持ちながら、決して順風満帆ではなかった20代のご自身へ投げかける優しくも切ない言葉に、思わず胸が熱くなります。
夢を追いかけている人、夢を諦めてしまった人、今まさにその狭間に立たされている人、皆さんに読んでもらいたい、大山さんからの渾身のメッセージです。

タイムカプセルとかでさ、過去から手紙が届いたなんて話をときどき聞くけど、この手紙はその逆なんだ。未来から書いてる。

軽く自己紹介すると、俺の名前は大山純て言います。職業はギタリスト。そう、つまり君なんだけど、未来の。
現在の……というか未来の、この手紙を書いてる君は39才のおっさんになってるよ。
最近肩コリがひどくてな、小ジワも順調に増えてきてるし、腹も少し出てきたかもしれない。ステージに立つ度にどこかしら痛めて悲鳴をあげてるし、筋肉痛は2日後にくる。
ショックかい?
嘘だろっ!?って顔で絶句してる様が目に浮かぶなぁ。そう、その顔。
生きてりゃ皆そうなるんだよ。生きてりゃあね。皆老けるのさ。
あぁ、大丈夫。髪はまだある。今のところ。
君よ、未来の俺のためにもう少しだけ健康的な生活を送る気はない?
できたらでいいんだけど。
…ま、無理か。
知ってる、よく知ってる。

小さいころからエレクトーンを習って、中学の合唱コンクールで最優秀指揮者賞を3年連続でもらって。高校のときに組んだバンドで地元のバンドコンテストで優勝して、軽音部をつくって、聖歌隊に所属して。学校をサボっても部活だけはちゃんと出て……。
BOØWYが好きで、矢野顕子が好きで、Radioheadが好きで、レッチリが好きで……何かをつくるのが大好きで。
上京してバンドを組んで、20歳そこそこでデビューして……知ってる。全部知ってる。
君は俺だもの。
でもなんでかなぁ。自分のことなのに同じ人物とは思えないんだ。
ずっと一番近くで君を見てた。僕はずっと君を応援してたんだ。最近はそんな気がしてる。
あのころの君に向けて手紙を書くよ。あのころに戻って。俺ではなく、ずっと君の近くにいた僕として。

拝啓 20歳の君へ

お元気ですか?
夢に向かって頑張ってるようですね。
毎朝、希望に満ち溢れて目覚めていることでしょう。
毎晩、小さな不安と戦いながら眠っていることでしょう。
大丈夫、夢は力です。その信じた夢に向かって一直線に進みましょう。
日々の努力を忘れないでください。
たまにサボるくらいならいいでしょう。
でも自分で決めて選んだ道ですからね、頑張りましょう。
バイトに明け暮れる毎日だけど、その日々はきっと無駄にはなりません。
若さがキラキラしてますね。
かっこいいと思います。

21歳の君へ

お元気ですか?
ようやく東京でバンドが組めるみたいですね。
君が勇気を出して行動したからです。
よかったですね。
でもまだ夢に向かって最初の一歩を踏み出しただけ。すべてはこれからです。
頑張ってください。
見たもの、聴いたもの、触れたもの、味わったもの、感じたこと、すべてが君の糧になりますように。
応援しています。

22歳の君へ

お元気ですか?
バンドが順調なようですね。CDも出してお客さんも増えて……チケットが売り切れることもあるみたい。凄いなあ。
でも調子に乗らないこと。自分を過信せず、決して驕らず、日々努力を続けること。
君はまだ、何者でもないのですから。
それができれば、もしかしたら、もしかしたら憧れ続けた人達のようになれるかもしれませんね。
ジブリの「耳をすませば」好きでしたね?
(ロックで生きていこうとしてる人がそれで良いのか?って気もするけど(笑))
雫のお父さんの言葉、君に贈ります。
「自分の信じる通りやってごらん。でもな、人と違う生き方はそれなりにしんどいぞ。何が起きても誰のせいにも出来ないからね」
頑張ってください。

23歳の君へ

お元気ですか?毎日忙しそうですね。
少し顔色がよくないみたい。
バンド、大変そうですね。
今日のスタジオ、君は悪くないと思いました。まあ……よくもないけど。
煙草、吸いすぎですよ。
ご飯も、もう少し食べてください。
このままだと倒れてしまいますよ。
借金して買った機材……きっとまだ、使いこなせてないだけだと思います。気にしなくても大丈夫。でも、もう借金はしない方がいいと思います。

明日もライブですね。
頑張りすぎないでください。
お酒もほどほどに。応援してます。

24歳の君へ

大丈夫ですか?疲れてますね。
顔色、ひどいですよ。目もなんだか窪んでしまって、ギラギラとつり上がって……。なんでそんなに怒ってるんですか。
毎日毎日イライラして、君じゃないみたい。
音楽……楽しくないですね。あんなに大好きだったのに。
それでも、バンドが上手くいけばきっとまた、きっとまた楽しく音楽ができると思います。

毎晩、お酒飲みすぎですよ。
できることならそのお酒、一緒に飲んであげたい。最近他人と話すとき、吃るようになってしまった君だけど、僕が相手なら話せるでしょう?朝まででも愚痴、聞きますからね。……できることなら。

電気……止まっちゃいましたね。

25歳の君へ

お元気ですか?……元気ではないですね。
もう無理ですよ。だって君、もうギターが弾けないんですよ。
ギターを背負っただけで吐き気と冷や汗。
ライブが怖くて震えてるんですから。
また間違えたらどうしようって、本番中そればっかり考えてる。考えれば考えるほど、体がビクッと動かなくなってまた間違える。繰り返し。
センスない、向いてない、ヘタクソやめろ死ね、聞こえてるでしょ?
誰も何も言ってないし、誰も責めていませんよ。
それ、もうたぶん、病気だと思います。心の。

責任とか、もういいじゃないですか。
やめましょう。もう無理です。終わりにしましょう。
そりゃ、大事に大事に育ててきた夢ですけど……。

体も心もぶっ壊してまで叶える価値のある夢なんてない。

ロックスターになるには君は純粋すぎた。
終わりにしましょう。ね。

26歳の君へ

最後のライブ、ひょっとしてノーミスでしたか?えらかったですね。
家に帰ってから泣いちゃいましたね。
ああ、できることなら抱きしめてあげたかった。一緒に泣いてあげたかった。
とてもかっこよかったと思います。本当ですよ。

音楽、やめちゃいましたね。ギターも全部売っちゃった。
これからどうしましょうか。
まだ26才なんだし、何をしてもいいと思いますよ。やりたいこと、一緒に見つけましょう。仕事は音楽じゃなくてもいっぱいありますから。

……さすがに、まだ無理か。
君の世界は、音楽がすべてだったんですから。
体と心を休めましょうか。
よく頑張りましたね。
今は眠ってください。おやすみなさい。

27歳の君へ

その後どうですか?やりたいことは見つかりましたか?
その様子だとたぶん……全然ダメですね。
またパチンコ屋さんへ行ったでしょう。バイトで稼いだお金、全部なくなっちゃうじゃないですか。
そんなことして何が楽しいんですか?
今の君は嫌いです。
やりたいことを見つけるために就職しないのはわかります。
でも、ならせめて何かつくるとか、得意の絵を描くとか、何でもいいから何かしろや馬鹿野郎。

戻りましょうか、地元。君は東京にいたらどんどん駄目になる。心が弱い。
もういい、帰ろう。

28歳の君へ

今日もよく働きましたね。ご飯も美味しいでしょう。顔色もいいですね。
体重も20歳のころに戻ったみたい。同世代の友達もできて……。
君、音楽やってたころはぶっちゃけ友達いませんでしたからね。ウケる。
あぁ……安心しました。
派遣の仕事も悪くはないですね。
そりゃ楽しくはないでしょう。一日中レジ打ってるんですから。向いてると思いますけど、接客。
だけど新入社員の教育をなぜ君が……君、派遣でしょ?
ストレスで帯状疱疹になったことを嬉しそうに語るのをやめろ。
努力は認めます。

……ところで、最近何かつくってますか?
僕は君の作品の大ファンなんです。
例えば君は絵が得意だし……漫画とか、どうですか?
立体は?廃棄のダンボール、発泡スチロール、派遣先にいくらでも転がってますよね。
じゃあいっそ旅にでも出ますか?
10年遅い気もするけど、自転車に乗って。
素敵な出会いがあるかもしれないでしょ?
またつくりたいものに出会えるかもしれないでしょ?そのままどこかの土地で暮らすことになっても僕は大丈夫。大歓迎です。

……なんでなにもしないんですか?

そろそろ何か見せてくださいよ。
何のために正社員の誘い、断ったんだよ。

それとも……覚悟を決めましたか?

29歳の君へ

お元気ですか?もう元気ですよね。

待ってましたよ。

もう言っちゃいましょうよ。よくないですよ、自分を騙し続けるの。

一緒に言いますから。ほら、ポロポロ泣きながらこの手紙を書いてる、僕自身も一緒に。


ああ、今になって手放した夢が愛おしい。

投げた、忘れた、捨てた、はずだった。

嘘だった。こんなもん全部嘘だ。

音楽、音楽、音楽。

音楽音楽音楽!音楽音楽音楽音楽!!!


音楽がやりたい。

俺は、音楽を、やりたいんです。


よく言えました。

かっこいいと思います。

もう、大丈夫ですね。


30歳の君、そして僕へ

俺、本当にもう一度音楽やっていいのかな。
不安でしかたがない。
僕よ、もう少しだけ隣にいてくれないか。
………そうか。

もう行くよ。
仲間ができたんだ。
「お前の音が必要だ」って。初めて言われた。
いいやつらなんだよ。曲者揃いだけどな。
ああ、寂しいなあ。一緒に行こうよ、どこまでも一緒に。
弱さは置いていけって?……そんなこと言うなよ。俺だって弱いんだよ。不安で不安でしかたがないんだよ。
……また君のようになってしまうかもしれないじゃないかっ!!

そうか。だから置いていくんだ。
わかった。

俺、頑張るから。
これだけ約束してくれ。
また心から音楽を楽しめたとき、一緒に酒を飲もう。

じゃあ行くね。さよなら。

39歳の、俺へ

手紙、届きましたか?全部読みました?
じゃあわかってるよな。

乾杯

敬具

2018年1月吉日


大山純さんから新成人を迎える皆さんへ

成人おめでとうございます。

いったい何がめでたいのか、まだピンとはこないかもしれません。

自分はもうすぐ40歳になる男です。

人は長く生きれば生きた分だけ、人の生死に関わることが増えます。

病死、事故死、自殺。親族、友人、同僚。

多くの死に直面します。

そして逆に、たくさんの生にも立ち会います。

友人同僚の結婚・出産。甥っ子、姪っ子の誕生。自分には子どもはいないけど、小さな子ども達を見ているとなんて儚く脆い存在なんだろうと思います。そして同時に命とは、なんて愛しく尊いのだろう、と思うのです。

とにかく皆さんは20年生きた。

成人おめでとうございます。


「立派な大人になってください」なんて言われることでしょう。

でも自分の周りには立派な大人なんてほとんどいませんよ。

いるには、います。それは両親です。

そう、今思えば、自分はとても恵まれた環境で生きてきました。自分の道を自分で選べる立場にいたことも、理由のひとつです。


皆さんへのメッセージは手紙に込めたつもりです。

少しだけ補足すると、努力はとても大事なことですし、時には無茶が必要な場合もあるでしょう。ですが、頑張るときは心に少しだけ逃げ道をつくってください。

何か間違えたとしても、世界は滅んだりしませんから。


最後に、皆さんお元気で。ライブハウスで会いましょう。

■ストレイテナー オフィシャルサイト

http://www.straightener.net/

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https://tenamoba.jp/

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大山 純(おおやま じゅん)

大山 純(おおやま じゅん)

1978年5月11日生まれ。
2002年ART-SCHOOLのギターとしてメジャーデビュー。
同バンドを2003年12月に脱退。
2008年ストレイテナーに加入。
大舞台をおおいに沸かせる屈指のLIVEバンドのギタリストとして、日本のロックシーンで独自の存在感を放つ。

Twitter:OJ_Japan