育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道 Step2:メルヘンハウスと義父の壁

2018/03/09 UPDATE

2児の母親として育児に奮闘する姿がTwitterで多くの女性から共感を集める「よく眠りたまに色々考える主婦」さん。甘木サカヱさんと名を改めて、ライターとしてアイスムにご登場くださいました!
旦那さまのご両親と二世帯同居されている甘木さんですが、その生活は協議の上、さまざまな紆余曲折を経て始まったのだとか。

オモチャや紙おむつの散乱する床、たためない洗濯物の山。
そんなワンオペ育児の限界を迎えた甘木さんは、藁をもつかむ思いで義実家へ通い、育児を手伝ってもらうことに。そんなある日、義母から「いつか介護のために同居するならいっそ早いうちから同居する?」と提案され二世帯同居のための物件探しの旅がはじまったのでした……

初めての物件見学…謎のメルヘンハウス

(……なぜ私は、こんな高級車の後部座席で揺られているのだろうか)
確か私はさっきまで、義母と一緒に、息子を近所の公園まで連れて行きがてらの散歩の途中だったはずです。平凡な主婦のルーティンがいつの間にか、軽快なノリの義母とともに、通りすがりの不動産屋で出会った陽気な社長自らの肝いりで建てたという、新築5LDK一戸建ての物件見学に向かっているのです。
二世帯同居の話も、まだ具体的には持ちあがっていないのに……
社用車と呼ぶには無理がある高級車の座席でスプリングの効きをお尻で実感しながら、私はまだ、この怒涛の現実を受け入れきれていませんでした。
そんな主婦の困惑をよそに、運転席の社長と歓談する助手席の義母。社交的な義母はまだ車に乗り込んで5分ほどしか経っていないのに、社長の懐にグイグイ踏み込み、既に家族構成と奥様の趣味まで聞き出しています。コミュニケーション能力の鬼か。

「さあ着きました!どうぞじっくりご覧ください」
社長の声で我に返ると目的の新築一戸建てに到着していました。
レンガ風の外壁に、エクステリアはアーチ状のデザインを多用した、なんとも華やかな見た目のその家。
第一印象はそう、一言で表すならば「メルヘンの国の小さなお城」
この時点で、「長く使うものほど平凡なデザインが良い。平凡とはつまり、多くの人が最も飽きのこないデザインだから」が信条の主婦の脳裏に赤信号が灯りサイレンが鳴り響きます。
「若い主婦の方にも気に入ってもらえるように、細部までこだわったんですよ!」
自信満々な様子の社長に促されて室内に入ると、視界に飛び込んできたのは……

白とピンク色の二色使いのキッチン。
ログハウス風の模様が印刷された壁紙。
木製のドアにカントリー風のステンシルが施された収納。
主婦の脳内に浮かぶ「高原の原宿・清里」のフレーズ。

そこはまさに、中高年男性の「女の子ってこういうのが好きなんでしょ」という偏った思い込み(失礼)を詰め込んだ、実にメルヘンで昭和な世界でした。

社長こだわりのお城に対して意見する勇気がない主婦は、「そうですねーいいですねー」と生返事をしながら脂汗をかいていました。根っからモッタリとした性格の私は、服一枚買うのにも店員さんのお勧めを断るのに大変な気苦労をするのです。助けを求めてちらりと義母を見やれば、主婦と同じく気まずそうな表情を浮かべています。
そう、幸いなことに義母と私は、性格こそ正反対であれど、インテリアの趣味については決してかけ離れてはいなかったのです。
生返事しかできない主婦をよそに義母は「とっても素敵だけど、ちょっとこんなお婆さんが住むには可愛すぎるわ。同居が決まったらまたご相談しますね」と、相手のセンスを尊重しつつ自分の意志もはっきり伝えてくれました。義母のことをこんなに頼もしく思ったことはありません。
(力が欲しい……コミュニケーション能力が……もしくは義母に言いにくいこと全部代弁してほしい……)
そう切実に願う主婦を乗せて、高級車は帰途に就くのでした。

ほだされて義父、流されるままに旦那

不調に終わったとはいえ、この日の物件見学は、同居へ向けた初めての具体的アクションとなりました。
人間、不思議なもので、実際に動き出すまでは、あれこれとできない理由を見つけて物事が進まないものですが、一度弾みがつくと、とんとん拍子に話が進んだりしますね。
この日を境にすっかり二世帯同居生活への弾みがついた義母と、まだ不安の方が多いものの、(たとえそれが昭和のメルヘンハウスだったとしても)具体的に物件を目にしたことで、新しい生活へ心が大きく揺らいだ主婦。
タッグを組んだ義母と私が次に乗り越えるべき壁、それは他でもない、家族の中で最年長、もうすぐ70代を迎える義父の存在でした。

義父は、はじめのころ、同居には気が進まない様子でした。
義母や私が物件見学の話をし、「今度一緒に他の家を見に行きましょう」と誘っても生返事。
確かに、義父母が当時住んでいたマンション(持ち家)は、小型の3LDKとファミリー向けにはやや手狭ながら、駅からもほど近く便利な立地。30年近く住み続けた大型マンションには義父母の友人知人がたくさん居ました。どこか他の土地に引っ越すというのは、地域に根差した趣味のサークル活動などにも積極的に参加していた義父にとって、まるで自分が今まで築き上げてきたものを根こそぎ奪われるような感覚があったに違いありません。
義父母の生活環境を変えずにすむよう、私たち若夫婦が同じマンションの空き部屋を購入することも検討しました。
しかし、義父母が購入した時、荒涼としたススキ野原ばかりだったというそのマンション周辺の土地は、すぐ近くにJRの駅ができると、大型マンションやショッピングモールが次々と建てられ、地価はうなぎ上り。築年数の古いマンションにもかかわらず、とても私たち薄給の夫婦に手が出るようなお値段ではなくなっていました。
そういう訳で、一緒に住むにはどうしても、もっと地価の安い、どこか他の土地を探す必要があったのです。

私自身、義父と同じくあまり変化を好む方ではないので、引っ越しを渋る気持ちも少しはわかる気がしました。
(そうですよね、そう簡単に決められないですよね……)と同意する主婦の横で、「でも、もっと歳とったら、もっと環境の変化に対応できなくなるわよ!」「サークルだっていつでも車で来られるじゃない!毎週通えばいいのよ!」「子育て手伝って欲しいって言われるうちが華よ!そのうち弱ってお世話されるようになってから同居じゃ辛いわよ!」とどんどん義父を追い詰めるのはそう、ナチュラルボーンウルトラポジティブせっかち、泳ぎを止めたら死ぬ回遊魚、更に百獣の王の風格を漂わせるウーマンこと、義母です。

長年連れ添った義母による、連日の猛攻に大きく気持ちを揺さぶられる様子を見せるも、なかなか首を縦に振らない義父。ついに義母がしびれを切らして、「何が一番問題なの?」と問い詰めたところ、義父の答えはこうでした。
「息子から正式に同居の申し込みがないと、うんとは言えない」


……
忘れてたー!!!(嫁姑の心の声)

そう、義父母の息子であり、主婦の伴侶であるところの、旦那(30代後半)です。
旦那は仕事が多忙で帰宅はほとんど深夜。休日も少なく、妻である私もなかなかじっくりコミュニケーションをとる時間がありません。
無口かつ表情に乏しく、よく言えばおっとり穏やか、悪く言えば何を考えているのかわからない永遠の理系男子。
ものにこだわらない性質で、私が何か相談した時に反論することは滅多になく、妻にも両親にも、声を荒げたりすることもありません。

そんな旦那なので、なし崩し的に同居の同意があるものだと決めてかかっていた義母と私。
さすがに反省して、改めて旦那に、同居について、新しく家を買うことについてどう思っているのかを聞いてみました。はたして旦那の答えは……

「うん、いいよ」

以上です。
うん、いいよ。5文字。
念のため言っておきますが私は当時専業主婦で資産などもちろん無く、家を購入するならローンを組むことになるのは会社員である旦那です。
これからの一生を左右する、人生で一番大きな買い物をしようとする時にも5文字。
そんな旦那が、改めて義父に同居を申し込み……ようやくしっかりと頷く義父。
果たしてその時の申し込みは何文字だったのか、残念なことに、私は同席していないので知りません。20文字くらいでしょうか。


こうしてやっと家族全員の合意が形成され、同居へと大きく舵を切った我が家。
この後、終の棲家となる家探しが始まります。それは予想を大きく上回る、驚きと困惑の連続だったのです……

(第三回へ続く)

つかさちずる

イラスト・つかさちずる

娘との日々をブログ「むすメモ!」に綴ったりLINEスタンプを作ったりしている絵描き。
回転寿司とゲームをこよなく愛するアラサー。
毎週金曜日にブログに四コマを掲載してます~遊びにきてね!

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