〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第8回 異世界にトリップしたいとき~ 先攻:加藤よしき「LUCY(’14年)」

2018/05/08 UPDATE

■1 リュック・ベッソン ~フランス映画界の鬼っ子~

お元気ですか、加藤よしきです。この頃はすっかり風も暖かくなり、旅行に出るにはもってこいの季節です。普段の生活を離れ、どこか遠くへ出かける。自分は何処にいてもいいと自由を実感できる。目的地は何処であれ、旅とは素敵なものです。そんなわけで今回のお題は「異世界トリップ」。トリップと聞けば、これはもう『LUCY/ルーシー(‘14)』しかありません。違法な薬をキメて作ったようなトリップ・ムービーであり、現代最強の映画監督の1人、リュック・ベッソンが手掛けた傑作です。

(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

『LUCY/ルーシー』2014/フランス/89分
Blu-ray:1,886円+税/DVD:1,429円+税 発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント(2018年3月時点の情報です)
監督/脚本:リュック・ベッソン
視聴可能サイト:Amazonビデオ

さて、本題に入るまでにリュック・ベッソンという男について、改めて説明しておきましょう。彼はゼロ年代にはプロデューサー業を中心としており、映画監督としてはあまり目立った活躍はしていません。今、「ベッソンって誰よ?」となった人も多い事でしょう。彼がどういう男であるか?なぜ最強の映画監督の1人と言えるのか?その理由を知るために話を30年前に戻しましょう。

1988年、カンヌ国際映画祭で一本のフランス映画が公開され、批評家から酷評されました。ところが、これが実際に公開されると若者たちから熱烈な支持を受け、記録的な大ヒットとなります。ベッソン最初の代表作『グラン・ブルー(’88)』です。まだインターネットも盛んでなかった時代に批評家の酷評を跳ねのけ、本当の意味での口コミで社会現象になるまでヒットするなんて、奇跡と言っていいでしょう。その後ベッソンは『ニキータ(’90)』、『レオン(’94)』とヒット作を立て続けに発表するのですが……今、このタイトルを聞いてピンときた方もいるでしょう。ニキータにレオン、どちらも同名の雑誌が存在します。勿論、元ネタは映画の方ですから、言うなれば「チョイ悪オヤジ」「ジローラモ」と言った概念もベッソンがいなければ存在しなかったのです。彼の功績はジローラモを生み出しただけではありません。続く『フィフス・エレメント(’97)』では裸に白い帯をまきつけただけの衣装をミラ・ジョヴォヴィッチに着せて全世界の度肝を抜き、その翌年に我が国でもT.M.Revolutionが『HOT LIMIT(’98)であの衣装を披露。タイム・ラグから考えると『HOT LIMITにベッソンの影響があったのは間違いありません。これだけでも彼の偉大さは伝わったと思いますが、その後もプロデューサーとして『トランスポーター(’02)』でジェイソン・ステイサムを、『96時間(’09)』でリーアム・ニーソンをアクション・スターとしてブレイクさせました。監督/プロデューサー、アート映画/ジャンル映画、メイン/サブカルチャー、ジローラモ/T.M.Revolution、こういった境目をベッソンは軽々と超えてしまうのです。今回ご紹介する『LUCY/ルーシー』では、そんなベッソンの自由な心が爆発しています。自由すぎて粗筋を書くのが難しいくらいです。

■2 ついてこれるか!?驚愕のベッソン・トリップ!

A)スカヨハ覚醒!『LUCY』は脳にいいんですよ!

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スカーレット・ヨハンソン演じる女性ルーシーは、ひょんなことから大量の覚醒剤を腹部に埋め込まれてしまいます。さらに不幸な偶然が重なり、覚せい剤の入った袋が体内で爆裂、体内に溶け出してしまうのです。普通の人間なら死にますが、これによって彼女は脳ミソが文字通り覚醒し、その影響で超人的な力を手に入れます。いいえ、正確に言うと超人的な力が引き出されていくのです。この映画が特殊なのは、脳ミソの覚醒が止まらず、スカヨハの能力がパワーアップを続けていく点です。映画は最初から最後まで「〇〇%」と、現在のスカヨハの脳ミソの覚醒度が表示されるのですが、これが高まるにつれてスカヨハの能力も大変なことになっていきます。この映画が特殊なのは、その「能力が大変なことになっていく」様を映像で見せてくれる点です。


B)目の前の現実を受け入れて!本当にこういう映画なんです!

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覚醒直後からスカヨハの身体能力は一気に上昇します。チンピラを瞬殺し、銃を撃てば百発百中。これだけでも普通のヒーロー・レベルではあるのですが、そこから更に能力はレベル・アップ。脳ミソが20%になると街路樹に流れる“気”が見え、変身能力まで身につき、手を触れずに物を動かせるようになります。このレベルまではこうして文字で説明しても何となく映像がイメージできると思うのですが、問題はここからです。序盤こそアクション映画の範疇に収まっていたのですが、スカヨハの脳ミソ覚醒度が30%を超えた辺りから、映画はジャンル分け不能なステ-ジへ進み、言葉で伝えられない領域へ入っていきます。スカヨハは全世界の電話を素手で盗聴し、体が次世代コンピューターになり、手動で時を巻き戻し、原始人と触れ合います。その間に韓国マフィアが襲撃してきたり、なりゆきで協力することになった脳科学者のモーガン・フリーマンがずっと得意の重厚ビックリ顔をしていたり……たぶん言ってることが全く伝わっていないと思うのですが、本当にこうなるんです。信じてください。


C)超展開だけど何気に丁寧!おもてなし心のカルト・ムービー!

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もちろん、こうした不思議な映画は過去にもありました。古くは『2001年宇宙の旅(’68)』や『ホーリー・マウンテン(’73)』、あるいは『ツリー・オブ・ライフ(’11)』などなど、難解かつ幻想的な、いわゆるカルト映画と呼ばれるジャンルです。ただ、これらの映画は最初から“そういう映画”として始まります。しかし『LUCY』はサスペンス/アクション映画で始まって、途中からカルト映画になるので「何が起きてんだ?」感が強いのです。段階を追って変な方向に向かっていくというか、観客の脳ミソもスカヨハ同様に覚醒していくと言いますか。ついでに触れておきますと、先に書いたような幻想的なシーンとバズーカを持ち出しての銃撃戦が同時進行で描かれるのも混乱に拍車をかけます。スカヨハが次元を超えて人類の起源に迫る傍らで、マフィアとフランス警察が銃撃戦を繰り広げている。こんなシーンをいったいどんな気持ちで見ればいいのでしょうか?きっと正しい答えはありません。しかし、「何か分からないけど、凄いことが起きている!」と思うのは確実です。アクション映画を見ていたはずが、いつの間にか人類の種の起源を辿る映画を見ていた……もし映画鑑賞を旅に例えるなら、これほど「思えば遠くへ来たもんだ」な旅もありません。まさに映画の境目を飛び越えてきたベッソンの真骨頂です。

■3 さあ君も、映画の世界へ飛び込もう!

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『LUCY』は狂った物語を狂った映像で綴る映画です。しかし、物語の語り手は、ちゃんと段階を踏んだ上で、こちらの頭を狂わせてくれます。普通のアクション映画からカルト映画へ。そしてスカヨハを通じて「我々は何処から来て何処へ行くのか?」という命題を辿る旅へ……。もちろんワケが分からんと思う人も多いでしょうし、幻想的なシーンが連発するので、爆睡する人もいるでしょう。基本的にこちらのコーナーでは万人にオススメできる映画を選んでいるつもりですが、『LUCY』ばかりは若干言葉を濁さざるを得ません(我ながら作品チョイス時点での勇み足は否めません)。しかし、ハマる人には間違いなくハマる映画です。貴方がアクション映画好きか、スカヨハ好きか、あるいは明後日の方向に爆走する映画が好きなら、きっとこの映画は至福の旅になることでしょう。今からもう身も蓋もないことを書きます。この映画は確実に文字で書かれた記事を読むより、実際に映像を見た方が色々と話が早いです。89分間、暴走するストーリーと怒涛のビジュアルで、良い旅になるか悪い旅になるかは別として、トリップできることは保証します。もし観ようかどうか迷っているなら、是非とも手を出してください。

投稿者名

加藤よしき

兼業ライター。昼は会社で鬱々と過ごし、夜はお家で運動会。映画秘宝、リアルサウンドなどで通り魔的に映画関係の記事を書いています。
twitter:@DAITOTETSUGEN
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