〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第9回 雨の季節に観たい一本~ 後攻:カワウソ祭「雨に唄えば(’52年)」

2018/06/20 UPDATE

■1 ド直球にド名作を見る

後攻のカワウソ祭です!!!!今年も日本中に長雨の季節が到来しております。
季節に合わせて、テーマもズバリ「雨の季節に観たい一本」。先攻では、イケメンは水につけると更にイケメンになるという真理に基づき『アジョシ(’10年)』が紹介され、かつ数々の水浸し映画が列挙されていました。そう。そうなんですよ。イケメンは水につけるべし。『ブレード・ランナー(’82年)』ではハリソン・フォードがずっとビショビショ、新作でもライアン・ゴズリングがビショビショ、『ショーシャンクの空に(’94年)』なんかジャケットからして相当な雨に打たれています。
後攻ではどのビショビショ映画を紹介しようかな、と考えたときに「一番有名どころだと、そのまま『雨に唄えば(’52年)』かな。あれっ?!そういえばちゃんと観たことないぞ」と思い当たりました。

©  1952 Turner Entertainment Co. All rights reserved.© 1952 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

『雨に唄えば』
ブルーレイ製作60周年記念リマスター版 ¥2,381+税/DVD 1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
©  1952 Turner Entertainment Co. All rights reserved.     
 

映画コラムを書いてはいるものの、カワウソはただの映画好きなので、基本の「キ」の部分が弱いのです。ジーン・ケリーが幸せそうに街灯に飛び乗って歌う有名な「例のシーン」にのみ見覚えがあり、『時計じかけのオレンジ(’72年)』で主人公のアレックス達が「Singin' in the Rain」を歌いながらイキイキと暴行を働く最悪なパロディから、『ラ・ラ・ランド(’16年)』でのオマージュのシーンまで、一応ネタ元が分かるだけ。このお題を良い機会と捉え、ド直球なド名作の観賞とご紹介に挑みます。

■2 まっさらなアホの目で超絶技巧に見とれよう

本作の舞台は1920年代のハリウッド。モノクロで無声だった映画界に革命が起こり、音声付きの「トーキー」映画が主流になろうという時期のお話です。
大女優リナ・ラモント(ジーン・ヘイゲン)の相手役として、ハリウッド無声映画の人気スターとなったドン・ロックウッド(ジーン・ケリー)。彼はスクリーンの外でもリナとの熱愛を装っていましたが、実際は横柄でキーキー声の彼女に辟易していました。
そんなある日、偶然知り合った負けん気の強いコーラス・ガールのキャシー(デビー・レイノルズ)に、ドンは心を奪われます。時を同じくして、『ジャズ・シンガー』の大ヒットにより、ハリウッドはトーキー映画への転換期を迎えます。ドンとリナの新作も急遽トーキーに変更を試みますが、製作陣にはノウハウが足りず、またリナの悪声に頭を抱えてしまいます。しかし、ドンと下積み時代からの相棒コズモ(ドナルド・オコナー)は、新作をミュージカルに作り変え、キャシーがリナのパートを吹き替えるという名案を打ち出し……。

恋の発生→別軸で問題が起こる→解決策を見出す→障害が発生する→恋も仕事も何とかなる!という、口をぽかんと開けてアホみたいに観ていても、決して振り落とされない軽やかなストーリー。ハリウッド映画の変遷と製作者の混乱や奮闘をなぞる「映画マン映画」としても楽しめます。
なにせ超有名作なので、掘り起こせば無数に面白いエピソードが登場するのですが、今回は2018年にミュージカル素人の目でこの映画を初めて観たというところが肝です。カワウソは「ヤッバ」「やば…」と繰り返すアホになり、終始画面に釘付けになってしまいました。何がヤバいって、主演のドン、コズモ、キャシーの3人が3人とも信じられないぐらい踊る。画面には基本的にセットがあるだけで、そこで生身の人間がものすごい技術と(おそらく)半端ない根性の力技で見どころを作る。とにかく人間が全部やってる。ヤバい。ヤバいとしか言いようがない肉体芸映画なんです。100分ほどの作品ですが、体感では3時間分くらいのボリュームがあり、どちらかというとステージ観賞に近い感覚を覚えました。世界で何度も舞台化されているのも頷けます。

■3 ヤバい、ヤバすぎるシーンの連続

Make 'Em LaughMake 'Em Laugh

Good MorningGood Morning

ヤバいヤバいの連呼でコラムが終わると大変なので、もう少し突っ込んで見所をご紹介します。大きなポイントとしては、本作の山場は決して「例のシーン」だけではなかったということです。曲目のひとつひとつが明るく、美しく、洗練されています。中でも気に入ったのが下記のシーン。

⒈「Make 'Em Laugh」
ドンのボードビリアン(ステージ芸人)時代からの相棒、コズモがピアノを弾きながら歌い、縦横無尽に駆け回って度を越したひょうきんな動きを披露する曲目。
コズモを演じるドナルド・オコーナーの、走る、ぶつかる、ひっくり返る、笑う、歌う、宙返りするといった目まぐるしく軽やかな動きは、ディズニー映画のアニメキャラクターのようです。しかし、むしろアニメーションの方が、こうしたボードビリアンのパフォーマンスをトレスして作られたのかもしれません。ボードビリアン時代の回想シーンで、くだらない出し物にブーイングを受ける「Fit as a Fiddle」という曲目でも、時間にして1分半で強烈な肉体芸を見せつけられ、いや絶対こんなもん大ウケするやろという違和感を醸しています。

⒉「Good Morning」
ドン、コズモ、キャシーが新作映画を救う素晴らしいアイデアにたどり着き、笑顔でユーモラスな歌とタップを披露する曲目。外は雨で時間は深夜ですが、心は晴れて夜明けを迎えた爽やかな場面です。とはいえ、観ているうちに「あれ?これワンカット?ということは、死ぬほど撮り直したのでは……」という謎の不安が襲ってくるシーンでもあります。
調べてみると、コズモ役のドナルド・オコーナーは1歳でステージデビューという“ガチ”なボードビリアン。ドンことジーン・ケリーはダンサーとダンス講師を経て、映画監督・脚本・振り付けもこなす天才。この2人に挟まれて、ニコニコしながら歌い踊るキャシー役のデビー・レイノルズは、当時ダンスの経験がほぼなかったのだそう。えらい。えらすぎる。どんな地獄を乗り越えてこの軽やかなステップを手に入れたのか、想像するだけで倒れそうです。

他にも、サイケな彩りのセットと衣装、これでもか!と詰め込まれたジーン・ケリーのダイナミックなダンスを堪能できる「Broadway Ballet」なども印象的でした。10mくらいあるスカーフをはためかせながら踊るというヤバい……いや、幻想的なシーンなど、ひとつひとつの演出に胸が熱くなります。

■4 恋してるだけじゃない。胸のすくような仕事映画

更に印象的だったのは「例のシーン」。ハミングから始まり「Singin' in the Rain」を歌いながら気持ちよさそうに雨に濡れ、踊る名シーンです。『雨に唄えば』をちゃんと通してみると、このシーンについて、勝手に「恋に浮かれてるんだろうな」と思い込んでいたことに気づきました。実際にこの映画は「スターと新人女優のロマンス」と紹介されもしますが、恋愛描写に終始する訳ではありません。ドンとキャシーの恋の行方を描くシーンは序盤に集約され、後半は新作のトーキー映画をミュージカルに仕立てていくまでのアイデア出しと実践が描かれます。どちらかというと「夢の工場」ハリウッドで働く映画マンの仕事映画としての魅力の方が強いのです。
では実際のところ、なぜドンは雨の中で歌い踊ったのかというと、恋の成就の予感とともに、新しい創作に関する素晴らしいアイデアを得たから。行き詰まっていた問題に突破口を見出し、晴ればれとした心には雨も憂鬱ではなく、迎えの車も帰し、鼻歌を唄って、傘も閉じて振り回し、しまいには街灯に飛び乗り腕を広げて歌う……そんな気持ちのいい瞬間が「例のシーン」だったのです。
いやぁ〜、映画って本当に素晴らしいものですね!

今回は意外と観ていなかった名作について取り上げましたが、皆さんにもそんな作品があるのではないでしょうか。有名なシーンは目に浮かぶのに『ローマの休日』の全体を通して観たことがないとか、ドアの割れ目から弾ける笑顔を覗かせる『シャイニング』のお父さんのビジュアルだけ知ってる……などなど。
それなら、チャンスですよ!梅雨どきは引きこもって映画を観まくるのにうってつけです。「名作は名作だから名作なのだ」というアホみたいな真理に触れる「ド名作観賞」の入り口として、心からオススメできる1本です。

投稿者名

カワウソ祭

山から降りて里にまぎれ、人に化けて暮らすカワウソ。
Twitterをやる傍ら社会人として働き、酒を飲んで楽しく暮らしている。友達と同人誌を作ったり、飲み屋に立ったりと工夫して遊ぶのが好き。
最近結婚したのでまっすぐ家に帰り、夫婦で永遠に映画を見ている。
Twitter:@otter_fes