育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道 Step14: 断捨離って簡単に言うけどね…?

2018/09/04 UPDATE

義父母との三世代同居のため、中古一戸建てを購入した甘木一家。懸案だった義父母のマンションの売却先も決まり、新居への入居まであと半年。いよいよ本格的に引っ越しの準備へと動き出します!

「捨てる重みは歴史の重み」

中古一戸建ての購入、そして義父母の持ち家マンションの売却と、大きな二つの懸案がようやく片付き、私たち夫婦と義父母はようやくほっと息をつきました。あとは引っ越しに向け準備を進めるだけ……!そう思っていたのですが、そこは課題が次から次へと立ちはだかる二世帯同居。そう一筋縄ではいきません。
騒動の発端は、そもそも引っ越す予定の家の義父母用の居住スペースに、現在の義父母が住むマンションにある家財道具が到底入りきらない、ということが判明したことです。いや、判明したもなにも、床面積からして明らかに今までのマンションよりは狭いのですから当然のことです。
義父母の私室となるのは和室が2部屋に加え、義父の書斎兼納戸が1部屋、それに加えて1階の共有リビングルームの家具も、ほとんど義父母の家から持ってくるものにするという条件。(これについては12話で甘木がしみじみと愚痴っております。)
二世帯完全同居という条件の中での老夫婦のスペースとしては、決して狭すぎる面積ではないはずです。
しかしそれでも、どうしても家財道具を減らさなければならない義父母。夫婦間の話し合いは難航し、しばしば夫婦喧嘩で険悪なムードを漂わせます。聞けばどうやら、断捨離で捨てるモノの区別について、夫婦間で大いに意見の食い違いがあるようなのです。
思い切りの良い性格の義母は、もう使わないと分かっているものはすっぱり捨てましょう、というスタンス。それに反して義父は、大切なものだから使わなくても捨てられない、という意見です。
義父が処分を渋るものの一部を例に挙げると…
・売却するマンションの管理組合で役員をしていた頃(約5年前)の紙の資料一式(自治会で配ったお知らせの手紙や議事録など。当然今の役員にはデータで引き継がれている内容。きちんとファイルに綴じて戸棚一段分)・VHSのビデオデッキと大量のビデオテープ(家族の記録などではなく、テレビ番組を録画したものなど)・現役時代に着ていた、すでにサイズの合わない背広たち・海外旅行用の巨大なトランクをサイズ違いでいくつも・使い勝手が悪くて机として使ったことのないライティングデスク(ほとんどデッドスペース)・数十年前に結婚式の引き出物としてもらった食器(未使用)
・古いペルシャ絨毯

などなど、枚挙にいとまがありません。
几帳面な性格の義父は、何でもテプラでラベルを作ってきれいにラベリングし並べておくのが好きらしく、大量の資料ファイルもビデオテープも、確かに一見大切な家財に見えますが、その実、新居では絶対に使わないことが明らかです。義父もそれはわかっているはずなのですが、自分が手間をかけて整理整頓した資料たちを、邪魔だ捨てろと言われると意固地になっていた面もあるのだろうと思います。また、同居に最初から乗り気とは言えず、義母に説得されてようやく了承した義父としては、自分の築いてきた歴史を無理やり捨てさせられるような危機感があったことも想像に難くありません。

とにかく捨てたい義母 VS 絶対に捨てたくない義父の対決をはらはらしながら(そしてもちろん内心義母を応援しながら)見守っていた私たち息子夫婦ですが、義父母の話し合いは、私たちの予想の斜め上の結論に達することになるのです…!

「捨てない、でも家にも置かない」

「おじいちゃん(義父)がどうしてもいろいろ捨てたくないって言うから、考えたんだけど…」
そう義母から切り出された時、私の脳裏には様々な選択肢が浮かびました。

予定よりもう一部屋多く、義父母のスペースにするように言われるか。
子世帯用の部屋に義父の荷物を置くよう頼まれるか。
あるいは庭に物置小屋でも建てようと提案されるか。

しかし、義父母の出した答えは、そのどれとも異なっていました。

「トランクルームを借りようと思うの!」
「…えっ?」
トランクルーム。ご存じない方はあまりいらっしゃらないでしょうが、空き地に巨大な
コンテナを積み重ねた、季節ものの衣類やかさばる家財などを収納するための貸し倉庫です。

「トランクルーム借りて、なにを置くんですか?」
「おじいちゃんが捨てたくないモノとか、私も捨てるにはちょっと惜しいかなっていうモノをどんどんそこに放り込んでいこうと思うの」
「でも毎月お金がかかるんですよね…?」
「1万円ちょっとかかるけど、捨ててもいいって思えるまでそこに置いておこうと思うの。毎月お金がかかると思うと捨てる踏ん切りもつくでしょう?」

その発想はなかった。

自ら家計に毎月負担をかけることで、本当に必要なものをふるいにかけさせる…
かつてこれほどスパルタな断捨離があったでしょうか。

義父母が本気かどうか、ちょっとだけ疑っていたのですが、その後二人はすぐに新居の近くにトランクルームを借り、せっせと不用品…いや、思い出の品を自宅マンションから運び込んでいました。
そのトランンクルームは、義父の断腸の思いによる断捨離で少しずつ内容物を減らし、引っ越しから半年ほど経ったある日、ついに空っぽになり契約を解除する日を迎えることができました。
そうして上に挙げた、義父の不用品はみんな処分された…と思うじゃないですか。普通そう思うじゃないですか。残念ながら、二世帯同居、そう上手いことはいかないのです。
まず誤算だったのが、トランクルームの意外な狭さでした。ライティングデスクなんて運び込めばそれだけで一杯になってしまいます。家具や、大きな旅行用スーツケースは結局収納しきることはできませんでした。
さらに、トランクルームという一時避難所ができた事により、義父の中で「とりあえず何も捨てなくても済む」という安心感が産まれたらしく、本来なら捨てるはずだったモノたちまでどんどん運び込まれ保管されることになりました。
結果として、引っ越しから10年以上が過ぎた今現在、上に挙げた義父の不用品のうちどれだけが我が家に残っているかというと…

ほとんど全て残っています。

いや、引き出物の食器や古い絨毯は処分しました。それ以外のすべてが、今、この瞬間も我が家の容積を圧迫し続けています。
VHSのビデオはこの10年、一度も再生されていないし、古いマンションの資料など一度も開かれていないのは言うまでもありません。
背広など比較的かさばらないものは、隙を見て義母がこっそり少しずつ処分してくれているのですが、それも焼け石に水。
これから一切使う予定のないものたちは、今日もぎっしりと義父の書斎を埋め尽くしています。

余談ですが、このコラムを書くことが決まった際、10年も前のことなので私の記憶もあいまいな部分があり、義父母に当時のマンション売却についてなど、色々とインタビューしました。
ざっくりとした経緯だけ聞ければよかったのですが、義父が何やらいそいそと、書斎から古いファイルを抱えてきます。開いてみればそれは、義父母のマンション売却当時の新聞折り込みの物件チラシや、不動産各社の担当者の名刺、更にはマンション購入時、つまり40年近く前の物件パンフレットまでがきれいに整頓されていました。
得意満面で資料を指し示しながら、当時の状況を詳しく説明してくれる義父。
皮肉なことに、同居までの経緯をつづるこのコラムの取材に、義父の几帳面に整理された資料ファイルが、初めて陽の目を見ることになったのでした。

長年暮らした住まいの、しかも老夫婦の断捨離は一筋縄ではいかない。
人が暮らす場所を変えるということの難しさをつくづく感じる日々でした。
しかしそんな感傷をよそに、一家の引っ越しの日はどんどん近づいてきます。
次回もぜひ、お楽しみに!

つかさちずる

イラスト・つかさちずる

娘との日々をブログ「むすメモ!」に綴ったりLINEスタンプを作ったりしている絵描き。
回転寿司とゲームをこよなく愛するアラサー。
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