〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第12回 食欲の秋にぴったりな、美味しそうな食事シーンがある~ 後攻:カワウソ祭「カンフー・パンダ(’08年)」

2018/09/25 UPDATE

■1 ご飯を食べるのが好きすぎる私たち

後攻のカワウソ祭です!!!いやー、イイですよね。ご飯。ご飯というか、食べ物。
雑すぎますが、今回のテーマは「美味しそうな食事シーンのある映画」です。これ、咄嗟にジブリ映画がいくつも思い出されるのを避ければ『ルパン三世 カリオストロの城(’79)』のスパゲッティあたりが思い浮かんで、あっまた宮崎駿やんけ……ベタすぎる!とかぶりを振って、とはいえ、料理や食事をそのままテーマに取り上げた『かもめ食堂(’06)』や『しあわせのパン(’07)』、『南極料理人(’09)』も直球すぎる……まして『深夜食堂』や『孤独のグルメ』シリーズなんかの、“メシ漫画”原作ものに触れると収拾がつかなくなるし……と悩んでしまいました。
そこで気づいたのが、“食”がテーマとなると、俄然邦画タイトルが目白押しになってくること。あまり全ての日本人にあてはめるのはよくないですが、日本の人たち、ご飯を食べるのも、食べているのを見るのもメッチャ好きなのでは???
洋画(料理やレストランを主題としない)に登場する食事シーンを思い起こすとマズいものを仕方なく食べるような、楽しくない食事の方が印象的だったりします。では、ご近所の中国、韓国やインドを含めたアジア映画には……結構ある!韓国映画『グエムル-漢江の怪物-(’06)』なんかかなりインパクトの強い食事シーンがあります。先日みんなの度胆を抜き、ハートを奪った『バーフバリ』でも、印象的かつ美味しそうに食事をしています。
そしてそして、中国映画です。中国映画っていうか、香港映画ですよ!香港映画っていうか、カンフー映画!!なぜすぐに思いつかなかったんだろう!!飯のシーンといえばカンフー映画じゃないか!!!
前置きが長くなってスミマセン!!!加藤よしきさんの得意分野に踏み込むのは恐れ多いですが、カワウソはかわいいカンフーアニメ映画『カンフー・パンダ(’08)』から、今回のテーマを掘り下げてみます。

■2 規格外すぎる!異常なまでに豪華な声優陣

Packaging Design (C) 2018 Universal Studios. All Rights Reserved.Packaging Design (C) 2018 Universal Studios. All Rights Reserved.

『カンフー・パンダ』2011/スペイン=アメリカ合作 / 94分
Blu-ray: 1,886 円+税 / DVD: 1,429 円+税 発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
監督:マーク・オズボーン / ジョン・スティーブンソン
視聴可能サイト:Netflix / アマゾンプライムビデオ ほか
※2018年9月の情報です
 

中国のどこかにある美しい「平和の谷」。たくさんの動物たちが暮らすこの谷には「龍の巻物の奥義を得たものが史上最強の“龍の戦士”になる」という伝説がありました。
ある日、刑務所から巻物を狙う極悪カンフー戦士タイ・ランが脱獄。彼に立ち向かうべく“龍の戦士”に選ばれたのは、丸々と太った食いしん坊パンダのポー!
ポーはカンフーの大ファンでも、ただの素人。ウーグウェイ導師、師匠のシーフー老師、憧れのカンフースター“マスター・ファイブ”の力を借りて、厳しい修行を乗り越え、果たしてポーは真の“龍の戦士”となり、平和の谷を守ることができるのか……?

 

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本作は『シュレック』シリーズなど、ユーモラスなアニメ映画を得意とするドリームワークス作品。世界観やストーリー以前に目を引くのは、なにをどうやってキャスティングしたのか、声優陣が異常に豪華なこと。
主人公のポーの声優は、超売れっ子コメディアンのジャック・ブラック!ポーがジャック・ブラック本人に見えてくるほどピッタリです。最近は『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル(’18)』でイキイキと“中身が女子高生のおじさん”を演じていました。
シーフー老師はダスティン・ホフマン。悪役タイ・ランの育ての親であり、『クレイマー、クレイマー(’79)』に続いて子育てに苦戦しています。
“マスター・ファイブ”のリーダー、マスター・タイガーを演じるのはアンジェリーナ・ジョリー。マスター・ヘビをルーシー・リュー!『トゥームレイダー』のララ・クロフトと『チャーリーズ・エンジェル』のアレックス・マンディです!
そして、マスター・モンキーを演じるのはジャッキー・チェン!!!カンフー映画の本家本元が登場するのです。ちなみに、マスター・モンキーの日本語版声優は、ジャッキーの専属吹き替えを担当している石丸博也さんという徹底ぶり。

■3 ジャッキー・チェン映画の食い意地が張った名シーンを再現

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ジャッキー・チェンは言わずと知れた香港映画界の大スター。カンフー映画に笑いを持ち込み、日本でも70〜80年代カンフーブームの火力を一層強めた立役者です。
ブルース・リーを笑ったらボコボコにされそうですが、ジャッキーはとにかくユーモラス。特に『ドランクモンキー 酔拳(’78)』では、無銭飲食を目論むジャッキーが、食堂で山盛りのご馳走をガツガツ……というか、ガバガバ食べるシーンがあります(「お前に食わせるタンメンはねぇ!」の元ネタになった人も出てきます)。この食いっぷりたるや美味しそうというか凄まじく、おそらく後年の「ドラゴンボール」や「ワンピース」といった漫画で見られる“強い主人公ほど大食い”なイメージの礎なんじゃないかな〜と思うのです。

『カンフー・パンダ』のポーも、かつてのジャッキーを思わせる凄まじい食いっぷりで、実家はラーメン屋さんです。カンフー映画と言えば食堂。食堂といえば乱闘。幸い、シリーズを通してポーの実家が破壊されることはありませんが、リスペクトを感じる設定です。
さらに、上手に食とカンフーを結びつけているなかでも、特に素晴らしいのがハシ・ファイト(と勝手に呼んでいる)のシーン。まともな修行ではポンコツなポーが、シーフー老師とお箸で小籠包を取り合ううちに、身体感覚が研ぎ澄まされ、しまいには見事に師匠と張り合うという楽しい展開が見られます。これは『クレージー・モンキー 笑拳(’79)』にそのまんまの修行シーンがあり、ジャッキー・チェンが自ら演技指導をしたのだそう。
ご飯を巡って師匠と取っ組み合うシーンは『カンフーキッド/好小子(’86)』にも登場します。食べたいよ〜!食べさせてよ〜!という、子供でもわかるシンプルさが、実にカンフー映画っぽくて大好きな要素です。
カンフー、カンフーと連呼していますが、カンフーとは武術の名前ではなく「修行」のこと。「カンフー映画」は修行シーンそのものが見せ所なわけですね。

ちなみに、ガバガバ食い本家本元のジャッキーは、後年『ラッシュ・アワー』でアメリカの安テイクアウトの定番、中華ボックスを食べてます。ジャッキーと中華料理の関わりの変化にちょっとグッとくる、味わい深いシーンです。

■4 引き出しがいっぱいの逆引き辞典アニメ

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さて、今回は記事中に引用元や映画タイトルの小ネタをいっぱい詰め込んでみました。
『カンフー・パンダ』は一見すると子供向けの楽しいアニメ映画ですが、無数のエッセンスを組み合わせることで、元ネタを知る人だけが笑える「パロディ」を超え、カンフー映画への愛と尊敬を込めた良質な「オマージュ」へと昇華している作品です。
例えば、特殊な木製の修行マシーンにボコボコにされるシーンは『少林寺木人拳(’77)』。マスターファイブの元ネタは蟷螂拳、蛇拳、猿拳などの流派から。
「龍の戦士の巻物」をめぐるストーリーは、カンフー映画の「虎の巻」でもあるのです。

さらに、作中では中国の思想家の引用が利いています。ウーグウェイ導師が語る名ゼリフ「昨日とは過去のもの。明日とは未知のもの。今日の日はもうけもの。それは天からの贈りもの」も、元はアメリカの歴史家の詩だそうですが、おそらく禅語の「日々是好日」にもかかっています。小さなカマキリやシーフー老師、メタボなパンダが強いという設定も、老子の「柔能く剛を制す」を文字通り体現していてニヤリとさせられます。
現代的なポイントでは「女性の活躍」という視点も欠かせません。マスター・ファイブのうちリーダーを含む2人は女性。『カンフー・パンダ2(’11)』のジェニファー・ユー・ネルソン監督は、『ワンダーウーマン(’17)』が8億2,100万ドルをたたき出すまで、同作で女性監督(単独)による劇場公開作品の歴代第1位をキープしていました。

アニメでも、漫画でも、良質な作品は世界を広げる入り口やきっかけになります。
なんとなく面白いと感じたシーンは心のふせんとなり、いずれ逆引きを行って元ネタに辿り着いたとき、「あの時のアレだ!」と再会の喜びを与えてくれると思います。
こうした質のいい、そして効率もいい映画に囲まれて育つ今の子供たちがうらやましくなります。
過去の傑作を手引きしてくれる現代の名作があるなら、未来にはもっと素晴らしい作品が生まれてくるかも?美味しく愉快なアニメ映画を楽しみながら、そんなことにも思いを馳せてみてほしいです。

投稿者名

カワウソ祭

山から降りて里にまぎれ、人に化けて暮らすカワウソ。
Twitterをやる傍ら社会人として働き、酒を飲んで楽しく暮らしている。友達と同人誌を作ったり、飲み屋に立ったりと工夫して遊ぶのが好き。
最近結婚したのでまっすぐ家に帰り、夫婦で永遠に映画を見ている。
Twitter:@otter_fes