育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道 Step22:「年賀状狂騒曲」

2019/01/07 UPDATE

一戸建ての中古住宅を購入し、義父母との同居を始めた甘木一家。
朝型でパワフルな義母と、体力気力のない鬱病持ちの同居嫁の二人の主婦がいる生活は、ちぐはぐながらも何とか動き出しました。
晩秋に新居に入居した一家は、あっという間にこの家で初めての年末年始を迎えます。


前年のお正月は、まだ乳児の息子を連れて北海道の実家まで里帰りした私でしたが、この年は新居に引っ越したばかり、しかも引っ越しに伴うあれこれで出費もかさんでいます。年末年始の帰省はやめて、新居でゆっくり過ごそう…と心を決めました。

引っ越し前に業者にハウスクリーニングをお願いしたばかりなので、大掃除は必要ありません。年内にするべき事はおせち料理の準備くらいで、あとは荷ほどきを進めればいいや…と、軽く考えていた私に思いがけない仕事が舞い込みました。

義父母の年賀状の作成です。

もともと親世帯の年賀状は、義父が自分のパソコンで、年賀状作成ソフトを使って毎年作っていました。そのパソコンが壊れて、ソフトに登録していた住所録が使えなくなったのだがどうしたらいいだろうか、と相談を受けたのです。
元のデータが失われてしまっているのだから、もう一度届いた年賀状を見てデータを手入力するよりほかありません。
パソコンは新しく購入しましたが、また年賀状ソフトをインストールして住所録を作成しても、他のソフトでは使えないし編集も面倒です。
いい機会なので、住所録をExcelで作成すれば融通が利くし編集もバックアップも簡単ですよ!とお勧めしました。
義父は、定年まで事務系の公務員として勤めあげた後は、再就職して数年間、やはり事務系の管理職についていました。Excelの入力はできますか?と聞くと、そのくらいは大丈夫だよ、と胸を張られたので、私は住所録のひな型だけ作って入力のルールについて説明をし、義父に入力をお願いしたのです。
その決断が、あんなに恐ろしいことになるとは知らずに…

義父に住所録の作成をお願いしてから数十分後、「ちょっとサカヱさん教えてくれる?」と声をかけられます。「ここがどうしてもうまくいかないんだけど…」という義父のパソコン画面を覗き込んだ私は、言葉を失いました。
数字や記号は半角と全角が混じりあいカオスな状態です。連名の列は華麗に無視されて名前欄に複数名の名前が適当に続けて入力され、何より問題なのは、なぜか不自然に結合され無駄に中央ぞろえになっているセル達。「住所を入れたら途中から見えなくなっちゃうから、全部見えるようにした」とは義父の言。そして義父が数十分間奮闘して、入力できた住所の件数はというと、2件です。
ちなみに当時、現役時代の付き合いも多かった義父の出す年賀状は毎年300枚超。義母のものも含めれば400枚ほどになります。

ああ、これは無理だ。
そうそうに悟った私は、「ちょっと時間かかりそうなので、良かったら私が住所録作りますよ!」と申し出ました。
自分でやった方が早い、というのはもちろんですが、何よりも義父の「パソコンが壊れてる!(壊れてません)」「入力したはずなのにいつの間にか消えた!(上書きしたからです)」「どうしてこんなにわかりにくいの!(いやExcel入力できるって言ったじゃないですか)」などの半ば八つ当たり気味の質問をさばきながら、400件超もの入力をサポートするのは、お互いストレスで倒れかねない…と思ったからでもあります。
ちなみに義母はというと「私パソコン全然わからないからお任せするわ!」の一言で華麗にドロップアウトしました。あまりにも鮮やかで一瞬言葉を失いました。

というわけで、私は膨大な数年分の年賀状の束から住所録に登録する作業に追われることとなりました。今ならばスマホカメラで画像認識など、もっと楽な方法がたくさんあると思うのですが、なにぶん十数年前のことで、ちまちまと手入力していくより方法がありません。
数日夜なべしてようやく作り上げた住所録ファイルを義父に見せ、今年喪中で年賀状が出せない人には、この列にチェックを入れてくださいね!とお願いしました。せめてそのくらいやってもらわないと…と思ったのですが、義父の口から出た言葉に、私は再び言葉を失います。

「わかった、じゃあ紙に印刷してくれる?」
「…えっ?」
「この住所録を紙に全部印刷して、それで私が連名のいらないところを修正液で消したり、喪中の人のところに蛍光ペンで印をつけるから」
「…いやいやそれだと二度手間になってしまうので、直接このファイルのいらない名前を消したり、チェックしてもらえませんか?こう、クリックすると印がつくようにしているので」
「いや、それだとどこまでやったかわからないから(?)あと宛名を連名にしない人の方が多いし(先に言って欲しかったけど、連名用セルの中身を消すだけなのに)」
私がどんなになだめすかしお願いしても、頑として自分は紙に手書きで修正を入れる、と言ってきかない義父。
とうとう根負けした私は、プリントアウトした分厚い住所録の束を、無力感とともに義父に差し出すのでした。

ほどなくして、義父の手書き修正の入った紙束が私に手渡されます。それを再びExcelファイルに入力していく私は、何度「…もう手書きになさっては」と口から出そうになったかしれません。
ああ失敗した…ヘタにExcel住所録を作ろうなどと言わず、おとなしく筆〇めとか筆ぐ〇めの住所録を作ってもらえば良かった…と後悔しても後の祭り。
しかし思えば、去年もおととしも、その年賀状作成ソフトの住所録の登録や編集がうまくいかないと、私はさんざん義父に呼び出されていたのでした。

そうか、同居するということは、私は家庭内常駐サポートセンターになるということか…とようやく思い至ったのがこの時です。
思えば、義父母の世代は、パソコンが仕事で使われるようになったのはずいぶん後になってから。実際の書類作成などは若手の職員が行い、管理職である義父は、さほどパソコンの知識がなくても仕事に支障がなかった最後の世代です。
実際に使いこなすことはできず、しかし、非常に便利なものであることは良く知っている。
現役時代は面倒な部分はみんな若い人がやってくれたけれど、退職していざ自分で年賀状を作ろうと思っても、さっぱり思う通りに動かない。
「上手くいかない!壊れてる!パソコンがおかしいんじゃない?」という義父の苛立ちもわからないでもないですが、それをそのままぶつけられる同居嫁、つまり私はたまったものではありません。
だいたい私だって決してパソコンに詳しいわけでも機械に強いわけでもなく、義父の「パソコンの調子が悪い」というフワッとした質問を、いつでもズバっと小気味よくCapsLockを解除したりNumLockキーを押したりして解決できるわけではありません。ネットで対処法を調べ、あれこれと小一時間操作してようやく問題が解決した後、義父からは「ありがとう!パソコンって結構面倒くさいね!」というありがたいお言葉を頂戴したりするのです。やってられねぇ~!と何度心の中で叫んだことでしょう。

ちなみに年賀状の通信面のデザインもついでにと頼まれ、素材集から適当に組み合わせて何パターンかのデザインを提案し義父母に選んでもらい、プリンタのインクを買ってきて印刷をしたのも私です。なんとか400枚超の年賀状を印刷し終わった時、もう絶対来年からは私は手伝わない!そもそも数年前までは私がいなくても何とかなってたんでしょ!住所録もできたし、来年からは絶対手伝わない!と決意していましたが、次の年の瀬には当たり前のように義父母から「今年の年賀状そろそろ準備してもらわないと間に合わないよ!」「年賀状の住所録印刷しておいて!」と言われる始末。やっぱり手書き修正なんですね…
納得いかねぇ~!!という思いは当然毎年あります。いや、しかし同居することで様々な家事を義父母と分担して、私個人の家事は少なくなっているのだから…子供たちの面倒も見てもらっているのだし…ここは年に一度の歳末大奉仕だな…と、むりやり自分を納得させている同居嫁なのでした。

つかさちずる

イラスト・つかさちずる

娘との日々をブログ「むすメモ!」に綴ったりLINEスタンプを作ったりしている絵描き。
回転寿司とゲームをこよなく愛するアラサー。
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