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 > 〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第13回 失恋した時に観たい映画~ 先攻:加藤よしき「サニー 永遠の仲間たち」(‘11年)

〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第13回 失恋した時に観たい映画~ 先攻:加藤よしき「サニー 永遠の仲間たち」(‘11年)

2018/10/11 UPDATE

■失恋したら、ここに逃げ込め!『サニー 永遠の仲間たち』!

失恋した時は映画を観るのが一番だ。私も中学生の頃にレンタル・ビデオ屋の店員さんに恋をして、その店員さんが店長と近所のホテルから出てくるところを目撃した。とてもショッキングな出来事ではあったが、幸か不幸か、目撃したのはビデオ屋で傑作『デスマシーン』('94年)を借りた帰り道であった。家に帰って、とりあえず『デスマシーン』を観てみたら、これがべらぼうに面白い。本来なら落ち込んで下衆な妄想をしていたかもしれないが、『デスマシーン』の面白さは、それどころではなく、やがて映画が終わる頃「(店員さんと店長さんが何やってようが)別にどうでもいいや」という気持ちになっていた。傷ついた私の心を癒してくれた。正確にはアクション映画でよく見るやつみたく、心に出来た傷を熱したナイフを押し付けて塞ぐような感じで、失恋の哀しみを塞いでくれた。映画は逃げ込んでくる者に優しい。
そんなわけで、今回のテーマは失恋したときに逃げ込む映画。かつて私を癒してくれた『デスマシーン』を薦めたいところではあるが、今までこのコーナーを私物化してきたことを反省し、ちゃんと物語の中で「失恋」が描かれていて、あなたが失恋したときに、最高の逃げ場所となる映画という2点を考慮した上で、今回は韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』(‘11年)を紹介したい。ちょうど日本でもリメイク版『サニー 強い気持ち、強い愛』(‘18年)が作られたし、そういう意味でもピッタリの……と思ったら今回が最終回だと知らされた。後悔先に立たず、まさにこの事であろう。私の失敗を他山の石としてほしい。

『サニー 永遠の仲間たち デラックス・エディション』
発売元:ミッドシップ
販売元:TCエンタテインメント
好評発売中
価格:Blu-ray 4,700円+税、DVD 3,800円+税
(c)2011 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

■失恋した貴方を誰が慰めるのか?その答えがここにある

1)疲れ切った現代、楽しくも切ない過去……二つの“物語”が交差する

(c)2011 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED(c)2011 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

2000年代、韓国の首都ソウルで夫と一人娘と暮らすイム・ナミ(ユ・ホジョン)。夫は仕事で家を空けがちで、娘はバリバリの反抗期。もちろんドラッグで人生がメチャクチャになる家族を描き、イギリスの映画雑誌で「観ると落ち込む映画ナンバー1」に選ばれた『レクイエム・フォー・ドリーム』('00年)に出てくる人たちに比べるとずっとイイ暮らしをしているが、一方で何か満たされない気持ちを抱えていた。「私の人生は、このまま終わっていくのだろうか?」そんなナミであったが、ひょんなことから高校時代の同級生ハ・チュナ(チン・ヒギョン)と再会する。しかし、チュナは末期ガンで余命2か月だった。チュナはナミに言う。「死ぬ前にもう一度だけ、高校の仲良しグループ“サニー”のメンバーで集まりたい。」かくしてナミは、とある事件で疎遠になってしまったサニーのメンバーを探し始める。その旅路は自身の高校時代に想いを馳せることでもあった。時は80年代、舞台は韓国の首都ソウル。当時のナミは(シム・ウンギョン)、田舎から出てきた地味な少女だった。しかし、サニーの個性的な仲間たちとの出会い――バカ騒ぎ、淡い恋心、シンナーの恐怖、そして悲劇的な青春の終わり……。過去と現在、2つの物語が絡み合いながら、ナミとサニーの未来へ繋がっていくのだった。

2)そうは言っても、大人になんてなれませんよ!痛快な大人げのなさ!

(c)2011 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED(c)2011 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

上の粗筋からも分かるように、本作は過去を舞台にしたサニーの一員としてのナミの青春物語と、散り散りになったサニーのメンバーを探すナミの思い出巡りの旅、この2つの物語が交差する構成になっている。現代パートは何とも哀しい。最強の女番長だったチュナは末期ガン、他のメンバーも皆、姑からイジメを受けていたり、仕事で苦しんでいたり、旦那が浮気をしまくったりと、サニーのメンバーは全員灰色の人生を送っている。片や回想で描かれる過去はと言うと、音楽や恋、メンバー全員が各々の夢に胸を躍らせ、ビックリするほどキュートでポップ、そして乱闘やシンナーなど、物騒なところは物騒。ともかく活気に溢れ、輝いている。幼くて人生経験も浅いが、それゆえに無敵の少女たちだ(ビジュアル的にも、ちゃんと十代に見える役者を揃えているのも偉い)。
そんな過去を辿るうち、現代のナミはエネルギッシュな無敵の少女へ戻ってゆく。もちろん他のメンバーたちも一緒だ。過去の自分から元気を貰うかのように、現代のサニーも変わってゆくのだ。それが端的に出ているのが現代パートで最も印象的なシーン、ナミの娘をイジメている現役の女子高生に、サニーのメンバーが鉄拳制裁を加えるところだろう。もう中年と言っていいサニーのメンバーが、十代の女の子にケンカを吹っ掛けるのだ。ナミは全力の飛び蹴りをかまし、チュナは高校生の頭を叩き割る。もちろん全員逮捕される。大人げないのは事実だが、大人げなくて何が悪いのか?そもそも大人になるってなんだ?不正を見逃すことなのか?だったら大人なんか御免だぜ……。そんな心地よい「やっちまった」感が伝わってくる快シーンである。

3)悲劇のヒロインだっていいじゃないの。人生の主人公は自分なんだから

(c)2011 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED(c)2011 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

このように過去のナミが現在のナミを変えてゆくわけだが、本作一番の名シーンは現在のナミが過去のナミを励ますシーンである。今回この映画を選んだのも、このシーンがあるからだ。現代パートの見どころが鉄拳制裁なら、過去パートの見どころは初恋と、その終わりだろう。ナミはサニーの仲間たちと仲良くなるうちに、“友だちの兄の友だち”という絶妙な距離の青年ジュノ(キム・シフ)と出会う。ジュノは音楽を愛するハンサムな浪人生で、ナミはたちまち恋に落ちる。そんな矢先、サニーのメンバーはジュノと共に旅行へ出かけることに。そしてナミは夜に一人タバコを吹かすジュノを見つけ、想いを込めた彼のイラストを手に告白へ向かうのだが……彼の横には、サニーのメンバーの1人が座っていた。そしてナミに気がつかない二人は、星空の下で口づけを交わす。こうしてナミの恋は終わった。ナミは泣きながら電車に飛び乗り、一人で家へと帰る。
その一方で、現代のナミもジュノの所へ向かっていた。サニーのメンバーを探すうちに、ジュノの居場所も分かったのだ。中年になったジュノに、ナミは渡せなかったイラストを渡す。伝えることが出来なかった想いを伝え、電車でソウルに戻るナミ。その顔に涙はない。失恋を吹っ切った、切なくも清々しい表情を浮かべていた。
こうして家路につく過去/現在2人のナミ。やがて泣きながら家路につく過去のナミは、ある人物と出会う。同時に現代のナミもある人物と出会う。現代/過去のナミ同士が出会うのだ。もちろんナミが実際にタイムスリップをしたわけではないし、『タイムコップ』('94年)みたいに死んだりもしない。いわゆる心象風景だ。一歩間違えば「急にどうした!?」となり兼ねないが、ここに至るまで過去と現在を巧みに往来して描き、観客の感情を「過去も未来も、どっちのナミも報われてほしい」と高めることで、「これが観たかった!」と思わせてしまう。まさに映画のマジックが炸裂する瞬間だ。
そして、このシーン、引いては映画全体には、以下のようなメッセージが込められている。「貴方の究極の理解者は貴方である。そして人生の主人公は貴方自身である」失恋のショックだって、結局は自分で乗り越えるしかない。人生の舵を執るのはお前だ、苦しみも悲しみも拾え、という長渕剛的なメッセージが込められているのだ。「悲劇のヒロインを気取るな」という有り勝ちな悪口があるが、自分の人生なのだ。時には悲劇のヒロインしたっていいじゃないの。これはそういう話である。

■青春は終わるが、人生は終わらない。そして人生の主人公は……

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ここまでベタ褒めしたが、当然気になる点もある。『タクシー運転手 約束は海を越えて』('17年)などを観ると、デモのギャグで「人が死んでるんだぞ!」と思ってしまうとか、シンナー中毒の少女にも何らかの救いが欲しいとか(この役を演じたチョン・ウヒは後に『哭声/コクソン』('16年)で國村準と壮絶な戦いを繰り広げた)。それに冷静に考えてみてほしい。そもそも女子高校生に手を出す浪人生などロクなものではない。しかも大人になったら喫茶店を開き、息子に店内でDJをさせている。これは俺の偏見だが、コイツは絶対にタチが悪い。劇中で彼への総括がないのは片手落ちの感も否めないが、まぁ『闇金ウシジマくん』なら不幸になるタイプなので、あの後に店の経営で不幸になったと脳内補完しておこう。今ごろ韓国のどっかで『ウシジマくん』にありがちなカッコいいフォントの悲鳴が鳴り響いているはずだ。
特定のコミュニティへの私怨はさておき、『サニー 永遠の仲間たち』はとても大切なことを教えてくれる。自分の人生の主人公は自分であり、人生を灰色にするのも、黄金に輝かせるのも、つまるところ自分自身だということだ(ただし度が過ぎると前科がつくと注意を忘れないのも親切である)。失恋は辛いが、それも長い人生の物語の一部分、ちょっとしたスパイス。本作はそういうことを、笑いと涙を交えて教えてくれる。まさに理想の失恋映画だと言えるだろう。

……さて、そんなわけで今回が最終回となってしまった。不慣れな定期連載に苦闘する私を支えるべく、ベストを尽くしてくれた編集部の皆さん。そして何より応援してくださった読者の皆さんへの感謝の言葉は尽きないが、ここは映画好きの巨星、故・淀川長治氏の鉄板フレーズで終わりにしよう。それではまた次に会う時をお楽しみに、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ!

投稿者名

加藤よしき

兼業ライター。昼は会社で鬱々と過ごし、夜はお家で運動会。映画秘宝、リアルサウンドなどで通り魔的に映画関係の記事を書いています。
twitter:@DAITOTETSUGEN
blog:http://blog.livedoor.jp/heretostay/

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