2021年、今年もやっぱりカレー宣言!

晴れでも雨でも食べるのだ。 #9

2021.01.13

食べものや飲みものにまつわるあたたかな記憶とその風景を、奥村まほさんの言葉で綴るエッセイ「晴れでも雨でも食べるのだ。」今回は、カレーの物語。幼い頃は「カレーのおいしさがわからなかった」という奥村さん。でもカレーとの関係は、少しずつ変化してきたようです。みなさんはカレー、好きですか?


どうしてカレーを好きになってしまったんだろう?

幼い頃、カレーのおいしさがわからなかった。日本人の国民食ともいわれるソウルフードであり、定番の家庭料理。我が家では父の大好物であり、給食の人気メニュー。みんながこぞっておかわりをする光景を尻目に、「どうしてみんなそんなにカレーが好きなの?」といつも不思議に思っていた。

味は濃いし、においはきついし、どろっとしている。服にこぼすと取り返しがつかない。総じて自己主張が強すぎて、とにもかくにも暑苦しい。当時の私のカレーに対するイメージはこんな感じで、特別きらいというわけでもないが、わざわざ食べたいと思うものではなかった。

なのに。

今、カレーは私にとってなくてはならない存在だ。カレーのない人生なんて考えられない。想像するだけでおそろしい。ランチにでかけるとなれば向かう先はたいていカレー屋だし、家でもときどきキーマカレーを作り置きする。2020年、もっともお世話になった料理は何だろうと思い返してみても、やっぱりカレーだ。幼い頃の自分に代わって謝りたくなるほど、カレー様様の毎日だ。

それにしてもよくわからない。

どうしてカレーを好きになってしまったんだろう?

人生における「カレー史」を振り返ってみると、好んでカレーを食べるようになったのは学生時代だったように思う。その頃よく食べたのはいわゆる“古き良き喫茶店”のカレーで、レトロで上品な雰囲気に惹かれていた。皮肉をいえば、私は“形から入ったタイプ”のカレー好きだった。

学生街の喫茶店で食べたそれらのカレーは、まっしろな皿に盛られたシンプルなものが多かった。比較的さらっとしたルーに、ごろっと大きな具がそれぞれ孤島のように静かに浮かんでいる。その様子を眺めているだけでも気分がよく、いつのまにか穏やかな気持ちになっていた。

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木目調のテーブルにBGMのクラシック音楽、福神漬けやらっきょうが入った銀色のケースとピンセット、しっとりと漂うコーヒーとカレーの香り。上京するまで喫茶店になじみのなかった私にとってはすべてが真新しく、その場にいるだけで大人の階段をのぼっているような気がした。喫茶店のカレーは「お洒落な都会人」の象徴であり、あこがれだったのかもしれない。

キャンパスの帰り道にひとりでふらっと立ち寄ったり、テスト勉強の合間に癒されにいったり、友達といっしょに食べながら他愛もない話をしたり。

今でも喫茶店のカレーを食べると、学生時代の何気ない瞬間の記憶がよみがえり、懐かしさで胸がじんとする。と同時に、懐かしく思い返すほど時間が経ったのか、と時の流れの早さに驚いてしまう。

就活をはじめた時期から社会人1、2年目にかけては、インド料理屋のスパイスカレーにハマった。その頃になると、カレーは癒しの存在というだけでなく、心の奥底からエネルギーを呼び起こす燃料にもなっていた。本場のスパイスの香りに刺激され、焼きたてのナンのこうばしい香りにやすらぎを覚え、最後に甘いチャイやラッシーを飲んで満たされる。この一連の流れを愛していた。

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面接続きで心身ともにふらふらになっているとき。仕事後や休みの日に英気を養いたいとき。ピリッと辛いカレーを食べると体が燃えるように熱くなり、「明日も生きるぞ!」という気持ちがみなぎった。「からい」と「つらい」が同じ「辛い」であることに気づいたときには、「つらいこともスパイスの効いたカレーのように良い刺激となって、いつかきっと血肉とエネルギーになるよ」と自分に言い聞かせたりもした。

今となっては、「無理に結びつけなくても…」とか「あんまり思い詰めないようにね」と昔の自分に声をかけたくなってしまうが、当時はそうとでも思わなければやっていられなかったということだろう。あの頃食べたカレーは、ギリギリのところで踏ん張る私を支えてくれていた。

そして今、私にとってのカレーは、癒しやエネルギーの源であるのはもちろん、日常になじみ、暮らしのリズムを作ってくれる存在であり、さらには矛盾するようだが冒険の種でもある。

神奈川県に住んでいた頃に出合った日吉のスパイスカレー店「HI, HOW ARE YOU」にふたりそろって魅了されて以来、週末にカレーを食べにいくことは、私たち夫婦の共通の楽しみとなっている。夫とは性格も趣味もまったく合わないが、カレー好きなところだけは一緒だった。カレーの人気は絶大だ。

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数多くのカレーを食べ歩いてきた、「HI, HOW ARE YOU」の店主が研究を重ねて創り上げたカレーはスパイスたっぷりで、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五味すべてが絶妙に感じられた。はじめて食べたときは「どうやったらこんなにも深い味わいを生み出せるのだろう?」と衝撃を受けたものだ。

バターチキンカレーやキーマカレーといった定番のカレーに加え、変わり種もたくさんあり、何を食べてもクセになるほどおいしいので、訪問するたびにどれを頼もうかとわくわくした。

東京に越してきてからも、スパイスカレー店やスリランカ料理店、タイ料理店などに足を運び、頻繁にスパイスを摂取している。近所のカレー屋では「いつもありがとうございます」と挨拶してもらえるようになった。夫が額に大量の汗を浮かべながら激辛カレーを食べる様子を眺めるたびに、休日だなあと実感する。

カレー屋やエスニック料理店がいたるところにあり、日本にいながらも気軽に世界各国のスパイスを味わえるのは、都会の大きな魅力だとつくづく思う。カレーを食べるという日常は、私たちの旅でもあるのだ。

ここまで書いて、「どうしてカレーを好きになってしまったんだろう?」という最初の問いは無粋だと気づいた。カレーはあまりにも多様で奥深く、カレーとの付き合い方もさまざまだ。私のカレー史もカラフルで、ひとことで言い表せるほど単純ではなかった。

カレーはカレーだから好きなんだ。どうしても、好きなんだ。

2021年も、カレーにたくさんお世話になるだろう。たくさん癒され、たくさん刺激を受けるだろう。カレーを食べて、元気を出して、日常を冒険しよう。

奥村まほ

1992年、富山県生まれの文筆家。中央省庁とIT企業での勤務を経て、フリーで執筆・編集を軸に活動中。なにげない日常の煌めきや食べ物の記憶を言葉と写真で切り取るのが趣味で、おやつとミルクティーとスパイスカレーをこよなく愛す。note(https://note.com/kiizukimaho)では食べ物や暮らし、生き方にまつわるエッセイを投稿している。ポプラ文庫『夜更けのおつまみ』にエッセイ掲載。

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