どっちも愛しちゃダメですか?

晴れでも雨でも食べるのだ。 #15

2021.07.09

食べものや飲みものにまつわるあたたかな記憶とその風景を、奥村まほさんの言葉で綴るエッセイ「晴れでも雨でも食べるのだ。」今回のテーマは「スイカバーとあずきバー」です。どちらを食べるか迷い、それぞれにまつわる記憶を紐解いていく奥村さん。さて、最後に奥村さんはどちらのアイスを食べたのでしょう。久々にスイカバーやあずきバーが食べたくなってきます。


わたしは今、どちらのアイスを食べるか迷っている。

ひとつは、夏になると海で無慈悲にも叩き割られるあのフルーツのそっくりさんで、もうひとつは、食べるたびに歯が折れるんじゃないかと心配になるめちゃくちゃ固いぜんざい。

スイカバーとあずきバーだ。

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言わずと知れたこれらの名品は、我が家の夏の定番。
迷ったときはこれにしておけばまちがいない。そう信頼できるお二方だ。

でも、スイカバーとあずきバーで迷ってしまった場合はどうすればいいのだろう。

どちらを食べるか決めるために、今からじっくり考えようと思う。
両方とも冷凍庫に入っているので、これを書き終わったら片方を食べる予定だ。

スイカよりおいしい!?スイカバー

パッと映える赤色。拝みたくなる美しい二等辺三角形。涼しげな氷の質感。
日本の夏を代表するフルーツに瓜ふたつのスイカバーは、冷凍庫の扉を開くたびにわたしをときめかせてくれる。

本家のスイカには申し訳ないが、告白したい。
わたしはスイカよりも、スイカバーのほうが断然好きだ。

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けれども実は、わたしのスイカバーファン歴はかなり浅い。

夫がスーパーでスイカ&メロンバーの箱を買い物カゴに入れるまで、わたしは一度もスイカバーに触れたことがなかった。あの日あの時あの場所で夫と出会わなければ、愛しのスイカバーにも出会っていなかったかもしれない。

一体どんな味がするんだろう?

興味本位で箱から出し、その精悍な顔つきと初対面したときの感想は、「めっちゃスイカじゃん!!」という中身のないものだった。スイカバーのスイカ度はわたしの想像を遥かに超えていて、語彙が足りなくなってしまったのだ。

食べてみて、わたしはさらに驚いた。

なんだこの恐ろしく食べやすいスイカは!?
皮や種までおいしいって、どういうことよ!?

二十数年ものあいだスイカバーを食べてこなかったことを、心の底から後悔した。

なぜ、スイカバーの魅力に気づくのがこんなにも遅くなってしまったのか。

理由は単純。元々スイカ自体があまり好きでなく、スイカそっくりのスイカバーを食べたいとは思わなかったからだ。典型的な食わず嫌いだった。

水っぽくて、皮の近くになるほど甘味が少なく、種を出すのがめんどくさい。スイカはそんなイメージが強く、スーパーで見かけても買うことはほとんどない。

けれども幼い頃は、夏休みに必ずスイカを食べていた。おばあちゃんの家に遊びに行くと、当たり前のようにスイカが用意されていて、みんなで食べる習慣があったのだ。

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まな板の上にどしんと置かれたスイカは大迫力で、ざくりざくりと切り分けられる様子を見ていると爽快だった。あー夏休み、と感慨深く思ったりもした。

でも、好きかどうかは別の問題。わたしは口には出さないものの「一切れだけ食べとくか。夏だし。みんな食べるし」という消極的なノリで食べていた。考えてみればなんとも贅沢な話だ。

今ではわかる。

田舎の家で涼しい風を感じながら、大玉のスイカを家族みんなで分けて食べる夏は、やすやすと手に入るものではないということが。

乗り気でなくても、あのとき食べておいてよかった。そういうものが、人生にはたくさんあるのかもしれない。

今も本物のスイカは好んでは食べないものの、スイカバーを見ると、祖父母の家のしゃんとした空気がよみがえる。スイカバーの方が断然好きと言ったが、そのおいしさには、のどかな夏の思い出が上乗せされているのだろう。

大人になると求めてしまう!?あずきバー

素朴な見た目とやさしい甘さで人気を集める、井村屋のあずきバー。最近はスーパーで品切れになっている日も多く、わたしは大変困っている。

あずきバーは心の友だ。このアイスを手に取るたびに、わたしはふしぎとほっとする。昔なじみのおばあちゃんと話しているような安心感があり、自然と心がやわらかくなっていく。

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あずきバーと出会ったのは、幼稚園の頃だろうか。物心ついたときには、すでにわたしの身近にあった。父の大好物で、常に実家の冷凍庫に入っていたからだ。

でも、残念ながら幼いわたしにはあずきバーの魅力がわからなかった。和のスイーツに興味がなく、チョコ味やソーダ味のほうがおいしそうに見えたし、それらに比べると見た目が地味で、おもしろくないなあと思っていた。わくわく感が足りなかったのだ。冷凍庫にあずきバーしか入っていないときは正直がっかりした。

初めて食べたときも、「でもまあ、食べとくか。これしかないし」という失礼な姿勢で臨んだのを覚えている。

しかしこのとき、わたしは見事に洗礼を受ける。

「固っ!!」

固いよ。固すぎるよ。乳歯がとれるじゃないか。

強固なあずきバーを完食するためには、「食べたい」という強固な意思が必要なのだと、このときわたしは思い知ったのだった。

なのにわたしは、その後もほかのアイスがないときには懲りずにあずきバーを食べた。そのたびに固さに驚き、苦闘した。

そこにアイスがあれば、食べる以外の選択肢はない。それくらいに、夏にアイスを食べることはわたしの日常だったのだ。

でも、実家を離れると事情は変わる。自分の好きなタイミングで好きなアイスを買えるようになり、あずきバーとの付き合いはいったん途絶えた。「父がよく食べていためっちゃ固くて地味なアイス」というイメージのまま、わたしは上京後の数年を過ごすことになる。

そんなわたしが再びあずきバーを食べるようになったのは、ほんの数年前のこと。
これも、夫がきっかけだった。スーパーで夫がBOXあずきバーをカゴに入れた瞬間に、第二のあずきバー人生が始まったのだ。

箱の涼しげなすだれ模様を見たとき、「ああ、懐かしいなあ」と思うと同時に、夫の背中が父に重なり、なんとなくうれしかったのを覚えている。

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久しぶりに食べたあずきバーは、味も見た目もいい意味で低刺激で、疲れたときにちょうどいいなと思った。バニラやチョコに目が向かない蒸し暑い日でも、気軽に食べられる。

原料は砂糖、小豆、水あめ、コーンスターチ、食塩のみとシンプルで、添加物を使用していないところもなんだか安心だ。歳を重ねて、好みも視点も変わってきたのだと思う。

さて、ここまで書いて、どちらのアイスを食べようか。

と言いたいところだが、実は、スイカバーについて書き終えたときに休憩を挟み、スイカバーを食べてしまった。

だから、あずきバーについて書き終えた今は、あずきバーを食べようと思う。

そこに二種類のアイスがあれば、両方食べるしかないのだ。

この夏もよろしく、スイカバーとあずきバー。

奥村まほ

1992年、富山県生まれの文筆家。中央省庁とIT企業での勤務を経て、フリーで執筆・編集を軸に活動中。なにげない日常の煌めきや食べ物の記憶を言葉と写真で切り取るのが趣味で、おやつとミルクティーとスパイスカレーをこよなく愛す。note(https://note.com/kiizukimaho)では食べ物や暮らし、生き方にまつわるエッセイを投稿している。ポプラ文庫『夜更けのおつまみ』にエッセイ掲載。

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