実はキャラが濃い、和菓子の世界

晴れでも雨でも食べるのだ。 #17

2021.09.16

食べものや飲みものにまつわるあたたかな記憶とその風景を、奥村まほさんの言葉で綴るエッセイ「晴れでも雨でも食べるのだ。」今回のテーマは「和菓子」です。和菓子それぞれの「キャラ」を、奥村さんがご紹介。なんだか、和菓子の新しい魅力に出会えそうです。


どういうわけか、今年は和菓子をよく食べる。

もともとチョコレートやケーキが好きで、洋菓子ばかり食べていた人間が、なぜか最近は和菓子に心を持っていかれる。

落ち着いた甘さ、こざっぱりとした見た目、脂っこさがなく胃にやさしいところ。和菓子は自然体で着飾らないから、日常によくなじむ。

思い返せば、両親も和菓子が好きで、棚にはスーパーの三色団子やおまんじゅうが毎週のように補充されていた。父はよく餅屋に通っていた。和菓子に吸い寄せられるのは、年を重ね、ぎらぎらした刺激的なものよりも、日々の生活にそっと寄り添ってくれるものに目が向くようになってきたからなのかもしれない。

この夏に食べて感激した和菓子について、妄想を交えつつ語りたい。

水羊羹

重力に逆らうことなく平らに広がった面、漆塗りの食器のような光沢と艶、ウォールナットのような落ち着いた褐色、美しい断面。口のなかでシュッと溶けていくなめらかさ、すっきりした後味。

心が波立っているときは、水羊羹を食べるが吉だ。

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写真の水羊羹は、和菓子屋「仙太郎」のもの。光る水面のような四角形を見た瞬間、私の心は静かな湖のほとりや水平線の見える海辺の街にワープしていた。自然と心が凪いでいくのがわかる。水羊羹はシンプルで、どっしりと構えているところがいい。

水羊羹がもし人間だったら、きっと冷静沈着で、堅実な人なのだろう。酸いも甘いも経験し、そのうち何事にも動じなくなり、心穏やかに生きられるようになった人。虚勢を張らず、潔く自分を認められる人。ときには大胆に決断し、すみやかに行動できる人。上司にしたい和菓子No. 1だ。

うらやましいなと思う。私もそんなふうになれたらどんなにいいだろう。水羊羹は、人生の師匠みたいなお菓子だ。

とはいえ、いつもあたふたしている私は、師匠のようには一生なれそうにない。けれども近くにいてもらうあいだは心をまっ平にできるから、ときどき水羊羹を買って、その艶やかな面をじっくり眺め尽くしたいと思う。

おはぎ

おはぎには人間味がある。やさしさ、温かさ、親しみやすさ、安心感、包容力。この5項目でレーダーチャートを作ったら、見事な正五角形になるだろう。

ひとりきりの夜は、おはぎを食べたらいいよ。
みんなにそう言ってまわりたい。

おはぎはおにぎりと同じく、人の手によって握られたことが一目でわかる。その丸さ、甘さ、柔らかさ。もち米のつぶ感。いたるところから伝わる手作り感が、人をノスタルジックな気分にさせ、安らぎを与えてくれる。

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おはぎを人に例えるなら、たまに連絡をくれる幼馴染や田舎のおばあちゃん、行きつけのお店の主人、といったところだろうか。常に隣にいるわけではないけれど、少し離れたところから見守ってくれて、ふとしたときに元気をくれる。そんな人だ。

写真のおはぎは、水羊羹と同じく「仙太郎」のもの。テーブルに置くと、香ばしい黒豆きなこが麦畑のようにふんわり輝く。青じそ入りのもち米生地は爽やかな風味で、こしあんのさりげない甘さとなめらかさは舌にさらっとなじむ。しつこさも重さもないすっきりとした味わいだ。

さみしいときは、おはぎを呼ぼう。
温かいお茶とふっくらしたおはぎを食卓に並べ、その包容力に身を任せたなら、あなたも私もひとりじゃない。

琥珀糖

「琥珀糖」。食べる宝石ともいわれるこの和菓子を、今年、生まれて初めて食べた。まず思ったのは、名前がずるいということ。あまりにも上品で、幻想的で、きらきらしている。映画の主人公が恋する儚げな少女みたいだ。

「琥珀糖って、実在しないんだよ。フィクションや夢の世界にだけ登場する特別なおやつなんだよ。」

子どもの頃にこう教えられたら、私は一ミリも疑わずに信じただろう。実際、『西瓜糖の日々』という幻想小説もあるくらいだから、砂糖のきらめきはどこか現実離れしていて、人の空想を駆り立てるなにかを秘めているのかもしれない。

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写真は「亀屋良長」の季節商品、うちわをモチーフにした琥珀糖だ。夏らしい和菓子を求めていたときに見つけてひとめぼれ。花火柄をまとった透き通る砂糖のうちわは可憐で儚く、食べるのがもったいない。

琥珀糖を食べるときは、まず透明感に満ちた姿をじっくり眺め、「今から琥珀糖を食べるよ!」と心のなかでひそかに盛り上がる。それだけでもう幸福感が溢れ出す。

それから、大事なものに触れるようにそっと手に取る。ほんの少しの緊張と湧き立つ心を携え、あこがれの存在に初めて話しかける感じでおそるおそる噛んでみる。すると外側はしゃりっと軽い音を立てながら崩れ、内側のむにゅっとした果肉のような部分があらわれる。「ああなくなってしまう……」と儚さを感じつつ、ゆっくり噛み続ける。時が止まったような静謐な時間を過ごしたあとは、しばしうっとりする。

この秋も琥珀糖を買おう。透明な粒をひとつ手に取れば、リビングが数分間だけ幻想的な世界に変わる。

わらび餅

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トリはこの方。和菓子界の人気者、わらび餅だ。

わらび餅ほど多くの人に愛されている和菓子を私は知らない。おまんじゅうのパサパサした感じが苦手だとか、あんころ餅のもったりした感じがどうも好かないとか、そんな話を聞いたことはあっても、わらび餅が嫌いな人には一度も出会ったことがない。

しかも、ほかの食材との相性もいい。チーム活動にも積極的で、パフェやあんみつの具としても活躍中だ。主役にも脇役にもなれるムードメーカー。就活では企業から引っ張りだこだろう。

わらび餅の魅力は、なんといってもそのみずみずしさだ。琥珀糖が「食べる宝石」なら、わらび餅は「食べる湖」。口のなかに清涼感たっぷりの水の世界が広がっていく感じがして、「ふあああ、これは湖だ、湖を食べているぞ」といつも思う。

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写真のわらび餅は、幼い頃に親しんだ「明日香野」というメーカーのもの。スーパーで買える手軽さがうれしい。涼しげな水色のトレーにたっぷり入ったまんまるの透明な餅は、夏祭りの水風船やスーパーボールみたいで、口に入れるとむにむに弾ける。老舗和菓子屋の本格的なわらび餅ももちろんおいしいけれど、このわらび餅には特別な愛着を感じる。

まだまだ紹介したいけれど、今日はここまで。心が荒れているとき、落ち込んだとき、さみしいとき、リビングから飛び出したくなったとき。これからも和菓子を買って、キャラを楽しみながらもぐもぐしよう。

奥村まほ

1992年、富山県生まれの文筆家。中央省庁とIT企業での勤務を経て、フリーで執筆・編集を軸に活動中。なにげない日常の煌めきや食べ物の記憶を言葉と写真で切り取るのが趣味で、おやつとミルクティーとスパイスカレーをこよなく愛す。note(https://note.com/kiizukimaho)では食べ物や暮らし、生き方にまつわるエッセイを投稿している。ポプラ文庫『夜更けのおつまみ』にエッセイ掲載。

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