私流、梅の愛で方。見て感じてじっと待つ

晴れでも雨でも食べるのだ。 #27

2022.07.11

食べものや飲みものにまつわるあたたかな記憶とその風景を、奥村まほさんの言葉で綴るエッセイ「晴れでも雨でも食べるのだ。」今回は、奥村さんが今年2回目の挑戦となる「梅仕事」ならぬ「梅遊び」がテーマです。


ふるさとが詰まった梅

6月中旬、祖母の家でとれた梅が届いた。父が中心となって手入れをし、母や祖母が仕分けをして送ってくれた、ぴかぴかの青梅だ。

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祖母の家の梅は、稲積梅(イナズミウメ)という富山県氷見市で生まれた固有種。種が小さく、実が肉厚なところが特徴だという。地元富山の風と光を何十年も浴びながら、祖父母や両親に手塩をかけて育てられた。

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祖父は地元の風土を心から愛している人だったから、育てるものにもこだわりがあったのだろう。梅一つとっても地元の品種を選ぶところが、粋だなと思う。祖父がこの世からいなくなっても、育てたものは生き続け、私の手元に届くことが奇跡のようでうれしい。

ふるさとがぎゅっと詰まった梅を、私は楽しみ尽くすことにした。

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家で味わう、春と夏のはざま

実は、祖母の家でとれた梅を送ってもらったのは今回が初めてで、「梅仕事」なるものに挑戦するのは2回目だ。幼い頃から梅が苦手で、梅干しはもちろん梅味のキャンディーすら食べられなかった私は、最近ようやく梅のおいしさに気づき始めた。

初めて青梅に触れたのは昨年の初夏。ジュース屋さんで梅の量り売りをしているのが目に留まり、思わず衝動買いした。外出がままならない中、家で四季の移り変わりを味わえるのなら、多少面倒でもやってみようという気になったのだ。

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店主のおじさんから手渡された袋いっぱいの梅は、惚れ惚れするほど美しい色だった。淡すぎず、深すぎない、春と夏のはざまを体現するような緑色。そのやさしくも鮮やかな色を手にぶらさげているだけで、あいまいな季節の一員になれた気がした。

おじさんに教えてもらったとおりにシロップを作ってみたらこれがなかなかおいしく、水やサイダーで割ると夏にぴったりの甘酸っぱいドリンクに。

梅「仕事」というからにはさぞかし大変なのだろうと思っていたけれど、想像していたよりはずっと簡単で楽しく、個人的には「梅遊び」と呼びたくなるイベントだった。

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私流、梅の愛で方

そんなわけで、人生2回目の梅遊び。祖母の家からもらった梅を、いろいろな方法で愛でてみることにした。初心者なりに考えたシンプルな方法と、その楽しさを紹介したい。

1.香りを楽しむ

梅の大きな魅力の一つは、なんといっても香りだと思う。段ボールを開けた瞬間。ビニール袋や包み紙をひらいた瞬間。さわやかな香りが漂ってきて、ああ、いい香り、と思わずため息が漏れてしまう。

梅干しや梅酒とは異なる、青梅ならではのすっきりとした香り。私はこの香りが大好きで、オードトワレにして持ち運びたいほどなのだが、限られたタイミングでのみ味わえるからこそ、なおさら価値があるのだろうとも思う。

すぐに作業に移らず、数秒間だけ手を止めて香りを味わってみる。たったそれだけで、梅との戯れがずっと楽しくなる気がする。

2.眺める

梅があまりにも美しいので、調理前に一部を皿の上にのせ、じっくりと眺めてみた。大きな梅、小さな梅、鮮やかな緑の梅、黄色っぽい梅、へたの周辺がほんのり赤くなってきた梅。観察してみると、色も形も、一つとして同じ梅はないことがわかる。

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さらにいえば、一つの梅の中にも色の濃淡や小さなでこぼこがあって味わい深い。いろんな角度から写真を撮ったり、スケッチをしたりすると、ますます愛着が湧いてくる。

3.梅シロップをつくる

香りと見た目を満足いくまで楽しんだら、ここからが本番だ。梅を洗い、ヘタをとり、水気を拭き取ってから、氷砂糖と交互に瓶に入れていく。

透き通るような氷砂糖と、肉厚で彩り豊かな梅。質感や色の対比が美しく、ずっと眺めていたくなるような光景だ。

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シロップを作る過程の中でもっとも好きなのは、洗った後の水滴がついた梅を眺める時間と、梅のヘタをとる時間。

ヘタとりは究極の単純作業で、面倒といえば面倒なのだが、ぴこーんと勢いよくヘタを飛ばすのが爽快でくせになる。私が子どもだったら、スイカの種のように人の顔めがけて飛ばしていたことだろう。

瓶詰めをしてから3日後の6月末現在、梅シロップはこんな状態だ。完成を迎えるまでの約3週間、1日2回のペースで瓶をぐるぐる回してかき混ぜる。

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朝起きたとき。夜眠るとき。砂糖はもう溶けたかな?梅は熟してきたかな?と変化を確認するのが楽しい。シロップ作りは、待つ楽しさを教えてくれる。

4.梅ジャムをつくる

余った梅は、ジャムにすることにした。砂糖と一緒に煮詰めるだけのジャムは、少し痛んだ梅でも問題なく使えるし、ずぼらな私にも作りやすいところがありがたい。

鍋を火にかけると、梅の果肉は少しずつ柔らかくなり、果汁は砂糖と混ざって艶めき始めた。梅の実はまるで、みたらし団子のようだ。

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30分ほど鍋の底をかき混ぜ続ければ、熱々とろとろの梅ジャムが完成。完熟梅ではないから、そこまで鮮やかな黄色にはならなかったが、深みのある落ち着いた色に仕上がった。

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ちょっとだけスプーンですくい、味見をしてみたところ、なんだこの温かい甘酸っぱさは!!と胸がキュンとした。できたてのジャムの熱も、その瞬間しか味わえない貴重なおいしさだ。

梅を愛でて、心を癒す

ここまで私なりの梅遊びを紹介してきたが、私は普段、いわゆる「ていねいな暮らし」とは縁遠い生活を送っている。家のことはできるだけ楽に済ませたいし、手の込んだ料理もめったに作らない。外出制限や最近の流行がなければ、梅に触れる機会もなかっただろう。

でも、やってみてわかったのは、梅仕事はていねいな暮らしの演出でもなんでもなく、自分の癒しにつながるということだった。香りをかぐ、眺める、触る、煮る、じっと待つ。これらすべての工程が、食べものをよりおいしく感じさせ、生きている実感を与え、世の中の忙しさから心を守ってくれる。

この記事が公開される頃には、梅シロップが出来上がり、ジャムもほどよく熟成していることだろう。何十年も愛され続けてきた祖母の家の梅を、私もじっくり愛したいと思う。

奥村まほ

1992年、富山県生まれの文筆家。中央省庁とIT企業での勤務を経て、フリーで執筆・編集を軸に活動中。なにげない日常の煌めきや食べ物の記憶を言葉と写真で切り取るのが趣味で、おやつとミルクティーとスパイスカレーをこよなく愛す。note(https://note.com/kiizukimaho)では食べ物や暮らし、生き方にまつわるエッセイを投稿している。ポプラ文庫『夜更けのおつまみ』にエッセイ掲載。

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