子育て中のスマホは使い方次第!忙しい中で子どものコミュニケーション能力を育てる方法

六車奈々の子育てコラム #31

FAMILY
2022.09.21

img_nanarokusha_031-title

あれは、娘・せりが生後2か月を過ぎたくらいのこと。授乳中、機嫌よくおっぱいを飲んでいるのを見て安心した私は、「今のうちにコラムを仕上げよう!」と、娘を抱いていない方の手でスマホを持ち、文字を打ち始めました。

ほんの2〜3分だったでしょうか。娘が突然おっぱいを飲むのをやめ、私に視線を送っているのがわかりました。どうしたのかと目をやると、ものすごい形相で訴えかけているではないですか。

「私がおっぱいを飲んでいる時に、あなたは何をしているの?」

言葉は話せなくても、そう不満を伝えていることがひと目で感じられる表情。私は衝撃を受けました。というのも2か月過ぎの赤ちゃんといえば、あやすと笑ったり、クーイング(喉の奥から「ア〜・ク〜」など声を出す)が始まるなど、他者とのコミュニケーションが少しずつ始まる頃。

娘も笑ったりクーイングをしたりとコミュニケーションが始まり、それがかわいくて毎日楽しみながら子育てをしていましたが、想像もしなかった「私に集中してよ!」という強い意思表示に、大きな衝撃を受けました。

その後も娘は、不満を感じている時には決まって同じ表情をしました。こちらの写真も、そうです。

img_nanarokusha_031-01

これは生後2か月半の娘。明らかに不満そうです。
この日は区役所を訪れたところ、受付は長蛇の列。座る場所もなく、立ちっぱなしで30分ほど過ぎた時、下を向いていたせりが顔を上げ、訴えてきた表情です。

「ねぇ。いつまでここにいるの?私、すごくイヤなんだけど。」

この表情を見た瞬間、「あの時と同じ顔だ!」と思って、急いで写真におさめた一枚です。

この頃、せりが「不満」をアピールする時はこんな感じでした。

1. 今の「イヤな状況」に対して様子を見ている(娘なりに我慢をしている)
2. この状況に、我慢の限界が来た
3. 顔全体をお母さんに向け、じっと見つめて気づいてもらうのを待つ(念力を送っているのかと思うほど、強い視線を感じる)
4. 視線に気づいたお母さんが自分を見ると、顔全体で「不満」を訴える

といった具合です。

こうして整理してみると、まだ生まれて数か月の赤ちゃんですが、気持ちの流れを感じます。
「あやしてもらって嬉しい」「お腹が空いたから泣く」のような「点」だけの感情だけではなく、「点」が繋がって「線」になり、それを自分にできる方法で伝えようとしているのです。

私としては「この時期の感情はこれくらいでしょ」と決めつけていたつもりはなかったのですが、もしかしたら「発達の目安」がいつしか「課題」になり、それさえクリアできれば安心し、満足してしまっていたのかもしれません。

この出来事で、私は大切なことに気づきました。
「赤ちゃん」と一括りにする前に、「一人の人間」なんだということ。
私は、目の前にいる小さな我が子に、人としてしっかり向き合いたいと思いました。

今回はそんな経験を踏まえ、「ヒト」として生まれた赤ちゃんが「人間」らしいコミュニケーションを取れるようになるための発達心理学のお話です。

二項関係

生まれたばかりの赤ちゃんは、二項関係で暮らしています。二項関係とは、「自分と人」「自分と物」のように、一つの対象としか関係を持てない状態です。

img_nanarokusha_031-02

・泣いたら抱っこしてもらえる →「自分」と「お母さん」
・ガラガラを動かす →「自分」と「ガラガラ」

のように、すべてにおいて「自分と〇〇」の世界で完結しているため、お母さんと一緒におもちゃを楽しむことはできません。逆を返せば、対象となる人や物に、気持ちが一点集中している時期です。

img_nanarokusha_031-03
生後4か月。初めて見た「まわるお寿司」に夢中ですが、「お母さん、お寿司がまわっているよ!」と、自分が驚いたことを誰かと共有することはできません。

そう思うと、せりが全力でお母さん(おっぱい)に向かっている時、そのお母さんが自分に向き合っていないのを見て怒りを覚えたというのは、深く納得できます。実のところ、こうして「自分(赤ちゃん)」が「誰か(両親など)」に向き合っている時、その相手が「自分」ではなく「スマホ」ばかりを見ていたとなると、正常な二項関係を築く経験が不足します。二項関係という基礎が不足したまま年齢が上がると、今度は三項関係をうまく築けなくなってしまうのです。

三項関係

生後9~10か月頃になると、三項関係が出来上がります。
三項関係は、「自分・人・物」という三つの関係。大人は三項関係の中で生活をしています。

img_nanarokusha_031-04

三項関係は、たとえば自分が興味を持ったものを指さして、その嬉しい気持ちを誰かと共有しようすること。

子どもが何かを見つけ、「あっあっ」と指をさし、お母さんに伝えます。「ネコちゃんだね。かわいいね。ナデナデしてみる?」と答えるお母さん。すると子どもは安心して、お母さんと一緒にネコを触ってみます。こうしたやりとりの中で、子どもは「ネコはフワフワでかわいいもの」と認識したり、また危ないものに関しては、「これは危ない。触っちゃいけない」と認識します。

img_nanarokusha_031-05
生後9か月過ぎ。お父さんを指さし、お母さんに伝えています。

三項関係は、相手の気持ちを理解するための基礎。この先、社会に出て人とコミュニケーションをとっていく中で、非常に大切です。

「ママみて!このお花、きれいだね!」

こういって子どもがお母さんを振り返った時こそ、三項関係を築くチャンスです。
「本当だね!きれいなお花だね〜!」お母さんがそう答えることで、三項関係が成立します。
ですが、このときにお母さんがスマホに夢中で無視したり、適当に返事をしてしまうと、三項関係を築けなくなってしまいます。

忙しい中で、子どもと向き合う方法

では、どうすればいいのでしょう?
私自身、毎日が目のまわる忙しさ。四六時中、娘に全力で向き合うことは不可能です。
また、お母さんにだって、スマホで動画を見たりゲームをしたり、楽しむ時間も必要です。それだけではありません。学校や仕事の連絡、ネットスーパーでお買い物、また夕食のレシピを調べることもあるでしょう。今やスマホは、日常生活で必需品になっていますよね。

そこで私の場合、娘が乳幼児期で睡眠時間が多かった時は、その時間をうまく利用しました。

・娘が起きている間はしっかり娘と向き合う
・仕事や休憩は、娘の昼寝や睡眠中にする

また娘が年中くらいになり、状況を理解できるようになってからは、事前に伝えるようになりました。

「今から30分お仕事するから集中させてくれるかな?その間、せりちゃんは何しようか?」

こうしてお絵描きやテレビなどで待ってもらい、終わると必ずこの三つを伝えます。

1. 「お待たせ。せりちゃんのおかげで仕事が終わったよ!ありがとう!」
2. 「テレビはおもしろかった?どんなお話だったか教えてくれる?」→見せて終わりにせずコミュニケーションを取る
3. 「じゃあ、今からお母さんと遊ぼう!」

つまり、大人同士なら当たり前にやっているエチケットと同じですよね。誰かが自分に話しかけてきた時にスマホを中断したり、手が離せない時にはそれを伝えて少し待ってもらったり。子どもに対してもそれをするだけで、受け取る側の気持ちは大きく変わります。

img_nanarokusha_031-06

ちなみにテレビやスマホは「二項関係」ですが、そこに「おもしろいね!」と共感する大人がいると、三項関係が生まれます。時間制限は必要ですが、子どもと一緒にテレビやスマホを見ることは、立派な「子どもとの遊び」です。

子どもはいろんなことに興味を持ち、何かを発見し、グングン吸収しようとしています。

「おもしろいね!」
「危ないからあっちに行こう!」
「楽しいね!」
「悲しかったね。」

ぜひ、お子さんとの「三項関係」楽しんでくださいね。
私ももちろん、満喫していますよ〜!

この記事をシェアする

イラスト:あきばさやか
撮影:馬場伸子(SIGNO)
ヘアメイク:城所とも美

アイスム座談会