日々の食事で「健康の貯金」――なかやまきんに君さんのおうちごはん

きのう何作った?

PEOPLE
2021.06.21

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2021年5月には、ボディビルの大会で念願の1位を獲得したなかやまきんに君さん。YouTubeチャンネル「ザ・きんにくTV」では、初心者向けの筋トレや食事方法についても発信しており、チャンネル登録者数は120万人を超えています。「自分はたまたまできただけ」と語るなかやまきんに君さんに、食べ物を選ぶ基準や己の肉体を鍛え続けられる理由を伺いました。

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お話を伺った人:なかやまきんに君さん

お笑い芸人・ボディビルダー。2006年にはロサンゼルスへ“筋肉留学”し、サンタモニカカレッジ運動生理学部を卒業。2021年、第29回東京ノービスボディビル選手権大会75kg超級で優勝を果たす。YouTubeチャンネル「ザ・きんにくTV」の登録者数は120万人を突破。

子どもの頃から健康大好き!やっとたどり着いた、現在の食事

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ーーまずは、「第29回東京ノービスボディビル選手権大会」75キロ超級での優勝、おめでとうございます!

ありがとうございます!

ーー本当に、たゆまぬ努力の結果ですよね。そのひとつが、日々の食事制限かと思います。普段は、どんなお食事をされていますか?

今は、毎日のメニューの7割を固定化しています。チートデイは別ですが、年間でも約7割は大体同じごはんですね。

メインは、鶏の胸肉にオクラ、ゴーヤ、アスパラ、ブロッコリー、ニンジン、トマト。それぞれ、比率も決めています。

朝食べる分と昼過ぎに食べる分をそれぞれ分けてラップに包んで、冷蔵庫に保管。仕事の日は現場に持参していて、今日もリュックに入っています。

ーー食事をローテーション化していると、毎食の献立を考えずにすむし、時短にもなりそうですね。

僕、朝食は前日の夜に作っているんです。寝てる間に何も食べない分、筋肉のためにも、起きてすぐ栄養を摂りたいんです。作り置きしておけば、朝の調理の時間が省けるし、たしかにラッキーかもしれません。

ーー朝は筋肉が栄養を欲している、と……!

でも、決して自炊で楽をしたいからローテーションを組んでいるわけではなくて。基本的には「この食べ方だと体が楽で、健康になれるから」なんです。体調がよくなるやり方を集めて自分なりに研究した結果、今のごはんになりました。

ーーきんに君さん研究によると、具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか。

これらの食事がメインだと、口の中もすごくスッキリするし、よく噛まないと飲み込めないから消化にも負担がかからない。毎日お腹の調子もよくて、筋肉の張りもいい。

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「そんな味気ない食事で楽しいの?」って思う人もいるだろうけど、「こんなにいいもの、なかなかないですよ!」って感じです。

ーー肉体作りに興味がわいたのって、いつからなんでしょうか?

僕、小学生のときから、ずっと「健康」が大好きで。

ーー小学生の頃から……!

小学校3年生のとき、「七草粥は健康にいい」というニュースを見たことがあって。その日のうちにお母さんに「七草粥が健康にいいみたいで、食べたいから作ってほしい!」とリクエストしていました。

あとは、飲食店のメニューって、栄養のミニ情報みたいなのが書いてあったりするじゃないですか。たまに外食をしたときには必ずチェックして、「トマトにはリコピンが含まれている……」とか、都度情報を入れていましたね。「体に良さそうなものは常に摂りたい」という考えが、小学生の頃からあったんです。

ーー食べ物を選ぶときに、栄養や筋肉を育てるという観点以外にも、きんに君さんが大切にしていることはありますか?

まだまだわからないこともありますけど、食べ物って、そのどこに目を向けるかで、評価が変わってくると思うんですよ。

筋トレも、みんな言うことが違うじゃないですか。「有酸素運動をするとこうだ」とか、「筋トレは何回やったほうがいい」とか。それは、その発言者にとっては正しいことかもしれないけど、それぞれにデメリットもあるし、諸説ある。

だから食品も、いい面もあれば悪い面もあると考えて、勉強しながら色々試してみて、自分に合うものを見つけるようにしてますね。

ーー知識を得たうえで、自分仕様にアレンジするんですね。

今の7割同じ食事についても、微妙に変化していますし。今後、がらっと変わる可能性もあると思ってます。自分自身も常に勉強して、柔軟にいきたいですね。

「健康の貯金」を貯めるのが好き

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ーー最近は世の中の状況的にないかもしれませんが、芸人さんって、先輩や仲間との食事の機会も多い印象です。他の人と一緒に食事をするときに、よく選ぶメニューってありますか?場の空気に合わせつつ、選びやすい低糖質高タンパクのメニューがあれば、ぜひ知りたいです。

そうですね……でも僕の場合、ちょっと特殊だからあまり困っていないかもしれないです。名前も「きんに君」なので……(笑)。

ーーたしかに(笑)。「食事にも気を使ってるだろうな〜」と、周りの人も認識してますよね。

仕事で筋肉を使っているので(笑)。……でも、そうか。一般の方だと、自分が食べたいものを選ぶのが難しいこともありますよね。

ーー「トレーニング中でも、人に誘われるとつい食べちゃう」って人も多いと思います。きんに君さんの場合は、「今日だけ食べちゃおうかな〜」という気持ちにもならないんですか?

そうなんですよねー。それに、意外と制限もそんなにキツくはないんですよ。毎日、食事の3割はいくらか自由に食べられるので。唐揚げとか、パスタとかピッツァも食べますよ。

僕の場合、毎日夕方くらいまでには1日に必要な栄養素を摂っているんです。だから、その後だったら「これぐらいなら食べても平気」っていうラインが自分の中にあるというか。

ーーしかも、その7割の食生活は、ずっと続けてるんですもんね。

常にギリギリの生活だったら、あまり好ましくないものを食べちゃったときに「あっ!やっちゃった!」ってなるかもしれない。でも、毎日しっかりとごはんとトレーニングを続けてきているからこそ、「ちょっとぐらい乱れた食事があっても大丈夫だ!」と思えます。健康の貯金がいっぱいある感じですかね。

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僕、「みんな、やってないだろうな〜」ってときに自分だけ頑張るのがめちゃめちゃ好きなんです(笑)。

ーーと、いうと?

朝7時に起きて、ブロッコリーの大きい塊を噛んでるときとか、正直おいしいと思えない日もあるんですよ(笑)。でも、「この食生活、他にできる人いるかな?」「これできてる自分、すごくない?」って考えたら、健康の貯金をしている気持ちになるんです(笑)。

ーーいやあ、すごいです……。そういえば、減量明けでも、コメダ珈琲で、チキンサンドとエッグサンドを頼まれていましたよね。いざ制限から解放されても、やっぱり卵や鶏肉を選ぶことが多いんですか?

今回は、減量が終わってからの感覚がいつもと違ったんです。これまでは、我慢してきた分、「ラーメンとか、脂っこいものや味の濃いものを食べたい!」って思うことがあったんですけど。今年は、「毎日蒸したり茹でたりで味気ない食べ方をしている食材を、ちょっと贅沢に食べたい!」って感じで。

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今までだったら、サラダもドレッシングをほんのちょっとだけかけていたのを、バッて多めにかけたりとか。「入れすぎると怖いなあ」と思っていたナッツを、バーン!と入れたりとか。ドレッシングも、自作するようになりました。ビネガーをかけて、塩をかけて。あとは、ちょっとシソ油とかアマニ油をかけるだけ。

ーーいろいろと手作りされるということは、食材のストックも多いのでしょうか。冷蔵庫のスタメンは、どんな感じですか? 

いつもの7割のための食材と、卵、キャベツが常にありますかね。あとは、納豆とめかぶと……。食材的にはそれぐらいですね。基本的には栄養素が壊れないように、蒸して食べています。

視聴者から学んだ「どうしたら楽にできるか」という視点

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ーー自分が食べるものや調理方法のベースはいつも同じということでしたが、YouTubeではコンビニや飲食店の製品も含め、いろんな料理を紹介されていますよね。

ちょっと変な言い方をすると……あれはある意味「動画用」というか。

僕はトレーニングに関しても、「どうすれば一番キツいか」を探していたんです。それだけ負荷が筋肉にかかって、成長するきっかけになりますから。

でも、YouTubeで発信する中で、いただいたコメントから「どうやったら楽にできるか」という、自分とは真逆の発想があることを知ったんですよね。

ーー「楽したい」とも思わなかったんですね……!衝撃です。

そうなんです。でも、みんながムキムキを目指してるわけじゃないし、もしかしたら、「楽にトレーニングしたい」「ちょっと食事に気をつけたい」というところから入って、自分でその次のステップに進むこともあるかもしれないじゃないですか。

だから、自分はいつも食べているものでも問題ないけど、「キツいことはできない」って人にも取り組みやすいようにしたいと思って、いろいろ試行錯誤してます。続けられることが大切ですしね。

ーーでは、「今日は献立を考えたくない!」「でも栄養は摂りたい!」っていう日に、おすすめのメニューはありますか?

うーん、一番のおすすめは、僕が普段食べてるものなんですけど、一般の人だとちょっと難しいですよね? どんな人かにもよりますし……うーん……(しばらく沈黙して真剣に考える)。

宣伝みたいになってしまうんですけど、本当に手抜きして食べられるものだったら、「ザ・パワースープ」とか、ですかね。

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ーーきんに君さんがプロデュースした、冷凍保存で販売されているスープですね。(検索しながら)たんぱく質の豊富さや国産野菜の使用などの説明があって、こだわりを感じます。 

売上だけを考えたら、もっと調味料を入れたりして、安価においしくすることもできるんですけど。自分が作る意味があるものになるよう、譲れないポイントはキープできるよう、いろいろ生産地とやりとりして作りました。

目指すは70〜80歳でボディビル日本代表

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ーー「楽をしたい」という発想がなかったという話がありましたが、今の食生活について、「しんどいな」と思うことも、まったくないですか? 

完全ゼロではないですけど、ほぼないですね。

キツい筋トレをめちゃめちゃ頑張ったとしても、それは筋肉を大きくするきっかけであって、食事でどう回復させていくかも大事なんですよ。食事をきちんとやらなかったら、あんなにキツいトレーニングをしたのに、全然成果が出ないってなるので。

そのつらさに比べたら、「これさえ食べれば成長するなら、こんなに楽なことはないよな」ぐらいの感じです。健康にもいいですし。

ーーとにかく筋肉と健康を大切にされている……。

いろんなものを食べたいって気持ちも、もちろんあるんですけど。食べるべきものをまず食べて、余裕があったら食べましょうという考えですね。

というのも僕、トレーニングをできるだけ続けて、70歳とか80歳で、その年齢のボディビル日本代表になるのを目指してるんですよ。

ーーおじいちゃんボディビルダーとして日本一に!

はい。若い人って、筋肉がデカい人多いですし、この数年だけでも才能ある人にたくさん会ったんですよ。そういう人には、努力しても勝てない。

でも、今後も怪我せず、体調も崩さずにこのまま維持していけば、いずれは勝てる可能性も出てくると思うんですよね。

ーーコツコツ研鑽を積んで、数十年後にトップへ……という長期戦なんですね!

その目標があるから、トレーニングも怪我をしないようなやり方で工夫しているし、食事もいろいろ探っています。基本は「無理をしないで、いかにキツいことができるか」。それで、どれだけ筋肉が大きくなるかをやってみているんです。

ーーいろいろと自分なりに工夫する中で、「これでいいのかな?」って、不安に思うことはありますか?

不安はなくて、発見が常にある感じです。たとえば、ジムが混雑してて、いつものマシンが使えないときに他のマシンから使ってみたら、「あれ? 順番を変えただけでこんなに効くのか!」って気づけたとき。「また1個発見したな〜!」って、思いますね。

ーー前向きですね。未来の大きな目標があるから、そこにたどり着くまでの全てが発見や学びになっていくんですかね。

「自分はたまたま筋トレに向いていただけ」

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ーーここまでお話を聞いてみて、きんに君さん、本当にストイックですね……!

そうなんですかねえ。僕としては、自分のことをストイックだなとは思っていなくて。「たまたまできただけ」という気持ちなんですよね。

ーーたまたま、ですか?

僕はたまたまトレーニングに興味を持って、たまたまできただけ。だから、減量を頑張れない人がいたとしても、「ストイックじゃないなあ」とは思わないです。続かなかったその人にも、他のところで才能があると思うんですよ。

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たとえば、もし股割りできるまでストレッチしろとかって言われたら、僕はできません。でも、そっちならできるという人もいるでしょうし。勉強ができるとか、パソコンが得意とか、文章が書けるとか……いろんな才能がありますよね。僕はたまたま、筋肉を大きくしたり、味気ないものを食べたりするのが苦じゃなかっただけ。

ーー人と比べてしまって、自分ができないことに目を向けがちな人の励みになりそうです。日頃のごはん作りにしても、「自分はなかなか品数を多く作れない……」って、悩む人もいるんですよ。

おかずをたくさん作っている人と比べて気にしちゃう、ってことですか?全然気にせず、堂々としていてほしいですね。

ーー大会に出る以上、他の人と比較される面もあるとはいえ、きんに君さんの思考としては、基本的にはボディビルも過去の自分と戦うような考え方ですか?

そうですね。もちろん優勝したいんですけど、前回出たときよりも筋肉が成長したかどうかは大切にしています。

やっぱり、いきなりすごい人が出てきたら、勝てなくて2位、3位になっちゃう。でも、去年よりも成長していれば、「やってきたことは間違いじゃなかった」って思えますし、「このまま成長さえしていけば、いつかこの人にも勝てるだろう」って希望も持てる。

筋肉を大きくすることに、近道はないので。期待しすぎず、できることを地道に積み重ねています。

ーーきんに君さんは本当にコツコツ積み重ねて、今に至ってらっしゃるんですね。

でもほんとに、自分にできることをやっているだけなんです。これから学ぶ中で、考えややり方が変わっていくこともあるだろうし。

ーーだから、発信するときも「僕は今、こうしている」という表現が多いのでしょうか。

はい。自分も間違ったことを言ってしまっている可能性はあると常に思っていますし、他の人に「こうすべき」と強制できる立場でもないです。

「すごい!」って言われて、「そんなことないです!」って返しても「そんなことないと言うのがまたプロフェッショナル!」って言われちゃうこともあるんですけど(笑)。まだまだ知らないことがたくさんある。ほんと、普通の人なんです。

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取材・編集:小沢あや
原稿構成:佐藤はるか
撮影:曽我美芽

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