お笑いも料理も、サボるとブレる。――和牛・水田信二さんのおうちごはん

きのう何作った?

PEOPLE
2021.09.01

img_nanitsuku_025-01

 著名人の方々に、おうちごはんをテーマにお話を聞く連載「きのう何作った?」。今回のゲストは、お笑いコンビ・和牛の水田信二さん。調理師専門学校を卒業後、和・洋のレストランで計7年間修行した経験のある元料理人です。多忙なスケジュールの中で、水田さんは「食」をどのように楽しんでいるのでしょうか?

img_nanitsuku_025-guest

お話を伺った人:水田信二さん

2006年結成のお笑いコンビ「和牛」のボケ担当。その漫才はお茶の間のみならず芸人からも定評があり、M-1グランプリ2016年から2018年まで3年連続準優勝。バラエティーなどさまざまな番組に出演しながらも、漫才師として劇場に立ち続けることを大切にしている。

元料理人だからこそ、振る舞われた手料理は積極的に褒める

img_nanitsuku_025-02

ーー水田さんは以前、バラエティ番組で「ピーラーは便利だけど、まず包丁を使えるようになってから」とお話していたのを聞いて、「元料理人だけあって、料理に関してはスパルタな方なのかな?」という印象を持っていたのですが……。

いやいや!芸人がバラエティで言うことなんて、真に受けちゃダメですよ。ボケですから(笑)。自分自身のポリシーはあれど、他人に押し付けるのはしんどいじゃないですか。後輩には言うかもしれませんが、彼女には絶対言いませんわ!

ーー安心しました……(笑)。水田さんも恋人に手料理を振る舞われるようなことがあるんですか?恋人側の立場で考えると、元料理人の彼にごはんを出すのは、緊張しそうですね。

まさに、相手が緊張してるのが伝わるんですよ。でも、僕も「本当においしいと思っていることをちゃんと伝わるようにしなきゃ」と緊張する。お互いガッチガチなんすよね(笑)。「この人、僕が次に手料理を振る舞ったら、今後は料理作りにくくなっちゃうかな?」とも考えるし……。

ーー元料理人ならではの悩みですね。水田さんは食レポのお仕事もよくされていますが、他人に「これ、おいしい!」を伝えるコツはありますか?自分の料理に対する反応が薄くて悩んでいる方は多いと思うですが、褒め言葉のバリエーションって難しいなとも感じていて……。

おいしさを伝えるときは、そのまま素直な感想を言葉にするようにしています。テレビを観ていると、「おいしい!」までのタイミングが早すぎる人っているじゃないですか。「それ、本当に味わった上で言ってる?」みたいな(笑)。自分も作る側の人間でしたが、建前なのか、本当においしく感じてくれている人の顔なのか、ちゃんとわかるんですよ。正直な反応を返せばいいと思います。

調理スキル0から、成り行きで調理師学校へ

img_nanitsuku_025-03

ーー10代で調理師専門学校に入学する前から、お料理は好きだったんですか?

いや、料理は全然していませんでした。僕が調理師学校に入学したのって完全に成り行きで、コンビを組みたいと思っていた友達が調理師学校に進むと言うから、「じゃあ僕も」となっただけ。関西に一緒に行く口実でしかなかったんです。その後、彼が入学を辞めてしまったので、結局僕一人が入学することになりました。

ーーじゃあ包丁の持ち方とかも少し怪しいレベルで……?

そうですね。新入生の中で僕が一番下手だったと思います。

ーーそこから、なぜ料理人の道に進んだのでしょうか?何か料理というものに手応えを感じる出来事があったんですか?

具体的な出来事があったというより、人ですね。お笑いの相方が見つからず、どうやって芸人になれるかもわからないとき、バイト先のオーナーに社員にならないか声をかけていただきました。その人のことも好きだし、料理も嫌だと感じたことがない。「この人が誘ってくれるなら、一緒に働いてみようかな」と思ったのが始まりでした。

それから実際にお店で働く中で、先輩たちの仕事ぶりや考え方に触れて、「自分もこうなりたい」と感じて、だんだんと料理の世界にのめり込んでいきました。

ーー料理人の方々とのご縁や、彼らの理念が水田さんの心を動かしたんですね。

そうですね。でも、料理自体も性格的に向いていたんです。今でも覚えているのが、居酒屋で春巻きを50分間くらい巻き続けたときのこと。ひたすら春巻きを巻くのが全然苦にならず、「最初からけっこうキレイにできるもんだな。こういう細かい作業、自分好きやな」と感じました。

ーー始めは成り行きだった料理人の道が、意外な天職だったんですね。初めて友人に振る舞った料理は回鍋肉だったとか。

19歳のとき、調理学校時代の夏休みですね。雑誌に載っていたレシピをそのまま作っただけだったんですが、バクバク食べて、おかわりまでしてくれた。人に振る舞うよろこびを覚えた、一生の思い出です。

出張多めなので、使い切ることができる量を意識して買い物

img_nanitsuku_025-04

ーー水田さんは芸人として多忙なスケジュールを送っていますが、自炊もしていらっしゃるんですか?

以前は、出先で食べるか、後輩と飲みに行っちゃうかで、月に1〜2回しか自炊できていませんでした。今は週2、3日くらいかな?家で食べる機会がだいぶ増えました。簡単な料理で済ませることが多いですが、時間があるときはミートソースを作ったりしますよ。母親がミートソースを作るのが上手で、子どものときから大好物なんです。

ーー「時間があるとき」ということは、じっくり煮込む系のミートソースですね。

 そう。「今日は4時間くらいは料理の時間取れるな」ってときは、玉ねぎとにんじんとセロリをスーパーで買ってきて、40〜50分飴色になるまで炒めて、なんやかんや3時間くらい煮込んで。

ーー和牛はロケや大阪〜東京の行き来など、出張が多いですよね。毎日自炊するのは難しい中で、食材の管理はどうしていますか?

しっかりスケジュールと相談して、使い切ることができる量と食材を計算して買います。「大阪に4日間行く予定あるし、これを今買ったら傷んじゃうな」とか。よく買うのはトマトとアボカドです。栄養もあるし。

ーーあれ?トマトとアボカド、どっちも足が早い食材じゃないですか?

一回で結構な量を食べるんで、問題ないですよ。キムチと和えたりとか、塩昆布やオリーブオイルをかけたりとか。すぐ使い切っちゃいますね。

おすすめの素麺アレンジは、「麺つゆにポテサラ」

img_nanitsuku_025-05

ーー水田さん、下積み時代によく作っていたメニューはありますか?

お金がないときは、豆腐より食べごたえがあって安いので、よく厚揚げを使っていました。豚、もやし、ニラ、そこに厚揚げを加えて炒めると一気にお腹がふくらみますからね。

ラクしたいときは、いただき物の素麺をよく食べています。麺つゆだけだと飽きるから、麺つゆにポテトサラダ入れたりしてます。

ーー麺つゆにポテトサラダ!?想像つかないです。

一時期、ベジポタラーメンって流行ったじゃないですか。ポテサラを麺つゆに溶くと、ベジポタっぽい感じになっておいしいんです。コンビニで売ってるような、普通のポテサラで大丈夫ですよ。

ーー試してみます!そういうアレンジは、どうやってひらめくんですか?料理人の勘でしょうか?

勘……なのかなぁ?テレビや漫画で見かけたものを自分なりに再現できないか考えてみることは多いですね。

ごはん系の漫画はあまり読まないんですが、それ以外の作品でもおいしそうな食事シーンってあるじゃないですか。将棋漫画の『3月のライオン』(作:羽海野チカ)にすごくおいしそうな具だくさんのつけ汁の素麺が出てくるんですよ。ちょうど家でナスの揚げ浸しを作っていたから、「あと豚焼いて、しそを千切って揚げ浸しと混ぜたら、似た感じになるやろな」と試してみたら、めちゃくちゃおいしかったです。

ーー「これやってみたら、どうだろう?」という小さな楽しみを日常の食事で実践しているんですね。

「どうせならおいしいもの食べたい!」という食いしん坊の気持ちが、面倒くささに勝つんですよね。

大型スーパーに行くと、塩のコーナーだけで2時間うろうろ

img_nanitsuku_025-06

ーー水田さんの推しスーパーはありますか?

前に住んでいたところでは、「まいばすけっと」によく行っていました。遅くまで開いているので、仕事帰りでも寄れますからね。店舗もキュッとまとまってて、好きです。

 僕、食材があればあるほど迷っちゃうんですよ。大きなスーパーに行くと、塩のコーナーだけで2時間見ちゃう。炊飯器のコーナーに4時間いたこともあります。僕みたいなタイプは、小さいスーパーのほうが食材で迷わずに済むからありがたいです。

ーー選択肢がある程度絞られているほうが献立も組みやすいの、わかります。調理器具は何か特別なものを使っているのでしょうか?

一人暮らしにしては食器や調理器具は多いですが、皆さんが想像するほどではないと思います。料理人時代に使っていたもので事足りるから、便利だと感じるものがあっても自分で買うまでには至らないというか……。

でも持っている調理品の中で、まな板は唯一の便利系かもしれません。隅っこにおろせるスペースがついているヤツで。手軽なので、生姜とかもチューブのは買わず、その都度おろしています。あと持ち手の端で包丁を砥げるようにもなっているし、しかも両面使えるから、肉・魚と野菜で分けられるんですよ。

ーー便利!そういえば、水田さんは愛媛出身ですよね。地元を思い出すための料理や食材のようなものはありますか?

ほたるじゃこなどの小魚をすり身にして揚げた「じゃこ天」は、ロケで愛媛に行くたびに絶対買って帰ります。あと、ちりめんじゃこは実家の食卓で毎朝出ていました。ふりかけみたいに白米に乗せて、ちょっと醤油を垂らして食べるんです。大人になってからは晩酌のおつまみにもしています。

ーーちりめんじゃこの、おすすめのアレンジレシピはありますか?

刻んだ大葉とゴマと白ごはんとじゃこを和えるだけで十分おいしい。熱々のごはんと混ぜると、じゃこが蒸されて柔らかくなるんですよ。おにぎりにしてもいいし、炒め物とかパスタに入れても出汁が出ますし、じゃこは全然飽きません。愛媛のじゃこはおいしいですよ!

ーー愛媛県民として、じゃこがソウルフードというか、DNAに刻みつけられているんでしょうか。

そうそう、好き好き言っているからか、高級釜揚げしらすをいただいたこともあります。二段の木箱に入った、良いしらすでした。芸人仲間をたくさん呼んで、普通では考えられないような大量のしらすを入れてパスタを作ったのを覚えています。みんな喜んでくれて、うれしかったなぁ。

料理が上手くなるためには、同じものを淡々と作り続けるのが大事

img_nanitsuku_025-07

ーー料理って自分一人のためだと、どうしても面倒さを感じてしまうこともあると思います。水田さんは、どうして料理を楽しめるんでしょうか。

素直に「自分の身体を大切にしたい」という気持ちからですね。自分で作ったほうが「今この栄養摂っておきたいな」ってものを自由に選べるし、糖分や塩分も制限できます。自分の身体やから、ちゃんと大切にしてあげたい。体を壊すと仕事に支障が出ちゃいますから。

ーー仕事で第一線を走り続けているからこそ、自分の健康と向き合うことを大切にしていらっしゃるんですね。でも、たまに欲望そのままのジャンクなものを食べたくなりませんか……?

ありますあります。僕、袋の焼きそばが子どもの頃からめっちゃ好きなんですよ……!昔は週に2〜3回食べていたんですが、みるみる太ってきたので今は月に1回だけにしています。特に具を足したりもせず、あのインスタントのジャンクな味をそのまま味わっていますね。あの粉の味がおいしい!

ーー元料理人で、おいしいものをいろいろ食べてきた方がインスタントも大好きだと、自分の食生活もちょっと肯定されたような気持ちになります(笑)。

僕、袋の焼きそばは一生好きだと思います!

ーー未経験から料理人になった水田さんに聞きたいんですが、どうすれば料理への自信を積み重ねることができると思いますか?

後輩とかに「料理ができるようになりたい」と相談されたときは、「同じものを作り続けたほうがいいよ」とアドバイスするようにしています。

img_nanitsuku_025-08

毎回違うメニューを作ろうとすると、毎回わからないところからスタートするからしんどい。でも、何度も同じ料理を作っていると、だんだん慣れて、上手になっていきます。最初はレシピにつきっきりでも、毎週その料理を作っていたら、たぶん4回目くらいで身体が覚えてくるんですよ。そうなると、料理の煩わしさがだいぶ減ってくると思います。

ーーたしかに。料理人さんもずっと同じ工程を何度も修行されますよね。「メニューのバリエーションを増やさなきゃ」と悩みがちですが、同じものを作り続けたほうが結果的には料理のレベルが上がるんですね。

そうそう。食材ロスも出ないし、4〜5種類で回していれば栄養の偏りもないだろうし、罪悪感を覚える必要はありません。それで家族に文句言われるようだったら、僕なら怒り返しますし、そもそも怒っていい場面です。「だんだんおいしくなってるんだから、ちゃんと見ろよ!」って(笑)。

ーー本当にその通りです(笑)。和牛といえば、漫才。同じネタを舞台で繰り返し、賞レースに向けて研ぎ澄ましていくと思います。料理とお笑いの共通項はありますか?

洋食屋で働いていたとき、店の味を守るために、いつも変わらないデミグラスソースを作り続けていました。だからといってソース作りをルーティーンみたいにこなしているわけではなくて、毎日きっちりソースに向き合って作っている。だからこそ、ブレずにおいしいソースをずっと提供できるんです。「どこかでサボると、すぐブレる」というところは、漫才も料理も似ているかもしれません。

ーー料理でもお笑いでも積み上げてきた方の言葉は、説得力がありますね……!最後に、何か食べ物関係のお仕事での野望はありますか?

いや~、仕事は食べるだけがいいです。作っているとボケにくいんですよ!料理のほうに頭がいっちゃうし、「食べ物でふざけちゃいかん!」とか考えて、芸人としての良さが出ない(笑)。だから、自分では行けないようなお店、行列のお店に食べに行ける仕事がうれしいですね。食べる専門がいいです!

img_nanitsuku_025-09

この記事をシェアする

取材・編集:小沢あや
原稿協力:原田イチボ@HEW
撮影:曽我美芽

アイスム座談会