自炊はアウトプット欲を満たせる「実験」の場ーーゲスの極み乙女。・休日課長さんのおうちごはん

きのう何作った?

PEOPLE
2021.09.20

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ゲスの極み乙女。、DADARAY、ichikoroなど、複数の人気バンドでベーシストとして活躍する休日課長さんは大の料理好き。初のレシピ本は『ホメられたい僕の妄想ごはん』としてドラマ化され、話題です。一人暮らし生活の中で、どのように料理を楽しんでいるのでしょうか。

お話を伺った人:休日課長さん

ベーシスト。音楽活動の合間にTwitterやInstagramに日々の自炊写真をアップしている。2021年9月22日にはDADARAYとしてのメジャー2ndフルアルバム『ガーラ』をリリース予定。

喜んでもらえると、もっとおいしいものを作りたくなる

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ーー休日課長さんの料理へのめざめはいつ頃でしょうか?

大学3年生の時に一人暮らしを始めてからですね。学生時代はあんまりレパートリーがなくて、とにかくカレーにこだわっていました。最近はカレーにこだわる人も増えてきたけど、当時はまだそれほど流行っていなかったと思います。浅草までスパイスを買いに行ったりしていました。

ーースパイスって、学生にとっては結構高価じゃないですか?

お金をかけるところが、スパイスしかなかったんです。お酒を飲むのも少人数でしっぽりやることが多かったですし、当時は家賃が2万5千円だったので……。

ーーお手頃ですね!

はい。当時は小金井の、風呂なしトイレ共同のアパートに住んでいました。それなのにカレーはスパイスから仕込むという……。今思えば、すごく変なバランスで生活していた気がします。

ーーその頃は、どれくらいのペースで自炊していたんでしょうか?

今もそうなんですけど、自炊をたくさんやる時期とまったくしない時期があるんです。僕、自炊と外食どちらも好きで。自炊したい時期には毎日のようにやるけど、外食したい時期は外食ばかりですね。

ーーなるほど。人によっては、自炊に対する意欲を保ち続けることって結構難しいと思うんです。休日課長さんにとって、料理のモチベーションはなんですか?

人に食べてもらって喜んでもらうことですね。その対象は、自分でもいい。そのために日々、一人で食べる時も自炊でいろいろ「実験」するというか。ふるまった手料理を人に喜んでもらえると、もっとおいしいものを出したくなるんです。あとは、ちょっといい調理器具などもモチベーションになりますね。

ーーどんな調理器具を?

スライサーとか。ただチーズを削るだけなのに、あるだけでごはんがめっちゃうまそうに見えるんですよ。最近、いろんな種類のスライサーがあることを知って買ってみたんですけど、使うだけでも本当に楽しくて。

ーー休日課長さん、もしかして、合羽橋の道具街とかお好きなのでは?

合羽橋はもう、見てるだけで楽しめますよね!最近は雑誌でも、かっこいい調理器具にフォーカスを当てた特集があるじゃないですか。そういうのを見ながら「これ買って、ああいうごはんを作ってみたいな〜」と考えるのは、やっぱり楽しいです。

ーーわかります!休日課長さんのような音楽家の場合、ツアーなどでしばらく家を空けることが多いですよね?食材管理など大変だと思いますが、そのあたりはどうしているのでしょうか。

最近は体重に気を遣っているのであまりやらなくなったんですが、以前は「オムライスセット」を作って冷凍していました。

ーーオムライスセット?どんなものでしょう?

細かく刻んだ野菜をジップロックに入れておいて、ごはんと炒めてケチャップをかければすぐにオムライスが食べられるセットを作っていたんです。これ、いろいろと応用が効くんですよ。何にでも化けられるから。

ーーすごい、クリエイティブですね!他にもいろんなセットがあるんですか? どんな野菜を使っているのか、詳しく知りたいです。

「チャーハンセット」もあります。中身は基本、ピーマンとねぎのみじん切り。そこにマッシュルームを足せばオムライスセットになるんです。いろんな組み合わせで使えるように、いくつかストックしていました。

ーーマッシュルームを足すの、さすがです。

マッシュルーム、うまいですからね。僕は薬味も好きで、青ねぎと白ねぎはみじん切りにして常に冷凍庫に入れてあります。味噌汁って、ねぎを入れるだけでも成り立っちゃうじゃないですか。ねぎは使用範囲が広くて身体にもいい、つぶしが効く食材ですよね。

飽きっぽい性格だからこそ、いろんな角度から日々の料理を楽しみたい

ーー休日課長さん、推しスーパーはありますか?

最近ハマってるのは「九州屋」。普通のスーパーよりちょっと高いけど、野菜が本当においしいんですよね。魚は魚屋さん、肉は肉屋さんで買っています。

ーーお料理通として、お店選びは何を重視していますか?その場のコミュニケーションか、商品の質なのか……。

いや、僕はまったくコミュニケーションを取らないので(笑)、ただ見て、決めます。よく行く魚屋さんはスーパーに近い雰囲気のお店なんですけど、結構おもしろい魚があるんです。ショーケースに並ぶ魚を見ながら「今日何食べよっかなー」って。

ーーなるほど、先に食材があって、そこから何を作ろうか考えるんですね。

そうですね。食材から始まることもあるし、最近は食に関するドキュメンタリー番組に刺激されることもあります。インスピレーションの受け方は日によって違っていて、あまり一貫性はないかもしれないです。たぶん、僕にはスタイルがないんですよ(笑)。ただただ、好奇心だけでやっているから。

ーーでも、効率的な冷凍オペレーションを作ったり、スーパーでまとめて買うのではなくバラで食材を買って楽しんだりしているわけですよね。

自分でも多重人格なんじゃないかと思うことがあるんですけど(笑)、根本としては飽きやすい性格なんです。常に料理で挑戦的なことがしたいわけではないので、手を抜きたい日には、先ほど話したオムライスセットみたいなものを使います。それでもやっぱり、週に1回か2回は料理で挑戦したいモードになる日があるんですよね。そういう時は普段行かないお店……チーズ専門店に行って刺激をもらってから何か作るとか、そういう風に料理を楽しんでいます。

ーー研究者気質なんですね(※休日課長さんは理系の大学院で修士卒。卒業後は大手メーカーで3年間のサラリーマン経験あり)。ちなみに、ネットスーパーは使いますか?

おまかせで旬の食材が届くサービスを使ったりもしています。毎回想像もしなかったものが届くんです。調理方法がよくわからない食材を「これは、どうしたもんかな……」と考えながら試行錯誤するのがおもしろくて。さっきも言ったように、僕には型がなくてしっちゃかめっちゃかだからこそ、いろんな角度から楽しめるのかなと思っています。

ーー最近、9カ月で約16キロものダイエットに成功したことが話題になっていましたよね。減量や身体作りの知識を得て、食に対する考え方は変わりましたか?

以前は炭水化物ばかり食べていたんですけど、これまで食べてこなかった食材を試してみようという気持ちが強くなりました。野菜をどう組み合わせるかかなり意識していて、最近ではむしろ野菜が主役になっています。あとは、玄米を食べるようになりました。白米の代わりというより、白米とは別のおいしいものとして食べている感覚です。

ーー今、冷凍庫の中にはどんなものが入っているんでしょうか?

今はお取り寄せしたものがたくさん入っています。しらす、明太子、からすみ……。

ーーからすみ!どうやって使うんでしょうか?一般家庭ではあまり使わない食材な気がします。

僕も以前は得意じゃなかったんです。祖父の好物で、小さい頃たくさん食べさせられたから苦手になっちゃったんですけど、ある時から急に大好きになっちゃって。贅沢品だからしょっちゅう食べているわけではないけど、解凍して切って食べるもよし、パスタに使うもよし、結構なんにでも使えるんです。

一見、結びつかない食材を合わせてみるのが好き

ーー休日課長さんのSNSにはおいしそうな料理の写真がたくさんアップされています。器をお盆に乗せているのも、素敵ですね。

「今はごはんの時間だよ」というメリハリをつけたいんですよね。それでお盆を使っています。今は作業場で食事を取ることが多いんですが、シンプルなIHの2口コンロしかなくて、食べるところも作業机で。

ーーキッチン収納や調味料などもシンプルなんですか? 

コンロの周りには、本当になにもないです。昔はコンロの横にもいろいろ置いていたんですけど、全部撤去しました。調理しない時は、何も置かないようにしています。調味料や食材のストックはスチールラックにまとめて入れていますね。

ーー食器のバリエーションも豊かですよね。

最近はネットで作家さんのものをチェックするのが楽しいです。素敵な器を見ると「この器でこういう料理を作ってみたいな」とモチベーションが上がるんです。白金台にある器のセレクトショップ「雨晴」に行くのも好きです。

ーー個人的に、ポキ丼やナポリタンを乗せている食器がどこのものか気になります……!

中目黒の「SML」で買いました。和洋中、使い勝手が良くてお気に入りなんです。箸置きなどの小物系やキッチン用品は、いつか彼女ができた時のことを妄想してつい買ってしまいますね……。

ーー妄想といえば、休日課長さんの妄想ポストに以前から注目しています。昔はもう少し独身自虐的だったのに、最近はポジティブな妄想が多い気がします。何か、ご自身の中で変化があったのでしょうか?生活が満たされて、心が整っているとか。

それは……特に意識していなかったので、自然とそうなっていたみたいです。でも満たされてはいないですね。うん、はい、まったく満たされてはいないです。満たされては……いないです……。

ーー……す、すみません、開いてはいけない扉を開いてしまったようで……。

いえいえ(笑)。話を戻すと、最近は作業場でさくっと料理することが多いので、シンプルな環境でいかにおいしいものを作れるかを試していますね。

ーーその発想はおもしろいですよね。休日課長さんのファンには一人暮らしの大学生や新社会人も多いと思いますが、狭めのキッチンでも簡単に作れるおすすめの料理があれば教えてほしいです。

そうですね……いろいろあるんですけど……(しばし考え込む)。宣伝みたいになっちゃって恐縮なんですけど、『ホメられるとまた作りたくなる!妄想ごはん』の中でリュウジさんとの妄想対決で披露した「超速キーマ」は本当におすすめです。

ひき肉、しいたけ、ピーマンを調味料と一緒に炒めるだけで、5分くらいでできちゃうんですよ。手軽でスタンダードなメニューだけど、山椒をかけたりしてアレンジしてもおいしいし。

ーー簡単そうだし、おいしそう……!今、さらっと「山椒」が出てきましたが、「これさえあればおいしくなる」おすすめの調味料はありますか?

ウスターソースがあるといいですよね。僕、ナポリタンには必ずウスターソースを入れるんですけど、ケチャップライスにかけてもいいし、洋食系には何にでも合います。オイスターソースもおすすめですよ。どちらも味に奥行きがない時、なにか物足りなさを感じる時にプラスすると、それだけで成立しちゃうんです。学生時代、ナポリタンを上手に作りたくていろいろ試している時に思いつきました。

ーーそんなに使えるんですね!ウスターソース、余らせちゃうことが多いので早速試してみます。こうした日常使いの調味料がある一方で、塩トリュフのようなちょっと贅沢な調味料も常備されてますよね。「ちょい贅沢調味料」のおすすめはありますか?

ちょい贅沢か……あっ、これは結構贅沢品なんですけど、バルサミコ酢!焼いたステーキ肉にかけてもおいしいし、サラダにかけてもおいしい。焼いた野菜にも合います。料理がマンネリ化した時にドレッシングと混ぜて使うと、コクが出て一味変わるのでおすすめです。僕が常備しているのは、アチェートモデナのスプレーモ。ちょっと高いけど、とろっとしててうまいんですよ!

ーー(調べながら)えっ、すごいおしゃれですね!

そうなんです!質の高いバルサミコ酢って本当においしいんですよ。いろいろ試したけど、僕はこの6年熟成のスプレーモが一番好きで、これ一つだけを家に置いています。話していて気付いたんですけど、調味料からインスピレーションを受けることも多いかもしれません。バルサミコ酢を使ってみたいからステーキを焼く、というのはまさにそれですよね。

ーー見た目がワインみたいですね。25年熟成で2万円のものも……。

なかなかの高級品ですよね。ほかにも、いろんな道具や食材の専門店をネットでチェックしています。最近、ナッツの専門店「Groovy Nuts」にハマっていて、ナッツを使った料理を考案中です。まずは揚げ物の衣に混ぜてみようかな、とか。

ーーその発想はなかったです!おもしろいですね。

これまで自分が試したことのない食材同士を合わせてみるのが好きなんですよね。そう言えばこの前、千疋屋のトマトジュースをカッペリーニにしたらおいしかったな。今はがぜん、GINZA SIXに新しくできた「EATALY」が気になっています。珍しいイタリア食材が、たくさん入ってるらしいんですよ。

料理はアウトプット欲を満たせるもの

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ーーここまでお話を聞いていて、「オムライスセット」のように効率的な運用をしながらも、「自分をいかに楽しませるか」のモチベーションが尽きないのが素敵だと思いました。自分のための楽しい食事を大切に、追求していることが伝わってきます。

いやいや、そんな……。でも料理って、思いついたらすぐに試せるのがいいんですよね。必要なものはだいたいスーパーで手に入るし、簡単にアウトプットできる。アウトプット欲を満たせることが大きいんですよね。それでいてリフレッシュにもなる。食べることも好きだし、僕にとって料理は精神衛生上、大切なものなんです。

とはいえ、一人だと寂しいので、料理の時はドラマを流すことが多いです。人がそこにいるように感じられるし、一緒に食べているような気持ちにもなるので。ラブストーリーを見ることが多いですね。

ーー最後に、ちょっとベタな質問をさせてください。音楽と料理、共通することはなんだと思いますか?

個人的には音楽は料理では表現できないし、料理は音楽では表現できない気がしますが、共通して意識しているのはバランスを取ることですね。とくに、ベースを弾いてる時は「周りの楽器がこうだから、自分はこう」と考えることが多いんですが、僕にとっては料理も同じ。すべての食材のバランスを取ってやるのが大事だと思っています。それは決して慎重になれということではなく、時に大胆にぶつけ合ってみたり。まあ結局、どっちも楽しむのが一番ってことですかね(笑)。

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取材・編集:小沢あや(ピース)
構成:山田宗太朗

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