料理では、あえて「無駄」な時間を確保する――高橋優さんのおうちごはん

きのう何作った?

2022.03.23

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シンガーソングライターとして活躍し、地元の秋田県では野外音楽フェスの主催もしている高橋優さん。昨年の全国ツアー中は冷凍玄米を持参していたという高橋さんに、普段の食事やおすすめの地元グルメなどを伺いました。

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お話を伺った人:高橋優さん

1983年12月26日生まれ。秋田県横手市出身。大学進学と同時に路上での弾き語りを始める。メジャーデビュー前の2010年4月、「福笑い」が東京メトロCMソングとして抜擢され話題に。今年2月には、デビュー10周年を記念し『高橋優 10th Anniversary Special 2Days 「弾き語り武道館〜黒橋優と白橋優〜」』を開催した。

全国ツアーには、玄米と鶏胸肉を持参

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ーー高橋さんは、昨年から今年1月にかけて行われていた全国ツアー中、各所でその土地産のお野菜の写真をSNSにアップされていましたね。

僕、朝ジョギングする習慣があって。そのジョギングで行ける範囲のところに「道の駅」などがあれば行って、現地の野菜を購入していました。

ーーツアー中だと、その野菜をすぐに料理するのはさすがに難しいですよね?食事はどんな風にされていたんでしょう。

玄米を炊いて一食分ずつに分けたものと、低温調理した鶏胸肉のスライスを、冷凍して持って行ってましたね。大きなスポーツバッグの半分ぐらいにクーラーボックスを詰めて、そこに入れて。食べる分だけ解凍するんです。

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A4サイズぐらいの保冷剤を二つ入れていたので、ホテルに着いたらまず保冷剤をフロントに預けるっていう(笑)。他にも、その地域のご当地グルメを調べて、一人で食べに行ったりもしていました。

ーー習慣は維持しつつ、その土地ならではのものも楽しむ、という感じでしょうか。

そうですね。ローカルスーパーにもよく行きます。ツアー中はスタッフに、その地域の有名なお菓子などを差し入れていたんです。秋田県湯沢市で公演があった時には、スーパーで売ってる寒天のお惣菜を差し入れました。みんなに食べてもらいつつ、「秋田県民はなんでも寒天で固める」っていう文化を教えよう、と(笑)。

大好きなお酒をやめたら、インプット時間が増えた

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ーー高橋さんが自炊を始めたのは、いつ頃ですか?

よくキッチンに立つようになったのは、去年からです。きっかけはスタッフが教えてくれた野菜スープでした。社会がこういう状況になって、まずは自分の体を整えておくことが一番大事なんじゃないかと思ったんですよね。僕は歌が仕事なので、体のコンディションがよければ歌の調子もよくなって、いいことだらけですし。

それまではめちゃくちゃ外食してたんですが、大好きなお酒も去年からやめて。添加物なども抜いてみて、どういう風に体が変化するのか見てみようと思い、自炊も始めました。玄米を食べ始めたのも去年です。

ーー他には、どんな料理から自炊をスタートさせたんでしょう?

玄米と、味噌汁と、鶏胸肉の低温調理。ほんとそれぐらいです。あとは、カレーがとにかく好きなんで。味噌汁の味噌を入れる代わりに、スパイスをいろいろ買ってきて、ターメリックやクミンなどを入れてみてました。

ーーお味噌汁の具は、どんなものを入れるんですか?

定番は、かぼちゃ、白菜、にんじん、キャベツ、玉ねぎ。「味噌汁が僕の栄養源だ」と思って、「食べるスープ」というニュアンスで作っていました。最近はちょっと作れてないんですが、夜、一日の締めとして食べることが多いですね。

ーー高橋家のお味噌汁は具材たっぷりなんですね。お酒をやめると、食生活って結構変わりませんか?ごはんを食べる量が増えるとか(笑)。

そうそう!僕はビールが大好きだったので、代わりにウィルキンソンとかの炭酸水を飲むようにしました。それでも口が寂しくなったんで、フルーツを食べるようにもなりましたね。

スーパーの果物コーナーにあるカットパイナップルとかを、3パックぐらい必ず冷蔵庫に補充しておいて、何か欲しくなったらフルーツを食べる。まあ、お酒を飲むのと比較したら、安いもんじゃないですか。

ーーそうですね。私はお酒を飲まない期間、「あれ、夜って長いな?」と思ったんですが、高橋さんはどうでした?

夜、長いです。でも、夜長いのは…嬉しいじゃないですか!僕は飲みに行く機会がなくなって、インプットする時間が増えたんですよ。ラジオを聴いたり、映画を観たり、本を読んだり。それで、観たものの話をライブですると、皆さんが共感してくれるんです。

それに、飲まないと朝も時間に余裕ができる。その時間に走ったり、玄米を炊いたり、野菜を切ったり。僕の場合は、お酒を飲むとバカな話ばかりして、無駄で不毛な時間を過ごしちゃうんで(笑)。お酒をやめたら、有意義な時間が増えました。

買い出しは頻繁に行って、新鮮なものを

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ーー自炊を始めてしばらく経った今、高橋家の定番メニューはありますか?全国ツアーにも持参した、玄米と鶏胸肉が食卓の中心なんでしょうか。

そうですね。低温調理器に入れるだけで、鶏胸肉はふわふわでおいしくなるので、玄米と一緒にほぼ毎日食べてます。それに納豆と、たまにキムチ。お食事、もうそれだけで成立しちゃいます。たまにお惣菜を買うのも好きです。

あとは、毎朝コールドプレスジュースを作って飲んでます。まあまあな量の材料をミックスではなくプレスして、そこから出たものだけを飲むから、結構セレブドリンクなんですけど(笑)。

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ーー(笑)。ジュースにはどんな材料を使うんですか?

にんじん、りんご、レモン、小松菜かほうれん草と、ブルーベリー。この材料は必ず冷蔵庫に入ってます。買ってきた翌日までには飲んじゃうので、冷凍ではなく冷蔵保管してますね。

ーーとなると、買い出しにも頻繁に行くことになりますよね?

めっちゃ行ってるんで、スーパーの店員さんは全員、僕のこと覚えてると思います(笑)。中でも「成城石井」は、夜も遅くまで開いているから嬉しいですね。

ーーどちらかといえば、日々同じことを淡々と続け、積み重ねていくような生活スタイルなのかなと感じました。ちょっとハメを外すごはんの日も、あるんでしょうか?

あぁー…ハメ外す時はヤバいですね(笑)。3か月に1回ぐらい、ジャンクなものだけ選んで食べる日もあります。そういう日は、自分で作らずUber Eatsか、ファストフード店に駆け込むか、です。

ハメを外した日に「あぁ、食べちゃった」って思うと、後味が悪いし、食べ物にも失礼だと思うんですよね。だから「食ってやった」「このあと俺、腹痛くするんだ」ってところまでセットで考えてます。「きっと夜中の3時ぐらいに、腹をくだして『うぅーっ』ってなるんだろうな」って。その時に読む漫画とかまで決めときます(笑)。

秋田ならではの食材といえば?

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ーー高橋さんは、地元秋田県でフェスを主催されたり、秋田県の魅力を発信するフリーマガジンを作成されたりもしています。ぜひ、秋田県ならではの食べ物についてもお聞きしたいです。

調味料なら、「しょっつる」ですかね。ハタハタを塩に漬けて、出汁をとって作る魚醤で、普通の醤油よりかなりしょっぱいです。それから、「味どうらくの里」。これは追いがつおつゆみたいに使えるんですが、ちょっと甘みが強くて、なんにでも合います。

ーー味付けとしては結構しっかりめが、秋田の特徴なんですかね?

そうですね。僕自身も濃い味が好きで、以前は納豆を食べる時も、付属のタレにさらに味付けを足しちゃうぐらいでした。

でも、全国ツアーの時に各地の納豆を買って食べてみたら、「納豆は、豆本来の味がうまいんだ!」って気づいて。食生活を変えたら、だんだん舌が敏感になってきたんでしょうね。今は風味を感じつつ、付属のタレだけで食べるようになりました(笑)。

ーー普段の食事次第で、味覚も変化していくんですね。秋田名物で、「これはぜひ食べて欲しい!」というものはありますか?

「じゅんさい」ですかね。ちょっとぬるっとして海藻のような食感の、秋田県三種町の特産品なんです。沼に植えて作る植物で、桶みたいなものに乗って採るのが結構楽しいんですよ。栄養も豊富ですし、ぜひ食べてみて欲しいです。お土産コーナーにも売ってますよ。

ーーじゅんさい、初めて知りました。高橋さんが過去に話されていた、「とんぶり(ほうき草の実を加工したもの)」も、私には馴染みがなかったです。

とんぶりは「畑のキャビア」と言われてますね。あれは万能で、ごはんにのせてもおいしいですし、大根おろしがわりにお魚の上にのっけてもおいしいんです。醤油とか、何かしらの調味料をかけて食べますね。

他に、東京ではあまり食べられないものといえば「せり」ですかね。秋田では、きりたんぽ鍋やしょっつる鍋、比内地鶏鍋がメジャーなんですが、必ずと言っていいほど、せりが根っこから入っています。それが甘くておいしくて。もはや鍋の主役はせりだと思ってます。

子どもの頃はあの独特な匂いが苦手だったんですけど、大人になるにつれて、「あれが秋田の味だったんだ」って実感する機会が増えました。今はせりだけの鍋でもいいくらい好きです。せり鍋は、食べると「秋田に帰ってきたなあ」と思いますね。

よく味見するのが失敗しないコツ

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ーー高橋さんは料理中、よく味見をするそうですね。

めっちゃ味見します。完成した時に量が減ってるぐらいします。料理が得意じゃなくても、味見さえしておけば、ある程度おいしいものは作れるじゃないですか。それが失敗しない一番の方法だと思ってます。

ーー途中で「あれ、これ思った味と違うな?」と思った時に、便利な調味料ってありますか?

オイスターソース。これを入れたら、大体おいしくなりますよね。僕は無添加のものを使っています。あとは味噌かな。味噌も無添加が好きで、なんとなく製造者さんの写真付きのものとかを、スーパーで買うようにしてます。「自然食品F&F」でもよく調味料は買いますね。

ーー2020年リリースの『フライドポテト』という曲の歌詞には、わりとジャンクな食べ物が並んでいましたが、今はすっかり無添加志向なんですね。

あの曲を書いてた時は真逆の食生活でした。「Uber Eatsで、ファストフード店のメニューを上から下まで全制覇しよう」とかやってましたね(笑)。

ーーいろいろな食生活を経て、今のスタイルがある、と。

そうですね。玄米と鶏胸肉を食べ、時間があればお味噌汁を作って、朝は野菜ジュース。このスタイルは合っているようで、続いてます。

ーー食生活を変えてみて、楽曲創作にもポジティブな影響はありましたか?

あ、そういえば。新曲『HIGH FIVE』のミュージックビデオは、僕が川沿いをまっすぐ歩いていく映像なんですよ。


スタッフから「歩く姿勢がすごく良くなっている」「立ち姿がきれい」と褒められました(笑)。

料理で「無駄」な時間を確保する

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ーー高橋さんは、年に200曲作ったこともあると聞きました。生活と制作は地続きかと思いますが、その中で料理する時間はどんな位置付けなんですか?

制作や音楽から完全に離れるブレイクタイムですね。わざとにんじんを縦に立てて、こう切ろうとしたり…(※ジェスチャーをする高橋さん)。

ーーあはは(笑)。普段と違う神経を使おうとしてるんでしょうか。

僕は、いかに「無駄な時間を無駄たらしめるか」が、すっごく大切だと思うんですよ。お酒を飲む時間もそうだったんですけど。

生きてたら、なんでも合理的にしなきゃならないじゃないですか。仕事なら時間の無駄を省くために、飛行機や新幹線に乗るだろうし。でも、僕はプライベートなら鈍行に乗りたいんですよ。時間をかけた移動自体を楽しめないなら、「今自分は病んでるな」と思うんです。

自分がこの忙しない時代に毒されちゃっている状態を認識していたい。だから、「あ、急いで生きてるな」「今焦ってるな」って思った時ほど、ちょっとアホっぽいことをするんです。にんじんを縦にして切ってみたり、やたら丁寧にお皿を洗ったり、生で食材をかじってみたり。

ーーじゃあ、食洗機とかも導入せずに。

しないしない。手洗いです。

ーーお酒を飲む代わりに習慣になった料理が、より有意義ではあるものの、いい意味で「無駄」な時間の確保にもつながっているというのは興味深いです。最後に、高橋さんの思う、仕事と料理の共通点って何でしょう?

何にもないところから音や言葉を引っ張り出す曲作りでは、どういう曲にするか想像するのがとても大事。「こんなライブで歌いたい」とか、最終形を考えることで言葉が出てくるので、イメージが曲の設計図になるんです。

料理にも、その設計図を広げるような作業がある気がしています。「これぐらいでいいや」って適当に作ることもできるけど、おいしく作ろうと思ったら、完成像をイメージする必要がありますよね。

ーーたしかに。曲作りと料理ですることは違えど、工程としては近い部分があるんですね

ものを作る時って、最後まで面倒を見てあげなきゃいけないものだと思うんですよ。料理も、片付けまで含めて最後までやることに意義があるというか…。途中でやめられないじゃないですか。その感覚が結構、曲作りに活きている気がします。

どこをゴールにするか自分で決められるのも、きっと料理のいいところ。完成までを想像するのも、想像できないままに何かが完成するまで作ってみるのも楽しい。それが、料理を続けるモチベーションになっている気がしますね。

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衣装:ジャケット¥60,500、パンツ¥42,900(共にmeagratia/税込価格/問い合わせ先:Sian PR 03-6662-5525)、その他スタイリスト私物

小沢あや

ピース株式会社 代表取締役。音楽レーベルで営業とPRを経験後、IT企業を経て、2018年に独立。エッセイのほか、女性アイドルやミュージシャン、経営者のインタビューを多数執筆。Engadget日本版にて「ワーママのガジェット育児日記」、「フリーランスな私たち」連載中。豊島区公認の池袋愛好家としても活動している。

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取材・編集:小沢あや(ピース株式会社)
構成:佐々木優樹
撮影:曽我美芽
ヘアメイク:眞弓秀明
スタイリスト:上井大輔

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