せっかく食べるなら、時間をかけてもおいしいものを。アインシュタイン河井ゆずるさんのおうちごはん

きのう何作った?

PEOPLE
2022.10.27

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お笑いコンビ「アインシュタイン」のツッコミ、河井ゆずるさん。YouTubeで自炊の様子を公開し、料理好きな一面が伺えます。しかし、本人にとって料理は「ただ生きるための術でしかない」そう。河井さんが料理を好きになった原体験や、リアルなおうちごはんについて伺いました。

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お話を伺った人:河井ゆずるさん

1980年生まれ。大阪府出身。2010年にNSCの後輩・稲田直樹さんとお笑いコンビ「アインシュタイン」を結成。2016年に「第1回上方漫才協会大賞」初代大賞受賞、2018年「NHK上方漫才コンテスト」最優秀賞受賞。2020年に活動拠点を東京に移す。劇場、テレビ、ラジオだけでなく、YouTubeチャンネル「YouTubeシュタイン」も更新し、幅広く活躍中。

「貧乏でも、食は豊かに」という母の愛。働く母のお手伝いから目覚めた料理

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ーー河井さんは子どもの頃から料理をされていたのですか?

そうですね。母親が喫茶店をやっていて、家にいなかったので、小学校3、4年生ぐらいから自分一人で卵焼きを作っていた記憶があります。

家には、母の店で使う食パンが常にあったので、ハムエッグを作って、パンの上に乗せて食べていました。小さい頃から、食への興味は高かったと思います。家庭科の授業でやる、調理実習も大好きでした。

ーー河井さんのご実家は、家計が苦しい時期も長かったそうですね。お料理する際も、食材コストは気にしていましたか?

買い物は母親がしていたので、僕自身はコストはあんまり気にしていなかったですけどね。ただ、母は「お金が厳しくても、ひもじい思いはさせない」と強く考えていたみたいなんです。もちろん、高級な食材は何一つなかったですけど、家族三人のお腹を満たせるぐらいの食材は、いつも冷蔵庫に入れてくれていました。喫茶店をやっていたので、その残りものとかもありましたね。

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ーー働きながらシングルマザーとして河井さん兄弟を育てていたそうですね。晩ごはんの準備も河井さんが担当することがあったんでしょうか?

最初はお手伝いのレベルだったんですけど、だんだん母も「コイツにやらせておけばええわ」みたいに思ったみたいで(笑)。僕が作ることも、徐々に増えていきました。母も仕事から帰ってから、ちょっとでも楽したいと思ったんでしょうね。

ーーご自身の中で「料理できるな」という手応えを感じた瞬間はありますか?

小学校4、5年生ぐらいのときに、焼き飯を作ったんですよ。それが全然おいしくなくて、とても悔しかったんです。おいしく作れるようになるまで、何度も繰り返し作っていました。

今みたいに、レシピを気軽に検索することもできない時代でしたからね。ほんまに塩、こしょう、うま味調味料、ちょっとの醤油で味付けして。何をどれぐらいの量入れたらいいか、ひたすら試行錯誤していました。そのうちに、感覚が掴めていったような気がします。

アルバイト先でまかないを作り続け、プロ並みのパスタが作れるように

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ーーYouTubeの「ゆずる’s キッチン」を拝見していても、料理の一手間を惜しまないですよね。自然にこなしている姿が印象的です。

飲食店で働いた経験が一番大きいですね。高校3年生のときに串焼き屋さんでバイトを始めたんです。その後、高校卒業してから本格的に働き始めたバイトのうちの一つも、レストランバーだったんですよ。

ーーレストランバー!おしゃれですね。

僕が18歳ぐらいのときは、大阪でもカフェバーが流行り始めた頃だったんです。南船場という何もないオフィス街に、ちょこちょこおしゃれなカフェバーが出来て。「なんとなくそういう、おしゃれなところで働いてみたいな、でもやるんだったらちゃんとしたところで働きたいな」と思って。面接に行ったら、たまたま受かって、まずはバーテンダーとして雇ってもらいました。

ーーバーテンダー経験もあるんですね。

お店のお客さんのほとんどは、サラリーマンのおっちゃんでしたけどね(笑)。そのレストランバーでは、パスタをメインに出していたんです。僕は接客がメインだったけれど、自分のまかないを作るときに、シェフがパスタの作り方をみっちり教えてくださったんです。そこから何度も練習したので、最後は僕が作ったパスタをお客さんに出せるくらいの腕前になりました。

ーーもともとキッチン担当ではなかったのに、随分がんばったんですね。

当時、店では僕が唯一のアルバイト。先輩たちも年齢が離れた方ばかりで、すごくかわいがっていただいたんですよね。おかげで、たくさんのことを教わりました。

ーーそのレストランバーで働いた経験が、今の料理の手際の良さなどに活きているのでしょうね。

そうですね。小さいお店だったので、スタッフそれぞれの動きも重要でした。「効率よくお店を回せるように」とずっと考えていたので、先を読んで準備をするクセは自然と身についたと思います。

2軒目はおうち飲みが定番。締めは土鍋の炊きたてごはん

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ーー河井さんは、お仕事で忙しい中でも、いつもごはんを土鍋で炊いていますよね。炊飯器の方が手軽だとは思うのですが、料理に時間をかけるようになったきっかけは?

単純に、同じものを食べるならおいしいものが食べたいなと思っているだけです。たとえば、土鍋が10万円とか20万円とかするものだったら、さすがに躊躇しますけど、そんなに高くないですから。むしろ、炊飯器と比較したら安いぐらいです。

それに、土鍋で炊くと、ごはんがめちゃくちゃおいしい。僕が使っている土鍋は、「長谷園」という有名な土鍋メーカーのものなんです。割烹や料亭でも、締めの土鍋ごはんは長谷園のもので出てくることが多いと思います。

火加減の調節が要らないので、炊飯器で炊くより楽なんです。お米を洗って、30分ぐらい浸水させて、15分から17分くらい炊いて、火を切って20分ぐらい蒸したらすぐ食べられます。

ーーフレンチトーストをつくるときも、パンを卵液にひたして一晩寝かせたり、パンを切るために包丁を温めたりとにかく一つ一つの工程を丁寧にされていますよね。

包丁を温めるのは、母が喫茶店でよくやっていたんですよ。それを見て、知っていただけ。

昔はパン切り包丁なんてそこまで普及していなくて、1本の包丁で魚も肉も野菜もパンも切っていたんです。切れ味が悪くなったら、陶器の裏で包丁を研いだりしていたもんです。ばあちゃんの知恵袋みたいなもんですね(笑)。

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ーー河井さんは外食もお好きですが、自炊とのバランスはどうとっていますか?

帰宅時間によって考えますね。夜遅くて、「お店に行っても閉店まで1時間もないなー」と思ったら、外で食べたい気分でも、諦めて家に帰って自炊します。逆に時間があったら、ちゃんと行きたいお店を調べて予約して、後輩とごはんを食べに行くことが多いです。

ーー後輩をおうちに呼んでホームパーティーをされることも?

そうですね、家で飲むこともありますよ。ごはんだけ外で食べて、2軒目に行く代わりに僕の家で飲んで、最後は土鍋で炊いたごはんで締めて…。

ーー締めに土鍋ごはんが出てくるなんて!すごいおもてなしですね!

飲んでたら、ちょっと小腹が減るじゃないですか。あと、よく出すのはフルーツですね。僕がフルーツ好きなので、グレープ、オレンジ、キウイなどをつまみにします。

ーーフルーツも常備されているんですね。体を整えるために、何か食事面で気にしていることはありますか?

口に入れるものがすべてだと思っているので、ジャンクフードは食べないですね。

ーーどんなに忙しくてもヘルシーなものを選ぶんですね。

そうですね。納豆とキムチはよく食べます。「今週は収録の関係でお弁当が続くな」と思ったら、現場に納豆とキムチを持参することもあります。あ、それからもずくと、オニオンスライスなんかもよく食べますね。僕はそういう、ちょっとしたことをあんまり手間に思わないのかもしれません。納得いかないものを口にしてストレスを感じるぐらいだったら、自分で作ろう、持っていこうと思うんです。

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ーー芸人さんはなかなかスケジュールが読みづらいお仕事ですが、食材の管理はどうしていますか?

スケジュールは1週間〜10日ぐらいのスパンでだいたい分かるんです。なので、自炊できる日に合わせて食材をまとめ買いして、きのこ類は冷凍保存したり、生野菜は早めに消費したり、消費期限が近づいてきたらお味噌汁やパスタに入れたりしてます。

ーーちなみに、河井さんの“推し”のスーパーはありますか?

大阪にいたときは、黒門市場に行ったり、デパートの地下に行ったりしてました。デパ地下は品ぞろえがいいし、質もいい。もちろん高級なものも置いてますけど、野菜なんかは普通のスーパーよりも安いこともあるんですよ。

今は引っ越してしまったんですが、中目黒に住んでいたときは、八百屋の「旬八青果店」で野菜を買っていました。それから目黒の「アトレ」でも生鮮食品をよく買ってましたね。

ーーお店の人とのコミュニケーションをとりながらお買い物をするんですか?

そうですね。八百屋さんとか肉屋さんとかに行く方が好きかもしれないです。それは、僕が大阪の天神橋筋商店街という、日本一長い商店街で育ったからだと思います。母の喫茶店は天神橋筋1丁目のところにあって、「漬け物屋さんでこれ買ってきて」とか「肉屋さんで何グラム買ってきて」とか言われていたんですよね。スーパーにも行きますけど、専門店で食材を買うのが好きなんです。

「人間の味覚の50%は視覚や」料理長の言葉で器にも気を配るように

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ーーここまで自炊をされているのに、河井さんからは「料理の仕事に繋げたい!」といった空気があまり感じられなくて。あくまで、淡々と料理されている印象があります。

正直、「料理に関する仕事をやりたい」という野心はまったくないんですよね。料理はただ生きるための術でしかないんです。僕の料理は、レストランバーで働いていたときに教わったパスタのメニューが中心。家で料理をふるまうと言っても、肉をタレに染み込ませて…という凝ったことはしないですから。

ーーたまにInstagramに自炊写真をアップされていますが、使われている器も素敵ですね。

ありがとうございます。そんなに器に詳しいわけではないんですけど、食器屋さんに行って、ええなと思ったらちょっとずつ買って集めてます。お酒用のグラスは、木村硝子の薄いグラスを使っています。本当にすぐ割れてしまうので、食洗機も使えないんですけど(笑)。

ーー食器を手で洗うことも厭わないわけですね。

今はテレビをスマホで見られる時代ですから。撮り溜めした番組を見ながら洗い物をしています。全然苦にならないですね。

ーー盛り付けも小皿に盛り付けていたり、工夫されていますよね。

レストランバーで働いてたときに、料理長から言われたんです。「人間の味覚の50%は視覚や」と。どれだけおいしい料理を作っても、安いお皿に入れたらその程度の味になる。逆に、安い材料で焼き飯を作っても、お皿が豪華だったらおいしく感じる。確かにそうだなと思って、盛り付けや器には気を配っています。

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取材・編集:小沢あや(ピース株式会社)
構成:五月女菜穂
撮影:西田優太

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