大家族、毎日がキャンプ

わが家の笑顔おすそわけ #36「料理の好きなところ苦手なところ」〜甘木サカヱさんの場合〜

LIFE STYLE
2023.05.03

冷蔵庫の中の食材をチェックして、今夜の献立を組み立てる。

昨日の残りのミートソースをじゃがいもにかけてグラタンにしようか。たんぱく質が足りないから、中途半端に残っている鶏のもも肉もグリルして。そうするとそろそろ使い切った方がいいキャベツはどうしよう。そうだ、にんじんと一緒に細かく刻んでコールスローにして、上にチキングリルをのっけてボリューミーなサラダにしよう。半分残っているカイワレものせて。いや汁物はどうする?やっぱりカイワレは朝の残りの玉子豆腐と合わせてコンソメスープの具にしようか。

考えがまとまったら材料を取り出す。

調理に時間のかかるメニューから取り掛かるのは、基本だけれど絶対ではない。さっと作って冷蔵庫で冷やしておいた方がいいもの。先に作って鍋を横へ避けておく汁物。焼き物の焼き上がりやパスタの茹で上がり、そして今夜のグラタンの焼き上がりは食べる直前のタイミングが最優先、そこは絶対に譲れない。

家族においしいものを食べてもらいたいという気持ちももちろんあるけれども、何よりも自分が、せっかく作ったものを一番おいしいタイミングで食べたい。根っからの食いしん坊だからこそ、家事の中でも料理を作ることだけはそんなに苦にならないのかもしれない。

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献立が決まっても、頭の中はぐるぐると忙しい。衛生面を考えると、生ものを扱うのは野菜を全部切り終えてからがいい。三口あるコンロを、限りある鍋やボウルを、いかに効率よく使い回すか。

今日はグラタンを焼くのにオーブンレンジで時間がかかるから、じゃがいもはレンジで蒸すのじゃなく茹でることにしよう。冷凍庫からピザ用チーズを取り出してほぐしておくのも忘れずに。ミートソースはグラタン皿で焼く前に軽く温めておこうか。

こうやって料理の手順を頭の中で組み立てながら、台所でクルクルと動いていると、まるで心地よいリズムに乗っているような気持ちになってくる。うまいこと手順がきれいにはまった時などは、例えば音ゲーでコンボが続いているような、脳内でエンドルフィンがどんどん分泌されているような興奮と多幸感すら味わえる。グッド!エクセレント!パーフェクト!パーフェクト!

…もちろんいつも料理がそんなに楽しく、うまくいくわけもない。毎日のことだから、どうしても気乗りがしなくて最後までダラダラとまとまりのない献立を作ることもしばしばある。面倒で惣菜を買ってくることも、外食やデリバリーに頼ることももちろんある。

ただ、「作りがい」でいうと、わが家はかなり高得点だ。
まず食べる人数が多い。義父母に私たち夫婦はみんなよく食べる大人だし、さらに食べ盛りの中学生と高校生が一人ずつ。

一度に作る料理の量が多いので、材料を刻むこと一つとっても、リズムに乗って気合を入れていかなければならない。
唐揚げの鶏肉の量は1kgだし、副菜のきんぴらごぼうも切り干し大根の煮物も、惣菜屋さんかな?という量になる。サラダは大きなボウルに山盛り、味噌汁一つとってもよそのお宅の2倍くらいの量があるかもしれない。調味料はリットル単位の業務用サイズだし、いつも使っている味噌は2kg入りだ。

料理はそんなに好きじゃなくても、家庭科の調理実習やキャンプでカレーを作ったりするのは楽しかった、という人の話を聞いたことがある。みんなでワイワイ作る楽しさはもちろんだけれど、大量の材料をどんどん刻んで大鍋で煮る、という行為そのものにも楽しさや興奮の要素があるのではないだろうか。

よく食べる六人家族の我が家の食事は、毎日がキャンプのようなものなのである。

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今回、「料理の好きなところ苦手なところ」というテーマをいただいて考えた。私は料理そのものには、あまり苦手だと思うところはないのかもしれない。それはきっととても幸せなことなんだろう。

しかし、料理に付随する、避けて通れない作業がある。私が一番苦手で、苦痛で、できることなら避けて通りたいと毎日思っていること…後片付けだ。

繰り返しになるが、料理自体は好きなのだ。決して苦痛じゃない。大量に作るのは余計に楽しい。しかし、料理をしたら必ずついて回る後片付け、これが私にとって鬼門なのである。

調理中に出る洗い物は、流れ作業で洗ってしまうので辛いというほどではない。できればしたくないし、可能ならばいつも横に一人助手がいて洗い物を全部やってくれたらいいなと思うけれど、さすがに一般家庭の狭い台所で、スペース的にも人手的にもそれは不可能なので諦めている。

何より一番辛いのが皿洗いだ。がんばって料理を作って、おいしくいただき満腹になって、そこからどうしてまた立ち上がらねばならないのか。もう今日の仕事は一段落という気分なのに。食洗機に任せるとはいっても、我が家は食器の量も多いので全部は入り切らないし、ざっと下洗いもしなければいけない。グラタン皿なんて特にこびりつきがひどくて食洗機に任せるのは不安だ。誰だグラタンなんて作ったのは。私だ。

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つくづく考えるに、料理というのはゼロからプラスを作る作業だ。クリエイティブなのだ。しかし片付けはマイナスをゼロに戻す作業だ。保守整備なのだ。どっちがえらいとかではなく、これはもう向き不向きだと思っている。私は根っから片付けに向いていない。

このことについて考えていると、いつも行き着く夢がある。誰か、食事を作るのは大の苦手だけれど後片付けは大好き、という人や家族と一緒にシェアハウスなどに住んで、片付けを全面的にお任せし、毎日大人数の食事を作ることだけに熱中したい、という夢だ。

現実的にはなかなか難しいだろうと思うけれども、それでもやっぱり楽しそう。

大きな寸胴鍋がいっぱい並んで湯気を立てるキッチンの様子を想像してにんまりしながら、重い腰を上げて皿を洗う毎日である。

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イラスト:かわべしおん

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