おしえて魚市場の人!まぐろはなぜ食べるところで値段が違うのですか?〜仕入れ・保管編〜
食べものにまつわる、こどもたちの「なぜ?」「どうして?」。おうちの方もよく聞かれるのではないでしょうか。そこで、こどもたちからのお手紙を片手に、しゃしん絵本作家のキッチンミノルさんに、実際に工場やお店の方に疑問の答えを聞いてきていただきました!写真と動画で、楽しくリポートします。社会科見学に出かけたつもりで、ぜひお子さんといっしょに楽しんでくださいね!
今回は、ふうたさん(10歳)からの、「なぜまぐろは食べるお店で値段が違うのですか?」というお手紙をもって、神奈川県三浦市三崎町に出かけました!
編集部にふうたさんからお手紙が届きました。
魚市場の人へ
ぼくは まぐろのおすしがすきです。おすしのまぐろには、大トロ、中トロ、赤身、時々中落ちなどありますが、小トロというのはあるのですか?大トロは高きゅうですね。食べるお店で、ねだんがちがうのはなぜですか。そもそもどこが中トロで大トロで赤身なんですか?教えてください。
東京都 ふうた 10才
編集部はさっそく、いつものようにしゃしん絵本作家のキッチンミノルさんに相談です。キッチンさんはいつものようにこたえます。
「わっかりました!! まぐろのプロに聞いてきますね!!」
(ビュ〜〜ン)
じつはキッチンさんはまぐろが水揚げされてから刺身になって食卓にのぼるまでを追ったしゃしん絵本『マグロリレー』の作者でもあるので、まぐろ関係のおともだちが多いのです。
注)マグロリレー
https://www.kitchenminoru.com/07shop/7527.html
最初に連絡したのは「日本おさかなマイスター協会」さん。豊洲だけでなく全国の魚事情にくわしく、いつも親切に的確な情報をおしえてくれるのです。
編集注)日本おさかなマイスター協会
さかなをおいしく、かしこく食べるため、魚介類の旬、栄養、産地、漁法、調理、取り扱い方法などを学び、さかなの魅力や素晴らしさを伝える「さかなの伝道師」である“おさかなマイスター”を育成、普及するための協会。
http://www.osakana-center.com/meister/top.html
「日本おさかなマイスター協会さ〜ん!こどもからこんなお手紙が届いたのですが……」
日本おさかなマイスター協会さんはすこし考えてからこたえます。
「なるほど、それならまぐろ問屋の三崎恵水産さんがいいかもしれないですね。問屋さんの活動だけでなく、商品の開発や、新しい活動もはじめているのでおもしろいし。それに石橋社長はおさかなマイスターなのでなんでも答えてくれるはずです。こちらからも連絡しておくから、いってらっしゃ〜い!」
「いつもいつも的確な情報をありがとうございます!!」
そういうと、あっというまにキッチンミノルさんは飛びだしていきました。
注)
三崎恵水産
神奈川県三浦三崎港を拠点に、まぐろ専門の卸問屋として1968年に創業。まぐろ及び水産物全般の加工販売を行い、全国の飲食店卸、海外輸出を行う。半世紀に渡る経験と目利き力で仕入れた三崎まぐろを通し、“次世代に豊かな魚食文化を繋ぐ”ことをモットーに、持続可能なまぐろ屋を目指す。外食事業(株)ネオ・エモーションでは国内外を含め16店舗を経営、オリジナルまぐろ加工品ブランド「FISHSTAND」も手がける。
https://misaki-megumi.co.jp
さあさあやってきました!三崎町!!
ここは神奈川県の三浦半島の先の先。そして三崎恵水産さんはその先の城ヶ島という島にありました!
この日は雨もよう。「海を見ると写真を撮っちゃいます」とキッチンさん。ずぶぬれになりながら橋のうえからパチリ。左がいまからいく城ヶ島。右がいまきた三浦半島。橋をわたると三崎恵水産さんはもうすぐそこです!
ここだな!……おはようございます!!
おお〜キッチンさん!おはよう!!
出むかえてくれたのは三崎恵水産の石橋社長。
今日はよろしくおねがいします。
よろしく!もう、まぐろの選別がはじまっているからいってみましょう!
は、はいっ!
うちでは二種類の方法でまぐろを仕入れているんだ。ひとつは、市場でまぐろを買う方法。もうひとつは、今日みたいに船のまぐろをまるごと仕入れる「一船買い」。
船まるごと!!市場で買うのと、どうちがうんです?
ここでだいじなのは、まぐろは一本一本、品質がちがうということ。 まぐろも人間やほかの動物とおなじように個性があって、脂がのっているもの、赤身が多いもの、大きいものや小さいものと、いろいろあるんだ。
まぐろは一本一本品質がちがう!!
そう。その個性を見わけるのが、仕入れの腕の見せどころ。
ほ〜!
市場ではまぐろを一本ずつ買えるので、自分たちがいま必要としている品質のまぐろを選んで買うことができる。もちろん市場にはおなじまぐろを買いたい人がほかにもいるから、その人たちとセリをしてより高い値段をつけた人が買うことになる。だから人気のある良質なまぐろは、高い値段で取り引きされるんだ。
一本一本品質がちがうからこそ、良質なまぐろは多くの人が買おうとするんですね。
そうだね。
反対に、一船買いは、その船が釣ってきたまぐろをすべて買うこと。いろんな品質のまぐろが混ざっているけど、大量に安く買うことができるという利点がある。そのかわり自分たちのところで品質をしっかりと管理しないといけないんだ。
なるほど!
今日は一船買いのまぐろなので、一本一本品質をたしかめながらランクづけをしていくよ。
ランクづけ?やっぱりランクの高いものの方が……
脂がのってうまいよ〜
もちろんお値段のほうも……
うん、高くなる。お手紙にもあったけど、まぐろの値段がお店によってちがうというのは、どういうまぐろをそのお店が仕入れているかによるんだ。お店はそのお店にくるお客さんのこのみにあったまぐろを仕入れるから、それによって値段に差が出るんだ。
なるほど。
ここではよりこまかく26ランクに分けることによって、お客さんの要望にあうようなマグロをいつも提供できるように努力しているんだ。
26ランク!こまか!!そんなにこまかくランク分けする必要があるほど品質がちがうということなんですね。
そうだね。
そこまで、まぐろが一本一本ちがうからこそ、僕たちが食べるまぐろの値段もお店によってちがうんですね。
お店の場所など、他の要素も関係してくるから仕入れるまぐろの値段だけが影響しているわけではないけどね。
あと、まぐろにはいくつか種類があって。それでも値段は変わってくるんだよ。
まぐろの種類によっても!
そうだね。三崎港で水揚げされる90%は日本近海ではなく、世界の海で釣られて船のうえで冷凍されたメバチマグロになるんだ。中トロや赤身が多いのが特徴だね。
中トロ〜いい響きですね〜〜
大トロが多くて高級なまぐろには、本マグロ(クロマグロ)やインドマグロ(ミナミマグロ)があるよ。
ビンチョウマグロ(ビンナガ)なんてのも食べたことあります!
ビンナガはマグロのなかでもたくさん捕れるので、安く流通しているまぐろだね。
そういえば、ツナ缶のツナってまぐろの英語名のことだと思うのですが……
そうそう、まぐろのことをTUNA(ツナ)と訳すことが多いんだけど、ツナとは「スズキ目サバ科マグロ属」に分類される魚などの総称のことで、このなかにはカツオも入るんだ。
だから、海外のお客さんに説明するときはうちのまぐろは、TUNA(ツナ)とは別物のMAGURO(まぐろ)だよと説明して売っているんだ。
ツナにはカツオも入るんですね!知らなかったです。
そうでしょ。釣ったあとの処理も全然ちがうぞ。
えっ!なにがちがうんですか?
日本のまぐろ漁船は、おいしい刺身として食べるために、釣ったあとすぐに内臓を処理してマイナス60度で急速冷凍するのさ。
マ、マイナス60度!!
そう、釣ってすぐに船上で急速冷凍することによって、食べる瞬間まで鮮度と味がそのままでなんだ。ツナ缶で使うものは、最終的に熱調理するから、船のうえでは−20℃で冷凍すれば十分なんだ。
40℃も差があるんですか!!
刺身で食べるMAGURO(まぐろ)は、釣ったときから細心の注意を払って日本まで運んでいるんですね。
おいしいものをおいしく食べてほしいきもちがつながっているんだね。
海はあっちでしたよね。
そ、そうだけど…
ありがとうございます!!
う、うん……あっまぐろが運ばれてきたよ。
まぐろでかっ!
今日のまぐろはマーシャル諸島あたりでとれたまぐろだね。あのコンテナのなかに大体1トンのまぐろが入っているんだ。カチンコチンにかたまったまぐろは、重いうえに氷のかたまりと同じで、すべってくるから気をつけてね!
はい!
コンテナから取りだしたまぐろを一本一本はかりにのせて、まずは重さをはかるんだ。
そのあと、尾のところを切っていましたが…
いいところに気がついたね。あの尾を解凍して、肉質を見てまぐろのランクづけをするんだ。
尾の肉質でまぐろをランクづけ!
そう。この尾のところで全体の肉質を想像するんだね。奥の水槽をみてごらん。
尾が温泉のにつかっているようできもちよさそうです!
きもちいいかはわからないけど…、お湯をはった水そうに、凍っているまぐろの尾を入れて色や脂の入りかた、船でどうやって冷凍されたかなんかもくわしくチェックしていくんだ。
どうやって冷凍されたかまでわかるんですか!!
生きているうちに冷凍されたのか、そうじゃないのかまでわかるんだ。
真剣ですね。
とても大事な作業だからね。
おお〜
あれ?こちらではまぐろに穴を開けていますが……
これは、よりくわしく肉質を見ているんだ。
これでわかるんですか!!
わかるんです。プロですからね。フフフ…。脂というのは皮の部分に多くあるので、皮の部分をすこし見るだけで脂の質などいろいろなことがわかるんです。ほかにナイフの刺さりかたの感触とかでも判断するんだよ。脂が多いとやわらかくて、赤身が多いとかたいんだ。
まいりました!
しっかり帳簿をつけて、まぐろにもタグをつけたら仕分け終了。
ふ〜おつかれさまでした。あれ?仕分けしたまぐろをまたコンテナに入れていますが……
ランクごとにコンテナに分けて、加工する日まで保管するんだ。加工所からこのランクのまぐろがいくつほしいと連絡がきたらコンテナから出して加工所に渡す、これも仕入れの仕事になるんだ。
なるほど〜
カメラ壊れるかもだけど……冷凍倉庫いく…?
行きます行きます!!
おお〜威勢がいいね〜
いま、なかはマイナス50℃。覚悟はできてる?
寒さの想像ができないんですが…
コンテナがきたら、冷気が逃げないように一緒に入って!
冷気で息が苦しい…
あれれ、カメラの動きがぎこちなくなってきたんですが…
よし、もう出よう!
はいっ!!
はい、扉しめるよ。
あっ、フォークリフトを運転している方はあのままでいいんでしょうか……
大丈夫。じつはあのなかは暖房がきいているから。
あー!それなら安心だ。だけど、数秒しか入ってなかったのに、カメラの表面が凍っている。カメラの機能がもどるまですこしお待ちください。
それにしてもすごい威力ですねマイナス50℃!!
あはは、すごいでしょ!
船の上でマイナス60℃に急速冷凍。あとはマイナス50℃で管理して出荷する。
これがまぐろがおいしい秘けつのひとつなんだ。
なるほど!
倉庫を出ると、血が身体中をかけめぐっているのを感じます!
生きてるって感じです!!
アハハ、よくわからないけど。
この温度を維持するためには、たくさんの電気が必要なんだ。
そうでしょうね。ここまで冷やすとなると。夏に冷房を使うだけでもそうとう電気を使うんですからマイナス50℃になったら…
そうなんだ。ぼくたちがおいしいまぐろを食べられるようになった裏にはたくさんのエネルギーが必要になってしまったんだね。そして、東日本大震災の時にエネルギーの大切さをつよく感じて、このままではいけないって思ったんだ。
あのときは計画停電も経験しました。電気の大切さが身にしみました。
そう、電気が止まればここのまぐろはくさってしまう。だからどうにかして、自分たちで電気をつくれないかと模索していたんだけど……ほらこれをみてよ!
工場の屋根一面にソーラーパネル!!
晴れている日は、工場の35パーセントの電気をおぎなっているんだ。
すごい!!
購入している電気もすべて再生エネルギーから作った電気にしているよ。2025年には自社ですべてのエネルギーがまかなえるようにがんばっているところなんだ。
なんでそこまで再生エネルギーにこだわるんですか?
それはね、50年後もおいしいまぐろをみんなに届けたいからなんだ。
50年後も?
地球温暖化現象って聞いたことあるだろ?
はい。人間の活動によって地球の二酸化炭素等の温室効果ガスが大気中に増えて地球があたたかくなっている現象ですよね。
そうだね。地球があたたかくなるということは海のなかもあたたかくなっていて、魚がどんどんとれなくなってきているんだ。
魚だけでなく、海藻がとれなくなったり、サンゴが死んでしまったなんて話も聞いたことあります。
まぐろをおいしく食卓に届けようと思うと、どうしても大量の電気は必要不可欠。だけど火力発電で電気を作るとどうしても温室効果ガスを排出することになる。
電気を使わないとおいしいまぐろは届けられない。でも温室効果ガスが増えるとまぐろそのものがとれなくなってしまう。
だからこそ、温室効果ガスをださない再生可能エネルギーをぼくたちが選択する必要があるんだ。
なるほど。電気を考えることは未来のまぐろのことを、その先には僕らがおいしいまぐろを食べつづけられるかどうかを考えることなんですね。まぐろと電気がつながるなんて思っていませんでした!
まだまだ始まったばかりだけど、「まぐろ電気」プロジェクトと名付けて活動しているんだ。
いい名前ですね。
水産業の間でこの活動がひろがるといいなぁと思っているよ。
がんばってください!!
三崎恵水産のまぐろを食べたい人はこちら
FISH STAND
https://www.fishstand.jp
コラム 仕入れリーダーにごあいさつ
株式会社三崎恵水産 仕入れ部 大物担当
金子勇太さん
この会社に入って18年目です。仕入れ部にきて6年目です。その前は11年間、配達営業をしていました。山梨県の担当で三崎から2トン車に乗って日がえりで行っていました。山梨の人は赤身が好きでしたね。
いまは、月火木金は8時から始まるセリの前に市場に行ってまぐろを選びます。市場には300本〜400本のまぐろが並ぶのですが、その中からこれだと思った40本〜80本を買い付けます。尾の部分だけで全体の質を見極めないといけないのでなかなか難しいです。日々勉強ですね。
自分で競り落としたまぐろの尾を持って帰って確認のために食べることもありますよ。ステーキにするとおいしいんです。食べることも勉強ですからね。営業担当からまぐろを注文してくれているお客さんが新しいお客さんを紹介してくれたと聞くとうれしいです。自分たちが選んだまぐろを喜んでくれているんだなぁと思うので。
仕入部は倉庫の管理もしているので、欠品や在庫過多にならないように気をつけています。仕入しすぎると他の倉庫を借りることになって余計な経費がかかりますからね。
まぐろにはいろんな種類があって、同じ種類でも漁場によっても味が変わるのでしらべて気にしながら食べるとおもしろいと思いますよ。
まぐろはやっぱり刺身が一番好きですね。部位はどこでも大好きです。
お返事のお手紙
お手紙ありがとう
まぐろの値段についてこたえます。
まぐろは一本ずつ品質が違います。
良いものもあれば、あまり良くないものもあります。
私たちまぐろ屋は、そのまぐろを一本ずつを見て、「目きき」をしています。良い品質ものもは高くして、あまり良くないものは安くします。
なのでまぐろには、「安くて良いもの」はないんです。
また、まぐろ屋になるとそのまぐろの形や尾のだんめんやとれた時期、とれた場所などでその品質がわかるようになります。
もしまぐろ屋ではたらいたり、修業をするとみんなもそんな「目きき」になることができますよ。
これからもいっぱいまぐろを食べてくださいね。
三崎恵水産 石橋匡光
「届け!お手紙!キッチンミノルのおうちで社会科見学」では、子どもたちからのお手紙を募集しています!
キッチンミノルさんに行ってもらいたい、食を扱うお店や工場に、お手紙を書いてみませんか?
知りたいこと、前から不思議に思っていたこと、聞いてみたいこと…。どんなことでも大丈夫です!
応募は、アイスム公式LINEよりご連絡をお願いいたします。
LINEトーク画面より「おうちで社会科見学」と送信の上、お子様のお名前(ニックネームなどでも可)と年齢をお送りください。