「きれいに」「揃えて」を目指さない、子ども用包丁の練習

やさしい「食育」のハナシ #3

2020.05.25

「日本キッズ食育協会」チーフトレーナー/理事の爲我井あゆみさんに、やさしい「食育」についてお話していただくシリーズ。第一回、第二回では、「食卓」の会話からできる食育のお話を伺いました。今回はさらに踏み込んで、食卓ではなく、キッチンでの食育です。


包丁はいつから持っていい?

お子さんが「やりたい!」と思った時が、包丁の練習スタートのタイミングです。この時はやはり、大人が使っている包丁ではなく、子ども用の包丁を使った方が安全です。

ただ、「ママのは危ないから使っちゃダメ、はい、あなたの包丁はこっちね」と子ども用包丁を渡されるより、「ママの包丁を最初に使うのは危ないから、〇〇くん・〇〇ちゃん専用の素敵な包丁を一緒に買いに行こう!」と言われた方が特別感があり、包丁を大切にしようという気持ちにもつながると思います。

どんなものも、買ってもらったということを目の前で見ることは、感謝の気持ちを育むきっかけになります。

最初に買う包丁は、幼児であれば、刃がついているものではなく、少し触ったくらいでは怪我につながらないものがおすすめです。最近はプラスチックのものも売っています。「短いから」という理由で、ペティナイフを使うのは避けた方が良いです。先端が尖っていてアゴも鋭いので、初めての包丁には向きません。

バナナやキウイ、きゅうり、豆腐などであれば、プラスチックの包丁でも簡単に切ることができます。

この作業に慣れて、包丁の持ち方などが安定してきたら、次のステップの包丁を使ってみてください。

年長や小学校低学年になると、プラスチックの包丁では物足りなく感じると思います。また、より固い食材にトライしたくなるため、プラスチックのものでは逆に怪我につながります。(プラスチック製のもので固い野菜を切るのは避けてくださいね!)ですので、子ども用のギザ刃がついた包丁を使うのがおすすめです。

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包丁で学べる事

包丁を使って学べる事はたくさんあります。

  • 数字
  • 等分
  • 図形
  • 手先の感覚
  • 思いやり
  • 達成感
  • 自分の作ったものを食べてもらう喜び

など…。

もっと出てきますが、ここでいくつか具体的に説明してみます。

例えば「数字」。バナナを切る時、「10回切ってね」と数の注文をすると、切る練習をしながら、数についても学ぶことができます。「何回切る?」と子どもたちが考えられるような声かけをするのも楽しいですね!

また、豆腐を切る時はそっと触らなくてはいけないので、指先の感覚を学ぶこともできます。

そしてもう一つ大切なこと。味噌汁に入れる豆腐が、全部同じ大きさの四角い豆腐でなければならない理由はありません。

豆腐を切る時、「四角や三角、色々な形に切ってみてね!」と声をかけると、たくさんのアートが生まれるはずです。

応用力を身につける

4年間、教室に通ってくれている小学4年生の女の子に、「きゅうりを5mm角に切ってみて」と言うと、しばらく考え込み、「きゅうりは丸いから全部が角にならない、どうしよう…」と悩んでしまったことがあります。

小学校の算数では、答えが一つしかない問題を解きます。でも料理はそうではありません。

例えばきゅうりには、丸いところと角切りにできるところがあります。これが応用力を身につけるにはとてもいい作業になるのです。

幼児クラスでは、きつね蕎麦を作る際、「油揚げをきつねの耳のように三角に切るにはどうしたらいいかな?」という問いかけに、小さな三角をいっぱい切ろうとしてくれた子や、折り紙のように折りたたんだ子もいました。

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答えは決して一つではありません。「自分で考える」ということが、思考力や応用力を育みます。

子どもたちは、「切ること」だけを学んでいるのではなく、考える力を育み、自分が切ったものを食べてもらう喜びを実感し、それがまた作ってくれる人への感謝の気持ちにもつながります。

自分が切ったものが入っているメニューはいつも以上に食が進みますし、さらにそれを誰かに食べてもらうというのは、とても嬉しいことです。

前回までのコラムで、「食育は難しくない」というお話をしましたが、包丁も同じです。桂むきができるようになることが、食育の目標ではありません。大切なのは、「上手に切る」「同じ大きさに切る」ことではないのです。

調理技術というのは、経験を重ねることで身についていきます。私たちが目指す「食育」はそれだけではなく、子どもたちの体が食べ物からできていることを知り、前へ進む力を育むこと、そして、一緒に食べて美味しいね、と食を楽しみ、応用力を身につけるきっかけ作りです。

「調理」しなくてもできる食育

「調理」という言葉の意味を調べると、「物事を調えおさめること」と広辞苑に載っています。ただし、文字通りの「調えておさめる」というのは、実は食育においてはそこまで大切ではありません。

「包丁を使いたい」という子どもの気持ちに応えることが、時間的に難しい時がありますよね。そんな時は、ドレッシングをシェイクする、浅漬けをモミモミする、だけでも十分です。

また、日本にはお櫃という素敵なアイテムもあります。小さなこどもが鍋や炊飯器からご飯をよそうのは、火傷の心配もあり難しいかもしれませんが、お櫃やボウルなどにご飯を移し、そこから子どもたちにお茶碗によそってもらうのも立派な作業です。

ボウルにたくさんよそってしまうと取りづらいので、慣れるまでは少量にし、そこからまずは自分のお茶碗に盛り付ける係に任命してみてください。そのうちに、きょうだいの分、そして家族全員の分と「盛り付け係」の仕事が広がります。

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そして、これまでのコラムでもお伝えしてきた通り、「〇〇くん、〇〇ちゃんがよそってくれたご飯は美味しいなあ、ありがとう」と、感謝の言葉を忘れず伝えてあげてください。

当たり前のことを喜び、健康でいることへの感謝を忘れずに、食育の「調理」部分のハードルも下げながら、楽しんで取り組んでもらいたいです。

爲我井あゆみ

(社)日本キッズ食育協会 理事/キッズ食育チーフトレーナー
幼稚園教諭を経て、2014年代表理事の榊原と共に子どものための食育スクール青空キッチン本部スクールを開校。青空キッチンカリキュラム制作、キッズ食育トレーナー養成講座開講、保育園での出張食育レッスンやイベント登壇、コラム執筆、子どもと食のプロとして子どもの頃からの食育=キッズ食育の普及に励んでいる。

日本キッズ食育協会 https://kids-shokuiku.jp/
青空キッチン https://aozora-kitchen.com/

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イラスト:坂道なつ