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毎晩、娘と一緒に泣いていた私へ。

特別企画

PEOPLE
2026.03.09

出産の痛みと、終わりの見えない夜泣き。毎晩、娘と一緒に泣いていた時間。 「上手くできない自分」を責め続ける日々。そのまっただなかにいた自分へ向けて、藤崎殊海さんは17年後の未来から語りかけるように手紙を書いてくれました。今は信じられなくても、確かに過ぎ去っていく時間があること。この手紙が、いま必死に夜を越えている誰かの心にもやさしく届きますように。


帝王切開こそ免れたものの、陣痛が3日間続いてお腹の中で赤ちゃんが弱ってしまい、最後はかなり緊急にお産が進められた。出産の傷は多く深く、起き上がることも座ることもままならない状態で初めての育児が始まった。

傷口を守るためのドーナツ型クッションを使ったところで痛みはちっとも軽くならないし、娘は驚くほどしょっちゅう泣く。

母乳をあげる方も吸う方もへたくそで、お互いくたびれながら授乳を繰り返す毎日。里帰り出産をしたものの、実家の母は慌ただしく仕事をしていて、ほとんど家には娘と二人きり。夫も仕事帰りによく実家へ来てくれたけれど、夕飯を済ませて少ししたら「明日も仕事だから」と帰ってしまう。
出産前は楽しめていた読書も、ドライブも、カフェへ行くことも、何もできずに夏が過ぎ去っていく。

母乳をあげても、ぐずぐずする。
何度も何度も変えるオムツと肌着。
一人では不安で仕方ない沐浴。
エアコンが効いていても汗だくになる窮屈な部屋。
敷きっぱなしの布団。
娘が泣くたびに、あやそうと動くたびに、出産した傷が痛くて痛くてたまらない。

痛いのは傷だけじゃない。
心だって、もうはち切れそうなくらいに張り詰めている。

上手くやりたいのに、ちっとも上手くできない。
出産の本も、育児の本も、あんなにしっかり読み込んだのに。
夜通し泣かれて、全然寝てくれなくて。
赤ちゃんって寝る生き物じゃないの? 
私は毎晩、娘と一緒になって泣いていた。

そんな生活の中で、すっかりしょんぼりしてしまった私へ。

大丈夫。
そんな日々は、あっという間に過ぎ去ります。

17年後の未来、あなたの娘は高校生。
時々「行きたくないなぁ」って漏らすこともあるけれど、毎日友達と楽しそうに過ごしています。「今夜は友達と食べてくるから、夕飯いらないよ」とLINEがくることも。

アルバイトも始めました。
稼いだお金でライブに行ったり、化粧品や服を買ったり、なんだかとっても忙しそう。
お化粧は私より上手になって、毎朝家族で一番の早起きをしてヘアメイクに勤しんでいます。

夜は部屋にこもって出てきません。
いるのか、いないのか、ちょっと判断がつかないこともしょっちゅう。
突然部屋に入ると怒るから、ノックは必ずしましょう。
夜泣きしていたなんて嘘みたいに、彼女は寝ることが大好き。気づけば部屋は真っ暗でとうに寝ていた、なんて日もめずらしくありません。

おかーさん今度一緒にカラオケ行こうよ。
そう誘ってくれるけれど、彼女は忙しいのでなかなか実現しません。
いつか二人で旅行もしたいけれど、もう少し大きくならないと行ってくれないかな。
今は友達といる時間がなにより楽しく、大切なようだから。

もちろん、思春期だから不機嫌で会話してくれない日もあります。
そんな時は、そっと食事を作って見守ります。
どうしたの?とか、何かあったの?とか、聞きたくてたまらないけれど。彼女の方から話してくれるまで、ぐっと我慢するんです。

私の元気がない時。病気で寝込んでいる時。
彼女は「なんか作ろうか?」とごはんを作ってくれたり、栄養ドリンクを買ってきてくれたりします。
話を聞いてアドバイスをくれたりもします。
高校生って、子どものようですっかり大人なのかもしれません。

あなたの腕の中で泣いてばかりいた、小さくて柔らかくてあたたかい匂いのする赤ちゃんは、あっという間に背丈を追い越して一人で歩いていきます。

そんなこと言われても、きっと今は信じられないですよね。
はやく、一刻もはやく、このしんどい毎日が終わってほしい。そう思ってますよね。
だけど、ぜんぶ、ほんとうなんです。

子どもにとって親が1番じゃなくなる日が、想像よりはやいスピードでやってくること。
一人でどこへでも行ける日が来ること。
悲しいことや悩み事を、なんでも私に話さなくなる日がすぐに訪れます。

だから、どうか。
全力で身を預けてくれる娘と過ごす時間を愛してください。

永遠に終わらないような夜泣きも、日が昇る頃にようやく寝てくれて布団に寝かせた朝も。不意に終わりが来ます。
そして、過ぎてしまえば「もっと抱きしめておけばよかった」と後悔するんです。
今の私のように。
その子を両手でぎゅっとできる時間は、驚くほどに短いのです。

だけど、どんなに大きくなっても変わらない気持ちがあります。
生まれたての彼女を見た時感じた「この子が元気ならなんだっていいや」という思い。

傷が痛くて出血も酷くてふらふらだった中で、思わず涙が出た時の気持ち。
それだけは、何年経ってもそのまま胸に刻まれています。
だからどうか、安心してね。

あとね。
もう3年経ったら、その子に弟が生まれるんですよ。
娘だけでもこんなに可愛いのに、もう一人子どもが生まれて大丈夫かな。そう不安に思う日があるけれど、大丈夫。
二人とも、すごくすごくかわいくてたまりませんから。
楽しみにしていてね。

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