魚のオーラを感じ、野菜の声を聞く。自炊の楽しみは、買い物から始まっている

一人暮らし自炊座談会 #1

LIFE STYLE
2022.07.21

アイスムにて「五感をひらくレシピ」を連載中で、自炊料理家として活動する山口祐加さんが日々の仕事の中で覚えた違和感。それは、「一人暮らしの自炊を楽しむ人の、リアルな情報が見当たらない」ということでした。「だったら、実際に聞いてみよう」と、自炊を楽しむ一人暮らしの社会人3名に集まっていただき、初めての料理から買い物のコツまでいろいろ伺いました。「魚のオーラが見える」といった名言も飛び出し、座談会は大盛り上がり。今年から初めて一人暮らしを始めた人も、これを読めば自炊がしたくなるかもしれません。

お話を伺ったみなさん

img_hitorigurashi_guest_asari.jpg

浅利圭介あさりけいすけさん

1992年生まれ。ITベンチャー勤務。料理を小学生から始め、自炊を本格的にやるようになったのは社会人から。パスタ全般を作るのが得意で、よく作るのはペンネアラビアータ。自家製トマトソースを常に作り置きしてあり、パスタに並々ならぬこだわりがある。

img_hitorigurashi_guest_shimura.jpg

志村優衣しむらゆいさん

1988年生まれ。新卒で通信会社に入社し、法人営業とSEを経験。その後、書店員、編集者を経て、2019年4月にnote株式会社に入社。noteディレクターとして活動中。自炊とサウナが好き。よく作る料理は、納豆ごはんと味噌汁。

img_hitorigurashi_guest_yamada.jpg

山田和正やまだかずまささん

1989年、岐阜県高山市生まれ。料理人、生産者への取材を通じて、食の楽しさに開眼。現在は全国の逸品が集まる食のECサイト「GOOD EAT CLUB」の編集担当を務める。ほぼ毎日晩酌をする。よく作る料理は肉豆腐。

img_hitorigurashi_guest_yamaguchi.jpg

山口祐加やまぐちゆかさん

1992年生まれ。自炊料理家、食のライター。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経て2018年4月よりフリーランスに。日常の食を楽しく、心地よくするために普段は一汁一菜を作り、ハレの日は小さくて強い店を開拓する。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。好物は味噌汁。

料理を始めたきっかけは人それぞれ

img_hitorigurashi_001-01

山口

まずは、最初に作った料理の話から始めたいと思っています。浅利さんが料理を始めたのはいつからでしょうか?

浅利

小学生の時に、卵焼きを作ったのが最初です。卵焼きって、きれいに巻くのが難しいじゃないですか。うまく巻けるようになりたくて、毎朝作っていた記憶があります。少しずつ上達していくのが楽しかったんです。本格的にやり始めたのは、社会人になってからですね。

山口

卵焼きって難しいですよね。小学生でうまく巻けるようになるなんてすごい!社会人になってからはどうして本格的に料理を始めたんですか? 必要にかられて、でしょうか。

浅利

いや、料理は苦ではないので、気分転換にやる感じです。リモートワークも進み、自宅にいる時間が多くなってからは、自炊の機会が格段に増えましたね。

山口

料理をする時は、何を参考にしていますか?

浅利

今は料理本とYouTube。それがメインの教科書です。作る料理を決めてから買い物に行くこともありますし、スーパーで安い食材や旬の食材を買ってきて、それをもとに何を作るか決めたりもします。

山口

同い年でこのように自炊を楽しんでいる人がいるのは、自炊料理家としてなんだかうれしいですね。よく作るのはどんな料理ですか?

浅利

パスタが多いです。大量に作ったトマトソースを瓶で保存していて、それを使ったりします。トマトソースは、アラビアータ、マリナーラ、ミートソースなど色々アレンジがきくので、飽きないんですよね。後はたまに肉を焼きます。全体的に洋食が多いかも。

志村

私は社会人一年目で一人暮らしを始めたと同時に、料理も始めました。それまでは実家に住んでいて、学校の調理実習以外で料理はしたことがなかったんです。始めたての頃は、「クックパッド」や「白ごはん.com」のレシピを見て、「肉じゃがってこういう風に作るんだ」みたいなところから覚えていきました。

山口

社会人になって、「誰も作ってくれないし、料理しないと」と思って始めたのでしょうか。

志村

食べることが好きで、おいしいものを食べたい気持ちはあったんです。でも、最初に一人暮らしをした場所が茨城県の水戸市で、徒歩圏内に飲食店やお惣菜屋さん、コンビニなどがほとんどなくて。だから、週に一度車で買い出しをして、1週間の献立を考えて毎日作る生活をしていました。

山口

なるほど、都心に住んでいると飲食店やデリバリーなど食事の選択肢がいろいろありますけど、地方だとそうもいかないことありますよね。では、山田さんは?

山田

僕は大学進学で一人暮らしを始めた時に、自分の食事を作るようになりました。お酒を飲むのが好きなので、いつも「今日は何をつまみにしようかな」と考えながらスーパーで買い物して、目についた食材を買って、レシピは見ないでなんとなく作ります。

img_hitorigurashi_001-02
山田さんがよく作る肉豆腐(山田さん提供写真)

山口

レシピ見ない派だ。何事もあまり調べないんですか?

山田

そうかもしれない(笑)。なんとなく食べたいものが頭の中にあって、それを具現化しようとやってみるんです。失敗したらネットでレシピを探して、お手本を見て作ります。

気合を入れた料理で失敗。間違えながら学んでいく

山口

みなさん、やり方が違っておもしろいですね。では、初めて成功した料理について伺いたいのですが、浅利さんは? やっぱり卵焼きでしょうか。

浅利

そうですね。僕としては卵焼きって、層がはっきり分かれずふわっと巻けているのがいいと思っていて。出汁などを入れて水分を多めにするとわりと成功するんですけど、小学生の時は砂糖と塩だけのスタンダードな卵焼きを作っていたから難しかったんです。

山口

砂糖が入ると焦げやすいですしね。

浅利

そうなんです。それがきれいにふわっと巻けた時に、家族に「うまくできたね」って褒められた記憶があります。

山口

わあ、いいですね。では失敗したことは?

浅利

フランベってあるじゃないですか。肉とか焼く時に、度数の高いお酒をフライパンに入れてボワッと炎を出すやつ。あれを大学生の時にやろうとしたんですけど…。

山口

大学生の時から、すでに料理上級者ですね(笑)。

img_hitorigurashi_001-03

浅利

あれって、揮発したアルコールにガスコンロの火がついて、一瞬炎が上がるものなんですよね。アルコールを飛ばすための調理法なんです。でもその理屈をあまりわかっていなくて、フライパンの中の油にそのまま引火させちゃったんですよ。そうしたら、思ったより炎が高く上がって、しかも消えない(笑)。結局10秒くらいして消えたんですけど、あれは失敗だったな。

山口

それは焦りますね…!志村さんの失敗体験は?

志村

料理を始めたての頃は、レシピ通りに作ればそんなに失敗することもなくて、「意外と料理って簡単だな」と思っていたんです。まあ、ちょっとなめていたというか。そんなある日、好きな人が家に来るタイミングで、ほうれん草を使ったグラタンを作ったんです。グラタンってちょっとおしゃれだし、ごちそう感もあるし、いいかなと。そうしたら、「ほうれん草がすごくまずい」と言われて、けっこう残されてしまいました。

山口

えー!それはショックですね…。「まずい」というのはどういうことだったんでしょう。

志村

ほうれん草をバターで炒めて、お肉やホワイトソースと合わせてグラタンにしたんですけど、それだとほうれん草のアクでエグみが出てしまうんですよね。炒める前に水にさらすとか、下茹でするとか、下ごしらえをしないといけなかったんです。ほうれん草にアクがあることを、その時初めて知りました。

山口

そういう失敗があると一生忘れないですよね。私は、父親に初めて料理を教えるという大事な場面で、塩と砂糖を間違えるベタな失敗をしたことがあります。スペアリブと大根の塩煮を作ろうとして、砂糖だと勘違いして塩をたくさん入れてしまったという…。そうすると、もう後から砂糖や水をどんなに入れてもめちゃくちゃしょっぱいんですよね。父が最初に作る料理で大失敗をさせてしまって、申し訳ないし恥ずかしいと思った記憶があります。

オオゼキの魚はオーラがありすぎる

山口

みなさん、自炊はどのくらいの頻度でやりますか?

山田

僕は週3、4くらいですね。

浅利

僕もそんなに多くなくて、週4くらいかな。土日はだいたい、外食しない限り自分で作っています。

山口

いやいや、週4は多い方ですよ。お昼ごはんを作る時はありますか?

浅利

少し前からフルリモート勤務になったので、けっこう作ってます。でも、めちゃくちゃ簡単なものですよ。ウィンナーを茹でてパンと一緒に食べるとか、加工品を温めたり焼いたりするくらい。平日は仕事の合間にやるので、ゆっくり作れないですよね。

志村

私もほぼリモート勤務で、出社日以外は基本、昼も夜も自炊しています。週5、6はやってるかも。お昼は納豆ごはんと味噌汁と焼き魚、あとパスタなど、ぱっと作れるものを作ります。夜は、炭水化物は食べずに、ほぼ毎日お酒を飲むので…。

img_hitorigurashi_001-04
納豆ごはんと味噌汁と焼き魚(志村さん提供写真)

山田

おっ。

山口

山田さん、仲間がいますよ。

山田

うれしいですね。

志村

ビールを飲むって決めたら、ビールに合うおつまみを作る。肉などのたんぱく質系の料理と副菜2、3品、そういう感じで献立を考えます。副菜は本当に簡単なおつまみで、豆腐に薬味をのせるとか、余ってる野菜をまとめて焼くとか、そういうことが多いです。

img_hitorigurashi_001-05
ビールとおつまみ(志村さん提供写真)

山口

野菜はじっくり焼くだけでも十分おいしいですよね。ただ焼いた野菜も、塩をかける、柚子こしょうを添える、ナンプラーをつけるなど、調味料で味を変えると満足度が高い。ではみなさん、買い物のタイミングはどうでしょうか。毎日行くとか、買いだめしておくとか。

浅利

買いだめはしませんね。

山口

買いだめしないっていうのは、一人暮らしの自炊において大事なポイントですよね。買いだめしても使い切れないことが多いじゃないですか。

浅利

そうなんですよ。あと、買いだめすると、その日食べたい気分ではないものを食べなきゃいけなくなることがあって…。

山口

めっちゃわかる!!

浅利

冷凍できるものだったら冷凍しますけど、基本的にはその日に使う分の食材を買うようにしています。

山口

徒歩圏内にスーパーがあるなら、それがおすすめです。

山田

僕も事前に献立決めて買い物に行くよりは、ふらっと近所の八百屋さんか魚屋さんに行って「今日はこれにするか」って感じで買います。魚屋で、「今日この魚オーラ出てるな」と思うとそれに決めるんですけど…オーラとか言って引きました?(笑)

浅利

いや、オーラめっちゃわかります。

山口

ここ、食材のオーラわかる人しかいないから大丈夫ですよ(笑)。

山田

昨日は、魚屋ですごくイワシが光って見えたんです。それでイワシを買って、ちょうど知り合いから梅干しをもらっていたので、イワシの梅煮を作りました。買い物から調理まで、すべての因果律が重なったようですごくよかった。

img_hitorigurashi_001-06
イワシの梅煮(山田さん提供写真)

浅利

特に丸ごとの魚ってオーラありますよね。近所のオオゼキ(スーパーマーケット)は魚コーナーが充実していて、めずらしい魚が売ってたりするんですよ。この間はクエが丸ごと一匹売っていました。

山口

そういうの、テンション上がりますよね!私、魚を買う予定がなくても魚コーナー通っちゃいます。

志村

オオゼキの魚、たまにオーラありすぎません?(笑)ちょっと手が出ない時もあります。大きい魚を買ってさばきたいんですけど、一人暮らしだと食べ切れないから断念することがある。

山口

一人暮らしで買うとなると、丸魚はイワシ、アジ、サバくらいですかね。小さめの鯛もいけるかもしれない。

浅利

イワシはさばきやすいのがいいですよね。皮も手でむけるし。

山口

そう、身が柔らかいですからね。私はイワシ六匹買ってきて、一人で食べ切ったことがあります。刺身、南蛮漬け、塩焼きとか、調理法を変えると意外と食べられる。イワシをさばくのもそうですが、そうした下処理の楽しさってありません?私は今日、砂肝を4パック買ってきて、銀皮を外して切ったんですけど、そうした単純作業をラジオを聞きながらやるのがわりと楽しい。

志村

私はホタルイカが旬の時期に、延々とその下処理をしたのが楽しかったです。透明な軟骨の部分がするっと抜けると気持ちいいんですよね。

山田

ああー、わかります。

声が聞こえる小松菜、聞こえないアボカド

山口

志村さんは、買い物で気をつけていることはありますか?

志村

私も買いだめはしなくて、できるだけ毎日スーパーに行きます。あと近所に八百屋があるので、八百屋で店先に並んでいるものは、今日のおすすめなのかなと思って優先的に選びます。

山田

僕は、めっちゃ食材を凝視します。ちょっとあぶない人に見えてるかも。

山口

それは、今日は何を買うか選ぶために見てるんですか?それともほうれん草を買うと決めて、ほうれん草の棚をじっと見てるってことですか?

山田

後者です。商品はあんまり触っちゃいけないじゃないですか。だからなるべく見て選ぼうと思って。これがパリッとしてるぞとか、生命力があるぞとか、逆にちょっとへたってるなとか、そういうところを見てる。何なら、少し会話してる(笑)。

img_hitorigurashi_001-07
生命力を感じられる野菜(山田さん提供写真)

山口

見るからにおいしい小松菜とか、小松菜の方から手を挙げてアピールしてる気がするんですよね。

山田

声が聞こえてくる感じしますよね。でも、声が聞こえる野菜と聞こえない野菜があって、アボカドから声が聞こえたことないんですよね…。

山口

やっぱり、海を超えてきてるからじゃないですか?

山田

え、言語が違うからってこと?(笑)

山口

そうじゃなくて(笑)、海外から来る野菜って、輸送に3、4日はかかってますよね。そうすると、もう話しかけられないのかも。みなさんは野菜の声、聞こえます?

志村

聞いたことなかったです(笑)。

浅利

僕も野菜はそんなに…(笑)。魚は選び方があって、YouTuberのきまぐれクック・かねこさんが、よく「魚は小顔を選べ」って言ってるんですよ。体長が長い魚じゃなくて、相対的に顔が小さい魚がいいと。体が肥えてる魚、脂がのってる魚を選ぶコツなんだそうです。これを聞いて、小顔の魚を選ぶようにしてから、はずれがないですね。丸魚を買う時は意識してます。

山口

おもしろいですね。パック詰めされた肉も、声が聞こえるまでいかなくとも、じっくり見たらいいかどうかわかりますよ。鶏肉はけっこう違いがあって、プリッとしていてきれいなピンク色で、「この鶏はきっと大切に育てられたんだろうな…」と思う場合があるんですよね。そういう鶏肉はおいしい。

山田

先日たまたま、肉屋でひき肉を買ったんですよね。それで麻婆豆腐を作ったら、信じられないくらいうまくて。こんなに違うのか、と。ちゃんとおいしい食材を選びたいな、と改めて思いました。

山口

皆さんけっこう、八百屋や魚屋など個人商店も活用してるんですね。

志村

個人商店は、「どの魚がおすすめですか」など、店員さんに聞いて選べるのがいいなと思います。スーパーではあんまりできないですよね。

山田

八百屋さんでも、「このかぶ、どう調理したらおいしいですか」とか聞くと教えてくれますよね。何度も通ってると、向こうから「新しく仕入れた野菜、これを買ったらおまけしますよ」とか言ってもらえて、じゃあ知らない野菜も食べてみようかなと思ったり。個人商店ならではのちょっとしたおせっかいは、うれしさがありますよね。

img_hitorigurashi_001-08

(#2に続きます)

この記事をシェアする

取材・文:崎谷実穂
撮影:猪原悠

アイスム座談会