「食べ切れない」問題は、味変で解決。一人暮らしの自炊の工夫あれこれ

一人暮らし自炊座談会 #2

LIFE STYLE
2022.08.01

自炊料理家として活動する山口祐加さんが、「一人暮らしの自炊について、もっと聞きたい!」と企画した今回の座談会。#2では、一人暮らしでよく買う野菜や使い切れない野菜、料理を作りすぎてしまった時の対処法などについて伺います。パスタやごま油など、「これを買えば間違いない」という食材についてのお話も。

お話を伺ったみなさん

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浅利圭介あさりけいすけさん

1992年生まれ。ITベンチャー勤務。料理を小学生から始め、自炊を本格的にやるようになったのは社会人から。パスタ全般を作るのが得意で、よく作るのはペンネアラビアータ。自家製トマトソースを常に作り置きしてあり、パスタに並々ならぬこだわりがある。

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志村優衣しむらゆいさん

1988年生まれ。新卒で通信会社に入社し、法人営業とSEを経験。その後、書店員、編集者を経て、2019年4月にnote株式会社に入社。noteディレクターとして活動中。自炊とサウナが好き。よく作る料理は、納豆ごはんと味噌汁。

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山田和正やまだかずまささん

1989年、岐阜県高山市生まれ。料理人、生産者への取材を通じて、食の楽しさに開眼。現在は全国の逸品が集まる食のECサイト「GOOD EAT CLUB」の編集担当を務める。ほぼ毎日晩酌をする。よく作る料理は肉豆腐。

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山口祐加やまぐちゆかさん

1992年生まれ。自炊料理家、食のライター。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経て2018年4月よりフリーランスに。日常の食を楽しく、心地よくするために普段は一汁一菜を作り、ハレの日は小さくて強い店を開拓する。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。好物は味噌汁。

一人暮らしでもてあますにんじん、使い勝手のいいカブ

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山口

みなさんが一人暮らしの自炊をする上で、よく買う野菜ってありますか?

浅利

一番よく買うのはにんにくと玉ねぎです。イタリアンを作ることが多いので、常備しています。見かけると買っちゃうのは、かぶと空芯菜。空芯菜って、外食で食べると高いじゃないですか。

山口

シンプルな炒め物で1000円くらいしますよね。

浅利

でもスーパーだと空芯菜は100円くらいで買える。だから見かけると大体買って、にんにくと唐辛子とナンプラーで炒めて食べます。

山口

ビールがめっちゃ合うやつだ。最高ですね。

山田

僕もカブはよく買います。きゅうりやなすなど、みずみずしい感じの野菜が好きですね。

志村

私が一年中よく買うのはトマトです。生のまま食べるのも好きだし、焼いたり煮込んだり、火を通して食べることもよくあります。「緑黄色野菜を食べてる感」も出るので。あと、旬のものは買いたくなるので、春はスナップえんどうなどをよく買ってます。夏はなすかな。

山口

なすはたくさん買っても、揚げ浸しにしたらペロッと食べられますよね。反対に、あまり買わない、買っても使い切れないという野菜はありますか?

浅利

これはもう、圧倒的ににんじんですね。使い切れないのがわかっているから、割高であっても1本単位で買います。にんじんって調理が難しくないですか?

山口

生で食べるにはちょっとクセが強いですしね。

浅利

キャロットラペなどにするにしても、意外と手間がかかるし。にんじんを入れるような煮物もあんまり作らないし…。

山田

お味噌汁にぶち込むっていう手がありますよ。

浅利

たしかに。豚汁とかだといけそう。でも普通のあっさりした味噌汁だと、にんじんの主張が強くなりすぎちゃうんですよね。

山口

しかも、にんじん、玉ねぎ、じゃがいもという定番野菜のなかで、一番傷みやすいのがにんじんだと感じます。黒ずんだり、上から葉っぱが生えてきたりしがち。

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志村

私もにんじんあんまり買わないですね…すぐ皮がしなしなになっちゃう。それでいうと、大根も買わないかも。

山田

わかります、ちょっとサイズがでかいんだよな。大根おろしのために買うんですけど、残りを持て余すことが多いです。今も野菜室に眠ってる気がする。

山口

一人暮らしだと、二分の一カットでも使い切れないですよね。かといって四分の一カットを買うのはコスパが悪すぎる。大根って、1センチで100グラムくらいあるんですよ。1回に1〜2センチだけ使ってると、2週間くらいかけないと使い切れない…。だったら、代用としてかぶにいくじゃないですか。

山田

そうなんですよ。かぶは生でも火を入れてもおいしいし、調理が簡単ですよね。

山口

1個単位で使い切れるし、葉っぱも食べられる。一人暮らしに向いている食材だなと思います。私、昨冬はあまり白菜を買わなかったんですけど、みなさんはどうですか。

志村

私はけっこう買いました。今、発酵白菜にはまってるんです。鍋にも入れられるし、餃子の具にもなるし、いいですよ。

山口

発酵白菜、いいですね!やってみたい。一人暮らしだと、「冬は毎日鍋」といった声も聞くんですけど毎日鍋してる人、いますか?

自炊は、今のバイブスが目の前に現れる良さがある

浅利

そういう時期もありました。仕事がめちゃくちゃ忙しかった頃は、毎日、電子レンジで加熱できる一人用鍋に具材を入れて、レンチンして一人鍋していましたね。具材は小分けにして冷凍しておくんです。

山口

それは、豚バラミルフィーユ鍋みたいな鍋ですか?

浅利

いやいや、そんな大層なものじゃなくて、何でも入れる寄せ鍋です。白菜、きのこ、肉などの具材を適当に切って、1回分に小分けして冷凍しておく。僕は白だしと水を入れてレンチンしていましたけど、ルームシェアをしてた友達は、一人用の鍋の素を使ってました。

山口

こういった一人暮らし自炊の工夫、いいですね。志村さんは何かありますか?

志村

私は、とにかく薬味が大好きで、薬味を切らしたくないと思っていて…。

山田

わかる!僕も薬味好きです。

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薬味をたっぷりのせたそば(山田さん提供写真)

志村

でも一人でねぎ1本は使い切れないから、買ってきたらとりあえずみじん切りにして冷凍しておきます。パセリ類は、買ってきたらまず洗って、水で濡らしたキッチンペーパーで巻いて、保存容器に入れておく。こうするとかなり長期間もつんですよね。

山口

一人暮らしの自炊は、食材を長もちさせる工夫が大事ですよね。

山田

僕は、何も考えずに自炊していると肉や魚ばっかり食べてしまうので、漬物を作って常備しておくようにしています。それを食べるだけで野菜をとれるので。

山口

どういった漬物を作るんですか?

山田

きゅうりのぬか漬けとか。今って、ぬか漬けの簡易セットがあるじゃないですか。野菜を入れておくだけでできるので、重宝してます。

山口

意外と、一人暮らしの人にぬか漬けはおすすめかも。ぬか漬けを切って、ごはん炊いて、鮭でも焼けば、もう立派な定食になりますもんね。浅利さんは洋食を作ることが多いと言っていましたけど、和食はあまり作らないですか?

浅利

たまに作るんですけど、煮物とかはけっこう時間がかかるイメージがあって。煮物って、次の日のほうがおいしかったりするじゃないですか。僕は、その瞬間に食べたいものをがっと作って食べたいんですよね。

山口

それもわかるなあ。その煮物を、明日も食べたいかどうかはわからないんですよね。私も作ったはいいけど、そこで気持ちが終わっちゃうことがけっこうあります。自炊って、今のバイブスが目の前に現れることに楽しさがあったりするじゃないですか。

浅利

そうなんです!一人だからこそ、他の人の都合を気にせず、今のバイブスを大事にできるっていうのはありますよね。そうなるとイタリアンが適しているなと感じます。

自炊はするけど、外で食べた方がおいしいものもある

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山口

みなさんは、「これは飲食店で食べる」という料理はありますか?私は、そばは天ぷらそばや鴨南蛮が好きなので、おそば屋さんに行きますね。あとはとんかつかな。家で揚げたことないんですよ。だって、絶対とんかつ屋さんのとんかつの方がおいしいから。

志村

私も、天ぷらやとんかつは揚げないですね。唐揚げは家でもおいしく作れるけれど、天ぷらの衣をサクッと揚げるのは超難しいと感じます。あと、外で食べるものと言えば焼き鳥ですね。

山口

炭火で焼いた焼き鳥の香りはたまらないですもんね。

山田

僕も揚げ物は家でやらないですね。キッチンが汚れるし、面倒だなと思ってしまいます。

浅利

僕も、揚げ物系と中華料理はあまりやらないです。キッチンの設備で味が変わる料理は基本的に避けます。技術と食材の良さでなんとかなるものは家でやりますけど。スープから作るラーメンもやらないな。あれはプロ用の設備がないとおいしく作れないと思うから。

山口

私は鶏ガラを買ってきて、それを生姜とねぎと1時間くらいコトコト煮て鶏ガラスープをとって、具はねぎだけのシンプルなラーメンを作ることがあります。こういうのは、外食であんまり食べられないんですよね。

浅利

あー、飲んだ後の締めの一杯に丁度いいやつだ。

山口

そうなんです。お店のラーメンとは別物なので、半年に1回くらい作ります。浅利さんはパスタに関しては、むしろお店で食べても満足できないことが多いんじゃないですか。

浅利

そうなんですよ…。本格的なイタリア料理屋のパスタはおいしいと思います。でも、そうでない場合、自分で作った方がおいしいから、外では食べないです。

山口

これは自炊の醍醐味につながっていますよね。自炊なら完璧に自分好みのパスタが作れる、ということですから。それでいうと、私はお店のパスタの一人前の量が、ちょっと多いと感じています。パスタって出来たてが一番おいしいから、三分くらいで食べ切りたいのに、それができなくて。

浅利

わかります。パスタは完成した瞬間から、おいしさが下がっていってしまうんですよ。

山口

だから、家では一人分の麺を半分にして、二回に分けて少量のパスタを二種類作ったりします。最後までおいしく食べたいから、量を少なめにするんです。麺のこだわりはありますか?

浅利

ブロンズタイプのパスタがいいですね。パスタは、生地の成形の方法によってブロンズとテフロンという2種類に分かれています。ブロンズは伝統的な製法で、表面がざらざらしてる。だからソースが絡みやすいんです。日本製のパスタは基本テフロン。テフロンには時間が経ってもパスタの状態があまり変わらないという利点がありますが、僕はブロンズが好きです。小麦の味がしておいしい。パスタをブロンズにするだけでだいぶ違うので感動します。

パスタ、魚醤、ごま油…こだわりの食材たち

山口

そんな種類があるんですね。知りませんでした。それくらい極めている料理があると、作るのも楽しいですよね。おすすめのパスタのブランドってあります?

浅利

日常的に使うなら、「ディ・チェコ」がいいと思います。あれはブロンズタイプです。

山口

青いパッケージのやつですね。わりと普通のスーパーにも売っているし、買いやすいですよね。

浅利

あと僕が好きなのは、「デルヴェルデ」というブランドです。小麦の味と香りをちゃんと感じられて、まじでおいしいです。ちょっと高いし、あまり売ってないので、気合い入れて作る時に使います。

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浅利さんおすすめのパスタ(浅利さん提供写真)

山口

志村さんは、こだわっている食材や調味料はありますか?

志村

ナンプラー(タイの魚醤)やニョクマム(ベトナムの魚醤)が好きでよく買います。

山口

ナンプラーとニョクマムを使い分けているんですか?

志村

塩気や風味が違う気がするんですよね。なので、両方持っています。焼き野菜にかけたり、パスタに使ったりと、エスニック料理以外に使うことも多いんです。

山口

魚醤は旨味があるから、スープの味付けに入れてもおいしいですよね。山田さんはどうですか?

山田

最近、「関根のごま油」にどっぷりハマっていて。ごま油って、煎りごまを使った風味の強い茶色いごま油か、色のない生のごまを使ったごま油の二つしか知らなかったんですけど、関根のごま油はその中間くらいの色なんです。

風味や香りも中間くらいで、使いやすいんですよ。炒め油として使ってもいいし、ドレッシングにもなるし、中華料理の風味付けに仕上げでちょっとかけてもおいしい。香りが上品なんです。

山口

わあ、それいいですね。ごま油は風味が強すぎると、他の食材の味を覆い隠しちゃうことがありますもんね。私は最近、塩はもうそんなにこだわらなくていいかなと思っていて。いろんな塩を使ってきたんですけど、今はサラサラしている焼き塩と、粒が大きめの粗塩の二種類に落ち着きました。

浅利

よく「塩は精製塩じゃなくて天然塩を使え」と書いてあったりしますが、僕は正直、そんなに気にしなくていいと思っています。

山口

そう、料理の下味やスープの味付けなどは、普通の塩でいいですよね。味というより、サラサラしている方がまんべんなくかけやすいので、テクスチャーで選んでいます。

今から自炊を始める人は、スーパーに行って塩や砂糖の種類の多さに戸惑うかもしれないですけど、スタンダードなもので大丈夫だと伝えたいですね。

あと、一人暮らしの自炊というと、「食べ切れない」問題があると思うんですけど、皆さんは作りすぎて食べ切れなかったことなどありますか?

志村

私はこの間、おでんがどうしても食べたくて、寸胴鍋いっぱいに仕込んだら、一週間以上おでんを食べ続ける羽目になりました(笑)。

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鍋いっぱいのおでん(志村さん提供写真)

山口

途中で飽きませんでしたか?

志村

飽きてくるので、味変しようと思って、湯剥きしたトマトを入れました。少し熱を入れて、崩しながらはんぺんとかと一緒に食べるんです。

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トマトで味変(志村さん提供写真)

山口

わあ、おいしそう!

志村

そうしたら、ワインにも合う洋風な味になりました。めっちゃおいしかった。

「なんとかしておいしく食べてやろう」という意志から生まれる工夫

山口

トマトはかなりお助け選手の野菜ですよね。山田さんは、余ったものを工夫して食べたことはありますか?

山田

僕はどちらかというと残すのが嫌で、一回で食べ切ろうとしちゃう。

山口

それ、お腹パンパン案件じゃないですか。

山田

毎回、お腹パンパンになります(笑)。でもやっぱり、多くの料理は出来たてがおいしいから、その時に食べ切りたいんですよね。

山口

私は「明日食べるかな」と思って残しておいても、翌日には食べたい気持ちがなくなっていることがあります。そういう時は「また食べたくなる時がくるはず」と思って、冷凍できるものであれば冷凍します。あとは、お弁当のおかずにする。

志村

私は煮込み料理やカレーなどを作るのが好きで、たくさん作るんですけど、食べ切れなくて冷凍することが多いです。それがどんどん冷凍庫に溜まっていくんですよね…。

山田

でも「何としてでも食べ切ってやろう」という人間の気持ちって大事で、そこから新しい料理が生まれたりしますよね。

岐阜・高山の郷土料理で「漬物ステーキ」っていうのがあるんです。漬かりすぎて酸っぱくなった漬物を、油で炒めて卵とじみたいにする料理。古くなった食べ物の活用や、冬場の野菜不足の時期でも野菜を食べようとする工夫などから、こうした郷土料理が生まれたんだろうなと思います。

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岐阜県・飛騨地方の郷土料理漬物ステーキ(山田さん提供写真)

山口

たしかに、「この食べ物を無駄にしたくない」という気持ちから生まれる工夫ってありますよね。先日、カレーに生姜を入れすぎて、ものすごく辛くなってしまったんです。その時に、トマトとココナッツミルクを入れたら、もとのレシピとはかなり離れた仕上がりになったけれど、超おいしくなりました。

浅利

残るものってだいたい汁物ですよね。カレーとか豚汁とか、お椀一杯分より多く作ることを前提にレシピができてるから、どうしても残っちゃう。でも、汁物はアレンジがきくので、なんだかんだ知恵と工夫でおいしく食べられるなと思います。

山口

工夫がうまくいって、さらに料理がおいしくなった時は、本当に「やった!」という気持ちになりますよね。

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(#3に続きます)

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取材・文:崎谷実穂
撮影:猪原悠

アイスム座談会