アジカン・伊地知潔と長崎・対馬のおいしい関係ーーミュージシャンが語る、料理の力と地域再生

特別インタビュー

2022.01.07

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料理研究家であり、ASIAN KUN-FU GENERATIONやPHONO TONESのドラマーとして活躍する伊地知潔さんが、長崎県の離島・対馬のフードロスをおいしく解消する「対馬 GOOD EAT PROJECT」を立ち上げました。
本プロジェクト第一弾として、対馬のフードロス食材を活用したオリジナル商品「たたっこ」「魚餃子」「ジビエ餃子」「ジビエカレー」が2021年10月より販売されています。(詳細はこちら

プロジェクトに込めた想いや対馬について、また伊地知さんの料理研究家としてのバックボーンを、伊地知さんプロデュースのジビエカレーをいただきながら、詳しく伺いました。

お話を伺った人:伊地知潔さん

ASIAN KUNG-FU GENERATION、PHONO TONESのドラム担当。料理研究家としても活動し、音楽業界きっての料理好きとしても知られている。誰でも簡単に作れて、どこかに驚きがある料理を作るのがモットー。YouTubeで料理チャンネル「KIYOSHI'S KITCHEN」も配信中。

ライブで訪れた対馬は、豪華食材の宝庫だった

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ーー伊地知さんはなぜ、対馬にここまで惚れ込むようになったのでしょうか?

対馬を訪れたのは、ライブイベントへの出演がきっかけでした。いつも各地を回る時はその土地の食べ物を楽しむのが好きなので、すごく楽しみにしていたんです。対馬周辺の海域は暖流とプランクトンの多い寒流がぶつかるところに位置していて、「魚がわきあがる」と言われるくらい、日本屈指の漁場なんです。魚種も多くて、どんなお魚が食べられるのかワクワクしていました。

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実際に食べてみると、予想をはるかに超えるおいしさだったんです。ライブの打ち上げでバーベキューをやったんですが、貝や肉を食べたあと、ものすごく大きい刺し盛りが出てきて。そのお刺身が、信じられないくらい鮮度が高くて、めちゃくちゃおいしかったんです。「なぜこれが最後に出てくるの?メインなのに!」と驚きました。

と同時に、「こんなにおいしいものが漁れているのに、なぜこれを活かしたお店をやらないんだろう」と不思議に思いました。実は、ライブ前にグルメサイトで点数の高いお店を調べて行ってみたんですが、こういう地元のお魚を活かしたお店がほとんどなかったんです。その頃は島民よりも観光客の方が多かったので、観光客向けのお店が多かったのかもしれません。

ーーたしかに不思議ですね。東京に帰ってから「対馬のごはん、おいしかったな」と思い出すことが多かったんですか?

そうなんです。島自体もおもしろかったし、また行ってみたいと思っていました。他にも、対馬はしいたけやはちみつが有名で、「いりやきそば」という名物もあります。そういうものを、もっと深堀りしたくて。

でも、次に対馬を訪れたとき、海外からの観光客がパタッといなくなっていたんです。島の人たちは、「なんとかして対馬をみんなに知ってもらいたい、もっと対馬を盛り上げたい」と言っていました。地元の方と仲良くなっていく中で、「伊地知さん、協力していただけませんか?」というお話をいただいたんです。

ーー伊地知さんは、どんな提案をしたんでしょうか。

まず「もったいない」と思ったのは、「対馬にはすごい食材があるのに、まったく活かせていない」ということ。だから、フレンチのシェフとタッグを組んで、ジビエを使ったフレンチのようなコース料理を対馬で提供してみたんです。僕はお持ち帰り用メニューとして、アオリイカのスティック天ぷらを作りました。

ーーアオリイカのスティック天ぷら?

対馬ではアオリイカがたくさん漁れるので、それをスナックみたいにして出せたらいいなと思ったんです。ポテトフライみたいな形に切って、スティックにして。そうしたら結構盛り上がって、島の人たちが喜んで食べてくれたんですね。「こんなの見たことない!」って。

それをきっかけに、獣害の問題も知るようになりました。対馬では増えすぎた猪や鹿など駆除した野生動物の約9割を捨てている状況だったんです。それならジビエ料理もやってみたいと思い、今回のお話につながりました。

ーーなるほど。地元の方々と接する中で対馬の問題を知り、素晴らしい食材があるのにうまくアピールできていない現状に、歯痒さを感じたんですね。

地元の若者もすごく熱くて、問題意識が高いんです。でも、まず若者の数が少ない。若いハンターさんもいない。しかも、どうやら島の人はジビエを食べることに抵抗があるらしいんですね。

どうしようかと考えている時、対馬で食肉加工を行っている「daidai」という一般社団法人の方々と知り合いました。「最近はジビエをコロッケやメンチカツにして、給食として提供している」という話を聞いて、なるほどと思ったんです。ある程度加工してあげれば、ジビエ料理を食べる心理的なハードルが下がるかもしれないと考えました。

ーー対馬の猪肉や鹿肉は、加工しなくてもおいしいんですか?

びっくりするくらいおいしいんです。特に対馬の猪は、旨味が強くて臭みが少ない。これまでいろんな猪を食べてきましたが、環境のせいかジビエ特有の臭みがほとんどないんです。一方で、対馬の鹿は、エゾシカなどに比べるとややクセがありました。普通は逆で、鹿より猪の方がクセが強いんですけどね。

健康面から見ると、猪肉も鹿肉も高タンパクで栄養価が高い。料理好きとしては、今のうちに食べて知っておきたいんですよね。 

伊地知さん考案のジビエカレーを試食!

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ーーもともとミュージシャンとして活動していた伊地知さんが、「料理研究家」を名乗るまでに料理にのめり込むようになったきっかけはなんだったんでしょうか?

料理研究家としてやっていくきっかけをくれたのは、「バズレシピ」で知られているリュウジくんなんです(アイスムでは「リュウジのレシピトレード」を連載中)。彼の家で一緒にお酒を飲んでいる時、「潔さんは僕とやってることが全然違うし、アイディアも斬新だから、料理やった方がいいですよ!」と言ってくれたんですね。それで自信がつきました。だから彼には頭が上がらないんです。困ったことがあるといつも相談しています。

ーーリュウジさんがきっかけだったんですね。料理の原体験は?

料理が好きになったのは高校生の時。カレー屋さんの厨房でアルバイトをしていたんです。アルバイトをはじめて2年目くらいの頃にはカレーをすべて任されるようになりました。行列ができるカレー屋さんだったので、一日に何百人も、僕が作ったカレーを食べるんです。「おいしかったです!」と言ってもらえて、自分が作ったもので感謝されるのって嬉しいな、と思ったのが料理好きになったきっかけですね。

そのお店は、フォン・ド・ヴォーとかデミグラスとか、スパイスよりもだしでカレーを作る欧風カレー屋さんでした。ここでの経験がベースになっているから、今流行っているスパイスカレーのことは、実はあまり詳しくないんです。

ーー今回、伊地知さんが考案したジビエカレーも欧風ですね。

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そうなんです。昔好きだった欧風カレーにしたくて、ひき肉を使ったドライカレーを作ってみました。もちろんスパイスも効かせているんですけど、塩とスパイスだけで味付けをするという考え方ではなく、もう少し旨味が強いカレーに仕上げています。その中で鹿肉のジビエ感もある。豚でもないし牛でもない、でも臭みもない。ジビエの良いところだけを感じるカレーになったと思います。一口、食べてみてください。

ーーでは、いただきます。……これは……!おいしいです!辛いけどしっかり甘くて、旨味があって、お肉が引き締まっている!ちょっとイタリアンな感じもしますね。

嬉しい!ありがとうございます!カレーボロネーゼみたいにしてパスタで食べてもおいしいんです。粉チーズを振って味変してもおいしいと思います。

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ーー取材中だし、一口だけ…のつもりが、おいしいのでガッツリ食べてしまいます。スタッフも全員完食してますよ。

臭みもないし、ひき肉なので見た目の心理的なハードルも低いし、ジビエに興味があるけれど食べたことのない人でも入りやすいと思うんです。カレー以外にも、メンチカツやハンバーグ、麻婆豆腐など、ひき肉で作れるものはジビエに変えられると思います。その際に猪肉と鹿肉のどちらが合うかは、まだ研究中ですね。いずれは「対馬 GOOD EAT PROJECT」の第2弾、3弾として、ブロック肉も扱いたいです。

ーー他に、魚を使った餃子なども考案されたんですよね。

「魚餃子」には、その時に余った魚を入れているんです。「未利用魚」といって、水揚げされたあと捨ててしまっている魚を、臭みなどを取り除きおいしく食べようというのが元々のプロジェクトなので、どんな魚が来ても対応できるレシピにしました。

ーーすごい! そんなことができるんですか?

ものすごく味に敏感な人なら違いに気付くかもしれませんが、だいたいはどんな魚が来ても大丈夫な味付けにしました。といっても、マグロの赤身が来るようなことはないですからね。

ーーどんなふうに調理するのがおすすめですか?

焼くのが一番おいしいけれど、水餃子もいいですね。鶏ガラスープに入れてスープ餃子にするとか。あとは鍋。寄せ鍋でもキムチ鍋でも、そのまま入れて、浮いてきたら食べられます。

「何を食べるか」よりも「誰と食べるか」

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ーーカレー屋さんでのアルバイトから料理に目覚め、今では料理で地域の課題を解決しようとしている伊地知さん。興味の拡張がすごいです。

ドラムと一緒で、それだけ料理が好きだったんでしょうね。

ーー伊地知さんから見て、料理と音楽の共通項はありますか?

料理と作曲は、頭の使い方が似ているんです。たとえば鹿肉のミンチがあったとして、「どう味付けしていこう」と考える時、「この調味料とこの調味料を合わせたらこうなるんじゃないか」と予想しながら作ります。音楽も同じで、後藤(ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文)が送ってくれる弾き語りのデモに対して、「こういうパターンを合わせて、これくらいテンポを上げたらこうなる」と予想しながらアレンジしていく。そうやって味付けしていく感覚が似ていますね。ちなみに後藤は今、自宅で唐辛子を育てているそうです(笑)。

ーーゴッチさんも家庭菜園に目覚めたんですね。そうやって味付けを調整してアレンジしていくことで、どんな楽しみがありますか。

僕は、結果を予想するのが好きなのかな、と思いました。「お前、明日の夜は何食べたいんだ!?」とよく自問自答しています。それがワクワクするんですよね。おいしいものを食べたくてしょうがないんです。だから、失敗した時はすごくへこみます。和食とイタリアンを融合させるなど、一見合わなそうなものを合わせて実験しながら作るのが好きなので、おいしくなかった時は「せっかくの食材をこんなにしてしまって……」と落ち込みます。そうやって料理するのが好きだから、作り置きはほとんどしません。

ーーそういえば、伊地知さんのSNSを見ていたら、コストコでお肉を買っている投稿を見つけました。

主に人が来る時に使うミスジ肉ですね。あれは本当に使い勝手が良いんです。ステーキカットして、1枚ずつラップでくるんで冷凍しておけば、いつでも食べたい時にステーキが食べられる。スジの部分はこんにゃくや大根を入れて牛すじ煮込みにしてもいいし、カレーやシチューにもできるし、本当にコスパが良いです。

ーー本当に料理を楽しんでいるのが表情からも伝わってきます。

でも、自分一人のためにごほうび的な料理をすることはあまりないです。やっぱり誰かと食べたい。何を食べるかと同じくらい、誰と食べるかは大事だと思うんです。好きな人と食べると、料理もさらにおいしく感じる。それくらい、人と食はつながっていると思います。

ーーアジカンのメンバーをおうちに呼んでみんなで食べることもありますか?

それは、ないです(笑)。普段あまりにも一緒にいる人たちだから、それだけはカンベンしてもらいたいですね(笑)。

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取材・編集:小沢あや(ピース株式会社)
構成:山田宗太朗
撮影:小原聡太
撮影協力:MOJA in the HOUSE

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