忙しい日々のなか、子どもと笑い合う瞬間は頭の中が「楽しい」で埋め尽くされる メインビジュアル

忙しい日々のなか、子どもと笑い合う瞬間は頭の中が「楽しい」で埋め尽くされる

特別企画

PEOPLE
2025.12.29

東京大学在学中に芸能活動をスタートし、俳優やキャスターとして多彩な活動をしてきた菊川怜さん。2019年に第一子を出産し、現在では二男一女の母として日々奮闘しています。「子育ては本当に大変。だからこそ、後で振り返ったらこの時期に自分は成長したと思えるはず」という菊川さんに、日々の子育てや仕事との両立について伺いました。

img_kikukawarei_001-guest

お話を伺った人:菊川怜さん

1978年、埼玉県生まれ。俳優、タレント。東京大学工学部建築学科卒。1998年、大学在学中にモデルとしてデビュー。数多くのドラマ、映画、CMに出演し、東京大学出身という経歴を生かして情報番組やクイズ番組などでも活躍。2019年に長男、2020年に次男、2021年に長女を出産。出産後は子育てを優先して芸能活動をセーブしていたが、2024年に約8年ぶりにドラマ出演を果たし、2025年10月には映画『種まく旅人 醪のささやき』で主演を務めた。

初めての出産後「子育てってこんなに大変なんだ」と驚いた

――2019年に第一子を出産された菊川さん。初めてのご出産はどのような経験でしたか?

最初の出産は本当に大変でした。早剥(常位胎盤早期剥離)になって、大量に出血してしまって。出産当時は産むことに必死で状況を把握できていなかったのですが、後から担当医に聞いて「そんなに大変なことになっていたのか」と知りました。出産というのは何が起こるかわからないし、母子ともに健康でいられるのは本当に奇跡のようなことだと実感しました。

――わが子と対面した瞬間はいかがでしたか。

出産直後に胸のあたりに赤ちゃんをのせてくれる、あの瞬間がありますよね。

――カンガルーケアですね。

そう、それです。赤ちゃんがぺたーっと触れたとき、あたたかくて、とても感動しました。無事に産めたという安心感もあり、いろいろな気持ちが湧いてきましたね。一人目はもちろん、二人目も三人目も同じくらい感動しました。

――退院されてからの日々はいかがでしたか。

「子育てってこんなに大変なんだ」とびっくりしました(笑)。子育ては、誰も事前にやり方を教えてくれないんですよね。母親になるための学校があるわけでもなく、産んだら急に母親になる。わからないことだらけで右往左往するなか、24時間赤ちゃんの命を守るという重圧がのしかかってきて、寝かせるときに周りにタオルすら置いてはいけないとか、マットレスは硬いほうがいいらしいとか、いろいろ気をつかっていました。

それに、一人目は寝かしつけにも苦労しました。やっと寝かせてもベッドに置いたら起きてしまう。その繰り返しで、はじめのうちは1時間も寝てくれなくて、寝不足でぎっくり腰になったことも。でも、「ねんトレ(ねんねトレーニング)」について学び、生活リズムを整え、ベッドに置いたら自分で寝る「セルフねんね」の方法を実践したら、本当に楽になりました。

img_kikukawarei_001-02

――「母になった」と実感した瞬間はありますか?

いやあ、特にないですね(笑)。日々の子育てで、なんとかしなきゃいけない状況に直面しては、工夫して乗り越えて…その積み重ねのなかで、気づいたら母になっていたという感覚です。子どもたちが私を母にしてくれたのだと感じています。

――子育てをしていく中で、思い通りにいかなくてつらい瞬間などはありますか。

毎日ありますよ。朝、家を出ること一つとってもうまくいかず、「早く早く」と急かしても全然動いてくれなくて…「もう、なんで!?」と毎日思っています(笑)。少しでもスムーズに進むように、どうしたら時短できるか、日々試行錯誤しています。

仕事への復帰は「案ずるより産むが易し」だった

――今(2025年11月現在)、お子さんの年齢は長男くんが6歳、次男くんが4歳、長女ちゃんが3歳ですよね。

はい、まだ小さいので、ぐずることもよくあります。でも、少しずつ、自分でできることを増やしてほしくて、お風呂でも長男はまず自分で洗って、私は仕上げだけするようにしています。体を自分で拭く練習など、できる範囲で一つずつ。

そして、お手伝いをしてくれたら「ママすごい助かった!ありがとう!」とうれしい気持ちをしっかり伝えます。そうしたら、意外とごきげんでやってくれることもあるんです。

――上の子が下の子の面倒を見ることもありますか?

ありますね。これは本当に助かるので、けっこうお願いしてます。「歯磨くよって伝えて」「靴下履くように言って」「ご飯食べるの手伝ってあげて」「朝ごはんの後余裕があったら下のゴミ片付けて」「テーブル拭いて」などいろいろ頼んでいます。

――かなりたくさんやってくれるんですね(笑)。すごいです。

そうですね。家族というチームの一員なんだ、という自覚を持ってもらえるよう声をかけています。

img_kikukawarei_001-03

――産後、お仕事に復帰された際はいかがでしたか?

正直に言うと、始める前はかなり不安でした。3人の子どもで手一杯なのに、仕事との両立なんて無理じゃないかと、やる前からいろいろ想像してしまっていて。でも、実際やってみると案外なんとかなるものだな、というのが今の実感ですね。

できた経験が増えていくと、「次も大丈夫かも」「こんな仕事もできるかも」と思えるんですよね。まさに「案ずるより産むが易し」だな、と。

自分がレベルアップしていくと、以前は無理だと思っていたことが余裕でできるようになる。少しハードなことに挑戦してはまたレベルアップして…その繰り返しです。先のことを心配しすぎると、精神的な負担が大きいので、とりあえず目先のことだけ考えるようにしています。

――「急に子どもが病気になるかも」といった可能性を考えていると、仕事も受けづらいですよね。

本当にそうなんです。実際に、熱が出て登園できなくなるなど、突発的なことがいろいろ起きますしね。でも、起こってもいないことを心配していると、何もできません。何か起きたら起きたで、きっと打つ手はあるはず。どうしても無理なら、例えばスケジュールの変更調整やオンライン対応が可能かどうかお願いしてみるなど。迷惑はもちろんかけたくないですけど、最悪の場合にはそういった選択肢も取らざるを得ないかと。

まったく性格が違う3人の子。それぞれの良さを伸ばしたい

img_kikukawarei_001-04

――子育てのなかで、ご自分が変わったと感じる部分はありますか?

物事を後回しにしないようになりました。出産前は自分のために時間を使えばよかったけど、子どもが生まれたらそうはいかないから。だからとにかく、眼の前にあることをやる。テトリスでいえば、1段ずつでもいいから消していく。そうじゃないと、上からどんどんブロックが降ってきて、ゲームオーバーになっちゃう。そういう緊張感の中で暮らしています。

――自分ではない人間のことを、3人分考えないといけないわけですもんね。

そう、3人のタレントを抱えるマネージャーになった気分です(笑)。しかも送り迎えや同行など現場仕事もやるんだ、みたいな。マルチタスクの訓練をしている感じですね。

でもこの忙しい日々を乗り越えていくことで、処理能力が上がってきたような気もします。慣れてくれば、もっと余裕のあるお母さんになれるかな。

――3人のお子さんがいると、上の子の経験がそのまま下の子にも活きる、ということはありますか?

うーん、それが意外とないんです。3人ともまったく性格が違うので。長男は場所見知りが激しく慎重なタイプで、新しい場所に連れて行くのに苦労しました。でも、長女はどこでも平気でぐいぐい行くタイプ。次男はおっとりしてて、ふざけるのが好き。だから、長男と同じ言い方じゃ伝わらなかったりする。子どもによるんだな、と感じています。

こんなに人と向き合ったことは今までなかったので、「人間とは?」みたいなことを考えたりします(笑)。

――壮大な問いですね…!(笑)

話す内容もそれぞれ違っていておもしろいんです。素直でストレートな物言いをする子もいれば、ワンクッション挟んだ言い方をしてくる子もいる。感受性や考え方もそれぞれ違うから、その子なりのいいところを見つけて伸ばしてあげたいと思っています。

つい親って、なんでもやってあげたくなっちゃうじゃないですか。

――時間がないときは、スムーズに進めたい気持ちもありますしね。

そうなんです。でも、なるべく自分で考えたり工夫したりして身につけないと、本当の意味では身につかないと思うんです。幼い頃からできる範囲で小さな挑戦を積み重ねておけば、大人になった時に楽になるんじゃないかと。

宿題も、親に「やりなさい」と言われてやるだけだと、将来的にはやらない子になってしまうかもしれない。もちろん時間との戦いもありますが、なるべく自主的にやるように促したいですね。

「公園に行く」だけでも達成できたらいい一日になる

――その考え方は、ご自身が受けてきた家庭での教育の影響もありますか?

どうだろう…私は、親から「やりなさい」と言われた記憶がほとんどないんですよね。父はまったく言わなかったし、母は中学受験には伴走してくれたけれど、勉強時間などをルールで縛るタイプではなかった。だから基本的に自己管理でした。

でも私は走り回っているだけで毎日楽しいという、精神年齢がまわりに比べて低い子で、宿題も適当に手を抜いていて…よく大学に受かったな、と我ながら思います(笑)。

――大学受験は自己管理できないと、かなり厳しいですよね。

私は極端で「適当にやる」か「とことんやる」かのどちらかなんです。大学受験は、得意な数学と物理だけは満点を取るくらいの気概でやっていました。それでなんとかなったのかなと。

人生全体で見ると、与えられたことに対して、勉強や訓練でなんとかできることが多かったと感じているんです。でも子育ては、そうはいきません。初めて、未知のことに手探りで挑戦して苦労している。そういった意味では、子どもの頃から、もっといろいろなことに体当たりで挑戦すればよかったと感じているんです。自分はしてこなかった主体的な挑戦を、自分の子どもにはしてほしいと思っています。

――日々のなかで小さい挑戦を積み重ねてほしいと。

はい、自分で考えてほしいなと。宿題もやらなきゃやらないで…まあ、やってほしいんですけど(笑)。でもやらない期間があったら、それをきっかけにやる意味を考えるかもしれないじゃないですか。

――そこから自主的に始めるかもしれませんよね。

親がお膳立てして80点とれたところで、本人の身になっていなければ意味がない。サポートと自主性を活かすことのバランスを意識しています。

img_kikukawarei_001-05

――「これは私らしい育児だ」と感じることはありますか。

いやあ、育児はいまだにわからないことだらけだし、自信がないです(笑)。でもわからないなりに、なんでもいいから一つやる、ということを大事にしています。例えば、「行ったことのない公園に行く」といった小さな目標でも、達成すると充実感があります。

「できた」「楽しかった」「私も運動になった」とプラスの気持ちが湧いてくる。たくさん遊んで帰ってくるのが遅くなっても、「鍋にしたら早く食べられそう」と思いついて、ぱぱっと夕食も終えられた、とか。

――公園に遊びに行って、ごはんも食べたら、もう完璧な1日ですね!

忙しい中でも「こうするとうまくいく」という発見があるとうれしいですよね。

寝起きは手を動かすことでやる気のスイッチを押す

――しんどいときのリセット方法などはありますか?

私は、とにかく睡眠時間が足りないとダメなんです。寝られさえすれば、リセットされる。だから寝かしつけをして、そのまま一緒に寝てしまうことも多いですね。

――寝起きはいい方ですか?

いや、朝はやっぱり「もっと寝ていたい」と思います(笑)。でも5時に起きて、溜まっていたタスクを処理できると「起きてよかった!」と心から思う。だから、その感覚を思い出してなんとか起きています。

起きる瞬間が一番つらいけれど、少し動き出すと体が目覚めてくる。とりあえず洗濯物を畳んでみるとか、手を動かすことでだんだん調子が出てくるんです。頭が疲れてぼーっとしている時も、眼の前のゴミを拾うとか、何かやってみる。そうすると、やる気が出てきます。なんでもそうなんですよね。

――はずみがついて回りだすんですね。おいしいものを食べるのがお好きだと伺ったのですが、食の楽しみ方にも変化はありましたか?

食にかける時間は減りましたね。とにかく子どもに食べさせることが最優先で、自分は後回し。朝のフルーツも、つい自分の分を少なくして子にあげてしまいます。でも、私もしっかり食べて元気でいないとな、と思います。自分も大切にしないといけませんよね。

その分、たまにおいしいものが食べられると、喜びが倍増します。先日も地方ロケの後に、おいしいお魚をいただいて、ものすごくテンションが上がりました(笑)。

――暮らしのなかで大事にしていることはありますか?

img_kikukawarei_001-06

子どもはどんどん大きくなるので、「今この瞬間がかけがえないものだ」と思うときは、しっかり味わうようにしています。
例えば、寝る前の時間。寝なくちゃいけない時間なんですけど、寝室にみんなで集まると楽しくなっちゃうんです。

子どもに「ママ押して」って言われて、お尻で押し合いっこしたりして(笑)。そういう、子どもと笑っている時間は、私自身もすべてのストレスがふっと消えて、「楽しい」という感覚しかなくなる。そんな時は、たとえ「寝なくちゃいけない」とわかっていても、この時間を全力で楽しむようにします。5分くらい寝る時間が遅くなっても問題ないですしね。

あとは、日々の暮らしの中で、子どもの“おもしろポイント”がけっこうあるので、そこは見逃さないよう心がけています。

――例えばどんなことですか?

昨日は、長男から「水はリットルとかミリリットルで表せるけど、風は?」と聞かれて。さらに「火はどうなんだろう」と言い出したんです。子どもの視点で、自然のワンダーをこうやって捉えているのか、と感心しました。

こういうとき、忙しいと「後にして」と言ってしまいがちですが、少し立ち止まって「すごいねえ!知らなかった!それ、ママにも教えてくれる?」と少し大げさなくらい反応するようにしています。そうやって、興味や思考の芽を育てていけたらなと。

強くなりたいという願いも込めて、あの日の自分に言ってあげたい言葉

img_kikukawarei_001-07

――では、母になったばかりの自分に今のあなたが手紙を書くとしたら、どんなことを書きますか。

「大丈夫、強くなるよ」かな。

自分がすごく大変だった時期に、友だちから「大変なことを乗り越えると、すごく強くなるよ」と言われたんです。その友だち自身が困難を乗り越えた経験があって、実感のこもった言葉だったんですよね。

今は大変でも、10年後、20年後には、今と違う景色が見えている。それが自分の成長による変化だとしたら、すごくいいなと思います。

――今の自分は強くなったと感じますか?

まだまだですね。だから、この言葉には「強くなりたい」という願いも込めています。

少し話は変わりますが、私は人は根本的には孤独な部分があると思っていて。子育てにおいても、サポートしてくれる人がいてとても感謝していますが、ふと「自分がこの子を守らなければいけない」と重圧のようなものを感じることもあります。でも、子どもと接している時間はそんなことを考えている余裕もなくて、孤独じゃないんですよ。その感覚が私はけっこう好きです。

――子育てが不安で、子どもを産むのをためらっている人もいると思うのですが、産んでいない人も含めて、子育てに不安を感じている人にメッセージをお願いします。

「大丈夫だよ、明るい未来があるよ」なんて軽々しくは言えないですよね。自分の人生は自分で決めるものだから。少なくとも言えるのは、私は産んでよかったし、生まれてきてくれてすごく感謝しているということ。あと、子どもは本当にかわいいです。

子育ては大変なこともたくさんあるんですけど、振り返ったらあの大変な時期に成長したなと思えるはず。大変なことを、どう前向きに捉えるか。いい面を見つけて、希望や生きる活力、喜びに変えていくかが大事だと思います。

――そう考えたら、どんな選択や結果も、後悔せずポジティブに受け止められそうです。これからのご自身とお子さんたちの未来にどのような希望を持っていますか?

どんなふうに成長していくか、すごく楽しみです。途中で大変なことや困難に直面することもあるかと思いますが、成長していく姿を楽しみにしています。

そして彼らが大人になったら、母親との関係性も変わってくると思うんです。その変化にもワクワクしています。母を追い越した彼らから、いろいろなことを教わりたいですね。

img_kikukawarei_001-08

この記事をシェアする

取材・文:崎谷実穂
撮影:猪原悠