京都の変わるものと、変わらないもの。ーーーまるき製パン所

テイクアウトのある風景 #7

LIFE STYLE
2020.11.25

写真家の中川正子さんが写真と文章で綴る、「テイクアウトのある風景」。
第七回は、中川さんが岡山から足を伸ばし、京都まで。鴨川沿いを自転車で走りながら向かったのは創業73年の「まるき製パン所」。京都で、「日常のあたりまえ」のおいしさを追求してきたこちらのパン、旅の途中にもぜひ、食べてみてほしいです。


京都を自転車で駆け抜ける多幸感。せまい路地を地図を頼りにぐんぐん走っていると、地元のひとみたいな錯覚が膨らむ。

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街の真ん中を流れる鴨川を目指す。あの川の存在は実に宝だといつも思う。その穏やかなありようとそこに集い楽しむひとびとの様子が、京都の暮らしの質をぐんとあげている。ってわたしが今さら言うまでもないくらい、朝も昼も夕暮れもぜんぶ、いい。

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おいしいものがひしめくこの最強の街に旅して、鴨川沿いでカジュアルに朝ごはんを食べたいって思った。何にしよう。まるき製パン所にしちゃおう。京都での撮影でいつもコーディネーターさんが朝から手配してくれていたあれ。やわらかいコッペパンにたっぷりの千切りキャベツとかハムとかおいしいクリームとか挟まってたあれ。なんだかじわりと忘れられないなつかしい味。調べてみると朝は6時半からやってる。よし。

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自転車を飛ばして行くともう、たくさんのひとが並んでる。ショーケースにパンは少ししかない。甘いやつしか。どうしようかな。うーむと悩んでいると、前に並んでいたお姉さんがそっと教えてくれる。「ここにないやつも、頼んだら作ってくれはりますよ。」お礼を言ってメニュー表を改めて眺める。

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前おいしかったやつ、なんだっけ。お店の方に記憶を頼りに伝えてみると、それはハムロールだったことがわかる。じゃあそれ、ください。あと、コロッケロールとクリームぱんも。ぱん、はひらがな。

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特別に、作っている様子も見せてくださった。三角巾をきりっとしめた女性たちがテキパキ働いてる。焼きあがったコッペパンがつやっと並び、大量のキャベツが刻まれたボールがどん、と置いてある。奥ではコロッケなどがどんどん揚げられていく。和やかな雰囲気ながらも、みなさんの手元は休みなく素早く動き続けてる。

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創業73年。ほぼ変わらないレシピでずっと作られてるそう。その日いらっしゃった中でいちばん勤続年数が長い方は、もう30年ほど働いているとのこと。

その間にはさまざまな周囲の環境の変化があった。この商店街でさまざまな業種がひしめきあっていたころから、街はどんどん変わり店は減った。代わりに地元のひとだけでなく県外や海外の方も来る機会が増えた。

でも、まるきのパンはずっと一緒。

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おいしいものがあれば使っていこうという社長の姿勢で、かつて使っていた魚肉ソーセージは今ではなくなり、使うコロッケなどを変えたこともある。大きく変えるのではなく、よりよい方へのバージョンアップ。

口溶けのよさが自慢のパンのレシピもおいしい大山ハムも奥さま考案のクリームパンのクリームもすべて、「日常のあたりまえ」のおいしさを追求してきたものだそう。ちなみにキャベツは1日20個くらいは刻むんだって。

別のスタッフの方が「うちのパンはごちそうやなくて、おばんざいみたいなもんやしなぁ」とおっしゃった。「そやから毎日食べても飽きひんのやわ」と。すごくわかります。

個人的にはこどものころ、おばあちゃんちで食べてたごはんにも似てる。ハムとかクリームとかフライとか。外国のものみたいだけど、すごく日本的な。そしてちゃんと、ていねいな。

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ちょっとだけにしようと思ったのについつい3つ買って自転車のかごに放り込む。鴨川へ。ジョギングするひと、ダンスの練習するひと、絵を描いてるひと。そんな川沿いに座ってハムロールを頬張る。キャベツがしゃきしゃきしていて、ハムはまっとうにハムで、おおいに満足。

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空が広くて澄んでいて、いいなと思う。とんびがわたしの上をくるくる、回ってる。彼も食べたいのかも。気づいたら3つ全部、おなかの中に消えてた。するりと。これは近所にあったら、週に1度は行っちゃうな。きっとずっと、飽きずに。

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店舗情報

まるき製パン所
京都府京都市下京区松原通堀川西入ル
075-821-9683
営業時間
平日 6:30-20:00
日祝 7:00-14:00

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