小豆島で瀬戸内海を見下ろしながら、サンドイッチをーーmoksha coffee stand

テイクアウトのある風景 #16

2022.04.21

写真家の中川正子さんが写真と文章で綴る、「テイクアウトのある風景」。今回は、小豆島の「moksha coffee stand」を訪ねます。DIYで作ったという瀬戸内海を見下ろす場所に建つこのカフェは、オーナーの二人の「自分たちが作りたいものを作って、それをシェアしたい」というシンプルなきもちが作った場所。丁寧だけど、肩の力が抜けているこの場所に、つい長居してしまいたくなりそうです。


おだやかな瀬戸内海を渡る。

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新岡山港からフェリーに揺られ70分。船の旅って「非日常」感がいつもあって楽しい。いいアイディアがふいに浮かんだりする。いちばんすきな最前列を陣取って凪いだ水面をぼんやり見つめていると、もう、小豆島。

「なにしろサンドイッチが抜群にうまい店なんだよ。オーナーの二人も最高で。」この島に暮らす友達から話を聞いて、いてもたってもいられず来たのでした。数年前に神奈川から移住してきたすてきな夫婦がやっているそう。港に迎えにきてくれた友達と、積もる話をしながら、島を横断する。小豆島って意外と広い。港から30分で、ようやく目的地に。

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野外フェスみたいな心地よい重低音が上の方から響いてくる。富士山の山小屋でこういうかんじあったな、と思い出す。音が聞こえる、というより「降ってくる」というような。見上げるとニット帽の男性が笑顔で両手を大きくふってくれた。流木で飾られた坂道を登る。到着して振り返ると美しい瀬戸内海。

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ただしくんこと山崎直さんと、ちゃこちゃんこと尚子さん。店名の「モクシャ」はサンスクリット語で「解脱/解放」って意味を持つ。それはお客さんにもそうあってほしいし、自分たちにとってもそうだ、と二人は話す。

2017年に鎌倉から越してきた。どこか別の場所で暮らそうと探しているとき、小豆島のこの物件を見つけた。すぐに見に来て、その佇まいと景色を気に入り、移住を決めた。迷いなく、直感で。

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横須賀育ちのただしくんは旅人の気配がする。聞くとやはり、ロンドン、沖縄、そのあとはインドと旅をしてきたそうだ。それぞれの土地で刺激的な出会いがあり、冒険もたくさんした。

「なんでもてきとうなんすよ。」まっすぐこちらを見つめながら爽やかに笑う顔には、言葉とは裏腹に、実地で身につけてきたタフさが浮かんでいる。

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店はほとんど彼がすべて一人、DIYで作った。山のデッキは地元の大工さんにお願いしたけれど、それ以外はぜんぶ。木材を運んでひとつひとつ積み上げて。建築現場や造園業の仕事の経験を生かし、今ではチェーンソーで木を切り倒しデッキを作ったりもしている。ラフな造りのテントを指差して「ど三流っすよ」彼は謙遜するように大きく笑うけど、誰にでもできることじゃない。わたしはそれを、おおらか、だと思った。あれこれ言わずにまずやってしまう。そういう強さだなと。

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休みなく手を動かしながら話してくれたちゃこちゃんは鎌倉出身。海の近くで育った。飲食店で経験を積んだあと、自分のすきなお菓子を作って売り始める。こういうものが売れそうだ、じゃなくて、自分がすきなもの。食べたいもの。受注販売でマイペースで。

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言葉の端々に芯の強さが滲む彼女は古いものが好きでDIY精神はある、と話してくれた。眠ってるよいものを生かすのがすきだ、と。店のあちこちに古くてすてきなものがよく手入れされて置いてある。

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今日のサンドイッチは四種類。ラム、グリルドポーク、タンドリーチキン 、ハーブソーセージ。ハード系のパンにたっぷりの具がはさまっている。ボリュームたっぷり。

「俺が食いしん坊だから、でかいんです」ただしくんが言う。時期によって内容は変わる。「自分たちが食べていてすきだったものを組み合わせてるんです」ちゃこちゃんは軽やかに話す。手先はずっと繊細に動かしたままで。

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グリルドポークをまず食べてみる。野菜と肉とすべてが合わさって、なんとも言えない満足感がある。波のない瀬戸内海を見渡し、スピーカーから流れる音楽にのんびり耳を傾ける。楽園、という気持ちになる。今日って何曜日だっけ。感覚が解放されていく。

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パンも焼き野菜も自分たちで作っている二人だけど、ストイックさは見せない。添加物もすきじゃないし、極力加工品も食べない暮らしだけど、そういうことを特に前面には出さない。決めつけず、無理なく、マイペースに。「無理できないんですよね」とちゃこちゃん。その力の抜け具合がまた、居心地をよくしている。

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自分たちがいいと思う暮らしをしたい。海が見えるところで静かに。そして自分たちが作りたいものを作って、それをシェアしたい。そんな二人のシンプルなきもちが作った場所。丁寧だけど、肩の力が抜けている。週末にはたくさんの人がここを訪れる。みんなきっと、なかなか帰らないだろうなと想像する。「気づくと席じゃないいろんなところに人が座ってるんですよ」と二人はおもしろそうに笑う。その自由さ、わかる気がする。まだ完成度は50パーセントだと言うこの場所が、これからも育つのを楽しみにしたい。

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袋に入ったサンドイッチに封をしてもらって持って帰る。タンドリーチキンにした。ちゃこちゃんが焼いたパンもいくつか、おみやげに。

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坂を下るわたしに、いつまでも手をふってくれる二人の姿を今また、思い出してる。外国での出会いみたいに思えたのはどうしてかな。どこか暖かい国のような。たぶん、あの自由で解放された空気のせい。

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店舗情報

moksha coffee stand

香川県小豆郡小豆島町坂手甲1447-1

営業日時  土日月祝 11:00〜17:00(冬季変更あり)

中川正子

写真家。カリフォルニアに留学し写真を始める。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月より岡山を拠点に、国内外を旅する日々。最新作は『Rippling』ほかに写真集に『新世界』『IMMIGRANTS』『ダレオド』などがある。文章執筆の仕事も多数。fua accessoryとのコラボレーションで短編「モキク」を発表。開設したオンラインストアも好評。

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