銀座で、青汁をぐいっと一杯。ーー遠藤青汁サービススタンド

中川正子さんとめぐる、旅と食。

2022.12.16

写真家の中川正子さんが、旅をしながら出会った食の風景を写真と文章で切り取る、「中川正子さんとめぐる、旅と食。」今回は、中川さんにとって今は「訪れる場所」となった東京、銀座の「遠藤青汁サービススタンド」です。銀座にまさか、こんなところが…?と、編集部も驚いた今回のお店。「イタリア人がエスプレッソをスタンドで飲み、出て行く」ように、銀座のサラリーマンが「ピットイン」する…。そこは一体どんな場所なのでしょう。


ああ、あの濃い緑の液体が飲みたい。あの、煉瓦造りの小さな建物に立ち寄りたい。遠藤青汁スタンド。ハイブランドのショップが立ち並ぶ銀座一丁目にひっそりと佇むこの店に通い始めてからもう25年くらい経つ。今は東京を離れて暮らすわたしにとって、「東京旅」に欠かせない場所。

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大人の街銀座で文房具をちょっと買って帰るくらいだった20代の若造のわたしは、ある日、道に迷って裏通りをぐるぐると回っていた。まだGoogleマップがない時代。バブルの残り香がまだただよっていて、キラキラした質感が世を席巻していた。

そこに、この、地に足のついた、つきすぎるほどの質実剛健的小屋。明朝体で書かれた店名が、本気度を伝える。

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「遠藤青汁友の会・青汁サービススタンド」。その存在感は当時から際立っていて、現在ではぶっちぎりの唯一無二だとわたしは思っている。

令和の今、眺めると、映画のセットかと思うほどにクラシカルな建物。でも当時でも十分レトロだった。

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「会員」でないけれど大丈夫だろうかと、恐る恐るこのドアを開けた日を懐かしく思い出す。「会」のシステムはそういえば聞いたことがないけれど、誰でも入ることができるらしい。

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右手にカウンター、左手に会議机と椅子がある。隅にはスポーツ新聞が芸術的に積み重ねられている。そして、一人暮らし用のキッチンのようなところに女性のスタッフがお一人。

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青汁のサイズは二つで「大」が700円、「小」が350円。それだけ。BGMもないストイックで簡素この上ない空間。

いつも通り「大」をお願いする。その場で無農薬のケールを絞った、魅惑の液体が程なくして、提供される。

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青汁と一言で言っても世にはさまざまある。飲みやすく何かを混ぜてあるものもあるけれど、こちらはケール一筋。なんともいえない苦味が濃い。甘味もどこかに感じる。そうそう、これ。これを求めていた。脳も身体もその緑に喜ぶ。

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壁には一面にケールの栄養価等が書かれていて、年季の入った生真面目な書き文字が連なっている。資料もぎっしり。読んでいるだけで健康になりそう。これを眺めながら飲むのが、いい。

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ドアが開いて、すらっと背の高い若い女性が入ってきた。慣れた風情でカウンターで「大」を一つオーダーする。店員さんも「いつものね」という感じですぐに準備を始める。彼女は青汁が出てくるなり、その場で立ったまま一気に飲み干す。ドアを開けて飲み、ごちそうさまでした、と颯爽と出て行くまで3分とかからなかったと思う。すてきなあなたはミス青汁…。大股で出て行くスキニーデニムの後ろ姿に、こっそり呼びかけたくなった。

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カウンターには食塩が置いてあるけれど、わたしは一度も使ったことがない。一度試してみようと、今日は少しだけ、いれてみた。

結論としては、不要だと個人的には思った。青汁の強い香りに塩味を足したら、スープのようになるというものでもない。際立つ個性は依然としてそのままで、塩が負けている感じもする。青汁がとにかく、パワフルすぎる。ここの青汁はそんなふうに誤魔化したりしないでもう、正々堂々、真正面から受けて立つ方が似合うと、わたしは思う。

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さきほどの彼女に負けじとぐいっと飲む。ここ数日外食が続いて乱れていた食生活を相殺してくれるような青い味に、体が喜びでしびれる。同行の友人に一口勧めたら、見たこともない顔をしていた。これが、いいのよ。次にいつ来られるかわからないから、わたしはもう一杯欲張っちゃう。「大」はさすがにきびしいから、「小」を。

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高級そうなスーツの男性が入ってきた。彼もまた「いつもの」スタイルでオーダーしている。飲み干す勢いにも惚れ惚れする。そして、出て行く。滞在時間の短さが素晴らしい。

こんなふうに常連さんが多そうだけれど、みなさんだいたいこんな感じ。おしゃべりをするわけでもなくゆっくり座るわけでもなく、クイックチャージ、という雰囲気がある。

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ピットイン、でもいいかもしれない。青汁をきゅっといれて去って行く姿は、イタリア人がエスプレッソをスタンドで飲み、出て行くのにも似ている。液体の色がとても違うけど。

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東京の忙しいひとびとの健康を、ひっそりと支えているであろう、遠藤青汁サービススタンド。わたしはかつて住んでいた東京を、今は頻繁に「訪れる」身として、とっても頼りにしている。煉瓦の建物をそっと出る。四半世紀近く通ってもちっとも顔見知りにならないこの、よき距離感を心地よく思いながら街に、戻る。

店舗情報

遠藤青汁サービススタンド 銀座店
東京都中央区銀座1-6-7 谷口ビル1階
03-3535-2046 

営業時間
平日 8:30〜19:00  
土曜 9:30〜18:00
定休日 : 日曜・祝日

中川正子

写真家。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々 のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月より岡山を拠点に、国内外を旅する日々。最新作は135年の伝統を持つ倉敷帆布の日常を収めた『An Ordinary Day』ほかに写真集に『新世界』『IMMIGRANTS』『ダレオド』などがある。文章執筆の仕事も多数。2023年に初のエッセイ集を発表予定。

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