行き交う人を見守る、港のカレーーー「全感覚スパイス」

テイクアウトのある風景 #4

2020.07.13

写真家の中川正子さんが写真と文章で綴る、「テイクアウトのある風景」。
第四回は、直島などへ向かうフェリーが発着する宇野の港に現れた、「全感覚スパイス」。ちょっと不思議な響きのこのお店には、たくさんの物語が詰まっていました。


休日にはよく、南へ。

岡山市から車を走らせること40分、直島などへ向かうフェリーの発着でも知られる宇野に向かいます。港の独特の風情はとてもよい。ビーチとはまた違う旅情を含む、センチメンタルな空気が好き。船の発着をぼうっと眺めたり。

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この港町に友人が営むBOLLARD COFFEEに間借りする形で、突如現れたのが「全感覚スパイス」。ぜん、かんかく、スパイス?一度耳にしたら離れないその不思議な語感を確かめに、宇野へぶいん、と行ってきました。

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BOLLARD COFFEEの店長をしていた海ちゃんこと鈴木海紗陽(あさひ)ちゃんが切り盛りするそこは、コーヒーショップとよき共存をしていました。海に面した開放的な空気に引き寄せられるように、地元のひとも遠くからのお客さんも集まるお店。コーヒーを頼むひと、カレーを注文するひと、ただ立ち話してるひと。みんな思い思いに自由。いい店。港っていいな。

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シルバーヘアと明るい笑顔がすてきな神戸出身の海ちゃん。アパレルの仕事で岡山に来て、その後BOLLARDへ。何か新しいことを…という話になった時、予てからだいすきだったカレー!と思ったそう。激務のアパレル時代は、移動の合間に南インドを始めいろんな国のカレーを食べることがちょっとつらい時の楽しみだった。そんなことを関西弁でゆかいに話す海ちゃんは、「なんでも取り入れてまえ」の精神で試作を重ね、独学でオリジナルのカレーを作っていったそう。

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「全感覚」の由来は、酸っぱい、甘い、辛い、苦い、しょっぱい、あとは食感とか匂いとか。そんな感覚のすべてが一皿に、という意味なんだとか。ふむふむ。すごく気になる。わたしも全感覚を使いたい。ということで一食オーダーする。ついでにコーヒー、いや、今日は「大人のジンジャーレモン」にしよう。ジンジャー多めでカルダモンやクローブが香るあれは、あきらかにカレーと合うやつだ。2〜3週間ごとに変わるメニュー、今日のメニューはしょうがたっぷり甘酢っぱチキンカレー。別名「海チキ」っていうんだって。一番人気のやつ。

全感覚スパイスは東山ビルという宇野のクールなヴィンテージビルディングの一階にあります。室内がいいなって時はビルの2階のラウンジでもいただけちゃう。そこがまた、眺めもよくて昭和の探偵事務所みたいでナイスなのです。もちろん、目の前の堤防で食べるのもおすすめ。迷ったけど、今日は海の近くで。せっかく晴れてるしね。

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堤防にまたがって、蓋を開けると、スパイスの香りがたまらない。ごはんとルーは分かれていて、そこにだっとかけていただく。遠くに船がするするとすべっていくのを見ながら、ばくばく。散歩をする近所の方に挨拶したりしながら。なんだかちかごろ気忙しくて、こんなふうにゆっくり海見るのって久しぶりかも。ばくばく。おいしい。無心でいただいていたら、あっというまに平らげてしまった。

さてわたしの全感覚はどうだ。使われたのか。しっかり思い出そう。ほのかな甘さと酸味、辛みはちょうどよく、どこか苦味も。レーズンのやわらかさと野菜のコリコリ。ああ、おいしかった。おいしすぎて一気にいただいたけどたしかに、全感覚使っていたよ、海ちゃん。

「カレーってなんだか飲むように食べちゃいません?」と海ちゃんは言う。わかるわかる。今まさにそんなかんじだった。「なのでわたしは、カレーのあとなにかちょっと食べたいなっていつも思うんです。」そう話す海ちゃんのおすすめは、カウンターにあるちょっとしたお菓子。今日は「やみつきスパイスかりかり」をいただきました。これがもう、スパイスが効きまくった、その名の通りやみつきのお菓子。カレーのあとに実にぴったりで、かりかりかりかり、えんえんやってしまった。これはお酒にも合うな。スパイス、奥深い。

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そうそう、すっかりカレー屋さんだと思い込んでいた「全感覚スパイス」はスパイス料理店なのでした。今後はスパイスをベースにお菓子も含め展開していくとのこと。冷凍して全国に届ける試みも今準備中だそう。たのしみだね。

スパイスの余韻に浸りながら穏やかな瀬戸内海をじっくり眺めて、深呼吸してから帰りました。いい休日だったな。また来ます。ありがとう!

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店舗情報

全感覚スパイス
岡山県玉野市宇野1丁目7−3 東山ビル 1F
070-4431-9375
営業時間 毎日11:00〜14:00
Instagram @zenkankakusp

※今後の状況によって変更の可能性あり。SNSをチェックしてくださいね。

中川正子

写真家。津田塾大学在学中、カリフォルニアに留学し写真を始める。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月より岡山を拠点に、国内外を旅する日々。最新作は『Rippling』ほかに写真集に『新世界』『IMMIGRANTS』『ダレオド』などがある。文章執筆の仕事も多数。fua accessoryとのコラボレーションで短編「モキク」を発表。開設したオンラインストアも好評。

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