わたしがもしお酒だったらこのお店に並びたい
ーーワインショップ&スタンド スロウカーヴ

テイクアウトのある風景 #6

2020.09.23

写真家の中川正子さんが写真と文章で綴る、「テイクアウトのある風景」。
第六回は、ワインショップ&スタンドの「スロウカーヴ」です。このワインショップでテイクアウトが始まったのが、「koti brewery」の「生ビール」。どうしてワインショップでビールが…?
そこには「届ける人」と「作る人」、それぞれの想いが交差する物語がありました。


わたしがもしお酒だったらスロウカーヴに並びたい。岡山市にはそんなワインショップがあります。

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ワインスタンドも併設されているここは、2年前にオープン以来、いつも誰かが集っている。ワインを買いにくるひと、一杯(以上)飲むひと。オーナーの渡邉隆之さんは訪れるみんなにフラットに接しながら、その一本の説明を早口で教えてくれる。

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どんな国でどんな畑でどんな人がどんなふうに作った、どんな性格のワインか。どんな空を見ていたか。彼の言葉を音楽のように聞いているうちに、行ったことのないその景色が見えるような気がしちゃう。愚直なひとが作ったもの、飲んでみたいなって思う。

そんなワインを、大事に抱えて帰る。渡邉さんの紹介を受けたその瓶はもう、匿名的で無口な何かではなく、その個性を存分に紹介してもらえた満足感に満ちている。

その「スロウカーヴ」が、「koti brewery」の生のテイクアウトを始めたなんていうから、自粛期間中からたくさんのひとがお店に立ち寄った。プラカップやペットボトル、自分でボトルを持ち込むひとにも対応する。

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「koti brewery」は備前市で妹尾悠平さんがひとりで作るビール。自然酵母で作る、瓶詰めのものは既にいただいていたけど、生が飲めるなんて。おひとりでとても少ない量を作っているkotiの生が飲めるのは貴重なこと。この残暑にも、つい。体を、生きてる酵母が駆け抜けちゃうみたいでうれしくなる味。

でも渡邉さん、ここってワインショップだよね?今更聞くようだけど。
そもそも、どんな経緯で始めたんだっけ。

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渡邊さんは千葉の九十九里あたりの出身。大学進学で東京に出て、卒業後2年でお金を貯めて、世界の旅へ。アメリカ、ヨーロッパ、アジアと7ヶ月まわり、帰国後、子供の頃からやりたかった料理の道へと進んだ。

シェフになりたかったけれど、ひょんなことからサービスの仕事に転身し、気づけば激忙を極めていた。ワインとの本当の意味での出会いはその仕事を始めて1年目のこと。あるイタリアの白ワインとフランスの赤ワイン、口に含むと、ドアを全開にしてわーーっと広大な景色が広がるような衝撃の体験をしたそう。

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なんでこんな味なんだろう。これまでに感じたことのない感動におそわれた彼は、そこから、当時は「自然派ワイン」という名もまだ聞かれなかった中で、「ブドウだけでできたワイン」をどんどん試すようになる。

「いつかお店を持ちたい」。その気持ちとさまざまなタイミングが重なり、縁があって岡山へ。今ではまだ3年目だっけ、と思うほどの存在感がある、岡山にはなくてはならないお店。(と、わたしは思う。)

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サービスをしていたときから、作り手の作ったものを自分が届ける意味をずっと考えていたそう。それが岡山に移り住んでから作り手との距離がぐっと近くなったことで、自分の役割を自覚するようになる。

畑を見て、酒を飲んで、作り手の人柄も知って。そこを汲み取ってお客さんにうまく伝えられる店でありたいと、彼は言う。自然派ワインの店と特に名乗らないのも、ラベルは特に必要じゃないと思うからだ。飲んでグッとくる。まずそれが大事。必要なら、その背景を伝えることが自分のできることだろうと。

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さて、kotiのビール。生産者の妹尾さんが作り始めたとき、共通の友人を介して出会い、飲ませてもらうと純粋においしかったのだと渡邉さんは話す。作り方もワインと近いビール。ワインがブドウなのに対して、ビールは麦汁。そんな接点もあり、同世代の妹尾さんに忌憚のない意見を伝え、彼もそれをしっかりと受け止める。そんなやりとりを繰り返しながら、お店で扱っている。

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たしかにkotiは毎回味が違う。それを前提でわたしもいただいている。「今回のはちょっと酸味強いです。」そんな渡邊さんの解説を聞きながら。なんで酸味が強いかのという説明も、当然続く。それでさらにおいしくなる。今日はもう一本、ペットボトルにいれてもらって持って帰っちゃう。

これって何かに似てるって思ったら、音楽にすごく詳しい友達に詳細に解説してもらう体験と酷似してるのだった。

よくわかんないけど好き。そんなかんじで直感的に音楽とつきあっているわたしに、博識な友達が解説を加えてくれる。それが好きならきっとこれも好きだよ。そんなふうに勧めてくれる。彼はLAに住んでて基本ひとりで宅録で作ってるんだよ。もともとクラシックやってたからその影響もあるんだよね。ほら、ここの音がさ。そんな知識が入るとさらに興味が広がる。そんなのとすごく、似てる。

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知識があってもなくてもおいしいものはおいしいし、好きなものは好き。でも、背景を知るとさらにいい。そしてそれを「誰に」教えてもらうかでも、言葉の届き方はちょっと違う。

渡邊さんの尋常ならぬ作り手への興味と、盲目的ではないクールな愛情。あと、本人が飲み手として心が実際に動いているという姿勢。そこには絶対の信頼がある。わたしがお酒だったらやっぱりここに並びたい。いいところもそうでないところも全部、説明されて、売られたい。

店舗情報

wineshop&stand slowcave(ワインショップ&スタンド スロウカーヴ)
岡山県岡山市北区平和町7-16 岡薬ビル1F西号室
086‐230-3556
営業時間 13:00〜21:00
定休日 なし

中川正子

写真家。津田塾大学在学中、カリフォルニアに留学し写真を始める。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月より岡山を拠点に、国内外を旅する日々。最新作は『Rippling』ほかに写真集に『新世界』『IMMIGRANTS』『ダレオド』などがある。文章執筆の仕事も多数。fua accessoryとのコラボレーションで短編「モキク」を発表。開設したオンラインストアも好評。

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