城崎にて、オードブルの持ち帰りを。ーーOFF. Kinosaki

テイクアウトのある風景 #8

2021.01.11

写真家の中川正子さんが写真と文章で綴る、「テイクアウトのある風景」。前回の京都に引き続き岡山から足を伸ばし、今回は城崎(兵庫県)を訪れました。有名な小説の舞台のイメージが強い城崎ですが、実は若いパワーにも溢れた活気のある街になっているそう。中でも中川さんのお気に入りのお店の一つ、カフェ・ビストロの「OFF. Kinosaki」ヘ。オーナーシェフのこだわりと、そして半生がぎゅっと詰まったような、彩り豊かなオードブル。こんな旅先でのテイクアウトもまた、良いですね。


『城の崎にて』。志賀直哉氏の有名な作品で名前だけ知っていたこの街を、しばしば訪れるようになったのは10年来の友人家族が移住してからのこと。7つの魅力的な温泉をつなぐコンパクトな街に、濃い役者揃いといった飲食店が揃う。人々が色とりどりの浴衣でぐるぐると、温泉と店を回遊する景色が美しい街。角打ちなんかもあって、昼間からお酒を飲み歩いてる人もいていいかんじ。

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中でもわたしのお気に入りのお店が二つあって、今回はその一つ、「OFF.Kinosaki」へ。

クールなオーナーシェフ、亮太朗くんが腕を振るって魔法のようにできあがっちゃう、新鮮な味の地元のオーガニック野菜と、おいしいお肉からできた魅惑のオードブル、そして粉の味がしっかりする香ばしいパン。もりもりのそれらをテイクアウトして、近所の友人宅でナチュール(自然派ワイン)と一緒にいただいてしまおうという魂胆。

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とにかく素材がおいしい。その魅力をじゅうぶんに活かす、「引き算」を感じる亮太朗くんの料理。美しい盛り付けをがしがし崩しながら、ワインが進む。

これまでどんな道を辿ってきたの?

谷垣亮太朗くんは、東京生まれ。幼少時から18歳までは城崎の近くの養父市で育ち、高校卒業とともに東京へ。寿司職人だったおじいさまの影響で料理の道を志し、大学在学中に夜間の調理師学校にダブルスクールで通い始める。

世はカフェブーム。カフェでアルバイトを始め、他店にも足繁く通い、そのカルチャーにどっぷり魅せられる。ふむふむ。わたしも同じ空気を吸い込んでいたから、その感じはよくわかる。

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卒業後は東京で有名なレストランに就職し、料理の基礎をさらに学ぶ。でも、音楽やファッション、空間作り、そしてそこに集う興味深い人々…。カフェにまつわるそんなカルチャーがやっぱり肌に合うと感じていた彼は、同じく料理の道に進んでいた双子のお兄さんと、チャンスを得て東京で自分たちで店を始める。名は「谷垣」。洋食が中心のダイニングだ。

店が軌道に乗ってきたころ、家庭の事情で帰郷することを決め、養父市の実家の敷地内で新たに店をやることに。間口を広げようと、「居酒屋谷垣」と看板を出して始める。

ただ、お店は人気が出たけれど、カフェ文化で育った亮太朗くんは、少し物足りなかったそう。「料理人」としてもっと評価されたい。そして「おもしろい人」と出会いたい、と。

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亮太朗くんにとっての、「おもしろい人」の定義ってなに?そう聞くと、「カルチャーの匂いがする人ですね。同業でも生産者でもお客さんでも、自分の中の文脈をアップデートしてくれる人。」彼はそう言う。

そんな場を作りたくて、豊岡市にDIYで「wolf」を開店。そこでナチュールを扱い始めた。自分の表現したい店を作って、扱いたい食材とお酒を使って。野菜、チーズ、肉、ワイン。「北近畿」と彼が呼ぶ、近隣エリアの生産者にも積極的に会いにいき始め、一気に人脈が広がった。

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亮太朗くんがどんなことを表現したいのか、それがその「場」を通じて人々にまっすぐ伝わり始めた。料理だけでなく、料理を取り囲むすべてがつながってきたのだなと、話を聞いていてもわくわくした。

でもただひとつ、車社会の土地では、お店のワインがなかなか飲まれなかった。

そんな頃、城崎とのつながりが生まれていく。
城崎には「飲み歩き」の文化があり、昔のイメージとは違って活気があった。そこに可能性を感じたそう。

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そして今の物件と出会い、「OFF」を作ることに。25歳で初めて店を持ってから、かれこれ4軒目の店。内装は、自分の想像をまったく超えたものにしたくて、好きだった建築家にお願いした。

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オーダーは「ワインが飲みたくなる店」。美術品みたいにワインのボトルが美しく並ぶ姿が、ガラスの向こうに見えるすてきな内装。キッチンはオープンで、彼の作る姿がしっかり見える。好きな写真集なんかがそっと趣味よく置いてある。

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シックだけれど、気取らず、肩の力が抜けている。彼の好きな世界がひとめでわかっちゃう。

もりもりのオードブルを友達の家から持ち込んだ大皿に盛ってもらう。今日は12種類がひしめきあっていた。1人1,500円分で、4人分。こぼれんばかりの魅惑の盛り合わせ。焼き立てのパンも一緒に持ち帰る。

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亮太朗くんの半生の道のりを思いつつ、いただく。若い時期に囲まれていた、東京や海外の空気、理想のお店を実現するまでの紆余曲折。

かつては地方コンプレックスもあったという彼が、今ではものが生まれる場所の近くでやることを自然に思い、そしてこの暮らしを誇りに、幸せに思っていることが伝わってくる。

実際に生産者との距離が近いから、彼らが毎週食材を直接届けに来る。それは、ほんとうに豊かなこと。

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このもりもりの美しい一皿に、そんな感慨が詰まっていました。そう、「OFF」はオーガニックって謳ってはいないのだけれど、野菜のほとんどが無農薬。わざわざ言わないのは、「あたりまえだから」だそう。最高だね。

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ここから彼は次、どこを目指すんだろう。わくわくしてワインがくいくい進んでしまって、そして、そのまま幸せなきもちで寝ました。

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店舗情報

OFF. Kinosaki

兵庫県豊岡市城崎町湯島536
0796-21-9083

営業時間
11:00-14:00(Lunch)
11:00-15:00(Café)
18:00-22:00(Bistro/Winebar)

定休日 日曜夜、月曜

中川正子

写真家。津田塾大学在学中、カリフォルニアに留学し写真を始める。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月より岡山を拠点に、国内外を旅する日々。最新作は『Rippling』ほかに写真集に『新世界』『IMMIGRANTS』『ダレオド』などがある。文章執筆の仕事も多数。fua accessoryとのコラボレーションで短編「モキク」を発表。開設したオンラインストアも好評。

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