自然と人との有機的なつながりを求めてーー「コタン」「The MARKET」

テイクアウトのある風景 #10

2021.04.09

写真家の中川正子さんが写真と文章で綴る、「テイクアウトのある風景」。今回は、中川さんが「岡山が世界に誇る」と思う自然食品店「コタン」と、併設されるパン屋「The MARKET」を訪ねます。米も小麦も調味料まで量り売りされていて、好きな量を買うことができる「コタン」。そして、生産者の顔が見える食材で作られたパンを扱う「The Market」。そこにはオーナーと、パン職人の思いが詰まっています。


岡山が世界に誇る、と大げさでなく思うお店がある。コタンという自然食品店。アイヌ語で「村」という意味を持つ名前だそう。10年前に岡山に越してはじめて訪れて、度肝を抜かれた。

こんな店、見たことないって思った。

img_takeout_010-01.jpg

お店に一歩足を踏み入れると、小さな店にうずまいてる熱がすごかった。すべての商品が明るく話しかけてくるような気がした。独特な筆文字で語りかける、大量の手作りポップには商品への愛があふれてる。野菜、パン、調味料、生活用品…。隅々まで、なんとなく置かれてるものがひとつもないように見えた。すべてが誇りを持って背筋を伸ばし、そこにいるかんじがした。

アメリカのオーガニックショップなどではよく見かける、量り売りというスタイル。これを16年前の開店時から徹底的にやっている。いくつもの種類の小麦に、米、塩、砂糖、油。醤油もみりんも味噌もはちみつもハーブも豆もドライフルーツも。何もかも量って買える。個包装が主流だった10年前にはまだそんなの見たことなくて、なんて画期的なんだと驚いた。ゴミも減るし、必要な分だけ買える。コストも、減る。

img_takeout_010-02.jpg

ヒデくんこと、店主の近藤英和さんにコタンのこと、改めて聞いてみた。

高知生まれのヒデくんは、会うたびに野生動物みたいだなって思う。黒いターバンを頭に巻き、目つきは鋭く重心がしっかりしていて、言葉は決して揺らがず、誰とでも等しくまっすぐ向かい合うかんじがする。

img_takeout_010-03.jpg

東京での仕事を辞め、バックパックを背負って京都へ一人旅に出ていた26歳の時、彼はあるパンに出会う。参加者のひとりに分けてもらった、ずっしり重くて、強いパン。そのパンにすごく驚いた彼は、これを売っている店にすぐ行ってみたいと思い立ち、岡山に行った。それが『The Market』という店。そこでオーナーと意気投合して、店頭に立つように。

アメリカなどで暮らしていたオーナーと話すうちに、オーガニックショップを立ち上げることになり、自分たちで土壁を塗ってお店を始めた。それがコタンの誕生。岡山に突然来て、2ヶ月後のことだった。すごいスピード感。

でも、ヒデくんなら当然だろうとも思う。思ったらすぐ行動。やると決めたら、やる。

小豆島に渡って蔵を訪ねた時、伝統的な手法で4年間かけて作る醤油のおいしさに感動した。だから、まずはそれを売ることにした。ほかには、土佐で惚れ込んだ塩。あと、岡山で自然農を始めた仲間の野菜。はじめは、それだけ。

img_takeout_010-04.jpg

月曜日から木曜日はせっせと原チャリで生産者に会いに行き、そこで仕入れたものを金曜日から日曜日まで売るというスタイル。26歳の若者が、ベテランの生産者にひとりでいきなり会いにいって、その商品を扱わせてくださいと頼む。当時は全部そのやり方で商品を揃えていったそう。

だから当然、生産者は近くに住むひとがほとんど。近くで作れないものは、信頼できるところから取り寄せる。ベースにしているのは、自然と人との有機的なつながり。

そう、オーガニックってそういう意味なんだ。

それは16年経った今も変わらない。店にある商品について全部、作り手の顔が見えているし、熱く語ることができる。会いに行ってるからあたりまえだ。「問屋に頼んで一気に仕入れれば、毎月の支払いは3回振り込みとかで済むのに、俺らは百件近くも個別に振り込みしてるんだよ」と彼は笑った。そんなやり方してるとこ、なかなかないだろう。

でも、各地からこういうお店をやりたい、と相談もされるそう。たいへんだよ、でもやってみたらいいよ、と伝えるそう。

img_takeout_010-05.jpg

かつてあたりまえだった、農薬や添加物のない食べ物。それをまた、あたりまえにしたい。そのきもちでヒデくんはずっとやっている。

お金持ちだけじゃなく、誰でもそれが手にできるように。量り売りもそのひとつ。容器やデザインを省くことで、買いやすく、届きやすく。

DIYのキュートなお店の外観は、女子高生でも入れるようにって当初から考えて作ったそう。オーガニックを一部のひとだけのものじゃなく、みんなに開けるように。

img_takeout_010-06.jpg

やがて独立して、自然食品店「コタン」と、パン屋「The Market」の代表になったヒデくん。商品に圧倒的自信があるから、それを、ちゃんと売る。たくさん売ることで、生産者ももっとたくさん作ることができる。その繰り返しで環境が変わると、彼は信じている。

売れなくて終わっていった良いものをたくさん見てきたからこその、実感がこもった言葉。体に良いことはあたりまえ、そしてそういったものはおいしい。そうやって、あたりまえがあたりまえになるように。彼らが売ることで、世界を良い方向に変えるって強く信じてる。 彼の役目はそこだと。

こういった界隈で「売る」という単語を大きな声で言うひとは少ない気がする。でも、ヒデくんの「売る」はお金儲けの「売る」じゃなく、循環を作るための動詞だと思う。

img_takeout_010-07.jpg

コタンのパン屋、The Marketには、ヒデくんを呼び寄せたそのパンが今もある。今は5代目のパン職人ひなちゃんがせっせと作っている。

22年間継ぎ足し継ぎ足し大切にされてきた「ルヴァン種」という天然酵母の働きを、職人がそっと見守り、支えるような作り方だそう。「個人的な表現や思いが詰め込まれたパンじゃなくて、酵母が主役なんですよ」とひなちゃん。

img_takeout_010-08.jpg

滋賀県出身の彼女は、会社員をしていたある日、SNSで流れてきた「The Market」の求人を見て、これだ、となぜか思い、突然岡山に来たそう。それまでは滋賀を出たこともなかったのに。パンを作ったことすら、なかったのに。

それから7年間、毎朝4時に来て、パンを作っている。ヒデくんがある日来たのと同じだ。みんな、ここに強力に引き寄せられている。

img_takeout_010-09.jpg

コタンで扱う、生産者の顔が見える食材で作られた「The Market」のパン。どれもずっしりと食べ応えのあるパン。

img_takeout_010-10.jpg

わたしはフォカッチャサンドがすごくすき。トマトビーンズとゴーダチーズ。三重の小麦と塩と菜種油、あとアガベシロップが入っていて、その場で作ってあたためてくれる。

これを持ち帰ってお昼にしちゃおう。ほかにも玄米キッシュと、ヴィーガンスコーン。すごく満足度が高くて、しっかりお腹がいっぱいになる。そして、どれもおいしい。そう、安全で安心だけど、何よりまず、おいしい。それってすごく大切。忙しいひとも、こういうのをぱっと買って食べてもらえたらいいよね。間に合わせじゃなくて、顔が見える生きた食べ物。

img_takeout_010-11.jpg

あたりまえをあたりまえにして世界を変えたい。

岡山の小さな、「村」という名を持つ店が、じわじわと確実に世界を変えるのを、これからも見てたいなと思う。そんなきもちで今日もサンドイッチを買いました。あと、全粒粉のパンも。醤油も足りないから買って帰ろう。この人参もおいしそうだね。買い物は支持する活動をしている人への投票だってよく言う。こんなお店が街にあることを、とても幸運に思います。そしてずっと一票を、入れ続けたいです。

img_takeout_010-12.jpg

店舗情報

The MARKET /自然食コタン 奉還町店

岡山県岡山市北区奉還町1-12-14
086-255-1100

営業時間 11:00-19:00
定休日 第一火曜日

パンやスコーン、食材などはオンラインストアでも購入できます。
https://www.cotanfoods.com

中川正子

写真家。津田塾大学在学中、カリフォルニアに留学し写真を始める。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月より岡山を拠点に、国内外を旅する日々。最新作は『Rippling』ほかに写真集に『新世界』『IMMIGRANTS』『ダレオド』などがある。文章執筆の仕事も多数。fua accessoryとのコラボレーションで短編「モキク」を発表。開設したオンラインストアも好評。

この記事をシェアする