営む人、訪れる人、それぞれの居場所。ツリーハウスにつまった物語ーーAkatsuki Cafe & Something

テイクアウトのある風景 #11

2021.06.02

写真家の中川正子さんが写真と文章で綴る、「テイクアウトのある風景」。今回は、岡山の牛窓エリアにある、Akatsuki Cafe & Somethingを訪れました。ご夫婦が営む、ツリーハウスがシンボルのカフェ。多くの人の「居場所」となっているそこができるまでには、どんな物語があったのでしょう。


岡山市から車で40分。牛窓というエリアに、ツリーハウスがシンボルの店がある。Akatsuki Cafe & Something。絵になるふたり、菅田夫妻が営む場所。

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ある春の晴れた日、ひさしぶりに車を飛ばして訪れた。こんなとこでいいんだっけ、とちょっと不安になるくらいのワイルドな道を、手作りの矢印に導かれぐっと登る。深い緑に包まれた、日本じゃないみたいなワンダーランド。

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2012年のオープン以来、県外からのファンもずっと絶えないアカツキ。広い古民家をセンスよく使ったカフェと存在感抜群のツリーハウス。至るところにあふれるモノが、一貫した世界観を積み上げて、独特の居心地のよさを作っている。

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どうやってこんなお店を作っていったのか聞かせてもらうことにした。

妻のゆっこちゃんこと幸子さんは、岡山県出身。22歳で東京へ出て、裏原宿で「異彩を放っていた」と彼女が感じた「CAFE AU GOGO」というカフェでバイトを始める。それが運命の(と言っていいと思うのだけれど)出会いになる。

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そこは、今ではツリーハウスクリエーターとして名高い小林崇さんのカフェだった。ツリーハウスのようにアパートを改造してできたそこに、様々なひとが訪れたそう。そこで濃密な2年を過ごし、やがて店長まで任せてもらうようになった幸子さん。

その頃には彼女自身も自分でやりたい店のビジョンがくっきりし始めていた。わたしだったらこうやりたいな、という絵が。

その頃にCAFE AU GOGOを卒業することになり、その後友人のお店にヘルプで入ったりするうち、自分の店をやりたいという気持ちがさらにふつふつと膨らんできた。

当時暮らしていた中目黒の同世代の仲間たちとは、毎晩集まって夢を語り合う関係。早いひとは、25歳くらいで自分の店やブランドを始めたりしたそうだ。

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自分も同じところで戦いたいと、幸子さんは経営者をやっているお父さんに企画書を書いてプレゼンし、お金を借りて念願の自分のお店をスタートさせた。ともだちや街のひとたちが集まり出会って会話を楽しみ、居場所にしてくれる、彼女が描いていた店が育っていった。

25歳くらいには自分の場所を持ちたい、という気持ち。職業はちがうけれどわたしも同じように思ってがむしゃらに進んでいたからすごくよくわかる。うまくいくかどうか、とかじゃなく、ただやりたい、というあの勢い。

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瞬く間に5年が過ぎた頃には、中目黒という立地もあり、昼より夜が賑わう店になり、深夜2時まで働くなんてこともざらにあった。幸子さん自身も30歳になり、体力的にもギリギリで、ここでやりたいことはやりきったという思いがあった。

ちょうど同じ頃、夫のさわさんも今後について考えていた。

18歳の時からファッション業界で働き、人気ショップの店員、スタイリスト、ライターと、やりたいことを華やかに実現してきた日々だったけれど、時間的に身を削るその働き方をいつまで続けるんだろうという問いがいつもあった。

そんな中でいくつものタイミングが重なって、二人は「いつか戻る予定だった」という、岡山への帰郷を早めることを決めた。

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帰郷してからの日々は一言で言うと、試練の日々。いつもリラックスした笑顔の今のふたりからは想像もできない下積みのような時間があった。

さわさんは慣れない会社勤め。幸子さんは不慣れな環境でのアルバイト。故郷ではあるけど、ずっと離れていた土地はもはやアウェイだった。

ありがたくも楽しくやらせてもらっていたけど、うまく自分を発揮できなくて帰りの車で泣いたりしたんだよねって、明るく話す幸子さん。でもやっぱり、自分でやるしか道はないかも、そう思うようになった。

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そんな時、ひさしぶりに小林さんのツリーハウスを京都に見に行く機会があった。

登ったときに、胸の奥の何かを強く刺激されるものがあった。

自分の原点を思いだした。あの頃の空気。自分の居場所。

もう、自分で作ろうって思った。

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このあたりまで聞いて、わたしはちょっとこっそり泣いた。忘れそうになっていたものを思い出した経験、わたしにもある。それをありありと思い出した。

ある日、中目黒時代の友達が移住の下見も兼ねて岡山にやってきた。たまたま友人におじいちゃんの家を見せることになった時、彼が言った。

「この木、ツリーハウスにできちゃうんじゃない?」

その瞬間、ただの「おじいちゃんち」でしかなかったその古い家は、突然違う見え方になった。

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ツリーハウスクリエーターの小林さんが岡山に来る機会があり、その家を見せると、「東京の兄貴」と慕う彼はこう言ってくれた。

「ゆっこがやるんなら、やるよ。」

「ここをとっぱらって、こうしたらいいんじゃない?」

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そこからはぶわーーーーっとイメージが溢れてきた。猪突猛進。小林さんが素晴らしいツリーハウスを作ってくれて、インテリアを整え、お店のオープンまで走り続ける。

2012年、子供が生まれ、出産7ヶ月後というタイミングでお店をオープン。口コミでお客さんはどんどん増えていった。

岡山への移住者も増え(わたしもそうだ)たくさんのひとびとの居場所になっていった。

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そう、幸子さんからは「居場所」って言葉がよく出てくる。彼女自身の居場所であり、多くのひとのそれぞれの居場所でありたいという気持ち。

夫のさわさんは、忙しいいくつもの草鞋(わらじ)のかたわら、接客や環境の整備、なんでもやる。「やねうら」と名付けた屋根裏スペースでのイベントや、外に作ったポップアップスペースでの催しも。仲間たちの作品や商品も売り始めた。近頃は二人のセンスを頼って、デザインワークの依頼もある。

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自分のつながりをどんどん巻き込んで、ひとりじゃなく、みんなでやりたいと彼女は言う。

例えば当初は調理も幸子さんがひとりでやっていた。けれど、多忙すぎてお客さんの顔がまったく見れない時期が増えてしまった。そこで、ここは手放そうとキッチンスタッフに入ってもらうことにしたそう。それは、全部自分でやってきた彼女には小さくはない決断だった。

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でもおかげで、東京から移住してきた友人が営むオーガニック農家「風の谷」のキッシュをオリジナルで作ってもらうことにもなった。これはわたしには作れない、と彼女が惚れ込んだ味。

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そんなふうに、この場を通じてたくさんのことが始まっている様子に胸が熱くなる。かつてやっていた、「ひとりで全部やる店」から「みんなの店」へ。Cafe & Somethingと名付けた「Something」の部分がむくむくと、膨らんでいるその様子に。「場作りがしたかった」という彼女の想像していた世界が、立体的に立ち上がっている。

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さまざまな時期を経てゆるやかに変わり続けるアカツキ。その名の通り、だんだん明るくなっていく夜明けのイメージを経て、今では太陽が高く上がったように思えるのはわたしだけかな。

ひとりでイメージを温めた幸子さんの店作りは、たくさんのひとが集まり、活躍する場としてすくすく育ち始めてる。このキッシュもその象徴に思えました。

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味の濃い野菜が丁寧に調理された、とても満足の味。家族の分、持ち帰らせてもらうことにする。

西の空の眩しい太陽が、ツリーハウスを照らす様子を眺めて帰りました。

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店舗情報

Akatsuki Cafe & Something

岡山県瀬戸内市牛窓町千手448
0869-34-3135

営業日 木・金・土
営業時間 12:00〜17:00 (16:30 L.O.)

営業日は変更になる場合もあります。
Instagramでご確認ください。
@akatsuki_cafeandsomething

Google Mapの経路については、HPをご確認ください。
https://akatsuki-web.net

中川正子

写真家。津田塾大学在学中、カリフォルニアに留学し写真を始める。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月より岡山を拠点に、国内外を旅する日々。最新作は『Rippling』ほかに写真集に『新世界』『IMMIGRANTS』『ダレオド』などがある。文章執筆の仕事も多数。fua accessoryとのコラボレーションで短編「モキク」を発表。開設したオンラインストアも好評。

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