ディープ京都、餃子ワンダーランドーー「夷川餃子なかじま 」

テイクアウトのある風景 #17

2022.06.27

写真家の中川正子さんが写真と文章で綴る、「テイクアウトのある風景」。今回は、京都の「夷川餃子なかじま」を訪ねました。「今日はなかじまの調子が良いのでどんどんご注文ください」「なかじまビールの栓はそのまま床へ。なかじまは栓が多いほどうれピー」と手書き文字があふれる店内、「田中みな実」や「ダンディ坂野」と書かれたコップでサーブされるドリンク…。一体ここはなんなのか、そして「なかじま」さんとは一体誰なのか。めくるめく「なかじまワールド」、ぜひご堪能ください。


京都の夜。散歩するうちに迷い込んだ住宅街にぼんやりと明かりが灯っている。夕食が軽かったわたしたちはあとちょっと何か食べたいきもち。第六感でここはきっとなにか、よいものがあると確信する。手書きの筆文字の看板から、なにかを強烈に感じる。

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強い文字で「餃子」。この小腹、ちょこっと餃子食べるのありだよね。のれんをくぐり入る。

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周囲の暗さと対照的に蛍光灯がまぶしい。いきなり、店じゅうに手書きの文字があふれている。

「今日はなかじまの調子が良いのでどんどんご注文ください」
「なかじまのビールの栓はそのまま床へ。なかじまは栓が多いほどうれピー」

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メニューを見ると餃子をメインにさまざまある。にんにく入りの餃子は「ディープ」。抜きのものは「フレンチ」。とりあえず、あれこれ、頼んでみる。粕汁、エッグチャーシュー。コールスロー。

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テーブルには取り皿が積んであり、ほこりよけと思われるラップには大ジョッキを5杯くらい飲んだようなドラえもん(のような何か)が描かれている。店内には大きな音でJ-POPが流れている。お金も力も地位も名誉もないけれど君のことを守りたいんだ、そんな歌詞の歌が白い天井に響く。

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お金や力などが欲しいというわけじゃないけれど、彼女だけにそんなに集中する関係は結局、長く続かないんじゃないだろうか。自分の人生をそれぞれしっかり立てた二人が寄り添うような関係がわたしはすきだな。そんな話をしながらWi-Fiのパスワードを見つける。へにょっとした文字で書かれたそれは「gyoza」。もう、撃ち抜かれるようなきもち。なんだよ、ギョウザって、もう。そのまんますぎる。そして好きすぎる。

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まず運ばれてきたドリンクには名前が入ってる。「田中みな実」「ダンディ坂野」ちらっと眺めたとなりの二人は「布袋寅泰」と「清水ミチコ」で飲んでいる。ピンクの飲みものはきっと、メニューにあった「なかじまオススメドリンク」の「バイス」だろう。布袋さんの名前にめちゃくちゃ合ってる。

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なんなんだこの店。どこにも、似ていない。

餃子が来る前にすでに胸がいっぱいになっている。煌々と明るい店内でスタッフのみなさんは粛々と仕事をしている。しかし、なかじまさんって一体、誰なんだろう。今日は調子が良い、なかじまさんって方は。

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餃子が運ばれてくる。焼きと茹で。店の雰囲気ですっかりおなかが減って一口で食べてしまう。野菜が多めでさらっとしている。いくらでも食べられそう。この、いい意味でふざけきった店内と相反する、とても実直な味がする。肉も、おいしい。大切に育てられた「京都ぽーく」を使っている、と書いてある。5個など一気に消えてしまう、もたれない味。パクチーがたっぷりのせられた茹で餃子もぺろりと。ほかのメニューも、いちいち、おいしい。変な言い方だけれど、生真面目な、味がする。真面目じゃないこの、空間と真逆で新鮮に驚く。

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ひげがもじゃもじゃのお兄さんに思い切って尋ねてみる。「なかじまさんですか?」いや、僕はちがうんですよ、とにやりと彼は言う。なかじまじゃないんですよ。彼は店長の大藪さんだった。聞きたいことは山ほどあるけれど、野暮なような気がしてやめる。洒落が効いているこの店で野暮なことは、したくない。そんな気持ちになる。

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大藪さんのTシャツには「夷川餃子 なかじま ホーチミン店」とある。もちろん、そんな店はないそう。はい、もう、わかってました。いちいち、いい。

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キャップには赤い唇から餃子がはみだすピンバッジが光る。

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声も顔も不器用なとこもぜんぶぜんぶ大嫌いだよ。曲はそんな内容のものに変わっている。さきほどと別のテーブルにはグラスがたくさん並んでいる。「槇原敬之」「輪島功一」「堀ちえみ」「桑田真澄」「佐々木希」大きな明朝体がただ並んでいるだけなのに、笑いが止まらない。ずるい。このテーブルのひともたくさん、餃子の皿を積み上げている。やっぱり、いくらでも食べられちゃうよね。

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持ち帰りもあるというので、焼き餃子をテイクアウトしちゃう。このあと部屋でもうちょっと、ほしくなっちゃいそうだし。赤い唇がプリントされた袋に入れてもらう。

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そう、シメに食べたレモンシャーベットもおいしかった。ものすごく酸っぱくて。見送ってくれる大藪さんにそれを伝えると彼はにやって笑って言った。「酸っぱくていいでしょ、あれ」ちゃんと、すべて、わかってやっている。きっと、ぜんぶ。

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店先にぶらさがっていた大きな照明は餃子だった。どこまでもふざけている。いや、ふざけていないのかも。本気なのかも。そこもよくわからないのが、またいい。ホーチミン店だって本当はあるのかもしれない。もう、どちらでもいい。

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竜宮城を出たようなきもちで餃子をぶらさげ夜道を歩く。関東育ちのわたしにはすべてが京都らしく思えた。真剣にやっていてもそれを全身で暑苦しく表現しないこと。全部、言わないこと。そしてちゃんと、おいしいこと。京都のことをまるで理解していない外国人のような視点なのは承知の上だけど、京都的な「粋」のかたちのひとつに思えた。そんな感想をわざわざ伝えるのも野暮だから、胸にしまっておく。

で、なかじまさんって誰だったんだろう。

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店舗情報

京都 夷川餃子なかじま 本店

京都市中京区西洞院通夷川下る薬師町652-1
075-223-0141

営業時間
11:30~14:00(LO13:30)
17:00〜22:00(LO21:30)

中川正子

写真家。津田塾大学在学中、カリフォルニアに留学し写真を始める。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月より岡山を拠点に、国内外を旅する日々。最新作は『Rippling』ほかに写真集に『新世界』『IMMIGRANTS』『ダレオド』などがある。文章執筆の仕事も多数。fua accessoryとのコラボレーションで短編「モキク」を発表。開設したオンラインストアも好評。

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