〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第2回 永遠の愛を信じたくなるとき~ 先攻:加藤よしき「新しき世界(’13)」

2017/10/19 UPDATE

1 永遠の愛を信じたい貴方へ……

こんにちは。会社がマジで潰れそうなので、沈没船から逃げ出すネズミの如く転職活動中の加藤よしきです。今回のお題は「永遠の愛を信じたくなるとき」。なかなかにロマンチックなテーマですが、お題を聞いて反射的に脳裏に浮かんだのは1本の韓国映画、そしてド派手なサングラスと白いスーツで決めた韓国ヤクザでした。


愛がテーマなのに、なんでヤクザなんだよと思われるかもしれません。しかし、ヤクザ映画ほど「愛」を描くのに向いているジャンルはないのです。何故か?それは、その筋の人たちが、表社会とは全く異なるルールで動いているからです。つまりドラマチックな状況に陥りやすい。


組織の分裂、裏切り、抗争、商売でのドンパチも日常茶飯事。理不尽な命令でも、上が言うなら絶対服従。隙を作れば誰かに襲われる。人間関係の難易度はマックスです。ブラック企業どころか、完全なるブラック。まさに「黒」社会なわけですね。


その一方、ヤクザ社会は「兄貴」「オヤジ」など、疑似家族的な繋がりがあることも広く知られています。何せ命がかかっているわけで、その絆の強さは表社会の理解を超えることも……


もうお分かりでしょう。つまり、熱い絆で結ばれている者たちが、あるときは上の命令で、またあるときは自分の生存のため、切った張ったで破滅していく世界。それが黒社会なのです。これほど「愛」の悲劇が起きやすい場所はありません。


なお、今回の記事の中での「愛」は恋愛ではなく、もっと大きな意味での「愛」です(汝の隣人を愛せよとか、そういう人類愛的な)。恋に関する映画でオススメとなると……『ローマの休日(53年)』でしょうか。面白いですよ。普通に。色あせない傑作です。


さて、そんなヤクザものと、近年モノ凄い勢いで盛り上がっている韓国映画の相性はバッチリです。「怒り」「哀しみ」と言った激しい情念、見たこともないヴァイオレンス描写を得意とする「韓国映画」と、悲劇の鉄板「ヤクザ映画」が結びついたら、鬼に金棒、カレーにトンカツを乗せるようなもの。今回ご紹介する『新しき世界』はそういう映画です。


新しき世界(原題:신세계)2013/韓国/134分
監督・脚本:パク・フンジョン
販売元:TCエンタテインメント(http://www.tc-ent.co.jp/
視聴可能サイト:Netflix(https://www.netflix.com/

2 男たち、熱く、儚く……『新しき世界』の3大見どころ!

『新しき世界』発売元:彩プロ/ミッドシップ|販売元:TCエンタテインメント
発売中|価格:Blu-ray 4,700円+税、DVD 3,800円+税
(c)2012 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & SANAI PICTURES Co. Ltd. All Rights Reserved.
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本作は巨大ヤクザ組織の後継者を巡る内紛を描いた作品、いわゆる跡目争いものです。

巨大暴力団・ゴールドムーン社。そのトップが謎の事故死を遂げたことから、物語は始まります。幹部たちは新しいリーダーを選ぶことを宣言。候補に挙がったのは組織内きっての狂犬・ジュングと、がさつだけど情に厚い兄貴肌・チョンチョン。

千載一遇のチャンスに二人はやる気満々です。しかし、そんなチョンチョンの片腕であるインテリ・ヤクザのジャソンは、何処か浮かない顔をしていました。実はジャソンの正体は韓国警察が送り込んだ潜入捜査官だったのです。神経を擦り減らす日々に「もう辞めたい!」そう上に直訴しても、上司のカンは「もう一回、もう一回だけだから」と女の子の家に転がりこむヒモ野郎の如く、ジャソンに潜入続行を迫ります。

ヤクザとして、警察として、人として……様々なしがらみの中で、人間関係は拗れに拗れ、大爆発するときを迎えます。そのとき、男たちが辿る運命とは?

A、抗いがたい「黒社会」×「スーツ」の色気

本作でまず特筆すべきは、役者たちの圧倒的な色気でしょう。

企業化したヤクザを描く作品なので、ヤクザは全員スーツ着用。我が国の「アウトレイジ」シリーズもそうですが、パリっとしたスーツでヤンチャする男は、不思議なほどセクシーに見えるものです。

この怪奇現象の原因は解明されていませんが、一説にはスーツにあるイメージのせいとも言われています。真面目な服を着ているはずなのに、悪いことをやってしまう。神父が銃を持っている。メイドさんが鞭を持っている。それに近しい、いわばギャップが原因だと思うのです。

本作の主役級ヤクザ3人も勿論スーツ。そのうえ各々異なる色気を発しています。主人公にして潜入捜査官のジャソンは、一番普通ゆえに、使い捨てられる者の悲哀を感じさせます。一方、その兄貴であるチョンチョンは真っ白なスーツにサンダルという超・個性派。ジャソンと反対のオレオレ精神に満ちています。2人の前に立ち塞がるジュングは、一番短気なのに着こなしは最もエレガント……。

顧客が求めるものを分かっている感がハンパではありません。スーツの男性に魅力を感じる方は、もうそれだけで見る価値があるでしょう。


B、黒社会を血で彩るドラマチック・ヴァイオレンス!

次に挙げたいのが、韓国映画のお家芸と化した強烈なヴァイオレンス描写です。中盤に用意されている大乱闘は、本作の最大の見どころ。男たちが包丁、鉄パイプなどを振り回しながら、地下駐車場で血みどろのドンパチを繰り広げる。まさに修羅場そのもの。

その修羅場のクライマックスに当たるエレベーターでのアクション・シーンは特に印象的です。撮影技術的に凄いと言うのもありますが、それ以上にこの乱闘シーンが印象に残るのは、エレベーターに至るまでのドラマがシッカリしているからでしょう。

感情のボルテージが最も高まるタイミング。人間関係が拗れに拗れて、今まさに暴れたい!そんな観客と登場人物の感情が爆発するタイミングで、アクションが始まるのです。ツボを押されたような感覚で、これが最高に気持ちいい。加えて微妙に作中の時間軸をズラすことで生じる悲劇性も……。まさにドラマとアクションが一体となった名シーンです。

C、非情な世界の優しい絆

ここまで説明してきた通り、本作は画になる男たちによる暴力的で野蛮な映画です。勿論そういう映画は山ほどあるわけですが、その中で本作を特別な1本にしているのは、やさしいシーンが本当にやさしいことでしょう。

例えばオープニング。ボコボコに殴られた人が出てきますが、その数分後には微笑ましいやり取りで、心がほっこりさせられます。この落差。これが曲者です。

本作は兄弟分であるジャソンとチョンチョンの絆を丁寧に、ていね~~いに描いていきます。バカな兄貴分に憎まれ口を叩きながら、それでも傍を離れないクールな弟分。そういう関係です。弟分を心の底から信用しているチョンチョン。一方、実は出会った時からずっと兄貴を裏切っているジャソン。なんと素敵に拗れたシチュエーションでしょう。ヤクザと警察。決して心を許してはいけない立場にありながら、共に修羅場を潜るうち、2人の間には確かな絆が芽生えてしまっているのです。

お互いのために笑い、泣き、そして命すら投げ出せる関係……これを愛と言わずして何と言うのでしょうか?

3 「永遠の愛」はある。何故なら……。

読んでいる皆さんは薄々気がついているでしょう。案の定、男たちの物語は壮絶かつ悲劇的な結末を迎えます。

そしてある男だけが、その胸に愛に溢れていた過去を抱き、1人生き続けることになります。まるで初恋のそれのように、血生臭くも愛に溢れた日々は、彼にとって一種の呪いになってしまうのです。

俗に「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」と言います。苦しかったこと、悲しかったこと、できなかったこと、後悔……そういった記憶は不思議と尾を引くものですが、ではそれが「愛」に関するものだとしたら?苦しみと共に、愛もまた永遠に残るのではないでしょうか?

愛の形は、生涯に一度だけの素敵な休日の思い出かもしれません。しかし時には一生背負い続ける後悔になるかもしれない。永遠の愛は確かに存在するのです。ただ、その形が幸せなものとは限らない――それだけの話です。

思い出は何時も綺麗だけれど、だからこそ何時までも苦しむことになるのです。本作のラスト、自身だけの新しき世界を見下ろす勝利者の背中は、その事実を痛いほど教えてくれることでしょう。

「永遠の愛」とは、時に「永遠の呪い」と同じなのだと。

投稿者名

加藤よしき

兼業ライター。昼は会社で鬱々と過ごし、夜はお家で運動会。映画秘宝、リアルサウンドなどで通り魔的に映画関係の記事を書いています。
twitter:@DAITOTETSUGEN
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