秋のパリ きのこの食卓編

五感をひらくレシピ #33

FOOD
2023.12.07

自炊料理家の山口祐加さんによる「五感をひらくレシピ」、今回は日本を飛び出してパリでの「自炊」を楽しんだお話です。生まれた国が違っても、文化が違っても、料理とおいしいものでつながっていけるのってすてきです。


普段から旅に行くときはキッチンがある宿に泊まり、現地の道の駅やスーパーで新鮮な野菜や聞いたことのない名前の魚を買って料理する「自炊旅」が好きで、全国各地をこの形で旅してきた。もちろん地元の居酒屋などにも行くけれど、その土地の食材を使って料理することで、より愛着が持てたり、思い出深い体験になるところが気に入っている。今回ぐーんと足を伸ばして、秋のはじまりにフランス・パリを訪れた。大学の同級生がフランス人と結婚し、パリの郊外に住んでいる。彼らのところを訪れて、マルシェで買い物をし、料理を作り合う機会に恵まれた。

マルシェで買い物へ

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まずはマルシェで集合し、買い物スタート。私は少し早く到着し、野菜を主に扱うお店を見ていると立派なきのこが目に飛び込んできた。きのこには土がついていて、いかにも野性味あふれている。

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手前がセップ茸、奥がジロール茸

フランスは10月から12月頃までが野生のきのこが採れるシーズンで、ジロール茸とセップ茸が売られていた。セップ茸は日本でもイタリアンのお店で聞くことがある「ポルチーニ」のこと。

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買うときにはそんなことを知らず、舞茸くらいの気持ちで買ってみたらお値段が10倍以上して仰天。せっかく買ったんだし、どうすればおいしく食べられるのかおじさんに聞いてみると「牛肉や鶏肉と一緒にきのこを炒めて、ワインで蒸してからハーブを入れると最高」とのこと。「それにする!」と言ったらイタリアンパセリをおまけしてくれた。

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鶏肉もおすすめされたが、ターキー(七面鳥)の肉が売っていたので買ってみることに。他にも野菜や肉屋で「ポーピエット」と呼ばれる子牛の肉や、鶏肉を豚バラで巻いて味付けされている半調理済みのお肉を購入した。

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ちなみにこの日はフランス人の夫さんにフランスの食材で和食を作って楽しんでもらおうと思っていたのだが、マルシェにある食材がとことん西洋の野菜で、それらから放たれるオーラのようなものを感じると、頭に浮かぶのは西洋の料理ばかり。和食を作りたい気持ちが全然湧いてこない。今作りたいものを作ろう!と気持ちを切り替えた。

きのことターキー肉のソテー

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おうちは想像以上に広く、光がたくさん入るキッチンで料理を始めた。ここで料理しているだけで気持ちがいい。

まずはきのこと鶏肉のソテーにとりかかる。にんにくをみじん切りにしてバターで炒め、そこに食べやすいサイズに切ったターキーの肉を入れて炒める。にんにくとバターが混ざり合い、お肉が焼けるいい香りがしてきて、それをつまみに白ワインを飲み始める。

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食べやすいサイズに切ったジロール茸とセップ茸を加えて火入れしていると、さらに香りが豊かになっていく。

友人が「フランスはマッシュルーム以外のきのこはすごく高いから、自分のためには買わないの。だから料理してくれてめちゃくちゃうれしい」と楽しそう。高かったけどこの喜びを一緒にわかちあえる人がいてうれしい。

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白ワインを入れて少し煮詰めて、あとはたっぷりのイタリアンパセリと塩こしょうをふって完成。鶏肉以上に旨味が強く、弾力のある食感がたまらない。味見だけで3割くらい食べてしまった。

きのこのリゾット

少し多めにきのこを買ったので、リゾットも作ることにした。リゾットはここ最近家に人を呼ぶときによく作る料理。みじん切りにした玉ねぎをたっぷりのオリーブオイルで炒めて、米を入れて油を吸わせる。そこに白ワインと具材とお水を入れて、あとはいい感じの頃合いまでごはんに火を入れていく。

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このいい感じの頃合いを見極めるのが、自分の野生の勘を使っている感じがして、うまくできたときの達成感が気に入っている。水を加減しながら作ればあまり失敗することもないし、一品で満足感も高いので、ちょっと気分を上げたい日のごはんにいい。

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この日は2種類のきのこ、マルシェで買ってきたベーコン、玉ねぎ、パルミジャーノチーズのリゾットにした。「チーズある?」と聞いて普通に出てくるあたりがフランスの冷蔵庫という感じ。

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作り方は上記の通りで、私的にはとてもおいしいリゾットができた。さあ、ヨーロッパに住む人たちはどんな反応をするだろう。

ビーツ・りんご・にんじんのサラダ

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右が夫さん、左はお父さんの幼馴染。作る間、途切れることなくおしゃべりしている。

フランス人の夫さんが前菜に作ってくれたのは「ビーツ・りんご・にんじんのサラダ」。

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夫さんの幼馴染が野菜を切る間、ボウルにドレッシングを準備する。ビネガーをスプーンに二杯分入れて、塩を混ぜ合わせる。そこにオリーブオイルをスプーンに四杯入れて混ぜ合わせる。

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ここで登場したのがなんとだし醤油!「これを入れるとおいしいドレッシングになるんだよ」と話してくれた。少し味見させてもらうと、だし醤油のほんのりとした甘みがバルサミコの酸味の角を取ってくれていて、納得の味。とてもおいしい!これは日本に帰ってもぜひやってみたい。

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あとは、ほかの料理ができた後、最後の仕上げに具材をドレッシングに混ぜ合わせて完成させた。

いざ実食

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上記以外にも、ポーピエットをじゃがいも、たまねぎ、ズッキーニと一緒に白ワインで煮込んだ一皿、黒いちじくの白和えを作った。

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合わせて5品がテーブルに並び、乾杯をする。私は全部をお皿に取って食べ始めようとしたが、フランスのお二人はお皿にサラダだけ。理由を尋ねてみると「フランス料理は前菜、メイン、デザートの3コースが基本だから、まずは前菜から食べる」のだそう。学校給食のようにすべての料理をお盆にならべて食べてきた私とは文化が違っておもしろい。

夫さんの幼馴染が「リゾットがすごくおいしい」と何度もおかわりをしてくれてほっとする。友人はきのことターキー肉のソテーを食べてご満悦。本当に今しか食べられない料理を食べたときの、心の底から「生きてる〜!」と小躍りしたくなる感じがわかりあえた。

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夫さんはその後オリーブオイルと醤油とはちみつでマリネしたサーモンのソテーと、ほうれん草をくたくたに煮込んでフェタチーズを組み合わせた付け合せを出してくれた。

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このほうれん草の調理がとてもおもしろく、サラダスピナーでよく水気を絞ってから鍋に収まりきらないほど入れて弱火で火を入れていく。たまに天地を返しながらあとはペタペタになるまでとことん火を入れる。

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量が10分の1くらいになったところでチーズと少しの生クリームを入れて塩で軽く味をつける。ほうれん草のオイル蒸しという似たような料理を私も作るが、どうしても水っぽくなってしまうことが多かった。ここまでちゃんと水を切ってやればもっとおいしくできるんだ!と発見があった。

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デザートタイム

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夫さんがデザートに準備してくれていたのはココナッツ風味のプリン。デザートをちゃんと用意するあたりがフランスっぽい!と思う。でも夫さんの幼馴染はココナッツが苦手らしく、ずっと友達なのになんで知らないの?!と大爆笑。思っていたよりも甘さは控えめで、コーヒーとの相性も抜群で心に残る味だった。

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海外に住む友人の家で料理を作り合うのは初めての体験だったが、一人で作るよりもずっと豊かな時間が過ごせて心があたたかくなった。フランス人の根底にあるおしゃべり力とおいしいものが好き!という気持ちがひしひしと伝わってきて、この国のことがもっと好きになった。別の国の人と一緒に料理を作ることで、お互いの文化に触れることができ、距離が近くなることを身体で学んだ一日だった。もっといろんな国の人と、一緒に料理をしてみたい。

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