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青果店は宝の山。はじまりの南国フルーツ

晴れでも雨でも食べるのだ。 #37

LIFE STYLE
2023.06.21

食べものや飲みものにまつわるあたたかな記憶とその風景を、奥村まほさんの言葉で綴るエッセイ「晴れでも雨でも食べるのだ。」沖縄での新生活が始まった奥村さん。食材の物価がどうしても高くなってしまう沖縄で、地元でとれたフルーツの魅力に気づいてしまったそうです。


沖縄は物価が高い。とりわけ食料品が高い。

という噂を聞いて、東京から引っ越すことになった私は戦々恐々としていた。本州から輸送された食材には輸送費が上乗せされており、その分割高になっているらしいのだ。

引っ越し後、さっそく近所のスーパーに行ってみると、その噂は本当だった。店にもよるが、3割増し〜2倍くらいにはなっている気がする。なにを買うにも躊躇してしまう。

そこで解決策として考えたのが、沖縄産の食材を買うこと。地元農家から仕入れた野菜や果物を売る小さな青果店に通いはじめた。スーパーより安い商品が多いし、地産地消に貢献できるのもいいなと思った。

しかも、空港やお土産売り場などで買うとなかなか高価な食材が、青果店では奇跡的に手頃な値段で売っていたりする。掘り出し物を見つけるたびにテンションが上がった。

でも、ひとつ誤算があった。買いすぎてしまうのだ。

安くなっているから、沖縄にいる間しか買えないんだから、と気が大きくなり、あれもこれもカゴに入れてしまう。

その結果、毎朝トロピカルフルーツを食べるようになってしまった。

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スナックパイン

沖縄での果物初めは、近所の商店で見つけた石垣島産のスナックパイン(=ボゴールパイン/ポコットパイン)だった。

「手でちぎって食べられるのよ。まあめんどくさいから切ったほうが早いかもね。」

どういうこと?と思って家に帰ってから試してみると、たしかにぼこぼこした節を簡単にちぎることができた。スナック感覚で食べられることから『スナックパイン』と呼ばれているらしい。

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スナックパインは通常のパイナップルより小さめ。青果店では100円台の手のひらサイズのものまで売っている。見た目はごつごつしているが、実は芯までやわらかく食べやすい。節ごとに食べるのがめんどうなときには、ざくざく切り分けて食べてしまえばいい。

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わが家では四等分にして冷蔵庫で保存し、食べる直前にひとくちサイズに切って食べている。普通のパイナップルよりも酸味が少なく、なによりとっても甘いので、酸っぱいものがあまり得意ではない私でもパクパクと食べられる。食卓に欠かせない果物になった。

パッションフルーツ

パカっと切って、スプーンですくってじゅるりと食べる。手間いらずなところが気に入っているのが、パッションフルーツだ。

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沖縄にやってくるまで、パッションフルーツはデザートのソースやお菓子のフレーバーなどでしか味わったことがなかった。「中身は華やかな黄色で、さわやかな酸味がある」その程度のイメージで、どんな見た目をしているのかすら知らなかった。

食べてみて驚いたのは、個性的な見た目以上にその食感だ。実はとろっとしてぷちぷち弾けて、まるでゼリーを食べているみたい。種も一緒にポリポリパリパリと食べられるので、一度にたくさんの食感を楽しめる。そのまま食べてもヨーグルトに加えてもおいしい。

店で売られているパッションフルーツは、たいてい表面がつるつるしている。買ってきたらまずは常温で保存して、しわしわになるまで追熟させる。だんだんと甘酸っぱい香りが漂うようになり、早く切ってしまいたい衝動にかられる。

ぱかんと割ってジューシーな実が顔を出す瞬間を見つめるのが、最近の楽しみだ。

島バナナ

ある日の午後、青果店から帰ってきた夫が、まだ青いバナナの集合体をキッチンの棚に吊り下げはじめた。バナナの木からついさっきもぎとってきたような太くて迫力のある房だが、ひとつひとつの実は小さい。島バナナというらしい。

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島バナナは沖縄の在来種で、一般的なバナナの半分ほどの大きさだ。見た目はとてもかわいらしく、ミニサイズなので食べやすい。普通のバナナを食べるときに一本全部は多いなあと思ってしまう私にとって、ちょうどいい大きさだ。

数日待って、黄色く熟した実を食べてみる。まるで焼いたバナナのように、もっちり、ねっとりしている。パサパサ感はまったくなく、上品な甘みとほどよい酸味で口のなかがいっぱいになった。

これはおいしい。これまで食べたバナナのなかで、いちばん好きかもしれない。

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でも、島バナナは台風や病害虫の被害を受けやすく、生産者が少ないため、希少価値の高い果物だそうだ。毎朝、房から一本か二本もぎとって、ありがたくいただいている。

果物パパイヤ

パパイヤが果物であり野菜でもあるということを、沖縄に来てはじめて知った。

「青パパイヤは料理に使うやつ、フルーツパパイヤはこっちね。」
青果店の店主が教えてくれたのだ。

まだ青くて硬いパパイヤは、沖縄料理の定番食材で、サラダや炒めものなどに使うらしい。青果店では、黄色く熟してきたパパイヤのコーナーに「果物パパイヤ」という札を貼って区別していた。私はそのなかのひとつを買った。

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パパイヤに対して、私は特になんのイメージも抱いていなかった。いや、正確にいえば、芸能人のパパイヤ鈴木さんのイメージしかなかった。食べたことがあるかどうかすら記憶があやふやだった。南国フルーツとしてマンゴーなどと一緒くたにしていたのだ。

はじめて意識しながら食べるパパイヤは、柔らかくて甘かった。肉感がありジューシー。イメージとしては柿に酸味と青くささを加えた感じで、なかなか大人の味だと思った。レモン汁をかけると独特の青くささが緩和され、食べやすくなる。

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パパイヤさん、これでようやく覚えました。次は料理で会いましょう。

宮古島メロン

ある日大きなスーパーを訪れたら、目立つ場所に「宮古島メロン」がおかれていた。ミネラル豊富な土壌で、太陽をたっぷり浴びて育てられたメロン。糖度は14度以上と決まっていて、濃厚な甘さが特徴だそうだ。

さぞかしおいしいのだろうなと思った。メロンにしては手に入れやすい価格で売っていたから、三度見くらいはした。でも買わずに帰ってきた。さすがに贅沢だと思ったからだ。

なのに翌日、図書館から帰ってくると宮古島メロンが家にあった。夫が青果店で買ってきたという。よっぽど食べたかったのだろう。

追熟させ、甘い香りがするまんまるの実を切り分けると、まな板の上にさっそく果汁が滴りおちた。みずみずしくて柔らかい果肉に包丁を入れる感触がたまらない。

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いわずもがな、おいしかった。しっかり甘い。メロンに塩をかけると甘みが増しておいしいと聞くが、もとから塩がかかっているのではないかと疑ってしまうほど、甘みが凝縮されている。

宮古島メロンは、冬と春に収穫されることから、「冬メロン」や「母の日メロン」として売り出されている。この冬は、だれかに贈ってみようかしら。

カニステル

「これ、なんですか?」

近所の青果店でお会計をしていたら、レジ横に置かれた濃い黄色の物体が目に入った。札には『カニステル』と書いてある。聞いたことのない名前だ。「カニ捨てる」という当て字しか思い浮かばない。    

「見たことないでしょう?卵の黄身みたいな果物でね、割ったらすぐ食べれるよ。」

別名は『エッグフルーツ』。『ケダモノタマゴ』という呼び名もあるらしい。

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どんな味なのか気になったが、ほかの野菜や果物をたくさんカゴに入れていたので、買わずに精算を済ませることにした。マンゴーの仲間みたいなものだろう。色から安易に味を推測し、自分を納得させてみたりもした。

それなのに今、カニステルが家にある。「これつけとくね」とおじさんが気前よくおまけしてくれたからだ。手に持った感触はむにっと柔らかく、簡単につぶれてしまいそう。

さっそく半分に割ってみると、たしかに卵の黄身みたいな色と質感をしている。もっちりほくほくとしたペースト状。甘く濃厚でコクがあり、焼き芋やかぼちゃを思わせる味わいだ。

おじちゃんありがとう。
心のなかでつぶやきながら、三時のおやつとしていただいた。

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これからの季節、果物売り場ではマンゴーが主役となる。
しばらく梅雨が続くが、気分が浮かないときは青果店に行くとしよう。
南国フルーツの明るい光をめいっぱい浴びて、夏を迎える準備をしたい。

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