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「四季の旬で恋しいもの、欠かせないもの」上田淳子さんの場合

旬を楽しむ

LIFE STYLE
2023.12.13

「旬を知り、旬を楽しむをもっと身近に」――アイスムが大事にしてきたテーマのひとつです。日々の食に四季の旬を取り入れると、生活はより豊かに、メリハリのあるものになると思うから。今回から定期的に「気になるあの人が、どんな風に旬とつきあっているか」をテーマにしたインタビューをお届けします。第1回目は、料理研究家の上田淳子さんにお話を聞きました。

お話を伺った人:上田淳子さん

兵庫県生まれ。本格的な西洋料理から日本の家庭料理、スイーツやパンまで守備範囲の広さは業界でもトップクラス。現代人の生活に根差した「日々どう食べ、どう作るか」といった提案にも定評がある。『副菜以上、主菜未満。3品で整うふたりの食卓 主菜いらずの3品ごはん』(Gakken)など著書多数。

旬をごろごろと詰めた白和えで秋の夜長の晩酌を

上田さんのお宅を訪ねたら、ちょうど今夜のおつまみを作られているところでした。メニューをうかがえば、「柿と春菊の白和え」とのこと。

上田「子育て時代は絶対に作らなかった料理のひとつが、白和えなんです。実は結構手間もかかるし、子どもたちも夫も『おかずにならない』と食べないから(笑)。子どもが独立してようやく時間も出来た今、私は白和えを「旬を楽しむ和サラダ」の感覚で、季節の素材で作っています。」

柔らかめの木綿豆腐とごまをすり鉢でしっかりするのが上田さん流。晩秋の具材は柿とゆでた春菊、アクセントにくるみも入れて、砂糖と醤油、塩で味つけ。春菊はゆでた後、軽く醤油でからめて絞ってから加えるのがポイントだそう。

柿の甘みとほろ苦い春菊がいい相性、ごまの香る豆腐の和え衣が、全体をやさしくまとめてくれます。

上田「ビールや日本酒はもちろん、白ワインにも合うんですよ。フルーツを加えたカプレーゼみたいな感覚でいただけます。実りの秋は楽しみたい旬のものがいっぱいですね。秋が深まると、栗やきのこの炊き込みごはんを作りたくなる。新米もおいしいし。お芋の煮っころがしなんかも作りたくなる。暑さが残ってるうちって、炊き込みや煮物ってしたくないじゃない?秋は結構短いから『あれも、これも食べ逃したくない』なんて気持ちになるというか。」

その焦るような気持ちがまた楽しい、と笑う上田さん。

上田「秋の果物は料理に使いやすいものが多いですね。梨はごま和えやサラダに加えてもいいし、洋梨なら鶏や豚と一緒に焼くのもおすすめ。
あと秋といえば、きのこ。きのこって15分ぐらいじっくりソテーするとグッと味が濃くなる。ソテーしたものをマリネしたり、デミグラスソースに加えたり、あるいは混ぜごはんの具やオムレツに加えるのもおいしい。」

加湿も兼ねて大鍋でじっくり、ゆっくり煮込む冬

四季それぞれで「食べたい料理のスタイルと食材って変わりますね」と上田さんはおっしゃいます。これから寒さも本番、冬の時期なら「おつゆの多いもの」が恋しくなるそう。

上田「冬はお鍋やシチュー、汁物の季節ですよね。やっぱり体が暖をとりたくなる。うちはお鍋というと、ぶつ切り鶏肉で博多風水炊きをやることが多くて。たまのぜいたくなら、猪肉を取り寄せて味噌味の鍋にしたり、私の地元の兵庫県から岩津ねぎというおいしいねぎを取り寄せて、たっぷりと入れたすき焼きを作ったりもします。」

シチューならクリームシチューやボルシチなどを作ることが多く、お客様のときはビーフシチューのことも。

上田「大きめの鍋でじっくり煮るのって、部屋も暖かくなって、加湿にもなるのがいいところ。スペアリブなんかを水から煮てストーブの上にかけておいて、『さてここからどうしよう』なんてその日の気分で決めることもよくあります。
あと冬が旬の楽しみといえば…牡蠣!私、牡蠣ならフライ一択なんですよ。はい、手間はかかりますよね。でも好物ですから、1シーズンに2回ぐらいは一から作って楽しむ時間を設けたい。」

冒頭で白和えを作っていた上田さん、「一手間ではあるけど…」と言いながらごまをフライパンで炒って、より香ばしく仕上げていたのを思い出します。好物の旬と接するときは、面倒もいとわないで料理する。上田さんが出来たての牡蠣フライでビールを楽しむ笑顔が目に浮かびました。さて、厳しい冬が過ぎて暖かくなってくると体は何を求めるでしょう?

待ち遠しいのはアスパラガスと筍、春に恋しいあの味

上田「まだ寒い時期ですが、2月ぐらいになるともう煮物にも飽きてきませんか?そのあたりで私、だんだんサッとゆがいた野菜とかサラダが食べたくなってきます。春はおいしい野菜がいっぱい。アスパラガス、スナップえんどう、菜の花、春キャベツに芽キャベツ、新玉ねぎもおいしいし。」

とりわけ好きなのはアスパラガスと即答されました。シンプルにゆがいたのが一番の好物とも。


写真提供:上田淳子さん

上田「もうね、ゆでるときは全神経を集中してゆで加減を見てます(笑)。他にも焼いてよし、肉巻きやフリットもよし、あれこれ楽しみますよ。
あと筍も一通りは全部やりますね、春の楽しみです。天ぷら、木の芽焼き、炊き込みごはん、中華炒め、つくねに刻んで入れる…ああ、なんだかもう待ち遠しくなってきました(笑)。」

冬の寒い時期があればこそ、春野菜の淡さ、ほろ苦さがおいしく感じられるもの。上田さんは兵庫県育ち、地元で春の訪れを告げる「いかなご」という魚の炊いたの(甘辛く煮つけた佃煮的なもの)も春に食べたくなるものとして教えてくれました。

上田「あと山菜も欠かせませんね、やっぱり。昔、信州のペンションで働いていたことがあるんです。そのとき周囲のおばあちゃんたちに山菜料理を教わって。当時まだ知られていなかった、こしあぶら(ウコギ科の山菜)のおいしさには感激しましたよ。山菜の苦みって、デトックス感があっていいものですね。」


キッチンには季節仕事の梅干しやらっきょう漬けがあちこちに。「梅酒は好物だから毎年作りますよ」と上田さん

コンロ前の滞在時間はなるたけ短く夏野菜を楽しむ

さあ、いよいよ季節も一巡り。上田さん、夏の旬とはどのように付き合われていますでしょうか。

上田「夏野菜のみずみずしさがやっぱり好きです。きゅうりにトマト、なすが特に食べたくなる。サラダや簡単な和え物が多いけど、トマトやピーマンのファルシー(肉などを詰めて主に加熱し仕上げる料理)も好きでよく作ります。『こんなに暑いのになぜ私は…』とか思いながら(笑)。あと、たっぷりのサラダに焼いた肉をのせて一皿にすることも夏は多いかな。」


写真提供:上田淳子さん

にんにくと油で肉を焼いて、夏野菜のサラダにのせて、パンを添えて一食にするなんてスタイルが上田さんの夏の定番のよう。スペインの冷たい野菜のスープ、ガスパチョの出番も多いとのこと。

上田「あ、夏といえば私にとっては薬味の季節でもあって。大葉、みょうが、ねぎ類をとにかくたっぷり用意してます。そうめんはもちろん、冷しゃぶやお刺身、ソテーした肉や魚にどさっと添えていただくのが好きなの!といっても、夏はしゃぶしゃぶ用肉を使うことが多いかな。あまりコンロのそばに長くいたくないじゃない(笑)?」

野菜ばっかりだとバテやすくもなるから、しっかりたんぱく質もとることを心がけていらっしゃるようでした。お子さんたちが独立して、夫さんとの二人暮らしもようやく慣れてきた今、しっかり旬と向かい合って、新たな楽しみを発見してみたいと上田さんは言います。

上田「子育ての間は正直、仕事と家事の往復で大変でした。当時も季節感を大事にしてはいましたが、やはり近くで手に入るものが主でしたね。余裕が出てきた今は、さらに細やかに旬を愛でたい。新たな目標があるんです。それは『出向いて楽しむ旬』。産地を訪ねて、土地の食材を大事にされている方々の話を聞きながら、おいしくいただく。そんな夢が膨らんでいます。」

これからまた新たな旬の発見がいろいろありそうですね。上田さん、今回はありがとうございました! 

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撮影:佐々木孝憲

アイスム座談会