有賀薫さんがアイスム編集部と語る、一人分の自炊

耳で楽しむおいしいスープレシピ #35

PEOPLE
2023.10.12

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スープ作家 有賀薫さんの声でお届けする“聴くレシピ”。今回は、有賀さんとアイスム編集部のメンバーによる、スペシャルトーク第二弾!春は「おうちごはんを10倍楽しむ方法」がテーマでしたが、今回は「一人分の自炊」について語り合います。一人分の自炊は、買い物の仕方に迷ったり、材料を余らせてしまったりして、悩みが付きもの。有賀さんとアイスム編集部のメンバー(中辻・虫明・杉本)はどうやって一人分の自炊をしてきたのか!?楽しく続けるコツは?有賀さんのスープのようにほっこりするトークをぜひお楽しみください♪


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一人暮らしの自炊ってどうですか?

有賀 現役で一人暮らしなのは、杉本さんですね。普段の食事はどうされていますか?

杉本 一人暮らしは5年目になるのですが、ムラがあって自炊をする時期としない時期があります。一人分を作るのが苦手なので、だいたい三人分くらいガッと作って、翌日も同じものを食べます。ただ、次の日もそれを食べたいとは限らないというのが難しいですね。

有賀 食べるつもりでいても、仕事で急に外食することもありますもんね。ちなみに、どういうものを作るんですか?

杉本 私は中華が好きで、ハマると頻繁に作るタイプです。麻婆豆腐にハマっていた時は、週に3〜4回作っていました(笑)。

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有賀 食べたいものをとことん食べられるって、一人暮らしの良いところですよね。

杉本 たしかにそうかもしれないですね。ただ、食材を余らせてしまうことが悩みです。その余った食材で何を作るか考えるのが、なかなか難しくて。最初はやる気いっぱいで食材を買うのですが、材料が少しずつ残ってしまい、次の日に使おうと思っても、翌日は帰りが遅くて作れず、食材がだめになってしまって落ち込む…というのを繰り返してきました。

有賀 それで気持ち的にダメージを受けて、自炊がだんだん遠のいてしまう人も多いのかもしれないですね。

食材を余らせないようにするためには、大きな食材を買った時、初日にできるだけ大きく食べるのがおすすめです。例えば大根なら、最初に使う時は大きめに切り、おでんやふろふき大根などにしてガバッと食べてしまいます。残ったものは少しずつしおれてくるので、小さく切ってスープに入れる。まさにこういう時こそスープの出番で、水分の抜けた残り野菜でも、ちゃんとおいしさが戻ります。こんなふうに使う順番を考えるだけでも、在庫管理がしやすくなります。

あと、冷凍できる食材は意外とたくさんあるので、うまく使うといいと思います。特に、そのまま冷凍できる野菜は便利です。代表的なものでいえば、きのこですね。あと意外なところでは、ほうれん草も。冷凍庫から出して、そのまま炒め物などに使えます。根菜はそのまま冷凍するとスカスカになってしまうので注意しましょう。冷凍食材を上手に使えると、買い物せずに帰ってきた時なんかも自炊を続けやすいと思います。

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(写真左:虫明、中央:中辻、右:杉本)

有賀 虫明さんも、かつて一人暮らしをしていたんですよね?

虫明 はい。大学4年間と社会人2年目くらいまで一人暮らしだったのですが、まさに杉本さんと同じようなことで悩んでたなぁと思います。

有賀 自炊はどのくらいしていましたか?

虫明 私は高校を卒業してすぐ上京したのですが、まったく料理ができない状態で一人暮らしを始めました。お金もなかったので、最初はカップラーメンとかファストフードとか、とにかく安くてボリュームがあるものを食べておなかを満たそうとしていたんです。でも、そういう食生活を続けていたら、頻繁に体調を崩すようになったんですよね。このままじゃさすがによくないなと思って、母が買ってきた「はじめての料理」といったような本をようやく開いたんです。そういう本って、結構一人暮らし向けに書かれていたりするんですよね。

最初に作ったのが、その本に載っていた「おくらの和風オムライス」です。オムライスと言っても、ケチャップライスを作って卵で上手に巻いて…というものではなくて、そのレシピではまずごはんとかつお節と茹でたおくら、あとお醤油で「混ぜごはん」を作るんです。

あとは、卵と和風だしを混ぜてから薄く焼いて、丸く盛った混ぜごはんに卵をのせるだけ。「だけ」と言ってもこっちは料理初心者だから、薄焼きにもなっていない、びりびりに破れた卵を、そーっとごはんに置くわけです。

でも、これがすごくおいしかったんです。「あっ、できた!」という体験でした。「これくらいなら作れるな」と思って、それから少しずつ料理をするようになりました。でも一番よく作ったのはそのオムライスです。卵がだんだん薄く焼けるようになっていくのもうれしくて。

あと、特に当時は「とにかくお金がない」という理由もあって工夫しながら自炊をしていたので、何かそういう理由があると一人暮らしの自炊もがんばれるのかもしれないなと思います。

有賀 成功体験ですね!一人暮らしのスタートって、虫明さんに限らず、調理の技術もないし、お金もないし、さらにはキッチンも狭いという、“自炊三重苦”みたいなところがあると思うんですよね。

最初はできないのが当たり前なんですけど、一つ「コレ!」っていうレシピに出会えると、やってみようかなという気持ちになり、「できた!」という成功体験を積み重ねられるはずです。それが、若い方の一人暮らしの自炊の一番のポイントかなと思うんですよね。

調理そのものを息抜きにする

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有賀 中辻さんは一人暮らしの経験がないそうですね。

中辻 そうなんです。学生のころは、実家を出て妹と二人で暮らしていました。家での料理は、二人で交代して作っていたのか、一緒に作っていたのか、記憶が曖昧なのですが…二人分のごはん作りがスタートでした。

有賀 今はご家族と一緒にお住まいですが、一人分のごはんを自炊するような機会はありますか?

中辻 時々あります。料理系メディアの編集長がこれでいいのかと思うのですが…卵かけごはんに納豆を入れるのが好きで、それですませる日が結構あります(笑)。

あとは、アイスムに載っているたくさんのレシピから、作りたかったものを作ることが多いですね。家族がいる時だと「いつもの料理がいい」と言われることもあるんですよね。だから、一人の時に新しいレシピにチャレンジしたり、自分が食べたいものを作ったりしています。

有賀 先ほどの杉本さんのお話もそうでしたが、自分が食べたいものが作れるのは、一人ごはんの良いところですよね!私の夫は好き嫌いが多いので、私も一人の時に自分の好きなものを思う存分作ります。“一人居酒屋”みたいな感じで、少しずついろいろな料理を作って食べるのが楽しいです。

中辻 私は、印度カリー子さんに教わった「スパイス3つで作るチキンカレー」をよく一人の時に作ります。一人の時間に黙々と玉ねぎを炒めるのが、“無の境地”みたいな感じがして(笑)。仕事でパソコンに向かい続けて疲れた時に、「とりあえず一回、玉ねぎを炒めよう」と思い立ち、黙々と炒めてスパイスを入れていくと、「また仕事しよう!」と気持ちをリセットできるんですよね。玉ねぎやスパイスと向き合う一人時間、おすすめです!

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スパイス3つで作るチキンカレー

有賀 それはすごくいいポイントですね!一人の時、卵かけごはんの人って多いと思うし、私もパンやお菓子をつまんで済ませることもあります。でも、今おっしゃっていたように、じっくり玉ねぎを炒めて料理しようとか、何か大量に刻んでみようみたいな、「調理そのものを息抜きにする」というのは、とても良いアイデアだと思います。

食べるために料理を作るというところから、楽しみで料理を作るというふうに発想を転換できると、少し面倒に感じていた自炊も、続けやすくなるかもしれません。そういう意味でスパイスカレーは一人で作るのに適していますよね。

中辻 食事のタイミングで料理を作ろうとすると、お腹を満たすために作るから、効率的に作れれば何でもいいやとなるけど、何でもない時間から調理を始めたりすると、料理を少し楽しむ余裕もできるのかなと思うんですよね。少しでも料理を作るという作業に向き合う時間が取れると、食べる楽しみだけじゃなくて、作る楽しみも感じられるのかなと思っています。

一人分の自炊を工夫して楽しもう!

中辻 先ほど有賀さんから“自炊三重苦”のお話がありましたが、一人分を作ろうとすると、なかなか分量や食材管理が難しかったり、一人暮らしの部屋のキッチンにはコンロが一つしかなかったり、冷蔵庫が小さかったり、そういう環境でも自炊に楽しさを見出すというのは、少し難しい場合もあるかもしれませんね。

有賀 キッチンが狭いから小さいまな板しか置けないというのは、確かに大変かもしれないです。

杉本 私は、白菜を買うのをためらう時があります。うちのまな板には収まらないサイズなので、はみ出しながら切ることもありますが…(笑)。

虫明 キャベツって半分でも結構大きいんですよね。でも、最近はカット野菜が売られているので、重宝しています。

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有賀 以前出版した『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)という本では、一人暮らしの人が夜8時くらいに帰宅してスープを作るという想定で、レシピを載せたんですね。

スープというと、通常はキャベツや白菜をよく使うのですが、編集者の方が「いや、のらない!」って言うんですよ。何がのらないのかと思ったら、一人暮らしのキッチンは狭いし、まな板も小さい、だからキャベツや白菜がのらないという意味だったんです。なるほどなと思って、きのこなど使いやすい野菜をレシピに取り入れました。

その時に思ったのは、小さなまな板にのる材料で考えるのではなくて、シンクを覆うように大きなまな板を置いて作業スペースを確保すれば、大きめの食材も使いやすいのではないかということです。一つのスペースで、洗ったり、切ったり、切り替えられるように工夫するのも良いかもしれない。

小さいまな板って、こぼれて大変なんです。一人分だけ作るとしても、まな板や包丁は大きい方が断然使いやすいし、使いやすい方が料理が楽しくなると思います。

また、コンロも一口しかないと、パスタとソースを同時に加熱できないと思ってしまいますが、パスタを電子レンジで茹でる方法もありますよね。レンジを強力な味方と捉えて、調理できたらいいのかなと思います。

ちなみに、アイスムでもご紹介していますが、お味噌汁を一人分作るなら、レンジで作るのがおすすめ。鍋で一杯分を作るのは難しいので、一度に数杯分できてしまいますが、味噌汁は作りたてがおいしいので、一杯分ならレンジの方が向いているのです。

中辻 有賀さんの「一人前の味噌汁はレンジで作ろう!」は、長期間にわたって検索されていて、たくさんの方に読んでいただいています。一人暮らしで「お味噌汁はなくてもいいや」と考える人もいると思いますが、「あったかいお味噌汁を飲みたいな、何かいい方法はないかな、あっ、レンジがある!」みたいな感じで、この記事にたどり着いていると思うんですよね。たとえ一人分でも、お味噌汁を自分で作って食べるというところに、気持ちを満たす何かがきっとあるんだろうなと思います。

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一人前の味噌汁はレンジで作ろう!」加熱時間は3〜5分とカンタン!

有賀 それなら、一人分ごはんの連載はいかがですか?

中辻 そうですね!一人分のレシピというニーズはありますし、これからの時代、「自分のために作る」というのは大事な価値観なのかなって思いますね。

有賀 私もそう思います。家族のために作るというのも必要で素敵なことですが、同時に自分のことももうちょっと労わってあげてほしいなと思いますね。もちろん卵かけごはんでもいいのですが、ちゃんと作ったごはんは満足度が違うはずです。

一人のごはんって、「何のために作っているんだろう?」って考えますよね。食べさせる人がいたら否応なしに作らなければならないですが、一人の時に「何のために食べているのか」を考えるのって、哲学的ですよね。「何のために生きるのか」を考えるのと近いところがあると思います。「何のために自炊するのか」って考えてみると、いつもと少し違った見方ができるのではないでしょうか。

中辻 壮大なテーマですね!

節約のため、体のため、美容のためなど、これのためにがんばろうというのがあると、モチベーションが上がりますよね。前のトーク回でも、おうちごはんを「楽しむ」方法について語り合いましたが、もちろん「楽しむため」という目的でもいいですよね。目的や理由をしっかり持っておくのは大事かもしれないです。

有賀 あと、今はインターネット上に料理の情報がたくさんあって、どこから探せばいいか分かりにくいですが、「何のために料理をするのか」がはっきりしていると、目的に沿ったレシピを探しやすいと思います。

私たち料理家って、もちろんおいしいものを提供するつもりで作っているんですけど、実はそれ以外に、「調理中にこうやるとおもしろいよ!」っていうような情報も散りばめながら作っているんですね。だから、アイスムに載っているいろいろな料理家さんのレシピを見ると、「この作り方おもしろい!」って思うものが結構あります。読者のみなさんには、自炊するなかで、哲学的な思考も巡らせつつ、そんな新しい発見もぜひ楽しんでいただきたいです。

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みなさんの参考になるお話はあったでしょうか?日々自炊をしている方に、少しでも参考になっていたら嬉しいです。

私はこうしています!こんな悩みがあります!など、みなさんのお話や聴いて感じたことなど、ぜひお送りください!また、話してほしいトークテーマなどもあったら、アイスムのページからリクエストを送ってみてくださいね。

次回はいつも通り、スープレシピをお届けする予定です。
レシピは「たらとじゃがいものトマトクリームスープ」です。お楽しみに!

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撮影:木村琢也

アイスム座談会