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同じようでこんなに違う!「我が家の味噌汁」座談会

特別企画

PEOPLE
2024.02.21

日本の食卓に欠かせないものの一つ、味噌汁。各地で、家庭ごとで味や作り方も様々に違いますね。何気ないけど、奥深い存在。昨年『私のおいしい味噌汁』(新星出版社)を出版したスープ作家の有賀薫さんをはじめ、味噌汁大好きなみなさんにお集まりいただいて、その魅力をとことん語っていただきました。

お話を伺ったみなさん

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井原裕子さん(愛知県出身)

料理研究家、野菜ソムリエ、食生活アドバイザー。季節感を大事にした、作りやすく分かりやすい家庭料理のレシピに定評あり。アメリカとイギリスの滞在経験も活かし、幅広い料理を得意とする。

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有賀薫さん(東京都出身)

スープ作家。「作りやすそう」「食べてみたい」を喚起させるレシピの数々がSNSで人気を集め、雑誌やテレビなど多方面で活躍する。アイスムでは「耳で楽しむおいしいスープレシピ」を連載中。

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髙山かづえさん(大分県出身)

料理研究家。現代に暮らす日本人の生活に即した手軽で便利なレシピから、心躍る華やかで楽しい料理まで守備範囲は広い。ワインソムリエの一面も持ち、ワインに合うおつまみレシピも人気。

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司会進行・白央篤司(東京都出身)

フードライター、コラムニスト。気楽な調理アプローチとローカルフードの二つを主軸に企画・執筆する。近著に『台所をひらく』(大和書房)、『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)など。

お互いの味噌汁の食べ比べからスタート

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奥の左が井原さん、右が白央さん、手前の左が有賀さん、右が髙山さんのお味噌汁

白央

今回はまず、みなさんの「普段の味噌汁」を持ち寄って、食べ比べるところから始めてみたいと思います。他のお宅の味噌汁を飲む機会って、なかなかないので楽しみですね。まずは東京出身、有賀薫さんの味噌汁からいただきましょう。

有賀

私が普段使っているのは米味噌(熟成した茶色っぽいタイプ)なんですが、今日は白味噌を少しブレンドしています。豆腐を小さく切って口にサラサラッと入るようにしたかったので、やさしい感じのお味噌が合うかなと思って。出汁はいりこと昆布です。

白央

その日の気分で合わせ味噌にしたり、豆腐の切り方も変えているんですか?

有賀

うちは豆腐の味噌汁をめちゃめちゃ食べるんですよ。週3は必ず。普通はもっと大きく切っているんですが、気分で小さくしたり、あるいは崩して入れたり。

髙山

バリエーションをつけているんですね。

有賀

吸い口(※汁物に浮かせて香味をつけるもののこと)も今日は三つ葉ですが、青ねぎ、白ねぎ、みょうがなど気分で変えてます。春ならふきのとうをそのまま刻んで入れたりも。

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白央

アクセントの付け方がいろいろあるのも味噌汁のおもしろさですね。次は井原裕子さん、お願いします。ああ、かつお節のいい香りだ。

井原

私は愛知県出身なので豆味噌が日常の味。苦味もある味のしっかりした味噌なので、普段は厚削りを使った濃い出汁を使っています。今回は手軽に出汁パックを使いましたが、袋から出して煮るんですよ。そうすると出汁の風味が強くなります。

髙山

具材感も増して、いいですねこれ。

有賀

粉っぽくなるかと思いきや、全然そんなことなくて、おいしくなる!

白央

これは発見でしたね。お次は大分県出身の髙山かづえさん、地元のお醤油屋さんが作っている麦味噌を使われているとか。

髙山

甘めでホッとする味わいで、ここの味噌が大好きなんですよ。柚子胡椒を加えてもおいしいんです。手づくりしてきた柚子胡椒、少し加えてみてください。

全員

すごくいい!

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井原

香ばしい麦味噌と柚子胡椒の辛み、いい組み合わせですね。日本酒にも合いそう(笑)。

白央

分かります、“ぬた”を作りたくなる…って話が逸れました(笑)、味噌汁に戻ります。

有賀

お出汁はいりこなんですね、麦味噌といりこ、やっぱりいい相性。

髙山

かつおと昆布の出汁でもいいんですが、やっぱり私がホッとするのはいりこ出汁ですね。実家の味です。

白央

地元のお味噌の味、家の味って体がホッとしますよね。私は転勤族の子なので「地元の味」というのはないんですが、富山県を旅して知った魚津の『宮本みそ店』の米味噌に惚れ込んでしまい、ここ数年ずっと使っているんです。

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有賀

わ、甘めだけれど塩味もパチッときいてますね。

井原

麹感がしっかり、まろやかでいいお味噌。つぶつぶがまたいい感じね。

有賀

北陸から東北にかけては麹味噌が多いですね。米どころというのもあるし、寒いから甘めの味噌が好まれるのかな。出汁は何ですか?

白央

ここ数年はいりこと昆布の組み合わせが気に入っています。髙山さんもいりこ出汁でしたが、麦味噌との組み合わせでこれだけ味が違うし、有賀さんとは米味噌と出汁の両方が同じだけど、味わいが全然変わってくる。

井原

いりこや昆布の種類でも味は変わるしねえ、味噌汁のおもしろさですね。

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味噌の好きなポイント、そのおもしろさ

白央

私の愛用味噌は「溶けやすさ」も気に入っています。鍋に入れて数回かき回すだけでサーッと溶けて、味噌漉し不要。

井原

味噌漉しを使うと一手間増えるし、洗い物も増えてしまう。

有賀

私はごはん作りの最初に味噌汁を作るんですが、その時点では最後まで作らないんです。というのは出汁をとって具材を煮たら味噌を汁に沈めておく。その間に他の物を作って、最後に味噌汁の鍋をかき回すと、簡単に溶けるんです。

髙山

それ私もよくやります!味噌が緩んで、簡単に溶けますよね。味噌漉しって花嫁道具の一つで買いましたが(笑)、使ってない。というのは麹のつぶつぶ感もおいしいから、取り除くのはもったいなくて。

井原

私、味噌漉しを使っても粒をまた入れる(笑)。手作り味噌の大豆の潰し残しみたいなつぶつぶもおいしいよね。

有賀

そういう粒感や、出汁の煮干しがそのまま入ってるようなおいしさって家庭料理ならではですよね。私は結婚して夫に作ったら、煮干しやつぶつぶが入ってる味噌汁は嫌がられてしまって。味噌汁一つにしても相容れないものはいろいろありますね(笑)。

井原

味噌屋さんにお話を聞くと、今、一般家庭で味噌離れが進んでいるんですって。味噌漉しが必要だったり、なかなか溶けなかったりというイメージがあって、料理に使ってもらいにくいと。

白央

先の有賀さんのやり方が伝わるといいな、この記事の宣伝がんばります(笑)。でも溶けにくいというのはハードルですよね、だから最近は粉状や液状の味噌もスーパーに並んでいる。味噌の形も時代で変わっていくな、と。

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体が味噌汁を求めるとき

白央

普段、味噌汁を飲むタイミングや頻度ってどのくらいですか。

髙山

私は朝ですね、週に3~4回。週末が多いんです、平日の仕事で使った食材のあれこれを味噌汁にして使うことが多くて。野菜もたっぷりとれるし。あ、お揚げ(※油揚げのこと)が大好きなので、冷凍常備してほぼ加えてます。

井原

週に2~3回、朝かお昼ですね。私は「ととのえたい」ときに味噌汁派。前の日食べ過ぎた、飲み過ぎたときは翌日まず味噌汁だけいただくことが多いんです。そうすると体がととのう感じがする。

白央

分かるなあ、飲み過ぎたときって体が出汁を欲しますよね。

井原

そうそう。花がつおと昆布を水出しにして冷蔵常備しているので、それもよく飲むんです。

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髙山

私もいりこを瓶に入れて水出ししてます。ただ、いりこはサッと煮てすぐうま味が出るのもいいところ。安くて手軽で、急に味噌汁が飲みたくなったときにも便利。水出しはすっきりした味わいになるのがいいですね。

白央

いりこや煮干しは昆布と合わせる方も多いですが、いかがですか。

髙山

実は合わせたことがなかったんです、ずっと。私はとらわれていましたね、「味噌汁はいりこ出汁オンリーでやるもの」って。昆布と合わせて複合出汁のおいしさを知りましたけど、以前は考えたこともなかった。

白央

実家で身に付いた方法ってアレンジしてみようとはなかなか思わないものですよね。有賀さんは味噌汁を飲む頻度、いかがでしょう。

有賀

私はほぼ毎日で、基本は夜です。1日1回は習慣で飲んでいるというか、ないと落ち着かないんですよ。洋食のときにも味噌汁合わせているし。結婚してから30年ぐらい、ほぼそんな感じですね。

白央

ベースの出汁は何ですか?

有賀

いりこが基本です、大分出身の母がいりこ出汁だったので。私もいりこ出汁に昆布を加えるとおいしいなって最近発見しました。忙しいときは顆粒出汁も出汁パックも使っています。

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味噌汁ライフを楽しむ

白央

有賀さんも最初の飲み比べで「合わせ味噌」のお話をされていましたが、井原さんも豆味噌をベースにしつつ、各地の味噌を合わせて楽しまれているそうですね。

井原

味に幅が出るんです。容器にお気に入りの味噌を数種並べて詰めているんですよ。へらで表面をなぞるだけで、合わせ味噌がすぐできます。割合はその日の気分で変えて。旅先で見つけた各地の味噌を詰めています。

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白央

旅先で知った意外な味噌汁のおいしさってありますか。

井原

広島の一部で赤味噌が作られているのには驚きました、それがまたおいしいの! 長崎の方に教わった、麦味噌で作るにらのお味噌汁にも感激しましたね。にらはもう私の定番の具、刻んで冷凍常備していますよ。

白央

私はにら玉(※にらと卵)の味噌汁をよく作ります。元気が出る感じのペアで、おいしいんだな。さて髙山さんは味噌を手作りされているとか。

髙山

地元から取り寄せた麹をたっぷり使って、自分好みの甘めに作るのが楽しくて。麦味噌の味噌汁って冷やしてもおいしいんです。夏場は冷たい味噌汁と熱々ごはんの組み合わせがいいですね。

井原

麦味噌って野菜の付け味噌にもいいの。クセがなくて食べやすく、具材の味に寄りそってくれます。

白央

麦味噌って私は冷や汁のときも欠かせない。濃いめに作ってそうめんのつけだれにも私はよくしています。有賀さんの味噌汁の楽しみ方は?

有賀

「自分のベースとなる味噌を一つ決めておく」というのがポイントかなと。その味噌を軸にして、今日は他の味噌をちょっとブレンドしてみようか、なんていろいろ試すのが楽しいですね。

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白央

ベースにされているのはどんな味噌ですか?

有賀

京都の『加藤みそ』というところの米味噌で、熟成感はありつつ、くせのないタイプ。一人で作ってらっしゃるんですよ、木樽で熟成されて。甘さはひかえめで、すっきり辛めでしょうかね。そういう味噌が私の好みです。

白央

自分の好みに合う「ベース味噌」を見つける、これはいいポイントですね。味噌汁好きは少量の味噌を買うなどしてあれこれ試して、ぜひ見つけてほしい。

私の好きな具あれこれ

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白央

有賀さんが以前、味噌汁に限らず汁物、スープは「飲むサラダ」感覚で作っていますと仰られていたのが印象的でした。先ほど髙山さんも、味噌汁は食材の使い切りでよく作ると言われてましたね。味噌汁は野菜をたっぷりとりたいときにも便利な存在ではないかと。

髙山

汁物は野菜から溶けた栄養分もまるごととれるのがいい。私はキャベツやブロッコリーの芯も刻んでよく味噌汁に入れています。そういうのはサラダではなかなか消費できない。

白央

そうそう、白菜の芯なんかもいいですね。さてみなさん、味噌汁の具でよく入れるもの、自分のお気に入りの実などはありますか。

井原

私は切干大根が大好きなんです、母の味で。戻してしぼって、刻んで入れればOK。お揚げや青ねぎと合わせるといいですよ。

有賀

オクラを細かく刻んでいっぱい入れるのが好きです。そこにちょっと梅干しを入れてもおいしい。

白央

冷凍食品の刻みおくらがあるじゃないですか。トマトを出汁で煮て味噌汁にしたところに、冷凍のおくらたっぷり入れて、味噌汁にするのを夏によくやるんですよ。するする入って、いいものです。

髙山

秋田に行ったとき、豆腐を細かく刻んで入れるお汁と出合いました。するする飲みやすくて、豆腐が主役の感じもあっておいしくて。それ以来、味噌汁でも豆腐を細かく刻んで入れています。

有賀

じゃがいもや玉ねぎのみじん切りを入れるのもおもしろいですよ、両方ともわりと残りがちな食材じゃない(笑)?そういうとき細かく刻んで味噌汁に入れるのおすすめ。

白央

味噌汁の「定番ペア」なんてありませんか。

髙山

私はお揚げと大根、お揚げとなすかなあ…具だくさんの味噌汁も好きですが、味的にはシンプルが一番好き。そんなこと言いつつ、最近はレタスとベーコンとお揚げたっぷりの味噌汁にハマってるんですが(笑)。

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井原

洋風の具材もおいしいよねえ!

白央

こないだキャベツと厚切りベーコンと大根を組み合わせてみたら、実においしかった。三者が高め合う感じのおかず味噌汁になりましたよ。キャベツはざく切りで、大根は厚めのいちょう切りでしっかり煮てから味噌を溶く。

有賀

私は味噌汁って材料を浅く煮るのが好きなんです、具材が生っぽい感じでもいいぐらい。だから食材をみじん切りにするのが好きなのかも。

井原

私はサッと煮るのもしっかり煮るのも好きですね。うちは家族が多かったから、母が朝に大量に作って、夜も同じの食べていたんです。夜にはわかめがとろとろになってるんですが、それも好きだった。そこに卵を落とすとまたおいしいの。

有賀

魚介系の具もおいしいですよね、意外なところではまぐろの中落ち。昆布だしで煮るとまぐろの出汁がめちゃくちゃ出て、ぜいたく感があるし、簡単に出来るし、最近のおすすめ。

白央

魚介といえば以前に岩手県でムール貝の養殖をされてる方を訪ねたんです。そこでいただいたムール貝の味噌汁がおいしかったなあ、いい出汁でね。

髙山

お魚をさばいた後のアラで味噌汁を作るのもおいしい。あじの中骨に塩して臭みを取ってから煮て味噌汁にすると、いい出汁になります。そういえば私、もやしを入れるのも好きなんですよ。これもいい出汁になりますね。

味噌汁に関して、料理家から伝えたいこと

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井原

味噌汁って日本人のベーシックな部分にある汁物ですよね。ただ、ちゃんと出汁をとって作らなくてもいいと私は思っています。うちの子どもにも言っていますが、忙しかったらレトルトやフリーズドライを活用しなさい、と。逆にいうとそれだけでもいいから食べる習慣をつけて、体をととのえてほしい。

髙山

味噌って究極のうま味調味料というか、それだけで味が決まるもの。スープだとそうはいきません。味噌汁をもっと気楽に作ってほしいと思いますね。難しいと思っている人のイメージを取っ払いたい(笑)。

有賀

「具だくさんの味噌汁とごはん」という組み合わせは本当に優れていますよね。安上がりで簡単で、健康的でいうこと無し。現代人におすすめのスタイル。料理を始めるなら、まず味噌汁の作り方から覚えてほしいと思うほど。

白央

ああ、「おにぎりと豚汁」なんて組み合わせは最高ですよね。おにぎりを日常的に買う人は多いと思いますが、そこに味噌汁を作って足すなんて人が増えてくれたらいいなと常々思っているんです。栄養バランスも調えやすいし、満足度も上がる。気楽に作れる人を増やしたい。

髙山

豚汁は外で食べるもの、と考える人が多くなっているように思います。それも悪くはないけれど、豚汁って具材は多いけど、実はそんな難しいものじゃないんです。だからぜひ自分でも作ってみてほしい。

井原

味噌汁が日本の生活から遠いものになっちゃっているのかな。

有賀

そうですよね。だけど日本で暮らしていて「味噌汁を知らない」という人はいない。ちょっとした作るきっかけがあれば気軽に作れるようになるじゃないかな、と思うんです。

スタッフ

有賀さんが教えてくれた「一人前の味噌汁はレンジで作ろう!」の記事は今でも大変多くの人に読まれています。

白央

味噌汁を日常的に飲みたい、という人はどの世代にもまだまだ多いと感じています。もっと味噌汁を作ってみたくなるような記事を作っていかなきゃな。味噌汁話は尽きないけれど、本日はここまで。みなさん、ありがとうございました!

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取材・文:白央篤司
撮影:吉濱篤志

アイスム座談会