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「つけない」「増やさない」「やっつける」ーー食中毒を起こさないために知っておきたいこと

特別企画

LIFE STYLE
2023.07.12

食は楽しみにもなれば、時にリスクにもなります。食中毒を予防するための知識、身につけておきませんか。食中毒を寄せつけないためのポイントは基本的には簡単なことばかり。なぜそうするのかを知っておけば、一生の財産になります。

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お話・監修:成田崇信なりたたかのぶさん

管理栄養士、健康科学修士。著書に『管理栄養士パパの親子の食育BOOK』(内外出版社)、『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(共著、金芳堂)などがある。Yahoo!オーサーでもあり、「食と健康」をテーマに各方面で発信を続ける。

食中毒予防の3原則

食中毒予防の3原則というのがあります。食中毒の原因となる細菌やウィルスを「つけない」「増やさない」「やっつける」が基本の対策になります。それぞれどういうことか、お話していきましょう。

「つけない」

食中毒の原因となる菌などは日常生活のあらゆるところにいるんです。一例として挙げると、「黄色ブドウ球菌」という菌は人間の体の表面にもいます。そういう菌を食材につけないために、手洗いをするわけですね。

ーー近年は「おにぎりを素手でにぎらない」というのも一般的になりましたが、「食中毒の原因になる菌をつけない」という意味なんですね

はい。黄色ブドウ球菌はでんぷんが大好きなので、あたたかいごはんにつくと増えやすい特徴があります。だから素手でにぎらないほうがいい。しっかり手を洗っても、人間って体のあちこちを触りやすいんです。鼻の穴とか、目のはしとか。そういうところにも黄色ブドウ球菌はいます。だから、調理中は体を触らないようにしましょう。また、かさぶたや傷口などは菌がふえやすいところ。ばんそうこうをしたまま調理するのはNGと覚えてください。

ーーまず手を石鹸で洗って清潔にしてから、調理をはじめる。理由は考えず習慣としてやっていたことですが、「食中毒の原因になる菌がいるから」と知ると、しっかり徹底できそうです。

日常でよく使うような食材にも菌はついているんです。たとえば生野菜なども。だから洗ってから食べるんですね。そうすることで包丁やまな板に菌がつかないようにしている。生肉や生魚の表面にもいます。「肉には食中毒の原因となる菌がついている」と思うぐらいでもちょうどいい。だから肉や魚を切った包丁やまな板は、そのつど洗わないといけないわけです。

ーー肉自体も洗ったほうがいいのでしょうか?

それはNGです。肉を洗うと、水しぶきによって周囲に菌が飛び散り、他の食材や調理道具についてしまう可能性が高いから。また、肉はいくら鮮度がよくても菌がついていないということはありません。

ーー聞いていてちょっと怖くなってしまいました。特別な対応が必要でしょうか。

いえいえ、なるべく肉を手で触らない(衛生手袋を着用する)、しっかり手を洗う、調理に使った包丁やまな板もそのつど中性洗剤を使ってしっかり洗う、その際に水が周囲に飛び散らないように気をつける、といった対応でいいですよ。焼肉やバーベキューなどで、生肉を焼く用の箸と、取り分ける箸を別にするのも大事です。

ーー「そのあたり、適当にやってるけど食中毒になったことないよ」なんて声も聞かれます。

食中毒って実際は多くの人がなっているのですが、「ちょっとお腹が痛いな」とか、軽い下痢ぐらいで終わることもあるわけです。そうすると人間、忘れてしまって「平気だった」となりがち。けれど体調や年齢などによっては重い症状になることもあります。

ーー油断していると、命に関わる可能性もある。平気だろうと勝手に判断しないことが大事ですね。

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ひき肉をこねたボウルは汚れが落ちにくく、菌が増えやすいです。キッチンペーパーなどで全体をよくふき取ってから、熱湯を全体にかけ、その後に中性洗剤で洗うのがおすすめ。

「増やさない」

食中毒の原因となる菌などを「増やさない」ために大切なのは、まず基本的に「買ったらすぐに食べる」「作ったらすぐに食べる」ということです。菌の中には気温が高くなると増殖するものもあります。日本人は魚介類を生で食べることが多いですね。それらが生でも食べられるのは、食中毒になる菌を「つけない」ための工夫、そして「増やさない」ための取り扱いと冷蔵のルールが業者間で徹底されているからです。

ーー食品の最終的なゴール地点となるのは消費者のところ。だから買ってきたらすぐ冷蔵庫に入れて食材の温度を上げず、なるたけ早く食べるのが「菌を増やさない=食中毒から自分を守る」ことになるんですね。あ、冷蔵庫に入れる前に帰宅したら「しっかり手洗い」が先か。

そうですね(笑)。さて、ウェルシュ菌という菌は聞いたことあるでしょうか。この菌は酸素の無いところで増えるという特徴があり、カレーなどの煮込み料理や汁物の中で増えやすい。つまり熱に強い菌です。対策として有効なのは「食べ切る量を作る」ということ。鍋の中で菌を「増やさない」ことが大事です。

ーーでも料理の時間がなかなか取れず、作りおきをしたい人も多いです。

その場合は、完成したら20度以下に急速に冷まして保存してください。常温で置く時間を長くさせないことが「増やさない」上で大事です。またウェルシュ菌は酸素を嫌うので、再加熱するときに上下よくかき混ぜて、空気を入れるのも効果的です。

ーー菌を「増やさない」上で、他に大事なことはありますか。

食器やお弁当箱などをしっかり洗って、よく乾かすこともそうです。先ほども少し述べましたが、でんぷんやたんぱく質などは菌も大好きなんですよ。

ーーだから、もし食べカスがちょっとでも残っていると…そこで繁殖してしまう?

そうです、いわば菌に栄養を与えてしまうことになる。お弁当箱のごはんを詰めていたところなどは、カスが残りがち。木製のものは特に。金属やプラスチックのお弁当箱は洗いやすいのでおすすめです。

ーーそうか、食卓をきれいに拭くのも同じ理由ですね。また、いくら食器やお弁当箱をきれいに洗って乾かしていても、それらを拭く布や、台ふきが不潔だとまた菌をつけてしまうことになる。

ふきんを使うのが大変だったら、キッチンペーパーでサッとふき取って乾かすのでもいいです。

ーー料理を保存する容器類もしっかり洗って、乾かさなきゃですね。長く使っていると細かな傷が容器内のあちこちについてしまい、細菌が繁殖しやすそう。そのまま使ってしまいがちだけど、定期的に新しいのと替えるようにします。

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「やっつける」

先ほど話したウェルシュ菌は加熱に強い菌ですが、加熱が有効な菌ももちろんいます。肉類や魚介類は生焼けで食べない、しっかり加熱・再加熱して菌を「やっつける」のはとても大事なことです。

ーー焼くとこんがりしておいしい、煮込むと柔らかくなって食べやすいなどの理由で調理しているように思いがちですが、人間にとって害となる菌を「やっつける」という意味も、加熱調理にはあるんですね。

そうです。ただ、しっかり加熱したからといって油断は禁物。たとえば、お弁当などに炒めものを入れるときは、汁気をよく切りましょう。汁気を入れたいときは、別に煮詰めてトロッとさせてください。お弁当には余分な水気を入れないことが、菌を増やさないポイントになります。

お弁当作りで気をつけたほうがいいこと

ーーお弁当を作る上で気をつけたほうがいいことは、他に何があるでしょう。

詰める前におかずやごはんを冷ますことで、菌を「増やさない」こと。調理しているとき、詰めるときに無言で行うのも菌を「つけない」ことにつながります。あと、繰り返しますが食中毒の原因になる菌は人間の体内や表皮含め、日常生活のあちこちにいます。自分で作ったおかずなりを冷凍してお弁当に詰め、保冷剤的に使うのはNG。冷凍したからといって無菌状態にはなりません。かえって弁当内で菌を増やす原因となることも。防腐効果があるといわれる食材も過度の期待は禁物です。

では、特に気をつけてほしいことをまとめてみましょう。

  • 詰める前にしっかり冷ます
    熱いまま入れると菌がいた場合増えてしまう原因に
  • 料理するとき、詰めるときはなるべく無言で
    唾が飛んで料理や入れ物に付くと菌をつける原因に
  • 弁当作りをしているときは顔など肌を触らない
    触ったら都度しっかり手洗い
  • 自分で冷凍したものを保冷剤代わりに弁当箱に入れない
    自分で調理・冷凍したものは雑菌が付いていると思って。溶けるうちに菌が増える可能性も(自然解凍OKの市販品を使いましょう)
  • 梅や大葉など「防菌効果がある」と言われれてるものに過度な期待は×
  • 生野菜や果物などと、加熱料理したものは分けて入れる
    生物からまた菌がついてしまうことにもなりかねない
  • 持ち運ぶときは保冷剤をつけるとよい

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食中毒に関していろいろお話をして、料理やお弁当づくりが怖くなってしまったかもしれません。でもしっかり手洗いなど、対策はごく基本的なことばかり。感染症対策のため日本中が手洗いをしっかりしていた去年までの3年間は、食中毒の発生件数もすごく下がっていたんですよ。残念ながらまた増え始めていますので、手洗い含めて今後も清潔を心がけてください。それが何よりの食中毒対策です。

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取材・文:白央篤司
イラスト:かわべしおん

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